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1-3 嵐前の杯

大草城が予定より十日早く完成――頼朝軍は犬山・大草の二拠点から小牧山を挟撃できる態勢を整えます。

しかしにらみ合いは一月。膠着を破るべく、頼朝とトモミクは同時進軍を決断。

出陣前夜、豪放な女武者・赤井輝子が陣幕に酒樽を運び込み、秀長を巻き込んで“勝利の前祝”が始まります。

嵐の前の高揚と不安、そして夜明けの号令――頼朝軍はついに動き出す!

―大草、竣成―


にらみ合いが一月ひとつきほど続いた頃、斎藤福からの吉報が届く。


福からの伝令「大草城、予定より十日早く竣成!」


(見事だ……)


武官が戦場で華々しく戦えるのは、無言で石を積む職人や技術者の活躍があればこそ――頼朝はそう悟った。大草城の完成により、犬山だけではなく、大草方面からも軍勢を振り向けることができるようになった。戦況は新たな段階に入った。


その頃、大草では義経が完成した城壁を背に刀を叩いて、呟いていた。


義経 「小牧山を牙城とはさせぬ……!」


挿絵(By みてみん)



―挟撃の策―


トモミク「頼朝様、今のところ東の徳川勢に目立った動きはございません」


軍議にて、トモミクが進言する。


トモミク「機は熟しました。犬山の我々と、大草の義経様たちが同時に小牧山の織田勢を叩けば、挟撃の形がつくれます」


挿絵(By みてみん)


頼朝の胸は静まらない。甲冑の下で掌がじっとりと湿っている。


トモミク「頼朝様、ご心配には及びません」


トモミクが頼朝の不安を見透かしたように微笑む。


トモミク「まずは、この時代の戦を直にご覧ください。

いざという時は伏様、秀長様、光様が必ずお守りいたします。どうぞ副将を信じてくださいませ。


このトモミクも、命に代えて頼朝様をお守りいたします!」


頼朝「……頼りにしておる」


またしてもありきたりな言葉しか出てこないが、今の頼朝の精一杯だった。


頼朝「トモミクの進言を受け入れよう。義経と犬塚信乃に伝令を!

三日後、日の出とともに一斉に小牧山へ進軍すると!」



―勝利の前祝―


その夜。

那加城に残っていた第四狙撃隊の隊長・赤井輝子が、突如犬山城の頼朝の陣を訪ねてきた。

頼朝隊、義経隊など主力部隊が出払った今、那加城には数百の留守居兵しかおらず、輝子隊は参戦できないはずだ。


輝子「殿!いよいよ明朝出陣されると聞き、いても立ってもいられず馳せ参じました!」


輝子は陣幕に入るなり声を張り上げる。


輝子「何かあれば私たちも……と駆けつけたいのは山々ですが、兵がもうおりませぬゆえ。

今回は頼朝様に存分に暴れていただくしかありません!」


一体何をしに来たのかと問う間もなく、輝子の随行たちが大きな酒樽をいくつも運び込んでくる。


輝子「間もなくの戦を考えると居ても立ってもいられなくて!

殿のお気持ちを察すれば、やはり今宵はこれでしょう!」


ちょうどそこへ、副将の里見伏、櫛橋光、そして羽柴秀長も顔を出す。


秀長「頼朝様……」


秀長が苦笑して言う。


秀長「我らが奮戦し、必ずや勝利を得ましょう。今宵は英気を養うため、赤井殿のお相手をお願いしたく……。

赤井殿、くれぐれも飲ませ過ぎないよう、お願いいたしますぞ」


秀長が釘を刺すが、輝子はまるで聞く耳を持たない。


輝子「抜け駆けは許さないよ、秀長!」


秀長「赤井殿、私は数日後の進軍に向けた軍略を……」


輝子「うるさいねぇ、まったく堅物な男だね!

あたしはアンタみたいな堅物に興味はないけどさ、この軍団にアンタは必要だってのは認めてるよ。ね、頼朝様?」


輝子が頼朝に同意を求めるよう悪戯っぽく笑う。あの冷静な秀長でさえ、彼女には押され気味だ。


頼朝「はは、秀長の言い分ももっともだが、輝子殿の気遣いもありがたい。せっかく持ってきてくれたのだ、少し頂くとしよう」


頼朝が応じると、輝子は満面に笑みを湛えた。


輝子「さすが殿!そうこなくっちゃ!

あたしは此度出番がないぶん、こうして景気づけでもしないとやってられないのさ。

さあ、勝利の前祝だよ!」


秀長「赤井殿……!」


秀長の制止も空しく、輝子は大盃に酒を注ぎ、頼朝に差し出しながら、その隣にぴたりと寄り添う。


秀長が口ごもる姿も、豪快な女武者・輝子がはしゃぐ姿も、頼朝にはどれも目新しい。


(しかし、この時代の酒は……実に美味い……)



頼朝は、この時代に来てから、はじめて手放しに宴会を楽しんだ。まさか、それが甲冑を着込んだ陣所だったとは予想外であったが……。


この後、この寡兵の軍団は、大軍の織田軍に戦いを挑まなければならない。

家臣たちには、全く動じる気配が感じられない。揺るぎない自信に裏打ちされているのであろうか。


今は、目の前の家臣たちを信じるしかない。


挿絵(By みてみん)



―夜明け前―


――そして三日後。


朝靄が立ち込め、あたりを幻想的なベールで包み込む。

頼朝は刀を膝に置き、淡い曙色へ刻々と移ろう空を仰いでいた。


頼朝は立ち上がり、軍配をかざし、全軍に出陣の号令を下した。


頼朝「出陣!」


挿絵(By みてみん)


小牧山に向けて、犬山と大草から笹竜胆の軍旗が翻った。

次話「小牧山防衛戦」では挟撃作戦が火を噴き、滝川一益をはじめとした織田軍の波状攻撃と、頼朝軍の鉄砲隊の火線が交錯します。

感想・ブクマを励みに執筆中!お読みいただき、ありがとうございました。

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