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南の大陸

魔王を倒した後の世界。


「…俺を救ってくれたことに対して礼を言う…それと、迷惑をかけた」

鎧の勇者はぶっきらぼうにではあったが、反省を込めてそう言った。

「まあ、全てがあなたのせいというわけじゃないけど」

「いや、俺の弱さが原因だ。その剣は、お前に託す」

「それで、あなたはこれからどうするんですか?」

「…そうだな。傾国の魔術師も、魔王もいなくなった。俺の仇はもういない。 …ただ、魔法使いがどうなったのか…ただ…」

「それなんだけど、占い師によると、あなたの中に魔法使いの欠片がいるような事を言っていたわ」

「…やはりそうか。じゃあ、俺のこの微かな記憶も正しいのかも知れないな、魔王となった俺が、魔法使いを宝石に変えて飲み込んだ、と言うのも…」

「…そうだったのね」

僧侶は苦しい表情をする勇者を気遣う。

「…元に戻す方法を探す」

「ええ、そうね。まだ、諦めるには早いわ」

「それなら私もお供しますよ! 妖精のちからが必要かも知れませんしね! まあ、妖精の国へは行けないでしょうけど」

「…感謝する」

「それじゃあ、いきましょうか」

鎧の勇者と僧侶、妖精の勇者は旅に出た。


「ぼくは一度、村に帰るよ。 …人間にはまだなれていないけど。でも、魔王を倒した仲間の一人として。胸を張って帰れるから」

ワーウルフはそう言って自身の村へと帰っていった。

「…私たちは、どうしようか?」

「うん、そうだね。鎧の勇者たちについていっても良かったんだけど。タイミングを逃したね」

「ふふ、そうかも」

「時間はあるし、せっかくだから、久しぶりに占ってもらおうかな」

「うん」

占い師は占いを始めるも、

「…あれ?」

「どうかした?」

「おかしいな…何も…見えない。 何も見えないなんて、初めて…だけど…」

占い師の胸はざわついた。

その胸にはジリジリと焦りと不安のようなものが襲った。

あるいは漠然とした予感だったのかもしれない。

「まあでも…たまにはそんなこともあるのかな? 疲れているのかもね…ひとまずはどこかでゆっくりと休もうか?」

焦る占い師を気遣って声をかける。

「…うん」

二人でしばらく歩いていると、

「…あれ?」

その時、体がにわかに輝き出した。

「何だろう…この光…」

光は徐々に強くなっていく。

「…あ、あの! お願いがあるんだけど!」

占い師はその様子に言いようの無い不安を覚えた。

「何?」

気のせいか、占い師の声が遠くに聞こえる。

まるで少しずつ離れていっているかのような…

「…私を…」

占い師は急いで一つの提案をした。もう時間が無い、と、勘がそう言っていた。

「え? …君は…それでいいの?」

「…うん。 私も…お姉ちゃんのところへ…」

…その後、戦士と占い師の姿を見たものは誰もいない。



龍宮城 水鏡の間


勇者の肩に乗っていた土神は勇者と共にその過去の映像を見ていた。

「あの占い師の悪魔はどうなったんです?」

「…自ら望んで、最後はここに」

勇者は自分の胸を指す。

「…食べた…いえ、取り込んだんですか?」

「…うん。あの世界から消える時に…お姉ちゃんのいる場所へって、そう望んだから」

そう、お姉ちゃんの…

「そうだったんですか」

でもそれは、ただあなたと一緒にいたかったからなんじゃないですかね…

勇者がその思いに気づいているかは怪しいところだった。


「…お姉ちゃん、か」

勇者はつぶやいた。

ポツリとつぶやいたその言葉は、言葉以上の重みを持っている気がした。

水鏡が映したその過去の映像は、自身が見た以上の記録を映していた。

自分の中に入っていた存在が、そうさせていたのかも知れない。

…だからこそ、次の景色が映ったのだと思う。

そこに映ったのは孤児院と、大人の女性と、幼い少女の姿。

それは僅かに映った映像だったが。

はっきりと、確かにその姿を見ることができた。

その二人を見た時に、白に彩られた記憶が蘇った。

…ああ、そうだ。そうだったんだ。

どうして忘れていたのだろうか、どうして忘れることができたのだろうか。

「…思い出したよ。 …僕が…一番初めに、勇者になりたかった理由わけが…強くなりたかった理由わけを」

「…何なんです?」

「守りたい人たちがいたんだ。守りたかった人たちが。 …赤ん坊だった自分を、育ててくれた先生と、そこで一緒に育った、幼馴染の女の子…大切な…本当に大切な人たち……人たちだったんだ」

でも、

「守れなかった。 …たとえ、どんなに強くなっても、もう…守れない人たち…」

勇者は目を閉じた。

それはどんなに願っても叶うことのない願い。

その思いが堰を切るように溢れてくる。

「…」

土神は勇者の肩でただ静かに寄り添っていた。

「…もう戻ろうか、もう見えるものはないだろうし」

「…平気なんです?」

「…どうかな。 …まあ、とりあえずは、日課の素振りでもやろうかな」

「…」

死者を蘇らせることはできない。

そのことは理解していた。

この世界で、それは決して叶うことはない、と。



風のエルフが掴んだ情報は、非常に興味深いものだった。

南の大陸について記された古い文献を手に入れたらしい。

まだその全てを解読できたわけではなかった。

機械姫の協力の元、二人でそれを解読しながらその情報を集めていた。

勇者を見たエルフは少しの変化に気づいた。

「何かあったかい? その、上手くは言えないけど、ちょっと変わった気がしてね」

「いろいろ思い出したことがあった…かな。まあでも、何も変わらないよ、うん」

「…」

土神は静かにその肩で佇んでいた。

「相変わらず土神を肩に乗せてるんだね。他の二柱の神様も中にいるんだろう? まあ、今はそれはいいか。そうそう、南の大陸について…一度訪れたことがあったよね? あの原生林が広がっている大陸には」

「そうだね。 …確か、素材を採りにいったんだった」

パンツの。

「そうそう、まあアレはほんの入り口だったわけだけど。実際あの大陸はもっと広い。そしてその森はずっとずっと深いんだよ」

「確かに、広そうではあったね」

「うん、何しろかつての崩壊でもその全てが壊れきれなかったんだ、その前から残っているものもあるぐらいだろう。そして、妖精と精霊たちの楽園でもある」

「楽園か…天国みたいなもの?」

「ない、とは言い切れないね。そう言ったものもあるかもしれないよ。そして、本題はここから。どうもあの地には生命樹と言う樹があるらしい」

「生命樹? 創世樹とは違うの?」

「そうだね。創世樹が生命を創るのだとしたら、生命樹はその生命そのものを象徴したものになる…のかな? まあ、詳しいことは私も知らないんだけどね。ただ、その生命樹には奇跡の力があると言うんだよ。前から調べている一つでもある、死者蘇生の、ね」

「…死者蘇生」

「正直なところ、まだ何もわからない。ただの噂な可能性ももちろんあるし、創世樹の少女に聞いたところによれば、生命樹自体は存在しているのだろうけど。その力の本質までは、行ってみないとわからないね」

「…」

「行くのかい? 私もついていこうか?」

「一人で大丈夫、君はもう少し調べてみて。行ってみるよ、南の大陸に。今度はその原生林の奥までね」

「まあ、確かに肩に神様乗っけてる君が苦労するとは思えないけど、それでも気をつけて」

「ありがとう、それじゃあね」


エルフはさらに文献を紐解いていく。

解読できない文字を手の空いた機械姫と共に翻訳しながらの作業だった。

新たな記述によると…

生命樹の花について。

数千年に一度開くその花は、一日限りの奇跡を生む。

その蓄積された有り余るほどの生命エネルギーは、かつての死者ですら甦えらせられるだろう、と。

勇者に持たせた通信用の光の虫へ、それを伝える。

「それは…すごいね」

かつての死者でも、生き返らせられる。

でもそれは、この世界の存在だけなのだろうか?

勇者は無意識に自身の胸に手を置いた。

もしかしたら…そう、希望を込めて。


勇者は南の大陸へと向かった。

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