9-1 帰還、そして巨大な影
戦いを終え、頼朝は那加城に凱旋する。篠の涙、家臣たちの再編、そして次なる戦の準備が進む。
だがその喜びの裏で、織田信長という“影”が、尾張・越前・畿内を覆い始めていた――。
■帰還と涙
篠「殿! ご無事にてのお戻り、誠に、誠に嬉しく存じまする!」
那加城へ凱旋した頼朝を、正室の羽柴篠が感極まった様子で出迎えた。その姿は、頼朝の娘である桜よりも、なお幼く見える。
頼朝「うむ、ただいま戻った」
頼朝は馬上から篠に声をかける。
頼朝「義経や光殿からも、そなたの働き、しかと聞いておるぞ。初陣でありながら、実によく戦ったと。さすが父・秀長の娘、そして、この頼朝の妻――皆、そう申しておったわ」
頼朝の労わりの言葉に、篠は顔を上げる。その瞳には安堵と、戦場で味わったであろう厳しさの影が宿っていた。
篠「…もったいなきお言葉にございます。
ですが、わたくしは……己の未熟さを痛感いたしました。
義経様や櫛橋様にも余計なご苦労をおかけして……多くの兵たちの命も失わせてしまったのです……」
語り終えると、篠は再び顔を伏せ、その肩は小さく震えていた。
義経から篠が属した櫛橋隊の苦闘を聞いていた頼朝は、しばし沈黙した後、篠の肩に手を置く。
頼朝「…厳しき初陣であったのう。しかし、そなたたちが必死に織田を食い止めてくれたからこそ、我らはこうして戻ってこれた。わしの妻として、誇らしい働きを見せてくれた、礼を申すぞ」
戦場での厳しさ、不本意ながらの退却を思い返す篠は、そのまま深々と頭を垂れ続け、肩を震わせていた。
■評定:新たなる布陣
此度の一連の戦いから凱旋したとはいえ、織田軍の脅威は消えていない。いつ力を盛り返し、美濃・尾張へ侵攻してくるか分からない。筆頭家臣たちによる評定が招集された。
秀長「おのおの方、誠に見事な働きでございました!」
まず羽柴秀長が開口一番、諸将の労をねぎらう。
秀長「南信濃への援軍、東美濃三城の確保、そして北条家の包囲網参入。これにより武田家は当面の危機を脱した――そう申せましょう」
しかし、と秀長は表情を引き締める。
秀長「しかし、みなさまもお解りの通り、今後さらに強大化する織田信長に備え、我らの軍団をより強固にせねばなりませぬ。そこで此度は家臣団の制度と、領国経営についてお話申し上げます。
まずは、新しい制度について。
部隊長により大きな裁量を与えるべく、先の“譜代衆”“一門衆”に加え、新たに『新参衆』を設けます。
これまでの戦功を踏まえ、
犬塚信乃殿、
大内義興殿、
太田道灌殿、
を新参衆に任命し、軍略や内政面でも大きな役割を担っていただきまする」
*(左)犬塚信乃、(中央)大義興、(右)太田道灌
こうして頼朝軍の全ての部隊長は、何らかの役職を得ることとなった。
続いて秀長は、新領土に関する方針へ話を移す。
秀長「清州城は今後、対織田の最前線拠点。兵力増強、国力充実、城の改修、ほか拠点との連携など、至急進めねばなりませぬ」
頼朝が新たな城代を任命する。
頼朝「清州城の城代には、赤井輝子殿を据える。ここまでの働き、まこと見事であった。赤井殿は譜代衆として麾下の第四狙撃隊を率き、西方から来る織田の襲来に備えよ」
輝子「ありがたき幸せ! この輝子、必ずやお役に立ってみせます!」
さらに頼朝は東美濃の三城(苗木・岩村・鳥峰)にも城代を置き、街道の維持と南信濃への迅速援軍を最優先とするよう指示する。
頼朝「次に、東美濃の三城(苗木、岩村、鳥峰)についてであるが……」
頼朝は続ける。
頼朝「現状、これらの城下町の開発や、軍備の大幅な増強に、多くの力と資源を割く余裕は、我が軍にはない。
よって、三城にはそれぞれ城代を任命し、城下の整備、軍備については、当面、各城代に一任したいと思う。
東美濃の城代の最重要任務は二つ。
一つは、武田家有事の際に、速やかに援軍を派遣できるよう、南信濃へ至る街道の整備と維持。
もう一つは、武田家から救援要請があった際、南信濃への先遣隊派遣である。
この二点を最優先事項として、任務にあたってほしい」
東美濃の三城の城代には、それぞれ以下の者が任命された。
苗木城代:池田輝政
岩村城代:犬村大角
鳥峰城代:犬江親兵衛
*(左)苗木城代:池田輝政、(中央)岩村城代:犬村大角、(右)鳥峰城代:犬江親兵衛
■おそるべき信長軍団
頼朝「さて……」
頼朝は、秀長に視線を向けた。
頼朝「ところで、織田軍の新たな動向はどうか。斥候から何か入っているか」
秀長「はっ。断続的に情報は届いておりますが、驚くべきことに、信長公は我らと激戦を繰り広げる一方、西国および北陸でも軍事行動を進め、その支配領域を拡大しておりました」
秀長は織田軍団の動きについて軍団長に報告をした。
【西国】織田家包囲網に加盟した友軍、丹波波多野氏はすでに滅亡。
【北陸】越前一向一揆は柴田勝家に壊滅させられ、一乗谷・大聖寺は陥落、織田の支配下に。
【本願寺】石山本願寺のみが健在で、三方を織田に囲まれる。ただし南から雑賀衆が鉄砲で支援。
秀長「そんな中、本願寺顕如様より我らとよしみを結びたいとの申し出があり、顕如様の姫君・悠様と我ら一門衆である源頼光殿との婚姻が決まったところでございます」
(なんという巨大な脅威、織田信長とは……)
諸将から驚きと困惑の声が上がる。義経は思わず声を荒げた。
義経「つまり、我らが死闘を演じた織田軍は、信長軍団全体の一部隊に過ぎぬというわけか……!」
早雲「うむ……」
北条早雲も唸る。
早雲「奴ら、同時に近江から越前へ大軍を差し向けていたとは……その軍が岐阜に向けられていたら、我が軍団は壊滅しておったやもしれぬ」
織田軍を撃退した頼朝軍団の諸将の喜びと安堵は、織田の力を耳にして、いつの間にか消え去っていた。
譜代、新参、そして城代――頼朝軍は次なる戦いに備え、陣容を整える。
だがその時、信長の野望はすでに越前に達し、石山本願寺をも包囲していた。
義経、早雲の胸に広がる不安。そして、本願寺との政略の絆が動き出す――。




