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30-5 力と義のはざまで

伊勢を平定し、一息つく源頼光。

副将・世良田元信とともに「力」と「義」について思いを馳せ、守る世を築く決意を固める。

一方の頼朝もまた、自らの変化が正しいのか迷いながらも、進むべき道を歩む覚悟を深めていく。


■霧山御所の余韻


城の引き渡し、捕虜の謁見など、開城直後の対応に追われていた頼光は、山頂の霧山御所を見上げながら、ようやく安堵の息をついた。


襲い掛かってきた織田軍をすべて撃退したものの、大和の織田領と接する伊賀上野城を守備するため、トモミク隊は早々に霧山御所から引き揚げていた。


記録や個別案件の処理に尽力していた副将・世良田元信が、頼光のもとに参じる。


元信「頼光様、われらへの帰順を申し出た者、織田に戻る者、それぞれを別の隊で手配し、伊賀上野城まで移送いたします。

この霧山には守備兵七百を残し、我らもいったん伊賀上野城へ戻り、今後の指示を仰ぐのがよろしいかと存じます」


頼光「ご苦労であった!

音羽城の防衛、伊賀上野城の攻略と守備、そして此度の伊勢平定……わが隊は休む間もなく見事な働きを見せてくれた。


帰城した折には、盛大な宴を開きて、皆を労いたいものよ!」


元信「はっ! さすがは頼光様! 是非とも、そのように」


頼光「……実際、誰よりも酒を浴びたいのは、このわし自身よ――はっはっは!」


豪快に笑い飛ばす頼光に、元信もつられて微笑んだ。


挿絵(By みてみん)



■力と義


頼光「ところで元信殿。思えば、安土落城の後、信長が無理に音羽城へ進軍した……あれが大きな分かれ目であったのかもしれぬな。


織田軍が国力の回復に努め、我らの上洛を阻止することに全力を注いでおったなら……今、我らが見ておる景色も、まったく異なっていたであろう」


元信「はい。拙者も同様に考えます。

さすがの信長様も、近江への侵入を許し、安土城まで落とされたことで、焦りが生じたのでしょう。


本来の信長様は、自ら先陣を切って敵中に突っ込むような大将ではございませんでしたから」


頼光「……やはり、『力』無くば、人はついて来ぬか。

信長は、孤立を恐れ、自ら太刀を取るしかなかった。だが同時に、その『義』を失ったがゆえに、家臣は次々と我らに寝返ってきたのだろう」


頼光は静かに呟き、そして、はっとしたように盛政の姿を思い返した。


頼光「……佐久間盛政。義を貫き、退いた、あっぱれな猛将であったな」


元信も深く頷いた。



■勝頼の不義と義、頼光の決意


元信「……頼光様。武田勝頼殿が信義に背き、上杉景虎殿へ攻めかかったお気持ち……拙者は、少しばかり理解できるのです」


頼光「……もともと、武家とは、強さこそが正義。

信玄殿は死ぬる前、『瀬田に御旗を立てよ』と家臣に遺言したと聞く。


勝頼の行いは、我らからすれば不義。

されど武田の家臣から見れば、亡き信玄殿の志を守る義でもあろう。

義と不義は立つ場所によって、まるで姿を変えるものじゃな……」


挿絵(By みてみん)


元信「左様にございます。まことに戦国の世は、義と不義が入り乱れる世……。


しかし頼光様。我らには我らの義がございます。

それは、頼朝様の掲げられる『滅ぼさず、守る』という世を形にすること。


たとえ相容れぬ義があったとしても、我らが信じる義を、貫いて参りましょうぞ!」


頼光「ああ……。世良田殿の申す通り。

わしは、先代も今の頼朝殿も目指しておられる世を、どうにか叶えて差し上げたいものよ」


頼光の胸中には、孫のように感じる頼朝の姿が浮かんでいた。

重い使命に苦しむ頼朝を支えることこそ、今の己に課せられた役割であると。



■那加城茶室にて


那加城の本丸、茶室。

頼朝は篠が点てた茶を口にしながら、各地から続々と届けられる戦況報告に目を通していた。


そこへ、筆頭家老の羽柴秀長が慌てた様子で駆け込んでくる。


秀長「頼朝様! 大変でございます! まことに一大事にございます!」


頼朝「秀長、一大事とは何事か」


秀長「摂津の荒木村重殿が、織田家を見限り、我ら頼朝軍に帰順するとの正式な申し入れにございます!」


頼朝「……そうか。大義であった」


傍らで見ていた篠が父を窘める。


篠「もう、父上。『大変だ』などと申されますと、てっきり悪い報せかと思ってしまいます」


挿絵(By みてみん)


秀長「おっと、これは失礼。……しかし頼朝様!

これで摂津にまで我らの勢力が広がり、山城国を完全に囲む形となりましたぞ!」


興奮冷めやらぬ秀長は続ける。


秀長「伊勢は平定され、越前も義経様がまもなく制圧されましょう。

今や頼朝様は並ぶもの無き大大名、上洛の道は完全に整ったのでございます!」


頼朝「……そうであったか。あとは朝廷が、どう出るか、じゃな」


かつて鎌倉で、朝廷との駆け引きに苦心した記憶が脳裏をよぎる。


秀長「まずは上洛を果たしましょう。大村殿も朝廷工作に力を尽くしております」


頼朝「……由己は頼れる男よ」


頼朝は頷き、さらに秀長に向ける。


頼朝「此度の恩賞と新領土の管理、早急に考えて欲しい。

そなたもますます忙しくなろう。もし有能な者がいれば、遠慮なく推挙せよ」


秀長「はっ! これより拙者は領国の管理に飛び回らねばならず、殿のお近くで常にお支えすることが難しくなります。

そこで……赤井輝子殿の副将を務める太田牛一殿を、お傍に置かれてはいかがでしょうか」


頼朝「ほう、牛一殿を」


秀長「はい。彼は本来の時の流れにおいて、信長様、兄・秀吉、そして徳川家康様、三代の天下人に仕えた人物。

時は変わろうとも、その比類なき見識は必ず殿のお役に立ちましょう」


頼朝「……なるほど。反対する理由は無い。そなたの進言、受け入れよう」


秀長「ありがたき幸せにございます!」



■決意


頼朝は茶室の窓から見える景色に目をやる。


(……己が起こしている変化は、本当に『良き変化』なのか)


迷いは尽きぬ。だがそれを証すのは後世の人々であろう。


(もはや、引き返せぬところまで来てしまった。

このまま己の信じる道を進む――それしか残されてはおらぬのだ)


お読みいただきありがとうございました。

電撃的に伊勢を平定し、摂津を支配する荒木村重が帰順。頼朝軍の上洛を阻む力は、もはや織田には残されていません。

次章では時を少し戻し、越前に出陣する義経へ。

義経・梓の活躍、そして源里の成長をぜひお楽しみに!


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