1-1 軍議と大草築城 ー新時代の出陣ー
美濃・尾張・三河を巡る戦況のなか、秀長が掲げる“内政三策”と資金難が浮き彫りに。頼朝は小国を守るべく大草築城を決断します。
軍議の席で、羽柴秀長が口を開いた。
美濃・尾張・三河、淡い夏霞の下に広がる戦線。縮尺一分の軍議図が卓上に置かれた。
秀長「頼朝様、犬山城の南東、大草の地に新たな城を築きたく、提案申し上げます」
頼朝が登場するまでの五年、この軍団は美濃の岐阜城、尾張の犬山城という戦略的要衝を織田信長から奪い、地域一帯の要塞化を進めてきたらしい。
民を潤し、なおかつ小国でも精強な軍を保つ――その鍵が秀長の掲げる三策だった。秀長はそのために〈刀狩〉〈兵農分離〉〈楽市楽座〉と立て続けに打ち出している。頼朝が知る鎌倉の世とは、まるで異なる統治の姿だ。
それでも、依然として広大な織田領に囲まれた小勢力であった。
続けて彼は、厳しい現実を率直に訴えた。
秀長「これらの政策を維持するためには、莫大な資金が必要となります。トモミク様よりお借りしている軍資金も、このままでは数年のうちに底をつく見込み。
ゆえに、新たな商業都市を開いて税収を伸ばすことが急務かと存じます。
岐阜城や那加城の北山沿いは敵襲の恐れこそ少ない。だが交通の便が悪く、開拓できる土地も限られております。多くの商人や住民を集めるのは難しいでしょう」
そう言いながら、秀長は地図を広げて一点を指し示した。
秀長「そこで最も有望と存じますのが、犬山城の南東に位置するこの“大草”でございます。三河・尾張・美濃を結ぶ交通の要衝でありながら、いずれの勢力も手をつけておりませぬ」
しかし、秀長は少し表情を曇らせながら、言葉を続ける。
秀長「この地は織田、そして徳川の領地と境を接しております。つまり、築城中に、敵からの攻撃を受ける危険が極めて高い。
それでも我らとしては、何としてもこの大草に商いで賑わう新たな城下町を築きたいのです」
頼朝は提示された地図を睨み、黙考した。
だが、今の頼朝が大草城築城の是非を唱えるにはあまりに唐突すぎる。
秀長の言葉を受け、大草築城の防衛計画について、トモミクが具体的な兵力配置案を述べた。
トモミク「大草の築城が完了するまで、敵襲に備えねばなりません。
布陣としまして、義経様の狙撃隊と犬塚様の突撃隊の二部隊、あわせて約二万五千を建設地に駐屯させます。
万一の際は、私と頼朝様の狙撃隊が犬山城にて総勢三万の兵とともに待機。
この布陣はいかがでしょう、頼朝様?」
(“いかがでしょうか”と問われても、大草の話も、部隊の采配なども、今のわしに、できようはずもない……)
そんな思いとは裏腹に、頼朝は秀長という人物そのものへ強い興味を感じていた。
(的確に状況を見極め、実利に基づいて案を出す。物腰こそ穏やかだが、揺るぎない説得力も併せ持つ……)
人を簡単に信じる性分ではない頼朝だが、この軍団の家臣たちには、鎌倉で見てきた重臣たちとはまるで違う何かを感じ始めていた。
頼朝「……異存はない。秀長の申すとおり、皆で力を合わせて大草城を築こうぞ」
ごく当たり前の返答ではあったが、頼朝の言葉は偽りでもない。
トモミク「頼朝様、ありがとうございます」
トモミクが、いつもの微笑を浮かべて応じる。
トモミク「それでは各隊、ただちに出撃準備を…斎藤福様。」
トモミクが名を呼んだ先に立つのは、これまで見かけなかった女性だ。どうやら文官か技術者らしい。
トモミク「大草城の築城をお願いいたします。わが築城隊の威信にかけて、できるだけ急いでくださいませね」
呼ばれた斎藤福は、他の柔和な女武者たちとは一線を画す、獲物を射抜くような眼差しを持つ。
福「はっ、かしこまりました。二月のうちには必ず完成させます」
福は静かながら、ふっと笑みを浮かべ、自信に満ちた声で答える。
トモミクは満足げに頷いた。
頼朝は全貌がつかめないながらも、方針に反対するものではなかった。
頼朝「皆で力を合わせ、大草城を築こうぞ」
大草築城――それが戦国に灯る一筋の狼煙となる。
今回の“内政三策”は史実の豊臣秀長の政策を下敷きに、頼朝軍流に再解釈しました。
次話「動き出す織田」では滝川一益が犬山を急襲。頼朝軍は間に合うのか?
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