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ある星の神の行方

遥か昔にこの星に生命と、そして人を創造した神は忽然とその姿を消していた。

しかし、実際は消えたのではなく、星の中心、大地の地下深くへと、自ら降りたのである。

そして星の神は九泉へと降り立ち、そのまま星の生命力へと変わっていった。

誰も訪れることのない地下深く…なにものもない闇の中に神はいた。

その姿は大きく変貌してはいたが今もまだ、確かにそこにいたのである。

勇者が以前雷によって大地に深い穴を開けた時…そこ暗い闇には決して届くことのない光を、もたらしていた。

力を使い果たし深い眠りに落ちていた星の神は、その光に反応する。

ゆっくりと、ではあったが、確実に目を覚ましていったのだった。



ある晴れた午前の合間。

勇者は何か手頃な依頼を探しに町のギルドを訪れていた。

ギルドの受付嬢はその様子を見て親しげに声をかける。

「おはようございます、今日も早い時間からお疲れ様です。学び舎はお休みですか?」

「いや、その合間に少し。うん、何か良い依頼でもないかなと…結構人も増えたから、得られる収入はできるだけ得ようと思ってね」

「そうでしたか。ええと、相変わらずパーティのお誘いが来ていますけど、どうされます?」

「う〜ん、パーティはねぇ。動きづらくなりそうだから…話だけは聞いて、今は断るよ。それと、気になる依頼は何かないかな? おすすめのモノがあれば教えて欲しい」

「では、魔法使いさんたちにはそう伝えておきます。また残念がりそうですけどね。それと、ええ…良い案件ですと、暗闇の洞窟の跡地、そこにできた巨大な穴の調査、などはどうでしょうか? 今までは特に何もなかったようなんですけど、どうも最近その穴から不浄の気が漏れ出し始めているとかなんとか…」

「…不浄の気?」

「はい、まあ実際は何だか良からぬ雰囲気の空気が穴から出てきているからその詳しいことを調査してほしい、とのことですね。近くの国からの依頼でもあります。国案件なので、当然報酬はかなりいいですよ?」

「調査か…一日で終われば良いけど」

「どうでしょうね、その穴自体は随分と深い穴みたいですけど。しかし、一体誰がやったんでしょうかねぇ…あそこの洞窟、暗闇の洞窟と呼ばれてて、割と昔からある由緒ある洞窟だったんですけどね。なんでもすごい雷が落ちたとか、それを見た人がいた、とか聞きましたけど。雷が落ちただけであんなに大きな穴が開くんでしょうかねぇ」

「はは、そうだね」

まあ、それをやったのは自分なんだけど。

魔王討伐のためには仕方のないことだった、と思うことにした。

しかしそうか…何発も打って穴をあけすぎたのか…

そうなるとこの問題の半分以上は自分の責任…というか完全に全部自分のせいか…

「その依頼、受けるから手続きをお願いしても良いかな?」

「はい、かしこまりました。整えておきます。それで、すぐに向かいますか?」

「そうだね、これから行ってくるよ」

「はい、それでは。吉報をお待ちしてますね、ご武運を」

「また後で」


暗闇の洞窟跡地。底なしの穴。

その周りには不注意で落ちないように柵が建てられている。

これだけの深さだ、落ちたらただでは済まないだろう。

穴の底は真っ暗で、上から見ても、ただ暗いだけで何一つ見えない。

ただ、確かに薄い瘴気のようなものが穴から漏れ出ていた。

穴を開けた時は何もなかったと思う。

後になって出てきたのだろうが…

「…地下か」

自分でやったことではあるが、この深さ…一体どのくらい続いているんだろう…

勇者は慎重に、石壁に手をかけながら降りていった。

…穴はどこまでも深く続いていく…

深く…深く…降りていく。

そしてようやく、底へとたどり着いた。

上を見ても、光は無い。

手にした微かな灯りを頼りに、周囲を散策する。

思ったよりも広い。

明らかに、下の空間は入り口の穴よりも大きい…

おそらく何か初めからあった空間につながったのだろう。

こんなに地下深くに洞窟のようなものがあったということ。

それとも自然にできたものだろうか…

勇者は慎重に探索を続ける。

奥に…何かの気配がした。

その暗がりを照らした先には、確かに何かがいた。

その何かが光に反応し、わずかに動く、

「…まさかこのような地下深くまで訪れる者がいるなんて…思いもしませんでしたね」

「…あなたは?」

長い後ろ髪とその声から女性、のように思えたが、後ろ姿のまま、こちらを振り向かない。

「そうですね…立ち去りなさい、と言っても、あなたは何か理由があって、ここまで訪れたのでしょうね? そうでなければ、わざわざ来たりはしないでしょうし。なぜここを訪れたのですか?」

「…ここから瘴気が出ているようで、その理由を調査しにきたんです。瘴気が村や町、国まで届くと面倒ごとになりそうですから」

「ああ…そうですか。 …その原因は、言うまでもなく私にありますね」

そう、申し訳なさそうに言っていた。

確かに、その身からは瘴気が溢れ出している。

「…この星に身を捧げ、すでにその大半は同化して、今はもうただの残り滓、だと言うのに…ふぅ…ままなりませんね。頑丈すぎるというのも…」

「随分と長くここにいるんですか?」

「そうですね。長く、永くいますね。ですが、それももう、お終いにしてもいいですね…もう充分でしょう。星にとっても、もう私の力は必要ないでしょうから。それでは、あなたに…おや? ふむ…あなたは…私の創った人間いのちではありませんね?」

暗がりに振り向いたその表情に、手にした淡い光はまだ届かないが、

少し驚いているように思えた。

「…この星の生命を創ったんですか? じゃあ、あなたは神様?」

「ええ、そうなります。 …でもそれでしたら、これもまた、頼みやすいですね。なんの気兼ねもなく頼めるというものです…あなたに、頼み事があります」

「…何ですか?」

「私を消してください。そうすればこの不浄な気を止めることができます。もう力無き今、あなたにとっては容易いことでしょう。自死を選ぶわけにもいきませんので。残り少ない私の残穢が、この不浄を地上に撒き散らすことの無いように…あなたにお願いできますか?」

「…それは…」

「私自身、もうすぐに朽ちる身ゆえ、躊躇う事はありません」

立ち上がって近づくと、勇者の持つ灯りがその全身を照らした。

体の半分以上が、すでに朽ちていた。

その顔のほとんどもまた、同じだった。

その瞳にはすでに光は無い。

「このように、ただただ朽ちる身。ですので、どうぞ一思いにその手で」

笑った、のだと思う。

目は無く、表情を表すための肉も無い。

だからその顔は動いていない。

それでも、笑っていたのだと思う。

「…それなら、僕の中に…入りませんか?」

「?」

「僕の中には、他にも神様たちがいるんです。住んでいる、と言って良いのかはわかりませんけど。 …だから、あなたがもし、良かったら…いえ、ぜひ、僕の中に来てください」

「…今の姿の私が入っても良いのですか?」

「もちろんです。 永い間ずっと、働いていたんですから」

「……そう…ですか…」

その体は微かに前に動き、朽ちた手が勇者へとのびる…しかしその動きが止まる。

…ただ、もうまともに動けないだけなのかもしれない。

「だから…少し、休んでも良いと思います。 …僕の中で」

勇者は自ら前に出て、その手と、体を支えた。

「…ああ…ありがとう」

勇者に抱かれた星の神は、光となって勇者の中へと入っていった。


瘴気は消え去り、穴の調査依頼はひとまず終了した。


ギルドにて。

「いやぁ〜、はっやいですね〜。調査に向かってからまだそんなに経ってませんよ?」

気さくな受付嬢は調査報告書と国からの完了証明書を手に仕事に励んでいる。

「穴に落ちて調べただけだからね。かなり深い穴だったけど」

「その穴から瘴気が出なくなったようですけど、そもそもの原因はなんだったんですか?」

「多分きっと、疲れてたんじゃないかな。疲れていると、嫌な気にもなるし。ましてあんな真っ暗闇な中だと、余計にね」

「…なるほど。確かに。疲れていると、嫌な気分になりますね。周りを呪いたくもなるし、忙しすぎる時なんてよく呪ってますからわかります」

「気分転換は大事だね」

「そうですそうです。だからどうですか? これから、表のパブでいっぱいやりませんか?」

「君はまだ仕事だよね?」

「ええ、そうですけど。でも気分転換に」

「仕事の合間にパブで一杯やるのはどうかと思うけど」

「ぁ〜、正論。正論は求めてないんですよ。そんなもんはいりません。私が求めているのは愛情、愛情ですから!」

書類を片付けながら軽口を叩く受付嬢を相手にしながら、勇者は国から渡された感謝状と報酬の詳細に目を通していた。

「…結構な額だ…」

「国案件は良いですね〜、また何かあったら紹介しますよ」

「ありがとう。はい、いつもの紹介料と情報料」

「うふふ、いつもありがとうございます! 今後ともご贔屓に」

「お互いにね。それじゃあ、また」

国からの感謝状にはぜひ一度国を訪れて欲しいような旨があった。

確か、あそこの国には勇者の剣があったはず…まあ、今の自分には特に関係のない話だったが。

国といえば、傾国の魔術師によって乱心した国王のいる国は今、どのようになっているのだろうか。

その魔術師の心配はないから、まあきっと平穏に過ごしているのだろう。

そういえば、もうとっくに自分や姉が生まれていてもおかしくはない…それぐらいこの世界に来てから時が経ったと思う。

結局この世界では自分たち姉弟は生まれることがなかった、ということなのだろうか。

しかしそうなると…この世界は自分たちにとって、どういう世界になるのだろう?

勇者はまとまらない考えを抱きながら、学び舎へ戻っていった。

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