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心象世界

今にも朽ちようとしていた星の神が勇者の内部へと入った時、

彼女は気づくと煌びやかな扉の前に立っていた。

重々しい扉はすでに開かれており、彼女のことを招いている。

「ようこそ。私はあなたを歓迎します」

その内部にいたのはおそらく自分と同じような神の一柱。

今の自分とは比べ物にならないほど完全で、完璧な神気を纏っていた。

「私を招いてくださったのですか?」

「あなたの今の力のありようが勿体無いと思ったから。だからまず私自らここへ招いたの。特別にね」

「どうしてそのように気をかけてくださるのでしょうか?」

「あなたが美しいから。私は美しいものが好き。私にとっての価値基準は美しいか、そうでないかだけ。そしてあなたは美しいから贔屓にしただけのこと」

「…私が? 美しいでしょうか?」

「ええ。私がそう言ったのだから、それは当然のこと。星の輝きは美しいわ。祈りの輝きもまた同じ…ああ、気にしないで。全ての判断基準は私にあるの」

「…それで、わざわざこうして招いてくださった理由をお聞かせ願えますか?」

「この下にいる、私の姉の元へ行きなさい。本来の力を取り戻すためにもそれが一番いいかと」

「今の私の状態で訪れたら迷惑になりませんか? …今でもこのように体から瘴気が溢れ出ていますし。 …まあ、どこに行っても同じかもしれませんが」

「気にすることはないわ。姉は冥界を統べる神として闇や呪力、暗黒に属した力に関してはこの私よりもめっぽう強いから。あなたはそこに行って、ゆっくりと体を休めることだけ考えなさい」

「…お心遣い、感謝致します」

「いいえ、これからは同じ場所で過ごす神同士、遠慮は必要ないわ。まして美しい存在なら、私にとっても利益でしかないから。さあ、おいきなさい」

派手な玉座が動き、物々しい扉の先に地下へと降りるための階段が現れた。

「姉は客人を無碍に扱うことは決してないから、安心して」

「…わかりました。そうさせていただきますね。 …あなたに感謝を」

「ふふ、ついでに姉にもよろしく伝えておいて」

尊大な神は星の神が地下へ降りる姿を確認した後、再び玉座を元に戻した。

「美しいものが増えるのは歓迎。退屈しないですむもの。神に悪魔に人間に…たとえそれが何であろうと、ね。 …そうで無いものは、必要ないけど」

派手で煌びやかな玉座に鎮座しながら、優雅に微笑んでいた。


別の場所では、勇者によって招かれた気まぐれな悪魔と、勇者の姉の悪魔が対峙していた。

「…なるほどね。そう言うことだったの。通りで、あなたはワタシと似ているわけね。あまりにも似過ぎていると思ったわ。まさかワタシが転生した姿だったとはね」

「私たちの母親をこんな形で知ることになるなんてね…まあ、今のあなたは別にそうじゃないんだろうけど」

「つれないわねぇ、母親みたいなものでしょう? あなたたちを造ったんだから、それは私にだって造れるということには変わりない訳だし。 …でも納得いったわ。いい仕事するじゃない、最高のデザインだもの。私の造った人間。 …勇者あのこは。ふふふ」

「…手ぇ出すんじゃないわよ。これからも。そんなの私が許さないから」

「え〜、ワタシが造ったんだから、勇者あのこ母親ワタシのモノでしょう?」

「ふざけないで。ゆうしゃわたしのモノに決まってるじゃない」

互いに全く譲る気配は無い。

「いや、どっちのモンでもねぇだろ」

「そうですね。私はもうすでに勇者さまのモノですけれど…」

頬を赤らめる氷姫。

「…神も悪魔も変わりませんね」

悪魔たちの自分同士の争いはさらに続く…。

「…せっかく母上様がいらっしゃったと言うのに、何メェできない己の無ェ力が厭わしい…」

「まだ居たんです? もう用事は何も無いのでは?」

「…」

「その母上様とやらも、別にオマエのことはどうでもいいみたいだったじゃねぇか。オマエ見ても反応薄かったぞ」

「…メェ…」

神たちは冷たい。

黒山羊の悪魔は神の冷淡さに恐怖した。

「そうです、そういえば確か召喚術が使えましたよね? …それを使用すれば、たとえどの世界にいても勇者さまと一緒にいられるのではないでしょうか? きっとそうですよね? あなたの持っているものを全て勇者さまに渡してくださいませんか?」

「え? いえ、その、これは大変に貴重な蝋燭でぇして…」

「おいおい、オマエそんな面白いモノ持ってんのかよ。ちょっとアタシにも貸せよ」

「いやその、だからとてメェ大切な品なので…」

「神への貢ぎ物を断るんですか?」

「…どうかご勘弁をぉ」

黒山羊は神たちからカツアゲされかけていた。



その頃、外の世界で勇者は一度元の世界へ戻ることを決めていた。

その旨を先生たちにも話すことにした。

「…そうですか。でも、また戻ってきてくれるのですね?」

「はい。それは約束します」

「…はやく、もどってきてね」

悪魔の幼い妹はもう今にも泣きそうだった。

勇者はその頭を優しく撫でると、

「また、必ず戻ってくるから。この石で行き来ができるようになったから、何も心配いらないよ」

「…うん」

「…寂しくなりますね」

「頻繁に戻ってきますから。それに、新しい孤児院の子供たちのこともありますしね」

「ええ、そうですね。随分と大所帯になりましたからね。これから忙しくなりそうです」

「先生も、よろしくお願いします」

「もちろんですよ。この子のことも任せて下さいね」

二人に別れを告げ、師匠たちの元にも向かう。

「ほぅ、なるほど、戻るのかい? まあ、それで往来は可能になったからね。いつでも戻って来るといい。気軽に」

「これでお別れじゃないですから…私も我慢します。勇者さんの隣に立てるくらい、師匠さんたちの元で、私も頑張りますから」

「私も! 勇者として! あなたに負けないぐらいの成長を見せてあげますからね!! 楽しみにしてて下さいよ!!」

「いやそんなすぐには無理だよ。君と勇者このこ、どれだけの差があると思ってるんだい? 手加減してくれなかったら秒殺なんだからね? あっという間に消し炭だよ消し炭」

「うぅ、はい。が、頑張ります」

「師匠たちも、色々とお世話になりました。何かあったら、いつでも言って下さい」

「なになに、気にすることはないよ。それに、用ができたらこっちからも出向くさ」

「食べ歩き、またいつでもしようね〜」

その後も顔見知りに挨拶をしていく。

と言っても、戻ってこないわけではないので、軽く、ほんの軽く挨拶をすることにとどめておいた。

そして、手にした飛翔石に魔力を込めると輝きが勇者を包み込んでいく…


気がつくと、旅立つ前の家の中に立っていた。

隣には姉の姿。

「ふぅ、言い争い過ぎて疲れたわ。ちょっと、ゆっくりしましょうか」

「…誰と言い争ってたの? 神様たちの誰か?」

「いえ、私たちの母親? …まあ、自分とかしら? どっちでもいいわね」

「本当にここを旅立ってからそれほど時間が経ってないね…師匠の言ったとおりだ」

「便利よね。時の魔導師ならでは、かしら。あ〜、それにしても、飛ぶのは難しいわね。力もだいぶ使っちゃうみたいだし」

「安直にはできないね」

「ま、しばらくはその予定もないからいいんだけど…ふぁ…今日はもう休まない? あなたも、疲れたでしょ?」

「そうだね、今日はゆっくり休もうか」

二人はぐっすりと休んだ。


翌朝…早々に訪問客が訪れた。

「え? 何これ?」

「これは…」

目の前に魔法のリングが現れる。

最近よく見たそれは…

「や、来ちゃったよ」

魔導師たちの放つ魔法のリングだった。

「師匠?」

「ははは、まあ私は君を実際に育てた方…と言っても、もう同期しているからそれをあまり区別する意味はないのだけどね」

「ふぅん、それで、また何の用なの? 昨日別れたばっかりなんだけど」

「そう怖い顔しないように。別にさらっていったりはしないから。 …まあ似たようなことはするけど。うんうん、これまでの長旅、ご苦労様。さて、要件を言おう。これからまた少しばかり一緒に飛んでもらうよ」

「また? 昨日戻ってきたばっかりなのに?」

「ははは、いやいや、実はこれでも結構待ったんだよ? だってこれから飛ぶところは、本来もっと前に、君がこの世界を救った後に、訪れる予定でもあったんだから」

「ああ、あの時、キャンセルされた…」

「そうそう、いやぁまさか、私たちの魔法が取り消されちゃうとはね。あの時は私たちも笑ったもんさ…驚きを超えると時に笑えるんだね。いやそれはいい。まあつまり本来君に行ってもらうつもりだったところにね。これから行こうと言うわけさ」

「ちなみに、どこなの? またどこか別の世界を救わせる気?」

「いやいや、今回は違うよ。さまざまな世界を救って立派な勇者となったからこそ、特別に連れて行くんだからね」

「嫌な予感しかしないわ。はっきり言いなさいよ」

「ふふふ、聞いて驚くといい。その名も勇者闘技場」

「は?」

「その名の通り、歴戦の勇者たちが集う闘技場さ。ふふふ。参加権は勇者であること。それのみだ。さあ、私と一緒に真の勇者を目指そうじゃないか」

「真の勇者とかそう言うのは別に…」

「いやいやいや、より強いものと戦いたいだろう? より強くなりたいだろう? 成長するには強いものたちと戦うのが何より良いんだぞ。それは君も十分わかっているだろう?」

「それは確かにそうでしょうけど」

「大丈夫大丈夫。今の君ならかなり上まで行けるから。あ、ちなみに君の弟弟子である妖精の勇者も参加させるからね。そっちはもう決定済みだよ。むしろ彼女の方はやる気に満ちていたよ、それだけ強くなりたいんだねきっと…私でもちょっと引いたくらいだ。まあ、君との差をまざまざと思い知らされたと言うのもあるのかもしれないけど。それからだけど、この世界の勇者も連れていくから」

「この世界の勇者? それってもしかして」

「君の察する通り、黒と白の…黒姫と白姫だっけ? その二人も連れていくから。二人には勇者としての資格があるからね。何しろ君と協力して星喰いを倒した…というか止めてみせたんだから。資格は十分あるのさ」

「ちゃんと二人には確認したんですか?」

「いや全然? でも君が行くなら喜んでついてくるだろ? まあ細かいことは行った先で説明するから。みんなまとめてね」

「それはいくらなんでも乱暴すぎる気が…」

「ええい、これはもう決まったことなんだ。別にキャンセルされたことを根に持っているとかそう言う話じゃない、元々の予定が狂ったことを恨んでいるわけでもない、さあ、それじゃあ旅立つとしようか! 新しい世界へ!」

魔導師の放つリングが勇者を包む。

さりげなく黒姫と白姫も巻き込んで。

「あ〜、忘れるところだった。ここに残っていたカエルの姫も君の中に飛ばして戻しておくよ。その力を十全にしておいた方がいいと思うからね」

部屋でくつろいでいたカエルの姫は唐突に勇者の中へ飛ばされる。

「? あら? あてしどうしてここに?」

「おいらたちの力も必要になるみたいだ」

「ここにはわてたちの他に神様たちもいるのに、そんなに危険なところなんだべ?」

「何やら歴戦の猛者が集う地のようであるな。それがしの心も躍るというもの」

精霊たちも俄に活気づいていく。

それなりに長い旅路から休まる暇もなく、勇者たちは再び新たな世界へと旅立っていった。

半ば強引に…

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