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40-4 迷参謀の確信

噂は功を奏し、徳川軍は刈谷城下へと主力を集結させつつある。

その動きは、頼朝軍の若き参謀・源宝の読み通りでもあった。


目前の頼朝軍と徳川軍の布陣をみて、

義経はあらためて宝に問う、全ては宝の想定通りかと。


「いえ、義経様……」


若き参謀の目に移る戦況とは――。

義経は、自軍の布陣と、眼下に集結しつつある徳川軍の陣容を、馬上から静かに見下ろしていた。

そして、傍らに控える源宝に、不意に問いかける。


義経「宝殿。この事態……そなたの想定通りか?」


宝「いえ、義経様……」


宝は、わずかに俯きながら答えた。


挿絵(By みてみん)


宝「恐れながら……わたくしが考えておりました状況よりも、

むしろ、有利に進んでいるようにお見受けいたしまする……」


相変わらず、どこか自信なさげな口調ではあったが、

その言葉は、義経にとって大いに心強いものであった。


義経「それは、いかなる点においてだ。詳しく聞かせてもらえぬか」


促され、宝は意を決したように顔を上げた。


宝「僭越ながら、申し上げます……。


我らが流した噂が功を奏したのか、

徳川の主力部隊が、この刈谷城へ向けて集結しつつあるようでございます。


しかし……ご覧ください。


徳川軍は、未だ全軍を集結させきれておりませぬ。

その間に、我が軍が刈谷城周辺にて、有利な布陣を先に敷くことができました。


徳川軍は、あわてて兵を掻き集め、

各地から順次、刈谷城へと向かわざるを得ぬ状況に追い込まれているものと思われます。


そのような状況にもかかわらず――


徳川軍は、我が大軍による挟撃を恐れてか、

複数の部隊を突出させ、我が隊と太田道灌様の部隊を挟撃せんと進軍しております。


また、別の部隊は、源頼光様と武田梓様の部隊を足止めする意図か、

正面からの迎撃を試みようとしているように見受けられます。


もともと兵数に劣る徳川軍が、

さらに兵を分散させる布陣を取ってしまったことで……

我が軍は、その少数部隊を各個に撃破することが、

極めて容易な状況となっているかと存じまする……」


宝の声には、次第に熱が帯びていった。


義経「……我が軍は、このまま進めばよいと考えるか。どう思う、宝殿」


宝「はい。このまま進めば、よろしいかと存じます。


我が軍を恐れるあまり、徳川軍は焦っております。

我が軍は落ち着いて進み、不用意に攻め込まず、

向こうから仕掛けてくる部隊を確実に退け続ければ――

やがて、徳川軍も正気を取り戻すことでしょう。


総崩れを恐れ、

刈谷城下へと軍を集結させ、

後詰の到着を待ちながら守りを固める他、選択はなくなります。


しかし、それこそが……

我が軍にとって、圧倒的に有利な状況となるはずにございます。


たとえ徳川軍の後詰部隊が、断続的に刈谷へ到着いたしましても、

我らは挟撃の態勢を崩すことなく、

その都度、後詰を各個に殲滅することができましょう。


……そのように、愚考いたしました」


挿絵(By みてみん)


(なんと……)


義経は、胸中で思わず息を呑んだ。


(初陣の若き娘が、

これほどまでに、歴戦の将にも等しい慧眼を備えているとは……。


この宝殿という娘は、

長き戦の経験によって得られる将の眼差しを、

生来の知性と、積み重ねた書の知識から掴み取ったというのか。


限られた情報から戦況を読み解き、

さらにその先の展開までを見通している……!)


義経は、宝の恐るべき洞察力と戦略眼に、ただ舌を巻くばかりであった。


(これならば……

梓や阿国殿が抜けた我が隊の参謀の穴を、

この娘は十分に、いや――それ以上に埋めてくれるやもしれぬ……)


義経は、喜びを隠すことなく宝に語りかけた。

しかし当の宝は、自らの言葉を反芻するように、

何か誤ったことを申してしまったのではないかと、しどろもどろになっていた。


義経「……宝殿。

そなたの見事な見立てを聞き、

此度の戦、勝利への確信を強く持つことができた。

まことに大義である。


ただし――

戦況というものは、刻一刻と変化するものじゃ。

この先、何か大きな変化を感じ取ったならば、

その都度、遠慮なく、そなたの考えをわしに聞かせてくれぬか」


宝「は、はいっ! 義経様!

もったいないお言葉、恐れ入りまする!

この宝、力の限り、お仕えいたします!」


宝の瞳は、

義経からの信頼を得られたことへの純粋な喜びと、

胸に巣食っていた不安が拭われた安堵とで、

きらりと輝いていた。


挿絵(By みてみん)


義経「では、予定通り進もう。

全軍、出撃!」


那古野城に集結した頼朝軍は、二手に分かれ、

三河国の要衝にして、徳川領の入口をなす刈谷城へ向け、進撃を開始した。


北東の知立方面からは、

源義経率いる第三狙撃隊と、太田道灌率いる第三突撃隊。


北西の江端方面からは、

武田梓率いる第六狙撃隊と、源頼光率いる第二突撃隊。


それぞれが、刈谷城へと刃の切っ先を向け、

静かに、しかし確実に、敵軍の動きを窺いながら進軍していく。


挿絵(By みてみん)


徳川軍もまた、

頼朝軍の大軍を刈谷城へ寄せ付けぬべく、

二手に分かれた頼朝軍へ向け、本格的な進軍を開始した。


野戦巧者として名高い徳川軍である。

それでもなお、宝の見立て通り、

兵をさらに細切れにして動いているのは、

「大軍来襲」との噂に煽られた焦りの表れであろうか。


いずれにせよ、

戦況は、宝の読み描いた通りに動いていた。


義経は、自らの軍略に、

参謀・宝の知恵が加わったことに、

純粋な喜びを覚えていた。


義経自身、伝説に語られるほど、

自らの軍略に絶対の自信を持っていたわけではない。


――だからこそ。


挿絵(By みてみん)


いよいよ、

徳川軍と頼朝軍の雌雄を決する戦いが、

刈谷城下にて幕を開けようとしていた。

お読みいただき、ありがとうございます。


源宝の献策によって戦況が優位に進みつつあります。

しかし宝も万能ではありません。

迷い、不安を抱えながらも、それでもなお戦場を見つめ、考え続けます。


そして対する徳川方もまた、

ただ追い詰められているだけではありません。

徳川の歴戦の勇士たちも覚悟と読みをもって、戦に臨んでいます。


次回以降、戦場はさらに動き、

思わぬ犠牲や判断の揺らぎが表に現れていきます。


引き続き、お付き合いいただけましたら幸いです。

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