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47-1 気丈な妻、梓

駿府城攻略の陣立てを決める頼朝軍。


誰もが認める才を持つ、若き軍師・源宝。

自信無げな口調は変わらない。


名将義経、梓は、宝の語る作戦に静かに耳を傾ける。

■駿府城攻略の軍議


天正十七年(1588年)十月。


遠江国北部、犬居城城下。


源義経は、妻・武田梓、若き参謀・源宝とともに、

駿府城攻略に向けた軍議を開いていた。


此度の遠征軍において、

宝の才を疑う者は、もはや一人もいない。


それでも――


宝の態度は、変わらなかった。


宝「……駿府城への陣立てにつきまして……

僭越ながら、ご提案申し上げまする……」


声が、わずかに震える。


梓は静かに頷き、

その視線をやわらかく向けた。


梓「宝様。

これまでの戦略、皆が信頼しております」


その言葉に、宝の肩がわずかに緩む。


――だが。


梓の視線が、ふと義経へ向く。

ほんのわずか、厳しさを帯びて。


義経は、その意味を理解していた。


頼朝の病。

焦り。

そして――宝へ当たってしまった己。


義経は視線を落とした。


宝は、大きく息を吸う。


宝「……まず、ご報告がございます」


挿絵(By みてみん)


声はまだ揺れている。

だが、次の言葉には迷いがなかった。


宝「山道周辺に出した偵察隊は……いずれも戻っておりませぬ」


一瞬、空気が張り詰める。


宝「申し訳ございませぬ……」


宝は顔を上げた。


宝「しかし、伏兵が潜んでいることは、間違いないと存じます」


指が、地図の山間を指す。


宝「一方、海岸沿いの街道には、馬防柵が多く設置されております」


梓は、その指先を追う。

義経もまた、同じ場所を見ていた。


義経「……なるほど」


一拍。


義経「どう動くべきと、考える」


宝「……おそれながら……」


息を整える。


宝「……ですが」


その声は、まだ震えている。

それでも、視線はまっすぐだった。


宝「家康様の兵は、多くて五千。


山間に伏兵を置くとしても、

二千が限度と見ます。


街道の本隊には――太田道灌様を」


指が動く。


宝「道灌様が城下へ引きつけている間に、

頼光様の騎馬隊が両翼から殺到。


これにより、本隊の撃退は容易かと」


宝は続ける。


宝「山間の伏兵については……。


徳川軍は、

先鋒をあえて通し、

後尾や輜重を急襲する形で攪乱。


城から打って出たと部隊合わせ、

挟撃を狙うと考えます」


指先が止まらない。


宝「よって、義経様の隊を二分。

梓様の隊を中央に、前後から挟む形で進軍。


義経様の先行隊は、伏兵を無視し、駿府へ直進。

中央の梓様は、応戦しつつ前進。

後方の義経様の別働隊で、挟撃を完成させます」


一気に言い切った。


宝「……もし読みが外れても、

別働隊が露見しなければ、敗れることはございませぬ」


宝の背に、汗が滲む。


梓「……見事ですよ、宝様」


柔らかな声だった。

梓の目は、まっすぐ宝を見ている。


宝「あ、ありがとうございます……!」


だが、すぐに宝の視線が揺れる。


宝「……義経様は……」


義経は、しばし沈黙していた。


地図を見る。

宝の指を見る。


そして、ゆっくりと口を開く。


義経「……よく、見ておる」


宝の目が、わずかに見開かれる。


挿絵(By みてみん)


義経「ただ一つ」


視線が鋭くなる。


義経「伏兵が、鍛えられた切り込み隊であった場合は」


宝は、間を置かず答えた。


宝「そのために――」


宝「梓様の隊の三割を、槍に転換いたしたく存じます」


梓は、静かに頷いた。


梓「良い判断です」


宝の顔が、わずかに明るくなる。


梓「狙撃に向かぬ者に槍を持たせる――理に適っています」


宝「あ、ありがとうございます……!」


義経「では決まりだ」


義経は立ち上がる。


義経「頼光殿、道灌殿へ伝令を。


十五日、一斉に攻める」


宝「は、はい!」


宝は深く頭を下げ、

そのまま駆け出していった。




■義経の伴侶、武田梓


宝の気配が遠ざかる。


梓は、ゆっくりと義経へ歩み寄った。

その目は、鋭い。


梓「……あなた様、

宝様に、つらく当たられましたね」


義経「……」


言葉が出ない。


梓「目が、腫れておりました」


義経「……かなわぬな、梓には」


苦笑。


だが、すぐに消える。


義経「……焦っていた。

怒りもあった。


……徳川を、皆殺しにしかけた。


宝殿が……止めてくれた」


梓は、静かに息を吐いた。


梓「やはり、そうでしたか」


その声は、責めていなかった。


義経「……なあ、梓」


義経は、ふと視線を落とす。


義経「兄上は、この軍を拙者に継がせようとしておる」


ため息をつく。


義経「だが……拙者には人望がない。

平家を倒した後も……誰もついては来なかった。


……里も、宝殿も……

ふたりを想いながらも、空回り」


深い息。


梓は、静かに近づいた。


そして――

そっと、抱きしめる。


梓「……いいえ。

頼朝様の代わりなど、おりませぬ」


一拍。


梓「ですが――

加藤清正様は、あなた様に心服なさっております。


里様も……宝様も、

そして、わたくしも」


さらに強く抱き寄せる。


梓「足りぬところは、皆で補えばよいのです」


梓は、顔を埋めた。


梓「……ですが……」


一瞬、言葉が途切れる。


梓「……わたしも……耐えられませぬ……」


その肩が、わずかに震えた。


義経「……梓」


義経は、その肩を抱く。

強くはない。

だが――離さぬように。


梓は、何も言わずにしがみついた。

その温もりを、確かめるように。


義経の手が――

わずかに、強くなる。


挿絵(By みてみん)

お読みいただきありがとうございました。


宝の軍略と義経の想い、

対するは、家康と三河武士の覚悟と意地。


この後の展開も、お付き合いいただけたら幸いです。

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