31-3 義を以て友とす
上杉領と頼朝軍の領地が街道でつながり、いよいよ両軍の絆が深まる。
直江兼続が義経を訪ね、頼朝軍の越前制圧を助けつつ、今後の同盟の行方を語り合う。
■上杉軍・直江兼続来訪
義経たちが金ヶ崎城を落としたことで、日本海側の街道が上杉領と繋がり、頼朝軍と上杉軍の往来は格段に容易となった。
義経軍は金ヶ崎城にて戦後処理と次の出陣準備を進めていた。
そこへ、少数の軍勢が迫ってくる。旗印は上杉家――上杉家の筆頭家老・直江兼続の手勢であった。
義経「兼続殿! わざわざお運びいただき、恐縮でござる!」
兼続「上洛へ向け、織田軍の攻略が順調に進んでおられるご様子、まことに喜ばしき限りでございまする」
義経「景勝様の熱き言葉を聞き、兄の心も定まりました。近江、越前の戦いにおいても、上杉軍の共闘あってこそ。感謝の言葉もござらぬ」
兼続「我が主が直々に頼朝様へ言葉を届けた甲斐があったというもの」
満足げに頷いた兼続は、声を改める。
兼続「我が軍は越前府中にて織田勢を破り、その勢いのまま一乗谷城を包囲し制圧いたしました。
また、頼朝軍もこの金ヶ崎城を落とされた。残る織田方の拠点は、羽柴秀吉が籠る杣山城のみ。
此度の出陣は、貴軍の越前制圧をお助けするためでござった。ゆえに、ここで兵を引き上げる所存。その前に一言ご挨拶に参上いたした」
義経「一乗谷を落とされたとは見事な手並み! しかし……本気を出せば杣山城も一捻りであったはず」
兼続「いやいや、我らに領土拡張の野心はござらぬ。出兵はあくまで頼朝様が無事に越前を平らげ、京へ進まれるための一助にすぎませぬ。
……一乗谷は勢い余って手に入れてしまったが、城は将兵の武勲ゆえ、直ちに明け渡すわけには参らぬ。
されど、頼朝様が正式に天下への号令をかけられた暁には、必ずや返上いたすことをお約束いたそう」
義経「そこまで……! しかも杣山を攻めずに残されたとは……」
義経は兼続の深い配慮と“義”を重んじる心意気に胸を打たれた。
兼続「我ら上杉は、幕府より関東管領に任じられし家。その誇りを、頼朝様のお力で再び実効あるものとしたい――それこそが我らの偽らぬ望み。どうかお忘れなきよう」
義経「乱世にあって上杉が友軍であること、何と誇らしきことか!」
感謝を述べる義経に、兼続はふと表情を引き締める。
兼続「されど義経殿……織田・徳川を憎む一点で辛うじて成る同盟も、織田が衰えれば瓦解しかねませぬ。
特に武田家――勝頼様への家臣団の不満は日に日に募っておる。領土拡張こそ常勝軍団たる誇りであったが、いまは徳川に攻め込まれ、頼朝軍の支援なくば立ち行かぬ有様……」
義経が頷く横で、兼続は一人の女将に気づき、はっと目を見開いた。
兼続「もしや、そこにおわすは――勝頼様のご息女、武田梓様にてあられますか」
梓「はい。ご挨拶が遅れ失礼いたしました。武田勝頼が娘、そして源義経の妻、梓にございます」
兼続「これはこれは……先ほどの物言い、大変な無礼を……!」
兼続は慌てて頭を下げた。
梓「お気になさらず。今や私は源氏の一門にございますゆえ」
微笑を見せた梓は、言葉を続けた。
梓「……ただ、兼続様の仰せは真にその通り。南信濃での戦いでも父は有効な手を打てず、徳川に蹂躙されるところでした。我らが援軍に赴いたため、美濃本国は織田の大侵攻を受け、あわや壊滅寸前に陥りました。
そして……義に反すると知りつつも、父は上杉景虎様の軍勢に攻めかかり、居城を奪いました。家臣の不満を繋ぎ止めるための苦肉の策――そうとしか思えませぬ」
その声には深い悲しみが滲んでいた。
義経は黙して聞き、兼続は頭を垂れた。
兼続「……辛きことを語らせてしまい、不徳の至り」
義経「兄上も武田の行く末を憂いておられる。ゆえに拙者は美濃に残り、徳川のみならず武田にも目を光らせねばならぬと考えております。
兼続殿、今後とも信頼の友軍としてのお力添え、心よりお願い申し上げる」
兼続「義経殿、その言葉、ありがたき幸せ。主に代わり御礼申し上げます」
深々と一礼した兼続は、軍を率いて越後への帰路についた。
お読みいただきありがとうございました。
次はいよいよ越前織田軍最後の拠点、羽柴秀吉の籠る杣山城。
その戦いの果てに、頼朝軍はいよいよ都・京都を目指します。
今後の展開も、ぜひお楽しみに!