3-3 切腹交渉と猫の報告
頼朝と北条早雲、ふたりの棟梁がついに胸襟を開く――。
未来を背負う北条の誇りと、過去を背負う頼朝の葛藤。交渉という名の檻の中、軍団の絆は、試される。
そして動き出す外交戦。景勝・武田との同盟は成るか?
今回は「未来と誇りの交錯」を描きます。
<北条早雲の心>
頼朝「早雲殿、お邪魔する。一度、ゆっくりと話したかった」
早雲「おお、これは頼朝殿。よく来てくだされた」
小牧山戦後の重い空気がまだ残る中、頼朝は北条早雲の居室を訪ねた。
早雲の怒りと苦悩を目にし、いずれは話をすべきだと感じていた。
早雲は頼朝が口を開く前に、悪戯っぽく笑った。
早雲「どうやら、わしの末裔たちは坂東で良い政を敷いておるらしいのう。孫の氏康、今の氏政も、難攻不落の関東をよく治めておるとか。頼朝殿も、そう思わぬか?」
頼朝「……早雲殿のお気持ち、お察しいたす」
その応答に、早雲は声を落とした。
早雲「実はな、頼朝殿……未来で、あの秀長の兄・秀吉が、わしの北条家を滅ぼすというのだ」
頼朝は静かに息を呑んだ。鼓動が高鳴り、膝がわずかに震えた。
早雲「織田の東進を食い止められれば、北条の滅亡も避けられる。そう信じて、わしはここに来たのだ。景虎の命も、我が一族の未来も、ここに懸けておる」
頼朝(この老将もまた、ただ己の誇りのためだけに戦っているのではない。未来を信じ、変えようとしている)
早雲「トモミク殿は、“歴史を大きく変えるのはならぬ”と言っておったが……わしにとって大事なのは、我が北条の血筋よ。がははは!」
頼朝「……早雲殿、感謝いたす。貴殿の信念、しかと受け止めた」
早雲「それにの、秀長という男、よい目をしとる。あれを育てるのも、わしの役目かもしれん」
他にも尋ねたいことは山ほどあるが、早雲との距離がわずかに縮まったと感じ、今日はこれで十分だと頼朝は思った。
頼朝は、その言葉を嬉しく感じながら深く頷いた。
<飯坂猫の報告>
その後、大草城は目覚ましい発展を遂げる。
城代となった飯坂猫が、那加城に報告に現れた。
聞けば飯坂猫は、少し未来からトモミクが呼び寄せ、将来の伊達家当主の側室であったと聞く。
(伊達家か……わしの遠縁・朝宗の子孫。奥州征伐の後、陸奥で勢力を拡大した一族……)
猫の報告によれば、わずか数カ月で軍団の収入は大幅に増え、多額の政策費をようやく賄える見通しが立ったという。全軍の商業収入のおよそ半分は、大草の新しい街からもたらされているらしい。
猫「猫にございまーすっ!」
元気よく名乗るその姿は、戦国の世には不釣り合いなほど明るい。
猫「おかげさまで、大草城は大繁盛です!織田・徳川領からも商人が流れてきて、税収もうなぎ登りですよ!」
頼朝「うむ、猫殿、大義であった」
猫「も~、“猫”って呼んでくださいよ、頼朝様!」
頼朝は苦笑し、「……では猫、引き続き任務を頼むぞ」と言い直した。
猫は小さく猫のポーズを取り、笑いを誘う。
頼朝(戦の世にありながら、なぜここまで朗らかでいられるのか……この軍団の不思議な結束の力だろうか)
頼朝「……引き続き、任務を頼むぞ」
猫「にゃっはーい!」
頼朝は、猫の後ろ姿を見送りながら微笑んだ。
<前田玄以と北条早雲の交渉成果>
やがて、羽柴秀長が北条早雲と前田玄以を伴い、頼朝のもとを訪れた。
玄以は元は比叡山の僧、今は頼朝軍で外交と調略を担う智将である。
秀長「頼朝様、前田玄以殿が、上杉家の樋口(直江)兼続との会見を取り付けてくれました」
玄以「上杉・武田、両家より内諾を得ました。いずれかが織田に攻められた際には、相互に援軍を出すという誓約です」
頼朝「なんと……大義であった、玄以殿」
早雲「景勝と兼続、なかなかの器量よ。わしもこれでようやく腹が据わった」
そして早雲は、にやりと笑う。
早雲「景虎の身に万一のことがあれば、秀長が切腹するという条件で話をまとめてきたぞ、がははは!」
秀長「そ、それは……!」
頼朝は思わず苦笑した。
(秀長の描いた外交の布石が、少しずつ現実となってきている。頼もしい家臣たち……今しばらく、彼らの力に賭けてみよう)
ご覧いただきありがとうございます!
北条早雲と頼朝の対話を通じて、「家」や「誇り」をめぐる想いを深めました。
そして、前田玄以による交渉と飯坂猫の報告により、内政・外交の両輪が動き出します。
次章では、いよいよ織田信長との再激突に向けた火種が……!
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