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8-1 小牧山の夜明け

稲葉一鉄の猛攻、織田軍の波状攻撃の前に、義経隊の弾薬は尽きかけ、馬は倒れ、空は硝煙で霞む。

太田道灌、櫛橋光、篠――すべての将兵が踏みとどまる中、ついに、待ち望んだ報せが届く。

頼朝本隊帰還の報を唯一の光として戦線を支え続ける。

■小牧山の義経

小牧山では、稲葉一鉄の苛烈な攻撃と、次々と攻撃の手数が増える織田の波状攻撃が続いていた。

義経隊が鉄砲隊を再編する間、織田の大軍に太田道灌は自らの騎馬隊をぶつけながら、必死に織田の進軍を止める。


歴戦の太田道灌も、此度ばかりは策を用いる余地もなく、犠牲覚悟で真正面から渾身の突撃を敢行し、ただ時間を稼ぐために戦い続けていた。対する織田は槍・鉄砲・投石――あらゆる部隊で応じ、道灌隊の勢いが弱まるたびに戦線を押し上げてきた。


(義経殿、急がれよ……)


太田道灌隊の犠牲は織田軍の増援に応じて増えて行く。


挿絵(By みてみん)


義経「道灌殿、よくぞ持ちこたえてくださった!」


鉄砲隊の隊列を整えた義経隊が太田道灌隊を後方へ退かせる。


道灌「義経殿……!よし!

皆の者、逃げるふりをしながら、少しずつ後退!義経殿の鉄砲隊の射程に入り次第、一気に離脱じゃ!」


太田道灌隊が潰走したように見えた織田軍の先鋒は、進軍の速度を上げる。

次の瞬間、前方には整然と並ぶ義経隊の銃列――。


一鉄「しまった、深入りし過ぎた!退け、退け!」


だが断続的な鉄砲隊の斉射を受け、稲葉隊は壊滅した。


挿絵(By みてみん)


それでも織田の波状攻撃は止まらない。


義経隊の鉄砲の攻撃の間に、織田軍は一気に戦線を上げてくる。

そのたびに太田道灌隊の騎馬が突撃を敢行し、織田の進軍を押しとどめた。

その間に義経隊が後退をしながら、鉄砲隊斉射の間合いを整える。


徐々に戦線は後ろへと押し下げられた。


(このままでは……)


義経も自らのこぶしを強く握り締めながら、目の前に広がる戦況を眺めていた。



そこに、羽柴篠が自ら義経の陣所に駆け込んできた。


(まさか、光殿が壊滅したのか……!)


篠「頼朝様の軍勢、無事、南信濃より帰還しました!」


挿絵(By みてみん)


義経「兄上が……! 兄上の軍勢が、戻られた!」


小牧山で織田軍を必死に食い止めていた義経たちに、待ち望んだ報せが届いた。



■小牧山の窮状:義経隊、太田道灌隊、櫛橋光隊


その後櫛橋光隊も、犬山方面の布陣を解き、義経隊の戦線に戻り、織田の波状攻撃を受けていた。


義経隊は、並々ならぬ采配で兵の損耗を最小限に抑えていた。

しかし、即席編成だった櫛橋光隊は激戦の連続で出陣時の半数ほどにまで減り、文字通り壊走寸前。

前線で敵の攻撃を押し戻し続けてきた太田道灌隊も、その消耗ぶりは計り知れない。


義経「皆の者、間もなく兄上からの指示が参る!もう少しだ、踏ん張れ!」


義経は気力を振り絞って将兵を鼓舞する。

どれほど戦い続けているか、前線の将兵誰もがも分からぬほど、激戦が続いていた。

しかし、「頼朝軍本隊帰還」の一報は、最期の力を振り絞るには十分な朗報となっていた。


挿絵(By みてみん)




■犬山城下にて


一方、犬山城下で軍を再編していた頼朝のもとへ、秀長が現状を報告する。


秀長「頼朝様、義経殿・太田殿・櫛橋殿が小牧山で織田の猛攻を防ぎ続けております。

また、北条早雲殿も領内に侵入した滝川隊を撃退し、犬山へ向かっております。

しかし、我が領内に残る予備兵は皆無、すべて動員されている状況です……」


頼朝「うむ、よくやってくれた!」


頼朝は力強く頷きつつ、思案顔になる。


頼朝「義経は、まことによく持ちこたえてくれておる。ところで、櫛橋殿が兵を率いていたのか? それほど西の守りが逼迫していたということだな……」


秀長は苦渋の表情で頷き、さらに伝える。


秀長「はい。それと、篠様もその櫛橋隊に加わっているとのことです……」


頼朝「……篠が……」


頼朝は、一瞬言葉を失う。自分の新たな妻となったばかりの少女が、激戦の最前線に出陣しているのだ。


(それほど厳しい状況だったということか……)


頼朝は意を決したように言葉を発する。


頼朝「秀長よ、我が軍も長期遠征で疲弊してはいるが、小牧山の味方は限界に近いはず。これよりいったん前線の兵を下げ、大草と犬山より逆襲をする。

我ら本隊は大草城へ移動し、義経たちにはいったん犬山城へ下がり、補給と立て直しを急がせるよう伝えよ」


挿絵(By みてみん)

*織田軍:左側の清州城に向かう増援と、清州から小牧山(中央)に向かう織田軍勢が進軍している。

*頼朝軍:小牧山にて織田の猛攻を受け続ける義経隊、太田道灌隊、櫛橋光隊。犬山城(右上)から大草城(右中央)に向かう赤井輝子隊と頼朝隊。さらにその後ろから北条早雲隊、トモミク隊が進軍している。

*犬山城と小牧山の間にいる赤い織田軍は、100人あまりの敗走中の滝川一益隊



秀長「はっ、承知いたしました。なお、ここまで奮闘いただきました頼光隊は、もはや限界かと……」


頼朝「頼光殿、獅子奮迅の働きのおかげで、多くの鉄砲隊が温存できておる。頼光殿の本意では無かろうが、退いて兵馬を立て直してもらおう」




■小牧山からの撤退


伝令「義経殿! 犬山城まで下がり、態勢を立て直すように、と!」


伝令を受け、義経は大きく息をついた。


義経「承知した! これで大草も安泰か。皆よく耐えてくれた……櫛橋殿、道灌殿、兵を犬山へ引くぞ。まずは櫛橋隊から順次下がるがよい。


櫛橋殿、よくぞこの激戦を戦い抜いてくれた。もう部隊も限界であろう……篠殿も大義であった。


拙者が殿軍しんがりを務めるゆえ、急ぎ退却せよ!」


櫛橋光はうなずき、篠を振り向く。


光「篠様、わたくしどもはここまでです。篠様は本当に、戦場でも立派なお働きでした。…もう少しで終わりますよ」


篠「…はい……」


篠は、唇を噛みながら頷く。戦場を離れる悔しさに目を潤ませているが、その表情には強い意志が伺えた。


挿絵(By みてみん)


こうして櫛橋隊は、続いて太田道灌隊が順次犬山へ退却した。義経隊は最後まで小牧山に踏みとどまり、敵を牽制しながら撤退を行う。


義経「さて、梓、阿国殿。補給の目処も立った。もう玉数は気にせず、惜しみなく撃ち続けようぞ!」


挿絵(By みてみん)


義経隊の更なる斉射と、小牧山一面を埋め尽くすがごとく硝煙で、織田の進軍は止まった。

義経、太田、光――それぞれの誇りと犠牲で、頼朝軍の逆襲への道が開かれた。

今は、撤退の時。そして再編と反撃の刻。

小牧山の戦いは終わらない。兄弟が再び並び立つ、その時までは。

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