1-2 動き出す織田
織田領の真横で始まった〈大草築城〉――その報を聞きつけ、織田軍の黒雲のごとき大軍が犬山へ迫ります。
岐阜・那加に残る頼朝隊とトモミク隊は、築城地を守る義経・犬塚隊との連携を図りつつ、急ぎ犬山へ転進。
砦を焼く炎、鳴り響く号砲。次の一手を誤れば、頼朝軍は各個撃破されかねません。
“嵐の前”の静寂を突き破り、戦国の舞台は再び動き出します。
―迫る黒雲―
こうして大草城の建設が、斎藤福の指揮のもとで始まった。
同時に、義経の率いる狙撃隊一万五千、犬塚信乃の突撃隊一万二千、あわせて二万七千もの兵が、築城地の防衛に出陣する。
だが、この動きを織田軍が見逃すはずもない。
義経隊と犬塚隊が大草に着陣したのを見計らったように、織田の大軍が犬山城へ押し寄せてきたのだ。
(城を一つ築こうとするだけで、これほどの規模で動いてくるのか……)
頼朝は敵の反応の速さと、兵力の多さに息を呑んだ。
岐阜城と犬山城を奪った先の戦いも、壮絶を極めたと聞く。いよいよ天下統一に手が届く織田信長にとって、こうした小勢力による拠点奪取は見過ごせぬ屈辱であったに違いない。今回の経済基盤強化の動きも全力で阻止しようとしているのだろう。
―小牧山炎上―
織田軍の先鋒・滝川一益の部隊は、頼朝軍が犬山城に到着する前に、犬山城の重要拠点である小牧山の砦を早くも破壊した。
小牧山の砦から焦げた煙が立ち昇り、夕陽を煤けた朱に染めていた――。
義経は築城地の土塁から火柱を遠望し、唇を噛んだ。
滝川隊は、いつでも犬山城に襲いかかれる態勢を整えていた。
犬山城に後詰めとして入るはずだった頼朝隊とトモミク隊は、まだ那加城から出陣できていない。
先陣として大草に布陣している義経隊と犬塚隊も、築城の最中ゆえ動けない。
秀長の内政力で、頼朝軍の一城あたりの兵力は周辺の織田方より大きいが、何しろ織田家は領土も城も圧倒的な数を誇る。もし複数の織田軍が一斉に押し寄せてきたら、小勢力である頼朝軍は抗しきれない。
《頼朝軍の掟》ゆえに、頼朝軍の基本戦略は、最低でも二つの部隊で常に連携して、織田の大軍を迎え撃つことだった。
―那加城、号砲―
そんな中、トモミクからの伝令が入る。
トモミク「岐阜城より、我が隊の出撃準備が整いました!
頼朝様も那加城よりご出陣をお願いいたします!」
(間に合わねば……!)
織田が本格的に犬山城を攻める前に、犬山城にて防衛体制を固めねばならない。
犬山城には源頼光率いる第二突撃隊など、屈強な突撃部隊は残っている。しかし、犬塚隊が大草へ出てしまった今、犬山城の兵数は決して多くない。
しかも突撃隊は主に騎馬が主体で、籠城戦を支えるほどの鉄砲を十分備えていない。彼らの真価は野戦でこそ発揮されるのだ。
犬山を守るためには、鉄砲を大量に装備した頼朝隊とトモミク隊――いわゆる狙撃隊の到着が必須だった。
頼朝は那加城の城内で、出撃を待つ自隊を眺める。
この時代に来て、初めて部隊を率いることになったが、一つの城から一万五千もの兵を動員するなど、鎌倉の常識では考えられない規模だ。
しかも部隊の編成も頼朝の目には異様に映っていた。
弓兵はほとんど見当たらず、その代わり“鉄砲”という未知の武器を担いだ兵士が多数を占めている。見慣れぬ軽装は頼朝の目に心もとなく映るが、副将の里見伏や参謀の羽柴秀長は、この鉄砲こそ軍団の強みだと胸を張る。
さらに大筒と呼ばれる巨大な兵器まで用意されているが、どれほどの威力を持つのか頼朝には想像がつかない。ただ、秀長が非常に重視している様子を見るに、期待してもよいのだろう。
(敵も同じように進化した兵器を備えているのか……)
敵兵の姿を実際に見たこともないまま、不安を抱えつつも、出陣の合図はすぐに下された。
頼朝「我ら笹竜胆、退くことなし!」
―嵐の前―
岐阜城から出撃したトモミク隊一万四千と呼応し、頼朝の第一狙撃隊一万五千が那加城を出る。目指すは犬山城。
幸い、織田軍は頼朝隊・トモミク隊が城へ到着する前に総攻撃を仕掛けてはこなかった。
犬山城の物見櫓から南を見渡すと、平野一帯が織田の軍勢で埋め尽くされ、海岸線まで旗指物と黒い人影がひしめいている。
最前線にいる滝川一益の軍は不気味なほど静かだが、動き出せば猛獣のように襲いかかってくるに違いない――まさに嵐の前の静けさだった。
小牧山の砦を焼き払った滝川一益は、実際に信長家中でも“迅速果断”で名を馳せた猛将です。本作ではその機動力を物量で増幅させ、頼朝にとって最初の試練としました。
次話「小牧山防衛戦」では、犬山城を挟んで砲火が交錯。トモミクの狙撃隊が真価を発揮します。
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