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11-3 岐阜城天守の決意 ―家臣たちの絆―

岐阜城天守から、広がる大地を見つめながら――

頼朝は早雲、トモミクとともに、これまでの戦いとこれからの国のかたちを見据える。

失った者たちの声に耳を傾けながら、彼らの信義と想いに、頼朝は応えようとしていた。

過去と未来が交差する高みで、静かなる決意が生まれる。

■岐阜城天守からの展望:頼朝、トモミク、北条早雲の心


評定が終わり、諸将が退出した後、頼朝は、トモミク、そして北条早雲と共に、岐阜城の天守閣へと登った。

眼下には、尾張、美濃の広大な平野が一望できる。


挿絵(By みてみん)


頼朝「…早雲殿」


頼朝は、西の方角を見つめながら言った。


頼朝「早雲殿から、大垣城攻略の提案がなければ、当分、あの城を落とすことは叶わなかったであろう。

損耗していたはずの織田軍を相手にして、あれほど難儀したのだ。織田が十分に力を蓄えた後であったなら……。


しかし、こうして、高き所から見ると、大垣城が、西の守りにとっていかに大切な城か、一目瞭然じゃのう」


西に目を向ければ、養老山と伊吹山が目に入り、その先は近江である。今や、織田軍が西からまとまった部隊で美濃へ侵攻するためには、この山間の関ヶ原を通過するしかない。大垣城と、この岐阜城が、二つの巨大な門のように立ちはだかっているのが、よく分かった。


早雲「はっはっは。頼朝様、拙者は、この景色を毎日、飽きもせず眺めておりましたゆえな」


早雲は笑った。


早雲「頼朝様は、犬山に向かう織田、東の徳川や、南信濃の武田家のことに、心を砕かれておりました。しかし那加城からは、この稲葉山が邪魔となって、西の地勢は見えなかったでしょう」


頼朝「まことに、その通りじゃな。目の前の戦に追われ、大局を見失うところであった……」



今度は、トモミクが、南西の方角を指差しながら、話を続けた。


挿絵(By みてみん)


トモミク「頼朝様、あちらをご覧ください。伊勢湾に流れ込む三つの川に形作られた地形、長島城はそこにございます。早雲様が仰せられたように、伊勢から美濃・尾張への入り口となります」


頼朝「…確かに、そうじゃな」


頼朝は頷いた。


頼朝「大垣城と、そして長島城を抑え、西からの脅威を取り除くことができれば、我が領土、同盟国である武田も、守ることができる」


トモミク「はい!頼朝様!」


トモミクが、力強く応えた。


かつては、他国への侵攻に後ろ向きであったトモミク。しかし、織田の度重なる侵攻をうけ、清州城攻略を皮切りに、大垣城攻略にも積極的に力を尽くし、さらに、この長島城攻略の重要性までも、はっきりと口にするようになっている。


彼女の中で、何かが変わりつつあるのだろうか。


トモミクは、次に東南の、徳川領の方角を指差した。


トモミク「伊勢の長島、そして近江の道を、私たちが抑え、織田軍の侵入を完全に防ぐことができましたら……徳川家と織田家とは、完全に分断されます。

そうなれば頼朝様も、この時代での暮らしを、少しはお楽に過ごしていただけるのではないかと……トモミクは、そう考えております!」


(長島城を攻略し、織田と徳川を分断する……)


そうなれば、織田軍の脅威は、大きく減退するだろう。

徳川も、織田との連携を断たれれば、我が友軍に囲まれ四面楚歌。容易には動けまい。


頼朝は、今度は東の、東美濃の方角へと目を向けた。あの険しい山々の先に、武田の領国がある。

自軍を大きな危機に晒しながらも確保した、武田への援軍路。岐阜城のこの天守から改めて一望すると、かつて飯田城で秀長が必死に説いた、東美濃攻略の戦略的重要性が、今更ながらによく理解できた。


(もし、これで長島城を落とす事ができたら……この軍団に課せられたという『目的』も、叶うことになるのであろうか……)



■過去と未来を知るトモミク


頼朝「しかし、トモミクよ。…そろそろ、教えてはもらえぬものか。


なぜ、わしが、この時代におるのか。なぜ、トモミクは、わしをこの時代へ呼んだのか。

そして……この軍団が目指す本当の“目的”とは、武田を守る、ただそれだけでは、あるまい?」


トモミク「……頼朝様。申し訳ございません。どうか、今しばらく、お待ちくださいませ」


トモミクは、困ったように微笑んだ。


トモミク「ですが、これだけは、お伝えできます。頼朝様、貴方様でなくては、ならなかったのです。それに……今、全てが、とても良い方向へ向かっております! 」


頼朝「……知らぬ方が良いこともある。それは、阿国殿からも話を聞き、少しは理解したつもりだ」


頼朝は、ため息をついた。


頼朝「これだけ、命を懸けて尽くしてくれる家臣たちに対し、棟梁として、ただただ感謝するばかり。真の目的を知らず、すすむ道を家臣達に示せぬ、己の不甲斐なさよ……。しかし……」


トモミクは微笑んでいるが、その瞳の奥には何か別の迷いも見えた。


トモミク「……まずは、お体を大切に、頼朝様。いずれ必ず、全てをお話しいたしますから……」


挿絵(By みてみん)



早雲「頼朝殿」


それまで黙って聞いていた早雲が、頼朝の肩を叩いた。


早雲「この早雲も、どこまでも、頼朝殿について参りますぞ。今の殿は、まことに、ご立派であられる。


実を申せば、わしも、トモミク殿には食って掛かっておりましたわい。先日の、上杉との同盟の折にも、お恥ずかしいところをお見せしてしもうた」


早雲は、苦笑した。


早雲「しかし、それ以上に難儀いたしましたのが、あの太田道灌殿との対面でござった」


頼朝「ほう、道灌殿と、早雲殿との間に、何か?」


早雲「…わしはかつて、道灌殿のかたきである扇谷上杉氏とも、戦ったことがござる。いや、それどころか、道灌殿のご子息とは、直接、戦場で干戈かんかを交え、わしが江戸城から追い出した、という因縁まである。…そのような話を、わしの口から、道灌殿に、どう切り出せと?


ただ、救いであったのは、わしの可愛い孫・氏康が、後に道灌殿の仇を坂東から追い払い、道灌殿のご子孫を、北条家の家臣として、大切に遇しておる、ということじゃ。――氏康さまさまよ、がはは!


…いやはや、何とも、難しきえにしでござるよ、頼朝殿!」


早雲は、再び頼朝に向き直った。


早雲「頼朝殿。どうか、今のまま、信じるままに、我らをお導きくだされ。わしにできることであれば、この老骨、何でもいたしますゆえ。トモミク殿は、まことに不思議な女子おなごではございますが、彼女なりに、辛抱しながら、懸命に尽力しておりますぞ」


頼朝「…早雲殿に、そこまで申していただけるは、心強い限りじゃ」


頼朝は頷いた。


頼朝「…そのような深い因縁があったとは、露ほども存じませなんだ。

…トモミクよ。無理を申して、すまなんだ。戯言であったと、聞き流してくれ」


トモミク「いいえ、頼朝様」


トモミクは、静かに首を振った。


トモミク「頼朝様のためにこそ、このトモミクは、ここにおります。どうか、それだけは、お忘れなく」


やはり、多くを知ることはできなかった。

だが、過去の、あるいは未来の人間の、その複雑な因縁を知り、それでも彼らを導かねばならぬトモミク。その立ち位置の難しさを、早雲の話からも、あらためて感じるところであった。



■岐阜城の秘密と新たなる決意


早雲「ところで、頼朝殿」


早雲が、ふと思い出したように言った。


早雲「先日、大垣城での戦の様子を、わしは、ここから桜殿と共に眺めておりました。

頼朝殿が、苦戦を強いられておられた時、桜殿は、いてもたってもいられず、『自らが出陣する』と、わしに懇願なされましたぞ。正直、わしも、どうやってあの子を止めればよいか、困っておりましたが……折しも、トモミク隊が、見事に頼朝殿の救援に間に合われました。

それで、ようやく桜殿を押し止めることができ、正直、助かりましたわい。


まこと、父思いの、良き娘御ではありませぬか、頼朝殿!」


頼朝「……そうでありましたか」


頼朝は、目頭が熱くなるのを感じた。


頼朝「…不憫な娘ではあるが……この時代で、あの娘に会えたことは、わしにとって幸いであった。何よりも、早雲殿のような御方に師事し、学んでおることは、桜にとって幸い。


…心より、感謝申し上げる」


早雲「がはは! これもまた、トモミク殿の、粋な計らい、ということでござろうよ」


早雲は、豪快に笑った。


頼朝「そうであったか……。諸々、感謝の言葉もない」


頼朝は、改めて、この不思議な軍団と、それを率いる者たちへの、深い感謝の念を抱いた。


頼朝「しかし……この岐阜城を、織田から奪い取るのも、さぞや、大変なことであったであろう。こうして見ると、実に堅固な、良い城じゃ。敵の動きも、手に取るように見える」


それまで豪快に笑っていた早雲であったが、口を開くまで少し間があった。


早雲「……此度の、大垣城の比ではございませんでした」


早雲は、ふっと表情を曇らせ、遠い目をした。


早雲「……大変な、犠牲でござった……」


それ以上、早雲は何も語らなかった。岐阜城の攻略には、何か、特別な事情があったのかもしれない。



頼朝は、今はそれを詮索すまい、と考えた。


この老将・北条早雲、そして、謎多き女性・トモミク。この二人の存在無くして、この先の困難な道を進むことは出来ないであろう。


そして、傍らには、絶対の信頼を置ける弟・義経がいる。太田道灌のような、稀代の名将もいる。その他、数えきれぬほどの、偉大な者たちが、家臣として、己に忠節を尽くしてくれる。



この大いなる勝利の裏側で、多くの民が家族を失い、悲しみに暮れている。

それでも、頼朝は今、共に生きる家臣や弟とともに、もう二度と同じ痛みを繰り返さぬための道を歩み始めた。


兵も、民も――悲しみを超えて、未来を信じながら。


挿絵(By みてみん)

家臣の言葉に支えられ、謎に包まれた仲間に導かれ、

頼朝は、この時代で生きる意味を、少しずつ見出し始めていた。

桜の成長、義経の想い、道灌と早雲の過去――

そして、誰より傍にいるはずのトモミクが抱える、語らぬ真実。

次章――戦死者たちへの鎮魂の祈りを捧げた直後、頼朝軍はあらたな決断をせまられる。

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