13-2 王佐と鬼の縁結び
坂田金時と上杉弓、秀長と北条家――
盟を結ぶは、刀ではなく縁。
だがその裏で迫るのは、甲斐・信濃に忍び寄る徳川の刃。
人と人との絆が、戦の風向きを変え始める。
■早雲と頼光:婚姻外交
渡辺綱が出撃のために去ったのち、北条早雲は源頼光に向き直った。
早雲「ところで、頼光殿。話は変わるが、そなたの一門の坂田金時殿のことじゃが……
あの御仁に、奥方はおられるのかな? 」
頼光「いやはや、まことに、困った話でしてな……」
頼光は、苦笑交じりに言った。
頼光「金時は、槍を持たせれば、敵をなぎ倒せますが……こと女子となると、逆にたやすく一刀両断されてしまいましょう」
早雲「がははは!それは見てみたいものじゃ!」
早雲は豪快に笑い、ひと息おいて話を続けた。
早雲「じつはな、上杉・北条間での婚姻を取り持ち、より強固な同盟を結ぼうと考えておる。そこで、北条の娘は秀長殿に、上杉の娘御は――坂田殿にどうかと思うておる」
頼光の目が興味深そうに細められる。
早雲「越後へ赴いた折、上杉景勝殿の娘・弓殿とも会った。凛とした佇まいに、目つきも鋭い。名は弓、きっと槍もできる。
…己の娘に『弓』などと名付けるあの景勝殿も、どうかとは思うがの。
ともあれ、景勝殿のご息女弓殿であれば、坂田殿の妻としてよろしいと思うておるのじゃが」
頼光「ほう……! 早雲殿、それはありがたきお話!」
頼光は、深く頷いた。
頼光「武家の姫君としても気骨ありと見受ける。あの朴念仁の金時には申し分ないお方にございますな。
ただ、上杉の姫と金時が釣り合うかどうか……」
頼光は少し目を細めて付け加える。
頼光「……にしても、早雲殿。秀長殿への厚意が並々ならぬようで。
表向きは、源氏と北条との婚姻。実情は秀長殿が、早雲殿と親族になるようなものではありませぬか」
早雲「……頼光殿には、隠し立てはできませぬな」
早雲は照れくさそうに笑いながら頷いた。
早雲「正直に申せば、わしは、あの秀長という男を、たいそう好いておる。『王佐の才』とは、まさに、秀長のためにある言葉よ!」
頼光「はっはっは!秀長殿は頼朝殿を、実によく支えておる。
しかし、事が成れば、秀長殿は、早雲殿の婿殿のようなものじゃな!」
早雲「左様!秀長は頼朝殿の義父でありながら、わしの婿じゃ! がははは!」
早雲は、豪快に笑った。
早雲「これより那加城へ参り、頼朝殿ともこの上杉・北条との婚姻の話を、相談してまいりまする」
頼光は感心しながら、早雲に語った。
頼光「上杉と北条との婚姻、まことに良き話と心得る。早雲殿の、その先を見通されるご慧眼、いつもながら、この頼光、感服いたす」
早雲「もったいなきお言葉。お互い、今後も、頼朝殿を、しっかりと支えてまいろうぞ」
源頼光と北条早雲。それぞれが生きた時代は違えども、新しき世を切り開かんと力を尽くした者同士。この時代で出会った二人は、互いの力量を認め合い、深い敬意で結ばれていた。
北条早雲は頼朝の娘・桜を伴い、頼朝の居城である那加城へと、馬を向けた。
■那加城:再度武田家への援軍
那加城の頼朝と義経のもとにも、赤井輝子からの早馬がすでに届いていた。
頼朝「…やれやれ。相変わらず、織田信長の常軌を逸した執念、呆れるばかりじゃ」
書状を読み終えた頼朝は、吐息混じりに語った。
義経「ですが兄上、それほどまでに、先の長島城陥落が信長にとっては痛手だったということでしょう」
義経は、冷静に続けた。
義経「我らが大垣と長島を制した今、織田軍は美濃・尾張への侵攻を容易にできませぬ。もはや『目の上のたんこぶ』ではなく、『脅威』と化したのです。
此度の織田の侵攻は、大垣と岐阜の援軍が輝子殿と合流すれば、大きな問題とはなりますまい」
頼朝が頷くと、そこへ羽柴秀長が現れた。
秀長「ご報告がございます。まず上杉家――越前にて織田軍を撃退し、大聖寺城を奪還。
我が軍の陽動も功を奏したのかもしれませぬが、上杉軍の強さは相変わらずでございました!」
頼朝「うむ、あの景勝殿、なかなかの器量と見える」
だが、秀長の顔に陰りが差す。
秀長「…しかし、問題は、武田家にございます。
駿河方面では、徳川軍が武田軍を撃破し、武田の甲斐本国へと侵攻している模様。
さらに、徳川軍は南信濃へも侵攻。飯田城の秋山殿からも、苦戦の報が届いております」
頼朝は、眉をひそめる。
頼朝「勝頼殿……我らに助けられてばかりでは、家臣の信を失うこととなる」
秀長「勝頼殿は駿河での敗戦で、今や甲斐を守ることに必死でございましょう。南信濃の武田軍は、もはや兵力で徳川軍に比べ、圧倒的に劣勢であります。
我らが再び援軍を出さねば、南信濃は危ういかと存じます」
頼朝は大きくため息をついた。
頼朝「……して、上杉景虎殿は、どうなられた」
秀長は困惑の表情を表していた。
秀長「……はっ。……景虎殿の沼田城は、武田軍により陥落。ご本人の消息も、不明のままにございます」
あきれたように頼朝が口を開いた。
頼朝「それでは、北条家から、甲斐の武田への援軍など、到底望めぬ。北条氏政殿からすると、今の武田の窮状は『自業自得』ではないか」
頼朝は、天を仰いだ。守るべき、源氏の血を引く末裔の武田家、その当主武田勝頼。
義経「…兄上」
義経が、静かに口を開いた。
義経「もはや、甲斐のことは、勝頼殿が自力で守り抜くしかありませぬ。ですが、南信濃・秋山殿を見捨てるわけにはまいりませぬ。
幸い、九月の収穫まで、あと二月ほど。大軍は送れませぬが……東美濃の三城より援軍を出しましょう」
秀長「拙者も、同感にございます。東美濃三城より総勢一万五千、派遣可能です」
頼朝「…それしかあるまい……東美濃の城代は、池田輝政、犬村大角、犬江親兵衛であったな。出陣を命じるのじゃ」
秀長「かしこまりました!」
人の縁が、戦を導く。
北条・上杉・源氏、それぞれの婚姻と信義が交差するなか、
武田家の命運を左右する一手が、今、東美濃から放たれる。
次章――信濃へ救援の刃、そして、長島の攻防。




