27-1 軍神の誤算と采配
越前の織田軍を食い止めるべく派兵された源義経隊と武田梓隊。
義経は源里に具申させ、その通りの作戦を実行して、義経隊と梓隊とで清水山城を挟み込み、攻略するべく進軍をはじる。
越前の織田軍との本格的な戦いの火ぶたが切って落とされる!
■源里の戦略
頼朝軍は音羽城に織田軍の集結を防ぐべく、部隊を複数の方面に配備しながら、音羽城を包囲する織田軍を追い払うことができた。
その頃の北近江。
越前からの織田軍を食い止めるべく進軍していたのは、源義経と武田梓の部隊であった。
源義経隊が長浜城に着陣するよりも少し早く、武田梓率いる第六狙撃隊は、南近江の要衝・佐和山城への布陣を完了した。この武田梓隊の動きによって、越前方面にいる織田軍の南下、音羽城への集結を防ぐことができた。
その後、義経隊も長浜城での布陣が完了する。
織田軍は、頼朝軍の動きを警戒しながら、一旦北近江の清水山城まで兵を引く。
音羽城を包囲していた織田軍を追い払った、との報せが、長浜城に布陣する義経のもとへも届けられた。
義経「思ったよりも早くに、音羽城を守ってくれた」
義経は安堵の息をつきながらも、目前の状況に意識を切り替える。
義経「さて、我が隊は、これからいかがすべきか。越前の織田軍は、清水山城からこちらに睨みをきかせてはおるが、積極的に攻めてくる兆しもない」
義経は、傍らに控える姪であり、新たな副将となった源里へと、あえて問いかけた。
義経「そなたは、いかが考える」
里「はい、叔父上」
里は、緊張した面持ちながらも、はっきりとした口調で答えた。
里「父上は、『越前の織田軍が、上洛する上での妨げとならぬよう』と申されていました。
わたくしも、越前からの織田軍を食い止めるべく、清水山城攻略すべきかと考えまする」
義経「うむ! まこと、良き考えじゃ」
義経は、満足げに頷いた。
義経「して、清水山城に布陣しておる織田軍を、いかにして攻略するか。そなたの考えを申してみよ」
里「はっ!」
里は、自信に満ちた表情で、淀みなく答えた。
里「佐和山城におられる梓様は、琵琶湖の西岸を、南から迂回し、
この叔父上の部隊は、琵琶湖の東岸を、北から進軍し、
挟撃の態勢にて清水山城を攻める。
さすれば、容易く織田軍を駆逐できるものと考えております!」
義経「そうだな……一理ある……」
義経は、しばらく腕組みをしていたが、頷いて里に答える。
義経「そなたの進言、聞き入れた。その策で参ろう」
里「叔父上、ありがとうございます!」
里は、自らの献策が採用されたことに、顔を輝かせた。義経は里の献策に基づいて、近習に指示を出す。
義経「ただちに佐和山の梓へ、早馬を!『安土城を経由し、湖西を南から迂回、清水山城を攻撃されたし』と、そう伝えよ!」
清水山城攻略に向け、忙しく準備に追われる将兵たちを、義経は長浜城より眺めていた。
副将・出雲阿国が、そっと義経の傍らへ寄り、声を潜めて尋ねた。
阿国「……義経様、よろしいのでございますね?」
義経「……ああ」
義経は、短く、しかし、どこか覚悟を決めたような表情で頷いた。
義経「阿国殿には、苦労をかけることになるやもしれぬ。……すまぬ」
阿国「いいえ。里様を強く、賢き将へと育て上げたい、そんな義経様のお気持ち、十分に理解いたしました。でも……そのために義経様ご自身も危険を背負うことになりますね。
この阿国も最善を尽くしまする」
阿国は、全てを察したように静かに微笑んだ。
義経「阿国殿、感謝申し上げる」
義経は阿国に頭を下げた。
■挟撃される義経隊
武田梓率いる第六狙撃隊は佐和山城を発ち、安土城を後にする。武田梓隊の進軍に合わせて長浜城の義経隊も清水山城に向けて軍を動かす。
義経「我々も、これより出陣する!」
義経の号令一下、第三狙撃隊も、琵琶湖の北東の湖岸沿いを進み、清水山城を目指した。
清水山城の黒い影が視界に入り始めた、その矢先――。
土煙を巻き上げながら駆け込んできた斥候が、馬上から声を張り上げた。
伝令「我が隊の後方より、織田の軍勢、急速に接近中!」
その報告とほぼ同時に、清水山城の城門が軋む音を立てて開き、鬨の声が大地を震わせた。
「オオオオ――ッ!」
鉄砲の轟音、槍のきらめき、無数の足音が波のように押し寄せ、義経隊の前衛を呑み込まんと迫ってくる。
義経は、風を切る矢音を耳にしながら、じっと戦況を見据えた。
(やはり、こうなったか……だが、これもまた試練よ……)
義経は、内心で呟いた。
清水山城に布陣する織田軍を、南北から挟撃する源里の立案した作戦。逆に義経隊が、清水山城の織田軍と、越前織田軍の後詰部隊により、前後から挟撃される事態に陥ってしまう。
琵琶湖西岸から清水山城へ進軍中であった武田梓隊にも、義経隊が織田軍の挟撃を受けている、との早馬が届いた。
梓「え……! 義経様が、挟撃ですって!?」
梓殿は、思わず息を呑んだ。
梓「いったい、なぜ……!
我らの部隊がまず清水山城の敵を引きつけなければ、義経様の部隊が長法寺もしくは賤ケ岳から越前の織田の部隊に後背を取られる危険性が高い事は火を見るよりも明らかであったはず! 」
武田梓は、清水山城を素通りして義経隊の救援へ向かおうとする。だが、織田軍も梓隊の義経隊への救援を阻止すべく、清水山城から新たな部隊を繰り出し敢然と襲いかかってきた。
お読みいただきありがとうございました!
一見すれば油断とも見える義経隊の危機的状況。
次回、軍神義経はすべて見通しての事だったのか、武田梓の救援は間に合うのか。
どうぞお楽しみに!
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