11-2 武と政(まつりごと)の節目
戦は終わり、軍議の時が訪れた。
犠牲を悼む言葉、功績を讃える声、そして未来への布陣。
名将たちの矜持が交差する軍議の席で、頼朝は何を見、何を語ったのか。
理と情が織りなす軍議の一幕が、いま幕を上げる。
■頼朝軍団評定
頼朝は軍団の主だった者たちを集め、岐阜城にて評定を開いた。織田軍が再び大垣城を襲ってきた場合に備え、大垣に近い岐阜城に将兵を集めての評定であった。
頼朝「おのおの方、此度の大垣城攻略、まことに大義であった!」
頼朝は、上座から居並ぶ家臣たちを見渡し、改めて労いの言葉をかけた。
頼朝「北条早雲殿の慧眼、そして太田道灌殿、トモミクの獅子奮迅の働き。そなたたちの力がなくば、あの大垣城を、我らが手にすることは、決して叶わなかったであろう」
そこに太田道灌が一歩前に出て、床に額をつけながら感極まったように声を上げた。
道灌「拙者の浅慮、猪突が招いた過ち!多くの兵を死なせ、あまつさえ殿ご自身をも危険に晒してしまいました!
この太田道灌、一生の不覚にございます――何とお詫びを申し上げてよいか……!」
道灌は、頭を下げ続けた。
頼朝「道灌殿、何を申される」
頼朝は、道灌の肩に手を置いた。
頼朝「傷を負いながらも、命懸けで敵陣に切り込んでくれたからこそ、我らは勝機を見出すことができたのだ。
織田軍の巧妙な待ち伏せを、見抜けなかったのは、このわしの責でもある。
世に名高き太田道灌殿の命を、危うく落としかねない失態を犯したわしこそ、罪深い」
道灌「 殿からの、その温情溢れるお言葉、この道灌、一生忘れませぬ!」
道灌は、涙ながらに頭を下げた。
太田道灌は、卓越した軍事的才能だけでなく、優れた政治手腕、当時最先端の築城技術、そして和歌にも通じた文化人。政治・軍事の双方で数えきれぬ功を立て、主家である扇谷上杉氏を支えてきた。まさに、文武両道を絵に描いたような武人であった、と、この時代の者たちからも、しばしば耳にする。
しかし最後は、あろうことか、その主君であった上杉定正によって、謀殺されたと伝え聞く。
武田家への援軍を差し向け、美濃が危機に陥った際は、義経をよく補佐し、織田の猛攻から見事に領土を守り抜いた。義経と道灌、二人の天才的な軍略がかみ合ったからこそ、織田の更なる美濃への侵攻を許さなかったのだ。
道灌が城代を務める犬山城の民たちも、彼の統治を称賛しており、その評判は隣接する大草城の発展にも、大きく貢献していると聞く。
頼朝の目から見ても、太田道灌は、紛れもなく、稀代の名将であった。
頼朝は次にトモミクに目を向け、声をかけた。
頼朝「トモミクも、よくぞ、あの窮地を救ってくれた。
しかし、そなたは、いつも戦場で無茶が過ぎるぞ。そなたにもし万一のことがあれば、この軍団は成り立たぬ。くれぐれも、無理は禁物じゃ」
トモミク「ありがとうございます、頼朝様」
トモミクは、いつもの淡々とした口調で答えた。
トモミク「頼朝様のお命こそ、この軍団の柱にございます。頼朝様が危うくなられたときは、わたくしが必ずお守りいたします」
いつもの、全てを見通しているかのような笑顔を、頼朝に向けていた。
頼朝「次に!」
頼朝は、声を張り上げた。
頼朝「ここまでのわが軍の勝利は、直接、槍働きをしてくれた者たちだけでなく、後方にて、大草城の発展に力を注いでくれた、飯坂猫殿をはじめとする、内政官たちの働きがあってこそでもある! 彼らにこそ、十分な褒美を取らせたい。
大草城の、目覚ましい発展なくしては、小国の我らが、これほどの軍事行動を起こすことすら、できなかったであろう。東美濃の平定、清州城、大垣城の攻略どころか、この城すら失っていたかもしれぬ」
その言葉に、末席に控えていた飯坂猫が、ぱっと顔を輝かせた。
猫「まあ!頼朝様、ありがたきお言葉! この猫をはじめ大草城の家臣一同、殿のお心遣いに、心より御礼申し上げまする!」
猫は、ぺこりと頭を下げた。
猫「あ、それと、この場をお借りして、ご報告がございます!大草城下の整備が、このほど、全て完了いたしました!あとは、もっともっと沢山の民が、大草に移り住んでくれたら、街はもーっと発展いたしますよ!」
頼朝「おお、それは誠に大義であった、猫殿!」
猫「頼朝様にも、ぜひぜひ、新しくなった城下町を見ていただきたいです! 大草の家臣一同、首を長ーくして、お待ち申し上げておりますからね!」
猫は、満面の笑みで言った。
頼朝「うむ、それは楽しみじゃな」
頼朝も、自然と笑みがこぼれた。
頼朝は、改めて、評定の間に集う、筆頭家臣団を見渡した。
頼朝「…右も左もわからぬ、この頼朝のもと、皆、よくぞ辛抱し、ここまで力を尽くしてくれた。まことに、恐れ入る。
この短い間に、我らは幾度となく、強大な織田軍や徳川軍をはねのけ、気が付けば、我らが領土も、周辺の大大名と肩を並べられるまでに至った。
まこと、優れた家臣は、国の宝じゃ。わしは、これからも、皆を頼りにしておるぞ」
その言葉を聞きながら、義経は、隣に立つ兄の姿を、感慨深く見つめていた。鎌倉の頃の、猜疑心に満ち、常に孤独であった兄とは、まるで違う。今の兄は、家臣を信じ、その働きに心から感謝し、そして、その信頼に応えようと必死に努めている。
(しかし……)
義経の心に、一抹の影が差す。
(兄上は、我ら家臣団の忠節が、本当はどこから来ているのか、ご存知ない。今の兄上が、この軍団にとって、『二人目の兄上』であることを、知る由もないのだ……)
■頼朝軍のあらたな編成
秀長「それでは、引き続き、この秀長より、今後の家臣の皆様と部隊の配置について、申し上げます」
秀長が、改めて口を開き、新たな軍団の布陣について下記を説明した。
1) 西方の守り:西からの織田軍脅威に対する拠点
大垣城代:北条早雲
配属部隊:早雲隊(第一突撃隊)、頼光隊(第二突撃隊)、渡辺隊(第四突撃隊)
岐阜城代:トモミク
配属部隊:トモミク隊(第二狙撃隊)
清州城代:赤井輝子
配属部隊:赤井隊(第四狙撃隊)
2) 東方の守り:東からの徳川の侵攻に備え、また、有事の際の、武田家への援軍
那加城主:源頼朝
配属部隊:頼朝隊(第一狙撃隊)、義経様(第三狙撃隊)
犬山城代:太田道灌
配属部隊:太田隊(第三突撃隊)、大内隊(第五突撃隊)、犬塚隊(第六突撃隊)
3)今後の強化計画
狙撃隊の設立:岐阜城、清州城の発展と兵の増強を見据え、狙撃隊の指揮官を選りすぐり、出雲阿国がその育成・鍛錬にあたる。
東美濃の補強:織田から新しく頼朝軍に帰順したものから選りすぐり、東美濃へ配属し、かの地の統治と国力の向上に尽力をする。
前田利家:当面清州城下の復興と発展に尽力、城代の赤井輝子を助ける。いずれは、一部隊を率いる。
秀長「…それでは、おのおの方、それぞれの持ち場にて、何卒、よろしくお願い申し上げまする」
秀長の報告が終わると、頼朝が、改めて一同に語りかけた。
頼朝「皆も知る通り、此度の戦では、あまりにも大きな犠牲が出た。多くの民が、今も深い悲しみに暮れておることだろう。ひとえに、この頼朝の不徳の致すところである。
…せめてもの償いとして、この軍団を挙げて、聖徳寺にて、盛大に供養、鎮魂の儀を執り行いたいと思う。一門衆、譜代衆、新参衆には、万障繰り合わせの上、必ず参列をお願いしたい」
早雲「それは、まことに良きお考えと存ずる!」
誰よりも早く、北条早雲が、頼朝の考えに賛同の意を示した。他の者たちも、次々と頷く。
頼朝「それから……最後に、長島城のことであるが……」
頼朝は、早雲に視線を向けた。
頼朝「早雲殿の言う通り、あの地を抑える意義は大きい。だが、今の我が軍団に、もはや、長島城を攻略する力は残っておらぬ。…しかし、諦めたわけではない。時が来れば、必ずや、長島城をも我が傘下に入れる。
そのためにも、今は、力を蓄える時じゃ。おのおの方、それぞれの城へ戻り、民を慈しみ、国力を高め、次なる戦に備えよ!」
「「ははっ!!」」
頼朝の言葉に、諸将は力強く応えた。
勝利の余韻と、次なる試練への静かな闘志が、広間に満ちていた。
猛き戦のあとに訪れる、静かな決断の時間。
太田道灌、トモミク、飯坂猫――それぞれの功が語られ、軍団は再び歩みを進める。
だが、義経の胸には隠された想いがあり、頼朝はまだ知らぬ真実がある。
次章、岐阜の天守にて、北条早雲とトモミクの心に触れる。




