19-3 番場と姉川 ――奮戦の地にて
番場では北条早雲と源桜が、長浜では源頼光が――。
周到に備えた織田軍は、立て続けに増援を送り込み、頼朝軍の進撃を阻む。
“士気”と“覚悟”だけでは切り拓けない現実に直面しながらも、精鋭たちはなおも突破口を求めて刃を振るう。
■北条早雲の誤算
番場方面・織田軍に北条早雲隊の決死の突撃が続くも、織田軍の周到に準備されていた堅い守りを崩せず、それどころか織田軍の逆襲をも許す。
桜は、敵の堅陣を前にただ突撃を繰り返すばかりの現状に、唇を噛みしめた。
早雲と話したあの言葉が、今になって胸に重くのしかかってくる。
――士気が高いからとて、勝てるとは限らない――
桜(…本当に、その通り……気持ちだけでは、押し切れない)
織田の壁は厚く、崩れぬ。敵の陣を穿てぬまま、味方の疲弊だけが積み重なっていた。
当の早雲も開戦以来、こぶしに力をこめたままであった。
早雲は奥歯を噛みしめた。
(わしも耄碌したか……!)
想像を超える織田軍の堅守、兵数、勢い――。騎馬隊は次第に押し返され、戦線は崩壊の兆しを見せていた。そこに後方で待機するように指示されていたトモミクが飛び込んできた。
トモミク「早雲様、鉄砲隊を前に出して織田軍を押し戻します!このままでは桜様が!」
早雲「かたじけない、トモミク殿……!貴殿には兵力の温存を考えておったが、わしの見立ての甘さで、そんなことも言っていられない状況じゃ。
いったん騎馬隊を下げる。
攻め寄せる織田勢の足止め、頼み申す」
トモミク「かしこまりました!
皆さま、隊列を前進させ、射程内に入ってくる織田軍を撃ち払ってください!」
絶望的な突撃を繰り返していた桜のもとに、伝令を受けた谷衛友が敵の槍を交わしながら近づく。
衛友「桜様!鉄砲隊が前に出ます。いったん後退を!」
桜「今下がっては、長浜城に向かっている父上の部隊が!」
衛友「早雲殿の命令ですぞ、桜様!」
悔しい気持ちを持ちながらも、ここまで何をしても敵の牙城を崩せず、桜自身も勝算が見えずに疲労の極みであった。
桜「わかりました……
皆さま、いったん鉄砲隊の後ろに後退します!」
トモミク隊は騎馬隊の後退を確認しながらも、織田軍の追撃をぎりぎりまで見極めていた。
トモミク「ダメ、まだ撃たないで! 桜様の隊が退いてからじゃないと……!」
しかし、一部の織田軍がトモミク隊の前衛に取り付いてしまう。取り付かれた鉄砲隊は隊列を崩されはじめる。
ようやく桜の騎馬隊の大半が後方に下がる。
トモミク「もう限界! 味方の騎馬隊を巻き込まない距離で、一斉射撃!」
悲鳴のような号令とともに、至近距離から一斉射が轟き、装填を挟みつつ斉射を重ねた。それでも一部は前衛に取り付き中央を崩され始めた。
早雲「命拾いした、トモミク殿!」
鉄砲隊の合間を抜け、後方より北条早雲自らが率いる槍隊が、トモミク隊に取り付いた織田軍串刺しにする。トモミクの鉄砲隊が早雲隊の援護で整然と斉射を繰り返せる態勢となり、追撃してきた織田軍を次々と倒していった。
トモミク隊の鉄砲攻撃による犠牲が増え、織田軍はいったん後退をはじめた。
織田軍が後退をはじめた瞬間、トモミク隊の隊列が左右にわかれ、中央から騎馬隊が砂塵を上げながら後退する織田軍を追撃した。
桜「先ほどの無念、今ここで晴らします!」
再び後方に下がっていた騎馬隊が、突撃を再開する。
騎馬隊の突撃にあわせてトモミク隊も戦線をあげる。
中央から騎馬突撃が密集しながら突撃を敢行、左右両翼からはトモミク隊の苛烈な斉射を加える。
番場方面の頼朝軍は瓦解を免れ、戦線を多少上げることができた。
しかし断続的に現れる織田軍の増援を追い払うことも、番場の砦を落とすことも、番場の砦の後方より長浜方面に向かっている織田軍を食い止めることもできず、戦線は膠着していた。
■長浜城方面、源頼光隊の奮戦
番場方面の苦戦の状況、長浜城への織田軍のさらなる増援の報は、刻一刻と、長浜方面を進む頼朝本隊のもとへと、早馬によって届けられていた。
伝令「織田軍は、番場より琵琶湖沿いの道を進軍中! 大軍が、長浜城、そして姉川方面へ、続々と向かっております!」
頼朝「聞かずとも、眼前に雲霞のごとく押し寄せる織田の大軍が、わしの目にも、はっきりと見えておるわ!」
頼朝は、思わず、伝令の兵に当たり散らしたくなる衝動を、必死に抑えた。
長浜城方面の最前線においては、先陣を務める源頼光隊が、姉川の砦から出撃する織田軍に、繰り返し突撃を敢行していた。
頼光「あの姉川の砦ごとき突破せねば、長浜城攻略どころではない! 我らは、何としても頼朝殿、義経殿の、道を切り開く! ここで退くことは許さぬ!」
増援部隊を次々に頼光隊にぶつけてくる織田軍。
だが頼光隊はまさに“一騎当千”というべき強さを発揮して、苛烈な突撃を繰り返し織田の増援を薙ぎ払うのみならず、戦線を押し上げ織田の防衛の拠点、羽柴秀吉が守る姉川の砦にせまった。
義経「兄上、頼光殿の強さは鬼神のごときですな……」
頼朝「そなたの強さは、頼光殿の血筋かもしれぬな」
頼朝は戦況から目を離さないでいながらも、口の端をあげながら義経に答えた。
しかし、さらに戦線を上げた頼光隊は、後続の頼朝隊と義経隊との合流を待たず、砦に猛進していく。
砦の周囲は木柵や塀が取り巻き、その内側から無数の火矢が飛びかかる。
城門の脇には「逆茂木」がうず高く積まれ、兵たちの悲鳴や叫びが渦を巻く。
頼朝「いかぬ!」
後方から、その様子を見ていた頼朝は叫んだ。
頼朝「頼光隊が、砦へ単独で攻めあがっても、織田の増援に、包囲される恐れがある!
秀長! 我らも、これより前進する! このまま、頼光殿を、見殺しにはできぬ!」
頼朝隊もまた、頼光隊の後を追い、姉川の砦へと攻めかかった。
お読みいただきありがとうございました!
今回は桜・トモミク・頼光が、それぞれの戦場で「壁」を体感する一幕でした。
そして次章――膠着の闇に、一筋の 光明 は射すのか。
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