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36-2 二条城から見える日ノ本

頼朝はいよいよ京の二条城に居を構えることとなる。

「守るための戦い」――その言葉が、かつてより一層重く響いていた。

戦を終わらせるために戦い、恐怖をもって秩序を保たねばならぬのか。

その矛盾のただ中に立つのが今の己の存在、頼朝は誰よりもそれを知っていた。


■頼朝軍の“恵みの雨”


上洛の準備から二条城普請、街の整備、商業区の誘致――。

太田牛一は、わずか数か月で荒れた京の都を動かし始めていた。

雷雨策の「雷」を終え、いまや頼朝軍は「恵みの雨」を降らせていたのだ。


また、従来の美濃那加城を中心とした指揮命令系統は、京都を中心とした体制へと転換されつつあった。

牛一はこれらの功績を誇ることなく、静かに報告を続ける。


牛一「今ごろ京の街中は――良くも悪くも――頼朝軍の派手な入京の話でもちきりでございましょう。

しかしご安心ください。明日以降、早雲殿と輝子殿の部隊は居城へ戻り、京の歩兵隊は鎧を脱ぎます。

兵たちは御所の修繕や街路の整備に尽力いたしまする。」


頼朝「兵たちが、町づくりか……奇妙な話よの。」


頼朝は苦笑しながらも、心の底で安堵していた。

かつて自らの刀で秩序を築こうとしていた己が、今は人の手で都を治めようとしている。

優れた家臣たちがもたらすその変化を、彼は静かに受け止めていた。


牛一「はっ! トモミク殿の直属『築城部隊』が指導にあたっております。

彼らは戦よりも建てることに長けた者たち。

京の兵たちも、今や立派な職人集団にございます。」


頼朝「なるほど。あの部隊の働きがあったか。

……ならば、都も近いうちに再び花開こう。」


頼朝の脳裏に、あの短期間で大草城を築き上げた光景がよみがえる。


頼朝「しかし太田殿……わしの記憶にある京とは、まるで別の寂れた街になっておる。

今は、美濃の城下町のほうがよほど賑やかに見える。」


牛一「まことに、その通りでございます。」


牛一は一礼し、静かに続けた。


牛一「信長公はかつて京の復興に尽力されました。

しかし――頼朝様がこの世に現れた“今”、信長公は我らとの戦にすべてを注がれておられます。

結果、京はまた荒れ果ててしまったのでございましょう。」


頼朝「……皮肉なものよな。

天下を静めようとして、また都を荒らす。

それでも我らは、進まねばならぬ。」


牛一「はい。しかし頼朝様が率いる軍は、ただの武の集団ではございませぬ。

築城、内政、商い、学問――すべてを内包した“まつりごとの軍”。

この都も、きっと新たに生まれ変わりましょう。」


頼朝「うむ。皆、よくやってくれておる。――感謝する。」


その言葉に、広間の空気が静かに緩んだ。

誰もが、ようやく“戦のあと”を歩み始めていると感じていた。



■朝廷


やがて頼朝の声が落ち着いた調子で響く。


頼朝「さて――朝廷の動きはいかがか。」


その言葉に、大村由己が前へ進み出た。

学僧のような落ち着きをたたえ、低く丁寧な声で口を開く。


由己「中納言叙任の内意が伝えられて以来、表立った動きはございませぬ。

ただし――一点、気がかりな報せが。」


頼朝「申してみよ。」


由己「間者の報告によれば、朝廷内の一部公家と西国の雄・毛利家の間で、密やかな文の往来が絶えませぬ。

彼らは国の数をもって勢力を量る癖があり、我らと毛利家を同格と見ている節がございます。

もし、我らへの抑止力として毛利を担ぎ出すなら……厄介な事態となりましょう。」


頼朝「……朝廷とは、いつの世も変わらぬな。」

頼朝は深く息を吐いた。


頼朝「強き者を恐れ、その力を削ぐために別の強者を焚きつける。

己は直接手を汚さず、上に立ち続けようとする。

それが“帝の座”というものか。」


由己「ですが、頼朝様はすでに都にお入りです。

公家たちも、もはや遠くから見て嘲ることはできませぬ。

対話の場を設ければ、必ずや活路が開けましょう。」


頼朝「……うむ、頼りにしておるぞ。」


挿絵(By みてみん)


報告を終えると、太田牛一が皆を見渡して笑みを浮かべた。


牛一「何はともあれ、皆様。長旅、大儀でございました。

今宵はささやかながら宴をご用意しております。

どうぞ、この二条城にてごゆるりと。」


早雲「がはははっ、わしは初めからそのつもりじゃ、牛一殿!」


早雲の豪快な声に、場の空気が弾けた。

だがその笑いの奥に、長年の戦で荒んだ心を癒やすような、微かな温もりがあった。



■頼朝軍を取り巻く勢力図


夜が更け、頼朝は一人、二条城の天守から都を見下ろしていた。

燈火が点々と揺れ、冬の空気が静かに肌を刺す。

その光の向こう――日ノ本の国々の動きが、まるで夜空の星のように複雑に交錯している。


備前の宇喜多家。

一代の謀将・宇喜多直家が没し、若き嫡子・秀家が家督を継いでいた。

だが、東より織田と結んだ播磨の別所家、西よりは毛利家――。

二つの勢力に挟まれ、宇喜多家は風前の灯であった。


秀家は家の存続を願い、愛娘・宇喜多星ほしを頼朝の養女として差し出し、帰順を申し出た。

だが、天正十五年(1587年)の春――援軍が届く前に、毛利の刃が備前を呑み込んだ。


その報は、頼朝の胸を静かに締めつけた。

“救えなかった者たち”――その重みを、彼はまた一つ背負うこととなった。


一方、四国では長宗我部元親が土佐を統一し、四国全土を席巻していた。

頼朝軍の外交僧・前田玄以の働きにより、長宗我部家は「対織田包囲網」の盟友となる。

形ばかりの同盟であっても、信義の糸はまだ繋がっていた。


その絆を確かなものとするため、婚姻が結ばれる。

羽柴秀次――頼朝の義理の甥にあたる若き将と、元親の娘・てる

戦国の荒波の中で交わされたその縁は、やがて大きな運命の渦へと繋がっていく。


この時点で頼朝軍と正式に同盟を結ぶのは、

関東の北条、越後の上杉、甲斐と信濃の武田、畿内・北陸の本願寺、紀州の鈴木、そして四国の長宗我部。

従属するのは丹後の一色、丹波の山名。


敵対勢力は――織田、徳川、筒井、別所。

そして、どちらにもつかぬ毛利が、沈黙の中でうごめいていた。


前田玄以はその夜もまた、文を携え、密かに筆を執っていた。

毛利との誼を求めて。


頼朝軍団と毛利家――やがて歴史の天秤を傾けることになるとは、まだ誰も知らない。


挿絵(By みてみん)


お読みいただきありがとうございました。

二条城の灯の下、頼朝は“守るための戦い”の難しさを、あらためてを思い知ることになります。

次回――太田牛一が語る、“頼朝がいなかった世界”の物語。

頼朝が最も知りたかった、“あの男”の行方とは。

どうぞお楽しみに。


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