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43-2 若き参謀、策を語る

次なる徳川の拠点、浜松城を前に、

源義経は吉田城下で軍議を開いた。


そこに集うのは、百戦錬磨の名将・猛将たち。

そして、その席で語られるのは――

初陣を迎えた、若き参謀・源宝の策であった。

頼光「……ん? 義経殿。そちらにおられる若き女将は、いったいどなたかな」


その問いに、源宝はびくりと肩を震わせた。


間を置かず、武田梓が一歩前に出て、明るく応じる。


梓「頼光様。ご存じありませんでしたか。

丹後・一色義道様のご息女にして、頼朝様の養女――源宝様にございます。


此度の徳川討伐において、義経様の参軍。

すなわち、軍全体の作戦参謀をお務めでございます」


頼光の目が、面白そうに細められた。


頼光「ほう……! かの源宝殿か!

才女の噂は、この頼光の耳にも届いておったぞ」


太田道灌も、静かに一礼する。


道灌「太田道灌と申す。

若きながら、見事な智謀と聞き及んでおる。よろしく頼む」


二人の視線が、一斉に宝へ向けられた。


歴戦の猛将たちが放つ圧は、宝にとって、あまりにも重い。

宝は、思わず縮こまり、言葉を失う。


挿絵(By みてみん)


義経「……いや、失礼つかまつったな」


義経は苦笑し、場を和らげるように言った。


義経「宝殿を紹介する前に、ついわしの興味で、

家康殿の戦ぶりについて話を続けてしまった」


そして、改めて宝を示す。


義経「この徳川討伐戦において、

我が軍の作戦参謀を務めてもらっておる、源宝殿じゃ。


この宝殿と策を練るほどに、

その知略と戦略眼の深さには、驚かされるばかりでな」


一拍。


義経「……さて、宝殿。

浜松、そして駿府へ向かう陣立て。

そなたの考えを、ここに示してほしい」



一瞬、宝の頭が真白になった。


昨夜まで、確かに考えていた。

地図も、道も、兵の配置も。


だが今は、胸の鼓動だけが、やけに大きい。


その様子を見て、梓がくすりと笑う。


梓「義経様。少し酷ではございませんか。

宝様は、これが初陣なのですから」


その言葉に、場の空気がふっと緩んだ。


挿絵(By みてみん)


頼光「おお、初陣か!」


頼光が声を上げ、豪快に笑う。


頼光「心配はいらぬぞ、宝殿。

この場におる者で、初陣が見事であった者など一人もおらん」


一拍置いて、にやりとする。


頼光「特に、我らが主・頼朝殿の初陣など……

ここでは話せぬほど酷かったわ!」


笑いが起きた。


宝「……皆さま、お心遣い、恐れ入ります」


宝は深く息を吸い、顔を上げた。


宝「……僭越ながら、申し上げまする」


地図を広げ、指先で進路をなぞる。


宝「此度の進軍、部隊を騎馬隊と狙撃隊、二つに分けることを、ご提案いたします。


山間部――長篠、犬居を経る狙撃隊。

もう一つは、浜松を起点とした、海岸沿いの街道を進む騎馬隊にございます」


挿絵(By みてみん)


頼光が、腕を組んだまま問いを挟む。


頼光「……ほう。

だが宝殿、我らはこれまで、

騎馬と鉄砲を合わせることで道を切り開いてきた」


視線は鋭いが、声に責めはない。


頼光「それを、あえて分ける。

不安に思う者が出るのも、無理はあるまい」


太田道灌が、静かに続けた。


道灌「伊勢では、騎馬なく窮地であったこともあったが、

狙撃と騎馬の連携で戦局を制した。

家康もまた、その形を警戒しておるはずじゃ」


一拍置く。


道灌「……その上で聞きたい。

分けても、勝てると考える理由を」


宝は、地図から目を離さず、答えた。


宝「はい。だからこそ、でございます」


顔を上げる。


宝「家康様は、“合わせてくる”前提で備えておられます。

ゆえに――合わせなければ、その備え自体が意味を失います」


場が静まり返る。


宝「これは、我らの戦い方を捨てる策ではございません。

戦い方を、敵に“選ばせない”ためでもございます」


頼光が、ふっと笑った。


頼光「……怖がって崩しておるのではない、というわけか」


道灌も、ゆっくりと頷く。


道灌「……家康の目を、まず迷わせる、ということじゃな」


宝は、なおも続けた。


宝「山間部では、狙撃隊のみで十分。

兵数の少ない山城に、騎馬の突撃は不要にございます。


一方、海岸部では、徳川が野戦を仕掛けてくる可能性が高く、

そこでは、頼光様、道灌様の騎馬が、最大の威を発揮いたします」


道灌が静かに口を挟んだ。


道灌「そうかも知れぬが……なぜ、野戦で鉄砲を主とせぬ?」


宝は、少しだけ言葉を選んだ。


宝「……義経様は、家康様を迎え入れたいと願っておられます」


その一言で、場が静まる。


宝「狙撃隊の斉射は、命を奪います。

戦意を挫くのではなく、壊してしまう」


宝は、はっきりと言った。


宝「騎馬の圧で心を折り、

最後の駿府で、初めて力を尽くす――

そのための布石でございます」


しばしの沈黙。


そして、頼光が手を打った。


頼光「合点がいった!

分けるのではなく、活かす――か」


道灌も義経も、満足げに頷く。


義経「……皆の者。

今の策に、異存はあるか」


答えはなかった。

ただ、力強い頷きが揃う。


最後に、武田梓が、宝へと柔らかな声をかける。


梓「宝様。

敵味方の命までを思い描いた陣立て……。

お見事でございました」


宝は、深く頭を下げた。


宝「……皆様のお力あってこそにございます」


その日の軍議は、静かな熱を帯びたまま、幕を閉じた。



その夜、義経は、今日の軍議を思い返しながら、

不思議な胸騒ぎを覚えていた。

それが、ただの余韻ではないことを、

義経は、まだ知らなかった。


挿絵(By みてみん)

お読みいただき、ありがとうございました。


若き参謀の言葉は、

軍の進路だけでなく、

義経自身の覚悟をも、静かに定めていきます。


しかしその夜、

義経は説明のつかぬ胸騒ぎを覚えていました。


それが、ただの余韻ではないことを――

彼は、まだ知りません。


次話も、ぜひお付き合いください。

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