4-1 徳川襲来 ―小牧山、再び火蓋切る―
徳川家康がついに動き出した。狙われたのは商都・大草城。織田との連携による挟撃作戦に、頼朝は義経・秀長とともに急行――だが、その背後では、思いもよらぬ援軍が動いていた。
■徳川襲来
急報は、春まだ浅い那加城の石廊下を震わせた。
伝令が土埃まみれのまま膝を折る――。
伝令「徳川家康の大軍、ただいま大草へ侵攻中!」
天正八年四月。頼朝・義経・秀長は次の織田戦に備え軍議を重ねていたが、その机が鳴動した。
ここまで頼朝軍に対して沈黙を保っていた織田信長の同盟者・徳川家康が、ついに牙を剝いた。
大草城は商業都市化の最中で、守備兵は最小限。救援が遅れれば落城は必至だ。
頼朝「義経!那加城の兵を率い、大草城へ向かう!」
頼朝が即断し、義経も力強く頷いた。秀長は軍配図を片手に「全拠点を警戒態勢へ」と静かに動いた。
徳川軍の動きは早かった。
正面から大草へ迫る、渡辺守綱隊、
西へ回り込み、清州城方面から背後を衝こうとしている、水野忠重・酒井忠次の部隊、
岡崎・浜松からも本多忠勝、奥平信昌の援軍が続くという。
救援が間に合っても、一万を超える三河と尾張からの部隊の挟撃に加え、徳川の予備兵力一万ほども控えている――頼朝は、その周到さに舌を巻いた。
*大草城に向け進軍中の徳川軍
頼朝「義経よ、この時代の敵はどれも手強いのう」
徳川家康という武将が、織田信長に勝るとも劣らぬ戦略家であると、頼朝は直感的に悟った。
だが頼朝の胸には、不思議と恐怖がなかった。むしろこの強敵と直接相まみえ、その力量を見極めたいという好戦的な感情が湧き上がる。
隣には軍略の天才・義経が控え、ともに戦えることは頼朝に大きな安心感を与えていた。
義経「ならば、存分に我らの力を示してやりましょう」
義経が静かに燃えるような目で応じる。
久々に感じる高揚感を胸に、頼朝は那加城に集結した将兵たちへ檄を飛ばす。
頼朝「出陣!」
■あらたな危機、織田・徳川連合
義経隊・頼朝隊が大草城へ急行する間にも、斥候からは断続的に情報が入る。
伝令「清州城に織田の大軍、総勢およそ五万が集結中とのこと!」
頼朝「なに……!?」
徳川軍による二面攻勢にしか頭が回っていなかった頼朝は、思わず声を上げる。
(これは織田と徳川の共謀作戦……!)
考えてみたら当然あり得る話だったが、徳川軍のあまりに急な動き、そして少しばかり高揚しすぎ、判断を曇らせていたかもしれない――頼朝は自戒する。
もっとも、織田軍の侵攻に備えて、小牧山には新たな砦が築かれていた。
前回の戦いでは、頼朝軍は織田軍を小牧山へにて挟撃する目論見だったが、結果として消耗戦を強いられた。その反省も踏まえ、頼朝軍は小牧山にて砦を堅め、砦にて織田軍を迎え撃つ方針へ切り替えていた。
頼朝「犬山城に伝令を!太田隊、犬塚隊、急ぎ小牧山の砦へ出陣せよ!
織田・徳川軍が小牧山に到着する前に砦を固めよ!」
織田に小牧山を先取りされれば、頼朝軍の動きは大きく制限される。命を受けた突撃隊が、ただちに犬山城を出て小牧山へ向かった。
■勝頼動く!秀長の知略
伝令「犬塚隊、太田隊、無事小牧山の砦に入ったとのことです!」
*小牧山の砦にて、先鋒の徳川軍を撃退する(左から)太田道灌と犬塚信乃
斥候の報せに、頼朝は安堵する。
頼朝「でかした!
これで大草と小牧山で、徳川と織田の攻撃をどこまでしのげるか……
我らの準備した作戦を実行したかったが、そう言っていられる状況でも無さそうじゃの……」
義経「何とかいたしましょう。ただし、小牧山は騎馬隊しか布陣しておりませぬ。
織田と徳川が小牧山に波状攻撃を仕掛けて来るでしょう、狙撃隊を砦に回さねばなりますまい」
”準備した作戦”、それは頼朝、義経、秀長が再度の織田の侵攻に対して、念入りに計画していたものであった。
しかし、目前の織田・徳川連合軍が大挙して西と東から押し寄せてきた今となっては、頼朝軍も死力を尽くすしか無さそうである。
斥候からの報告が続いた。
伝令「徳川軍(水野隊)が小牧山へ迂回、我らが砦への攻撃を始めたもよう」
伝令「太田隊・犬塚隊、徳川軍を撃退!」
頼朝が胸を撫で下ろした刹那、思いもよらぬ知らせが届く。
伝令「徳川軍本隊、大草城への進軍を停止!全軍が三河方面へ引き上げております!」
*青い軍勢が頼朝軍:大草城(左)と小牧山の砦(中央)に布陣している
*赤い軍勢:清州城(右)に布陣しているのが織田軍、三河方面に退却している(上)が徳川軍
頼朝は自らの耳を疑った。
頼朝「……何だと?」
二方面の織田・徳川両軍による同時攻撃こそ、頼朝軍にとって最大の脅威であったはず。――なぜ急に退却するのか。
伝令「……続報! 武田勝頼様が南信濃より、三河・遠江方面へ出陣されたとのこと!」
(息を呑む頼朝)
頼朝「なに……? 勝頼殿が……動いた、のか?」
頼朝は傍らの秀長の顔を見る。
すると秀長は“思ったとおり”とばかりに得意げな笑みを浮かべていた。
(秀長……!そういうことか!)
武田軍が南信濃で三河方面を圧迫すれば、徳川は背後を脅かされながら美濃・尾張へは進めない。
秀長が構想した、上杉・武田との同盟によってもたらされた結果であった。
(なんと周到な……)
再び秀長の先見の明に感服しながら、頼朝は意気揚々と前進を続ける自軍を眺める。義経隊も余裕の表情だ。
(義経の軍略と秀長の先読み……この二人さえいれば、天下すら狙えそうだ)
それでも、信長軍の波状攻撃が脅威であることには変わりはない。
頼朝は気を引き締めながら、あらためて小牧山方面に目を向けた。
三河からの武田援軍で徳川軍は退くも、清州には五万の織田本隊が—。勝頼の動きにより、一時的に情勢は落ち着くも、信長の波状攻撃はまだ始まったばかり。次話では、頼朝軍の砦を巡る攻防戦が火を噴きます。
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