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14-1 南信濃・伊勢路 初撃

南信濃、伊勢路、ふたつの戦場に雷鳴が轟く。

二つの最前線に燃え上がる決死の初撃。

槍半蔵を迎え撃つ東美濃三将、竹束を焼き払う赤井・トモミク、そして渡辺綱の疾駆。

刀と鉄砲、火矢が交錯する八月の戦いの火蓋は切って落とされた!

◾️南信濃 ―徳川との戦いー


天正十一年(一五八三)八月――南信濃・治部坂峠。


徳川先鋒・渡辺守綱隊三千四百が、頼朝軍の増援を視認するや否や、峠道へ雪崩れ込む。


狭隘な山道で迎え撃つのは、頼朝軍の先鋒――岩村城代・犬村大角いぬむら だいかく率いる四千五百。両軍は峠の一点で激しくぶつかり合い、刃と槍が火花を散らす。


徳川軍「槍半蔵」と異名を取る渡辺守綱の突槍は烈風のごとく、兵数が多いはずの大角隊はじりじりと押し下げられる。


大角「押し返せ!怯むな!」


大角は必死に隊列を締め直したが、狭隘な道は押し相撲となり、歴戦の渡辺隊の再度の突撃に犬村隊が押し込まれ、戦線が崩されはじめた。


(ここで足止めされるわけにはいかぬ……!)


挿絵(By みてみん)

*犬村大角(左) 対 渡辺守綱(右)


その刹那、後方から新手の鬨の声がこだまする。


親兵衛「大角殿、何をしておる!この親兵衛が徳川など物の数でないこと、しかと示してくれようぞ!道を開けられい!」


鳥峰城代・犬江親兵衛いぬえ しんべえの一隊五千九百が大角隊と入れ替わるように前面へ。勢いそのまま、疲弊が見え始めていた渡辺隊へ猛然と襲いかかる。


犬江隊の槍衾は鋭く、今度は渡辺隊が押し込まれ始めた。


親兵衛の咆哮が峠にこだまする。


挿絵(By みてみん)


親兵衛「ふん、槍半蔵とてこの程度か!

聞けば後方には猛将 水野勝成、宿老 酒井忠次 も控えているとか。徳川自慢の精鋭、そのお手並み――とくと拝見つかまつる!」


勝ち気な檄が頼朝軍の士気をさらに押し上げ、渡辺守綱は態勢の立て直しを余儀なくされる。さらに後方から池田輝政隊七千三百も合流し、峠の空気は一転、徳川側に焦燥が漂い始める――。


挿絵(By みてみん)



◾️伊勢路 ―織田の再侵攻と赤井輝子の奮闘―


一方、再び戦雲立ちこめる伊勢路。


赤井輝子あかい てるこ隊が長島へ舞い戻ると、織田軍は長島城の目と鼻の先まで進軍していた。

長島城は落城させたばかり。城門は修復が進む間もなく、赤井隊は急ぎ城壁に鉄砲隊を並ばせ、城に近づく織田軍を撃ち払うしかない。


織田軍は赤井隊が長島城に入城したところを確認すると、部隊の最前列に竹束を幾重にも並べた。頼朝軍からの多数の鉄砲攻撃を想定しての対策をほどこし、じりじりと城門無き長島城に近づいてくる。


挿絵(By みてみん)


輝子「いつまでも新兵たちの簡単な”的”になってくれるほど、甘くはないね。しかし城に取りつかれたら逃げ道がないじゃないか」


そこで弓術の奉行をつとめていた太田牛一が進言してきた。


牛一「火矢を放ちましょう。竹は火に弱く、また竹束は鉄砲の直線的な攻撃を想定してます。放物線を描く矢は、竹束の後ろの兵を狙えます」


輝子「さすが牛一殿!頼りにさせてもらうよ」


赤井輝子は歓喜して、太田牛一の進言を採用した。


牛一「それと、鶴殿。中央の部隊に集中的に斉射してください。これだけの数の砲撃を集中的に浴びせれば、束も崩れましょう。そこから突破口が開けるでしょう」


鶴「牛一様、かしこまりました」



太田牛一は自ら弓隊を率いて、近づく織田の軍勢に火矢を放つ。

火を吹く竹束が増え、竹束を支えていた兵も弓で倒されていった。


大祝鶴が指揮する鉄砲隊は、織田軍の中央に集中的に射撃を浴びせ、竹束が崩れたところから、さらに射撃を加える。


挿絵(By みてみん)


それでも大規模な軍勢を進軍させている織田軍は、前列が崩されても後続の部隊にあらたな竹束を装備させ、自軍の屍を乗り越えながらじわりと前進を続ける。


そこに織田軍勢の側面に、鉄砲攻撃が加えられる。トモミク隊の斉射であった。


トモミク「何とか間に合いましたか!」


織田軍は側面と前面の斉射に対して、竹束を効果的に編成することができず、赤井隊よりも鉄砲隊を多く率いるトモミク隊の斉射の餌食となっていく。


挿絵(By みてみん)


さらに、織田軍勢の後方からも鬨の声があがった。

渡辺綱隊が桑名を経由し、長島城に攻め寄せる織田軍勢の後方から騎馬隊による突撃をかけた。


挿絵(By みてみん)


三隊が合流するや戦況は一気に頼朝軍に傾き、先鋒の織田勢、佐久間盛政はじめ諸隊は、長島城内からの赤井隊と側面からのトモミクからの断続的な斉射にもはや抗することができず、立て続けに撃破された。軍勢を後退させようにも、後背からは渡辺綱隊の騎馬による突撃を受け、織田軍勢は指揮命令系統が乱れ、間もなく潰走した。


伊勢方面から進軍していた織田軍の増援は、頼朝軍増援の旗印を確認し、そのまま自領へと引き上げていった。



だが、猛将・赤井輝子が、それを許さなかった。


輝子「 いつまでも、あの織田の奴らを、調子に乗らせておくわけにはいかないよ!」


輝子は、退却を始める織田軍の後衛部隊を目掛けて、叫んだ。


輝子「このまま、無事に、のこのこと帰れると思ったら、大間違いだからね!鶴姫、太田殿!追撃するよ!」


輝子は部隊に号令をかけ、長島城から出撃し、愛馬の首筋を叩きながら疾風のように前へ躍り出た。


――先の合戦で取り逃がした織田軍を、今度こそ完膚なきまでに叩き潰す。それが彼女の誓いだった。


挿絵(By みてみん)



その様子を、後方から見ていたトモミクは、呆れたように呟いた。


トモミク「もう……輝子様は引くどころか追い討ちですか!皆さん、置き去りにはできません。続行準備!渡辺殿にも急ぎ伝令を!」


トモミク隊もまた、赤井隊に続いて、伊勢の街道を進軍していく。



正面からあたかも自軍に突進するかのような赤井隊とトモミク隊の進軍を目にして、渡辺綱は苦笑まじりに手綱を締めた。


綱「……やれやれ。収穫間近、多少の深追いなら兵糧も持つ――良いだろう、我らも一矢報いてやるわ!

諸隊、赤井殿・トモミク殿に続け!織田軍を逃がすな!」


綱の号令に騎馬の鉄蹄が鳴り、頼朝軍三隊は一糸乱れず伊勢平野へ雪崩れ込む。


挿絵(By みてみん)



赤井輝子は織田軍を追撃しながら一人呟いた。


「――この借りはきっちり返してもらうよ!」

押しては返す戦の波――だが今回は違った。

犬江、トモミク、赤井、渡辺、それぞれの信念が一つとなり、敵を呑み込み、攻勢に転じる。

次章、燃え残る戦火の向こうに現れるのは、織田の本隊か、あるいはもう一つの強敵か。

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