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42-2 家康の牙

若き参謀・宝は、

戦に勝つための策だけでなく、

その先――

家康が頼朝に臣従するための道を、必死に思案していた。


参謀の布陣通りに戦いは進み、

太田道灌の騎馬隊は、さらに前へと踏み込んでいく。


しかしその先に待つものは、

まだ誰の目にも見えぬ――

家康の“牙”であった。

■宝の戦術具申


家康の書状に目を通す義経のもとへ、源宝が静かに歩み寄った。


宝「あの、義経様……ひとつ、よろしいでしょうか」


義経「うむ。何なりと申してみよ、宝殿」


宝「もし義経様が、三河の兵たちの犠牲を、できる限り少なくとお考えであるならば……」


宝は一度言葉を切り、戦場を見渡した。


宝「今の我が軍による鉄砲の一斉射撃は、多くの兵の命を一瞬で奪ってしまいます。


そこで、狙撃隊は威嚇に留め、敵が怯んだところを、騎馬隊による突撃で一気に潰走させるのはいかがでしょうか。


尋常でない数の鉄砲の斉射音と陣容だけでも、敵は十分に動きを縛られ、心を挫かれるはずです」


義経「……ほう」


宝「敵の被害は比較的少なく、なおかつ戦意を喪失させることが可能かと存じます」


義経「それはまさに、孫子の兵法にも通じるな。

『其の城を攻むるは下、其の心を攻むるは上』――か」


宝「はい……ただ」


宝の声が、わずかに曇る。


宝「相手は、あの徳川家康と三河武士です。

その心を攻め切れるかどうか……。


もし、我らが攻撃の手を緩めていると見抜かれれば、

逆にそこを突かれる危険もございます」


義経「うむ……」


義経はゆっくりと頷いた。


義経「本気で狙撃隊を投入すれば、家康殿の股肱の家臣たちをも、討ち果たしてしまうやもしれぬ」


しばし沈黙の後、義経は決断した。


義経「よし。此度の岡崎攻めは、頼光殿、そして道灌殿の突撃隊の力を、主としよう」


宝「ありがとうございます、義経様」


義経「ただし、油断は禁物じゃ。

家康殿は刈谷城の決戦には姿を見せず、ここで初めて表に出てきた。


くれぐれもその点、梓にも伝えておいてくれ」


宝「はい……」


この出陣の最終目的は、戦後に徳川家康へ領地と家臣を返すこと。

宝は、そのために最も血を流さぬ道を、ずっと考え続けていたのであろう。


義経は、宝の具申を最善の策と判断した。

だが同時に、宝自身もまた、家康の出陣に一抹の不安を抱いていることを、見抜いていた。


挿絵(By みてみん)



■酒井忠次の覚悟


頼朝軍は、岡崎城下に布陣する徳川軍の視界に入る位置へ、狙撃隊を展開した。


弾道は届くが、直撃すれば致命傷とはならぬ――

その、絶妙な距離からの断続的な斉射。


やがてその音が止んだ瞬間、太田道灌隊が正面から騎馬突撃を敢行した。


挿絵(By みてみん)


迎え撃つは、徳川家筆頭家老・酒井忠次の部隊である。


刈谷城で煮え湯を飲まされた酒井隊は、傷一つ負っていない者はおらず、

生き残り兵をかき集めての出陣であった。


それでも、兵たちの眼に迷いはない。


酒井忠次は太刀を抜き放ち、声を張り上げた。


忠次「者ども、聞け!


我らは、天を衝き、富士の山をも打ち崩す気概をもって、この戦に臨む!


今こそ、三河武士の意地を、敵に見せつける時じゃ!


この岡崎の地、誰にも渡すな!


全軍、かかれぇぇぇーーっ!!」


守勢に回ると思われていた寡兵の徳川軍は、

逆に勢いよく槍を立て、太田道灌隊へと突進した。


挿絵(By みてみん)


道灌「ほう……徳川軍、心は折れておらぬか。面白い」


太田道灌は不敵に笑う。


道灌「第一陣、坂田金時隊!

敵の突撃を正面から受け止め、粉砕せよ!


突撃!」


命を受け、副将・坂田金時が率いる騎馬隊が猛然と駆け出した。

その勢いは凄まじく、前衛の酒井隊の兵が、落葉のように宙を舞う。


挿絵(By みてみん)


だが――


忠次「まだまだじゃ! 怯むな!


これは、敵の最初の挨拶に過ぎぬ!


ここで退いて、何とする!!


槍隊、密集せよ! 歯を食いしばって、敵を止めよ!」


決死の槍衾が、坂田金時隊の突撃の勢いを、わずかながら削ぎ落としていく。


その様子を見て、太田道灌が次なる命を下した。


道灌「坂田隊、左右に散開せよ!

敵の狙いを分散させる!


その隙に、本隊が中央を突き崩す!


全軍、突撃!!」


太田道灌自らが率いる騎馬本隊が、左右に展開する坂田隊の間から押し出され、

酒井忠次隊の中央へと、怒涛の如く襲いかかった。


重ねての騎馬突撃に、酒井隊の陣はついに分断され、総崩れとなる。


挿絵(By みてみん)


道灌「敵は敗走した!

この機を逃すな!


丘の先、家康本隊へ攻めかかる!

全軍、態勢を整えよ!」


太田道灌隊は隊列を整え、岡崎城を見下ろす丘へと駆け上がった。


坂を登り切り、勢いを増そうとした、その瞬間――


(丘……? いや、これは……!?)


道灌の足元で、地面が生き物のように崩れ落ちる。


次の瞬間、無数の鋭利な槍が、獣の牙のごとく突き出された。


止まれぬ騎馬隊は、そのまま――

突如現れた“牙”に、次々と串刺しにされていった。


挿絵(By みてみん)

お読みいただきありがとうございました。


自ら具申した策によって、

多くの味方将兵が命を落とし、

さらに家康隊の巧みな反撃によって、

太田道灌の部隊は窮地へと追い込まれます。


震える声で、宝は義経に言葉を絞り出します。


「……まことに、申し訳ございませぬ」


また二条城では、

武家の台頭を快く思わぬ公家――二条晴良が、

頼朝のもとを訪れます。


その真意とは、いかなるものか。


この後の展開も、ぜひお付き合いくださいませ。

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