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1-4 波状の刃

小牧山を巡り、頼朝軍と織田軍の本格的な戦いが始まる。

義経・トモミク・犬塚・頼朝の四隊による挟撃で、初戦は撃退に成功するも、織田軍は清州城から無尽蔵のごとき新手を投入。

秀吉の登場と犬塚隊の消耗により、挟撃の態勢が崩され、戦線はじわじわと崩れかける。

「波状の刃」に挑む頼朝軍の次なる一手とは。

―激突・小牧山の銃声―


夜明けの濃霧に、甲冑がざわめく金属音が低く鳴り渡った。


大草からは義経隊と犬塚隊、犬山からは頼朝隊とトモミク隊――二方向から小牧山の織田軍を目指し、進軍を開始した。

寡兵の頼朝軍は挟撃の陣形を維持しながら、小牧山の織田軍を各個撃破の末、追い払うしかない。


対する織田軍は、清州城を拠点とした尾張一帯に、無数の部隊を展開させていた。物量を活かした波状攻撃で、こちらの戦力を削り切るつもりなのだろう。



義経隊の鉄砲隊が、戦線の火ぶたを切る。


挿絵(By みてみん)


滝川隊をはじめ、小牧山に布陣していた織田軍は、義経隊からの大量の銃弾を凌いでいた。そこに、犬山方面から進軍してきた頼朝隊・トモミク隊の、鉄砲三段撃ちの火花が織田陣を白煙に包む。その視界を突き破り、犬塚隊の栗毛が泥土を蹴立てた――赤い鎧袖が閃き、混乱する敵列を一息で薙ぎ払う。


頼朝軍は巧みな連携で、初戦は、織田軍を撃退することに成功する。

だが、その滝川隊の統率の取れた猛攻と兵の果敢さは、鎌倉武士の精鋭でもそう易々と破れぬであろう、と頼朝に思わせるほどの迫力があった。


その後も、頼朝軍は小牧山に向けて進軍してくる織田軍を、各個に撃退し続けていく。

頼朝軍は、秀長の尽力で、小国ながら織田軍にも劣らぬ、あるいはそれ以上の鉄砲数を保有していた。また、鉄砲隊の連続的な斉射を可能にした巧みな砲術も頼朝軍では確立され、敵の猛攻を押し返していた。



しかし、織田軍は休む間もなく新手を投入し、さながら波が押し寄せるように攻撃を繰り返す。まさにこの時代の覇王・織田信長の軍団だと言わざるを得ない。

頼朝は、織田軍の末恐ろしさを肌で感じ取っていた。ここまでの頼朝軍の局地的勝利は、織田軍が想定していたものなのだろうか。

頼朝軍は四部隊での連戦を余儀なくされているが、織田軍は後方に膨大な予備兵力を清州城に布陣させ、太鼓が鳴り止む前に新手が現れる。


(赤井輝子に勧められて飲んだ酒など、とっくに汗とともに流れ落ちてしまったわ……)


頼朝は戦闘の合間に額の汗を拭う。

このまま戦が長引けば頼朝軍の兵糧も弾薬も尽き、兵の疲弊も限界を超える。



そんな中、織田軍、三雲成持みくもしげもち隊の小牧山への攻撃が、頼朝には、わずかながら緩慢なものに見えた。


(敵は、こちらの疲労が大きいと見くびったのか)

(好機!)


頼朝は即断する。


頼朝「今宵、この闇に乗じ三雲陣を討つ!」


頼朝みずから精鋭を率いて、夜の闇に乗じて、三雲隊の陣所を襲撃する。やがて小牧山に布陣していた三雲隊の狼煙が消えた。


挿絵(By みてみん)


この勝利、それ自体は戦局を大きく変えるものではなかった。だが、連戦の疲労で気力の落ちかかった味方を鼓舞するには十分だった。


伏「さすがは頼朝様!見事なご采配にございます!」


副将の里見伏が歓喜の声を上げる。

頼朝はこの時代に来て初めて、自分自身の判断で成果を挙げられたことに、密かな安堵と手応えを覚えた。


挿絵(By みてみん)



―波状攻撃の闇―


だが、夜襲の成功も束の間、織田軍の波状攻撃はさらに続く。兵糧は乏しくなり、兵たちの疲れも限界に近づいていた。


トモミクからの伝令が届く。


トモミク伝令「頼朝様、各隊の兵糧は残り少なく、兵の疲労も深刻です。

これより前線の四部隊のうち三部隊を残して一部隊を犬山城に後退させ、補給と休息を取らせたいと存じます。補給を終えたら再び前線に復帰し、休息する部隊を入れ替えます。すべての部隊が回復し次第、あらためて挟撃態勢を敷きましょう。

まずは頼朝様の部隊が後退を」


頼朝「承知したとトモミクに伝えよ。


我が隊は犬山城へ、いったん引きあげる!」



頼朝隊が引き上げたことで、犬山方面のトモミク隊一部隊となってしまう。そこに織田軍が集中攻撃をした場合、挟撃態勢が崩れ、戦線が突破される懸念がある。そのため、三部隊で密集して、織田の波状攻撃を凌ぐしかない。


しかし、補給を行わなければ、戦線を維持できなくなる。頼朝はトモミクの案に従い、まず、自軍が後退することとした。



―頼朝軍の苦境と三尖槍(=3部隊)―


頼朝隊が犬山城で慌ただしく補給と休息を取っている最中、織田軍は新たな戦力を続々と投入してくる。その中心には、秀長の兄であり織田の重臣である羽柴秀吉はしばひでよしの姿があった。山吹色の陣羽織が濃霧の前線へ躍り出る。


(かつて鎌倉で兄弟が争ったように、羽柴の兄弟もまた敵味方に分かれているのか……)


犬山城から戦況を見つめる秀長の表情は、複雑そのものだった。


挿絵(By みてみん)



前線では、秀吉が巧みな用兵で、頼朝軍の三部隊の各個撃破を画策していたようであった。


だが、ここで運が頼朝軍に味方した。


秀吉は三部隊のうち最も疲労の少ない義経隊を主目標に攻撃をしかけたのである。消耗の激しい犬塚隊が狙われていれば、壊滅的な打撃を被ったかもしれない。


これまで、義経隊とトモミク隊の鉄砲射撃で敵を牽制し、犬塚隊の騎馬隊がとどめを刺す、そのような連携を繰り返してきた。しかし”突撃”という物理的な攻撃を繰り返してきた犬塚隊は、限界が近づいていたのだ。



義経隊は、この軍団の中でも屈指の精鋭と聞く。

過去の時代で“軍略の天才”と謳われた義経は、四百年後の戦場でもその才を発揮しているらしい。彼自身の戦術指揮の妙、副将・武田梓の砲撃戦術、さらにはもう一人の副将・出雲阿国の妖術めいた鉄砲運用が噛み合い、驚くほどの戦果を上げていた。

それでもさすがは秀吉。義経隊が一方的に秀吉隊を押し込むまでには至らず、激しい攻防が続く。


挿絵(By みてみん)

*義経隊が秀吉隊に銃弾を浴びせている



そこへ、犬塚隊が最後の力を振り絞って、秀吉隊に騎馬突撃を敢行した。


信乃「力の限りを尽くせ! かかれ!」


ときの声が響き、義経隊との挟撃態勢が再び整う。さらに後方からトモミク隊も進撃し、三部隊の集中攻撃で秀吉隊を殲滅することに成功した。


挿絵(By みてみん)

*犬塚隊とトモミク隊が、戦線に合流し、側面から秀吉隊を突いた



―援軍要請―


秀吉隊を退けた直後、補給を終えた頼朝隊が前線に合流する。

しかし、犬塚隊はもはや、織田の波状攻撃を押し戻す力は残っておらず、やむを得ず戦線離脱を決定する。


信乃「伏姫様、申し訳ござりませぬ!我らはこれより退きます。どうかご武運を……!」


馬上から犬塚信乃が叫ぶ。彼ら“犬”が名前についている戦士たちは、里見氏に仕えた特殊な戦士集団。トモミク隊の副将(犬山道節や犬坂毛野)も同じ“犬”の一族であった。その”犬”達は、頼朝隊副将、里見氏の姫であった里見伏とも深い縁を持つようだ。


トモミク「頼朝様」


犬塚隊の撤退を確認したトモミクが、馬を飛ばして本陣へと駆け寄る。


トモミク「犬塚隊が退きました。もはや三部隊では戦線を維持できません。ここは岐阜城の北条早雲隊に出撃を命じるしかないかと」


頼朝「岐阜城が手薄とならば、西から織田軍の攻撃に、援軍を出す余力はないのでは」


頼朝は即答を躊躇する。

だがトモミクは斥候からの最新情報をもとに、冷静に答えた。


トモミク「ご安心を。西方の織田勢には、岐阜城を本格的に攻め落とすだけの兵力は残っておりませぬ。ここは思い切って、早雲様に出陣を要請するのが最善と存じます」


(もし岐阜城が落ちたら……我らは終わりだ……)


しかし今の局面、ほかに有効な策は見当たらないのも事実。


頼朝「……うむ。早雲殿に出陣を頼もう」


トモミク「頼朝様、ありがとうございます!」


トモミクは深く頷くと、「直ちに」と一言残して、自軍の陣へと急ぎ戻っていった。


挿絵(By みてみん)



遠く岐阜の空に烽火が上がった。

小牧山での波状戦は、信長軍が史実で得意とした「交替制前進」による圧倒的な圧力、それに対して頼朝軍は鉄砲運用と部隊連携で対抗しますが、消耗と補給の現実がのしかかります。

次話、小牧山から身動きが取れない頼朝軍、さらに消耗戦を余儀なくされ、苦境が続きます。


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