19-1 強者(つわもの)たちの誓い
近江出兵前の正徳寺における頼朝の祈りと決意により、頼朝軍団の将兵の士気はこれ以上無いほどに高まる。
その軍団全体の高揚を目にした源桜は勝利を確信する。
しかし、頼朝軍団の歴戦の勇士たちは良く分かっていた――信長の覚悟の恐ろしさを。
■近江出兵へ
天正十二年(1584年)十月。
那古野城攻略の吉報が、羽柴秀長から源頼朝にもたらされた。
秀長「那古野城、無事陥落いたしました!犠牲も少なく、予定より早い攻略となりました」
頼朝は満足げに頷いた。
頼朝「祝着至極!当初の予定通り十一月に近江に出陣する。
出陣に先立ち、岐阜の正徳寺にて、部隊長らを集め、祈願を行いたい。戦勝のみならず、できる限り犠牲を少なくできるよう、御仏のご加護を、皆で祈願しようではないか」
秀長「頼朝様、それはまことに良きお考えかと存じます。では、ただちに諸将を正徳寺へ招集し、祈願の後、そのまま出陣前の評定を開くことといたしましょう」
頼朝「うむ、頼んだぞ、秀長」
■正徳寺の祈り
同月半ば、岐阜の古刹・正徳寺には、頼朝軍団の主だった部隊長が、一堂に会していた。
本堂にて、頼朝は静かに口を開いた。
頼朝「願わくば、我らが大切な家臣や兵たちを守り賜え。
そして、敵味方を問わず、この戦で避けられぬ尊い犠牲の先に、真の安寧の世が訪れるように……。
ただひたすらに、御仏のお導きとご加護を、お祈り申し上げる」
頼朝の言葉の後、家臣一同は、しばし、静かに目を閉じ、黙祷を捧げた。
正徳寺に集った部隊長は、
犬山城から太田道灌、犬塚信乃、
清州城から赤井輝子、武田梓、
岐阜城からトモミク、里見伏、
大垣城から北条早雲、源頼光、
そして那加城から、頼朝、義経、羽柴秀長、
頼朝軍団主力の精鋭たちであった。
御仏への祈りを終え、正徳寺内で出陣前の評定が始まった。
頼朝「皆も知っての通り、わしは京へ上る決意した」
頼朝は、改めて自らの決意を家臣団に表明した。
頼朝「我らは、今以上に強き軍団となる。しかしその力は天下の武家同士の、無益な争いを止めさせるために、その強き力を行使する。
だが京までの道のりを妨害するもの、他家を無用に滅ぼすもの、その者たちに容赦はせぬ。
手始めとして近江を制圧、安土城を攻略し、京への道を切り開く。
織田の抵抗は、これまでに無く激しいものとなろう。覚悟してもらいたい」
頼朝は決意を確かめるように、各将と一人一人目を合わせながら言葉を投げかけた。
続いて、羽柴秀長が、具体的な陣立てについて指示を出す。
秀長「まずは長浜城を落とすことに全力を注ぎます。
そのために長浜方面、佐和山方面、二方面に軍を分けて進軍いたします。佐和山城方面にて近江以西の敵主力を引きつけ、その間に長浜城を落とします。
佐和山方面の先陣は、北条早雲殿の第一突撃隊。
後続は岐阜城より、トモミク殿の第二狙撃隊、里見伏殿の率いる第五狙撃隊。
一方、主攻となる長浜城方面の先陣は、大垣城より源頼光殿の第二突撃隊。
後続は那加城より、頼朝様の第一狙撃隊、そして義経様の第三狙撃隊。
清州城の赤井輝子殿の第四狙撃隊、そして、同じく清州に新たに配属となられた武田梓殿の第六狙撃隊は、後詰として待機。いつでも出撃できるよう、準備をお願いいたします。
なお、犬山城の部隊は、東の徳川勢への備えとして、わが領内への侵攻の際は食い止めていただきたい。
また、織田軍の兵力を少しでも分散させるため、我らの動きに呼応し、越後の上杉景勝様が、越前方面へ出陣される手筈となっております」
秀長の話が終わり、北条早雲が立ちあがった。
早雲「先陣を賜り、光栄の極み」
他の武将達も高い闘志を剝き出しに、続々と立ち上がった。
頼朝「出陣は、来月、十一月とする!」
頼朝が、力強く宣言した。
頼朝「我が軍団は、これまで守りの戦いを強いられてきた。だが、これからは違う! 他国をいたずらに滅ぼし、覇権を目指す者を『敵』と定め、攻めに転じる!」
頼朝の檄に、家臣一同の士気も、最高潮に達した。
家臣「目指すは京!」「織田信長に、我らが力、思い知らせようぞ!」「応!」
■出陣直前大垣城:北条早雲と源桜
翌十一月。
各隊の出陣準備は、滞りなく整った。
将兵たちは、頼朝軍団にとって、新たな地平線を切り開くための出兵を前に、これまでにない高い士気と覚悟をもって、出撃の号令を待っていた。
桜「早雲様!今の我が軍のこの勢いは、まことに凄まじいものですね!」
大垣城にて出撃準備が整った部隊を目にして、源桜が傍らの北条早雲に、興奮した様子で話しかけた。
桜「これほどの勢いがあれば、あの織田信長軍など、何ほどのこともありませんね!」
早雲「……確かに、今の我が軍の士気は、天を衝くほどに高い」
早雲は、静かに頷いた。だが、その表情は、桜とは対照的に、厳しいままであった。
早雲「桜殿は、我が軍の士気は、なぜこれ程までに高いと考えておるのか?」
桜「は、はい! それは、我らがこれから京へと上り、天下に号令をかけることになる――その大いなる目標が、軍全体の将兵の士気を、高めているものと……」
早雲「うむ、そうであろうな」
早雲は、桜の言葉を遮るように言った。
早雲「では、逆に問うが。今織田信長が、一番恐れておるのは何じゃ?」
桜は、しばし考え込み、そして、はっとしたように顔を上げた。
「……! つまりは――信長もまた、我らが京へ上ることを何よりも恐れ、我らの高い士気以上に織田軍は並々ならぬ覚悟で我らにかかって来る。
士気が高いからと言って勝てるわけでは無い、とおっしゃりたいのですか?」
早雲「……その通りじゃ、桜殿。我らの士気が高いことは良き事。
しかし、己を知るのみで、敵を知らねば戦は勝てぬ」
早雲は、厳しく頷いた。
早雲「信長は必死ぞ。我らの想像を遥かに超える準備と、覚悟をもって、我らを待ち受けているはず。今までに無い厳しい戦いとなる、我らにも覚悟が必要じゃ。
此度の頼朝殿は、いつになく張り詰めたご様子であったと思われぬか?」
桜は評定での父・頼朝の言葉を復唱していた。
桜「……!父上も『覚悟』という言葉を口にされておりました」
早雲「秀長は、我らが佐和山城下まで進軍し、そこで敵を引きつけると望んでおる。じゃが……そこまで辿り着けるかさえ分からぬぞ。
仮に、先陣である我らが、佐和山の手前まで辿り着けたとしても……そこで織田軍本体による、とてつもない猛攻を受けることになるであろう」
桜「で、ですが……先の伊勢での戦では、早雲様の見事なご采配で、織田の大軍を、いとも容易く蹴散らしておいででした! 此度も、早雲様のご采配があれば……!」
早雲「桜殿。あの時と、此度とでは、全く状況が異なるのだ」
早雲は、諭すように言った。
早雲「先の伊勢攻めでは、織田軍の主力は、他の方面へ出払っておった。
もう一つ。
今までの我らは専守防衛、攻めて来る敵を散々に撃ち破って後、弱った城を落としてきた。
此度はこちらから攻め、織田は全力で主力、精鋭を、守るために我らにぶつけてくるであろう。
我ら突撃隊が、織田軍の布陣にどれだけ風穴を開けられるか……。此度の戦は、そこが鍵となるであろう」
早雲は、桜の目を、じっと見据えた。
早雲「…覚悟は、良いかな、桜殿」
桜「……はいっ!」
桜は、ごくりと唾を飲み込み、しかし、力強く頷いた。
早雲「頼朝殿も、先ほど話されておったが……」
早雲は、少しだけ表情を和らげた。
桜「わしが『退く』と申せば、躊躇うことなく、直ちに退くのじゃぞ……」
お読みいただきありがとうございました。
いよいよ次章から近江攻略の激戦です。
お楽しみに!
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