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46-1 岐阜城に向けて

帝との謁見を終えた頼朝は、

己の命の灯を見つめながら、岐阜へと向かう。


見送る妻・篠。

護衛として付き従う娘・桜。


過ぎた歳月と、確かに育った命を、

頼朝は静かに見つめていた。

頼朝は、帝との謁見を終え、再び輿に乗り、二条城へと帰還した。


病は、ひととき退いたかのように見えていた。

だが――あまりにも濃密な対話は、静かに、その身の力を奪っていた。


寝所では、いつも通り、篠が頼朝の身の回りを整えている。


頼朝「……篠。岐阜へ立ちたいと思うておる。

その支度を、頼めるか」


挿絵(By みてみん)


篠は、はっと顔を上げた。


篠「殿……どうか、ご無理はなされませぬように。

もう少し、お休みになられてからでも――」


頼朝は、わずかに首を振る。


頼朝「そなたの心遣い、感謝する。

だが……体が動くうちに、トモミクと、そして阿国殿と、

どうしても話しておきたいのじゃ」


篠の瞳が、揺れた。


篠「……そのような、弱気なお言葉を……。

殿は、まだ――」


言葉は続かない。


そして、静かに息を整え――


篠「……では。わたくしも、お供いたします」


頼朝は、やわらかく笑った。


頼朝「いや、篠。

そなたは、この城で倒れてからというもの、片時も離れず、

わしに心を尽くしてくれておる。


たまには、わしのことから離れ、

ゆるりと休むが良い」


篠「……わたくし、疲れたなどと思うたこと、

ただの一度もございませぬ……」


その声は、かすかに震えていた。


頼朝「……案ずるな。

わしには、まだ為すべきことがある。


お市殿とでも誘い合わせて、

賑わいを取り戻しつつある京の街を見てくるが良い。

看病で、外にも出ておらぬであろう」


しばし、沈黙。


やがて、篠は深く頭を下げた。


篠「……分かりました。

お言葉に、甘えさせていただきます。


ただ……もし、万が一のことがございましたら――

その時は、必ずや、駆けつけまする」


頼朝は、何も言わず、ただ静かに頷いた。


篠は、そのまま寝所を辞していった。



一人となった部屋に、静寂が戻る。


頼朝は、ゆっくりと目を閉じた。


(……義経よ、許せ……)


(そなたに、罪を背負わせようとしておる……)


(だが……帝は、『免罪符』を、お与えになる……)


思考は、そこまでで途切れた。


重くなった瞼に抗うことなく、

頼朝はそのまま、眠りへと落ちていった。




やがて――


頼朝は、出雲阿国を伴い、選りすぐりの兵およそ二千を率いて、岐阜へと向かった。


琵琶湖の南、大津。


そこで、源桜の軍勢と合流する。


精鋭の騎馬隊、五千余。


その先頭に立つ娘の姿を、輿の小窓から見やる。


桜「父上!

此度は内大臣ご叙任、まことにおめでとうございまする!」


その声は、晴れやかで、力に満ちていた。


まだ――何も知らぬ声であった。


自信に満ちた眼差し。

堂々たる騎乗。

凛と伸びた背筋――


そのすべてが、頼朝の胸に静かに迫る。


挿絵(By みてみん)


桜「父上、この後は安土、そして大垣にてお休みいただきます。

岐阜城まで、必ずやお守りいたしまする」


桜は一礼し、そのまま馬首を巡らせた。


隊列の先頭へと、駆けていく。


頼朝は、見えなくなるまで、その背を追っていた。




安土城。


そこには北条早雲をはじめ、多くの有力な家臣と兵が集っていた。


だが――早雲は、桜に頼朝との面会を許さなかった。



やがて、大垣城へ。


城内は静かであった。

頼光をはじめ、主だった者はすでに出陣している。


その寝所に、早雲は桜を伴い、入った。


上体を起こした頼朝。


傍らには、出雲阿国。

そして、薬師。


その姿を見た瞬間――


桜の時間が、止まった。


桜は、思い出していた。


岐阜の麓の納屋で、初めて父と言葉を交わした日を。


胸に溢れる想いを、涙として流したあの瞬間を。


温かく、たくましい胸板。

優しく包み込む腕。


その感触を――


一度たりとも、忘れたことはなかった。


あの日から。


父のために己を鍛え、

父の目指す世のために、力を尽くしてきた。


桜「……父上……」


声にならない。


桜「父上……!

いったい、何が……!」


その場に――崩れ落ちた。


挿絵(By みてみん)


早雲が、静かに口を開く。


早雲「……桜殿をお連れ申し上げた。

頼朝殿、お許しくだされ」


頼朝は、苦笑した。


頼朝「……早雲殿。

心遣い、痛み入る」


そして、桜へ。


頼朝「桜。案ずることはない。

随分と、良くなってきておる。


だが……万が一ということもある。

こうして顔を見られたこと、何より嬉しきことよ。


会うたびに、そなたは立派になる。

それが、この父の――何よりの励みじゃ」


桜「父上……なぜ……そのような……」


声は、震えていた。


もう、止めようのないほどに。


挿絵(By みてみん)

お読みいただきありがとうございました。


頼朝は、娘の桜に何を語るのか。

そして、その言葉は何を残すのか。


この後の展開も、ぜひお付き合いください。

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