武闘大会
剣を手に入れた後も、ついでの修行として、決して短くはないしばらくの時を過ごした古代のダンジョンから出た一向は、その後、近くの町でまもなく開かれるという武闘大会の噂を聞く。
主催はとある豊かな国の王で、優勝賞金はかなりの額が記されていた。それに加えて、さらになんでもかつての勇者にまつわるモノが出されると言う噂も言しめやかに囁かれていた…
「ねえねえ、何かの装備かな? 剣以外の…鎧とか? 盾とか兜かもしれないよね?」
妖精の勇者はその話題に一際食いついていた。
「勇者にまつわる装備って、私は剣しか聞いたことなかったけど…」
占い師はその噂そのものを疑っていたが…
「まあ、確かに、あってもおかしくはないのかな?」
残念な顔をする妖精の勇者を見て、そう言い直していた。
「そうだよね! 私、参加してみようかな〜、参加したいな〜」
チラチラとこちらの様子を伺っている。
まあ確かに、得体のしれない大会に、一人で行くのは不用心だ。
「…大々的にこんなおふれが出ているし、結構大きな大会になりそうだよね。 …もしかしたら、あの時の、鎧の勇者も来るかもしれないし。僕たちも、参加してみようか?」
「…本当? やった。今度は私が勇者の装備を貰っちゃうんだからね」
「まあ、それには勝たなきゃならないけどね」
「私だって勇者ですし。負ける気は毛頭ないですし。 …ちなみにだけど、その鎧の勇者って、どのくらい強いの?」
「う〜ん、あの時からまた少し経ったし、それから成長したと考えると…勝つのは結構、大変になると思うよ。まあ、可能性が全くないとは言わないけどね」
「むむ、その評価を喜んでいいのか悪いのか。判断に迷うなぁ」
「あの時は僕と…ほぼほぼ互角だったかな」
「う〜ん、となると、前のあなたと互角かぁ〜。出会った頃の? そっかぁ…それはちょぉッと、厳しい戦いになりそうだなぁ」
それでも負ける気はないけど、とちゃっかり付け加えていた。
四人は武闘大会が開かれるという地へ向かうことにした。
参加するのは四人。自分は戦士として参加することに決めた。それから占い師とワーウルフも、そして妖精の勇者…登録自体は何の問題もなくすぐに済んだ。
その地には結構な人数が武闘会の参加登録に来ていた。
各地から腕に覚えのある戦士や武闘家、魔法使いなどが集まってきているようだった。
みんな狙いは勇者の品なのか、それとも賞金目当てか…どちらにしてもこれだけの強者が集うと言うのもそうそう無いことだろう。
…今のところ、あの鎧の勇者の姿は見えないが…
会場は広く、まずは予選として広い一つの舞台でサバイバル形式のバトルロイヤルが行われるようだった。
勝ち抜けるためには、何人も相手にしなくてはならない。
強さだけではなく、体力も、スタミナも必要になりそうだった。
僕たちはそれぞれ別の舞台に向かった。
戦闘開始の合図とともに、多種多様な入り乱れた戦闘が始まった。
身近な相手を舞台外に叩き落としながら、順調に人数を減らしていく。
各地で魔法による爆発だろうか、さまざまな魔法が飛び交って戦場は混乱していた。
そして、僕の舞台には僕以外に一人の女性が残った。
「あら? あの時の子。へぇ…久しぶりね? ふふ、私のこと、覚えているかしら」
「君は確か、鎧の勇者の仲間の魔法使い…だよね?」
「覚えていてくれたんだ? 嬉しいわ。それで、どう? あれから冒険は順調? あの時の仲間達と、うまくやれているの?」
「うん。あの頃よりみんなもだいぶ成長したし、一人仲間が増えたんだ。妖精の国出身の勇者がね。それと、装備も整えられたよ」
剣を構える。
「へぇ〜、妖精の国の勇者? ふぅん…彼女の他にも、生き残りがいたのね。あなたのそれ、新しい剣よね、しかもそれって…ただの剣じゃないわね? …もしかして魔剣の類かしら?」
「どうかな。でも、僕は扱いやすくて気に入っているよ」
「知り合いだからと言って、手加減はできないわよ?」
魔法使いは杖を構えて距離をとる。
「それはこっちだって同じだよ」
「…ふふ、それじゃあ、そのお手なみ拝見させてもらおうかしら」
魔法使いは距離をとり、炎、氷、風、あらゆる属性の魔法を遠距離から容赦無く放ってくる。
「…」
お互いにその距離があるとはいえ、全てを避け切ることはできない。
直撃は避けるものの、何度かその魔法を受ける。
「ふふ、器用に直撃を避けているわね。 …でも、そのままだと、そのうち体力がもたなくなるわよ?」
「…そうかもね」
かといって、魔法使いはそう簡単に間合いを詰めさせてはくれない。
おそらく自身に素早さをあげる補助魔法を使っているのだろう。
間合いをとるその動きも無駄がなく、そして動きそのものが早い。
「素早さだけなら、私も結構自信があるのよね」
間髪入れない波状魔法もそれに輪を掛けて厄介だった。
「ちなみにだけど、私の魔力はまだまだあるからね」
「…僕の体力も、まだあるよ」
「ふふ、負けず嫌いね。 …可愛らしい」
魔法使いは余裕の笑みを浮かべている。
この戦法で勝てる自信があるのだろう。
間合いは常に一定を保っている。
舞台は広い、とは言っても…
「随分と、よく動くのね。 そんなに動いて疲れないの?」
「まだまだ」
魔法使いを舞台の端へと誘っていく。
直線上ではお互いの距離は、まだある。
「これを受けても、まだ余裕でいられるかしら?」
魔法使いは一際大きな炎の魔法を放つ。
「…」
避けない? どうして? 受けるつもり?
魔法使いは微動だにしないその様子に軽く疑問を抱くも、魔法を放ち、様子を伺っていた。
「すぅ…」
息を整え、向かってくる炎に構わず、上段に剣を構える…
迫りくる炎とともに、剣を力いっぱいに地面に振り下ろした。
ードゴォォオォオオッー
かき消された炎と煙が舞い上がる。
「っ?!」
舞台はその地鳴りと凄まじい振動で揺れ、ヒビ割れた。
大きな揺れと足元が崩れかけたことに体勢を崩す魔法使い。
その隙を逃さない。
「っ!」
魔法使いが気づいた時はもう遅く、煙の中から現れた手によって、あっという間に舞台外へと落とされた。
「僕の勝ち、だね」
「…ええ、私の負けね」
舞台下から見上げる魔法使いはそう言った。
差し出した手を取ってお互いにその健闘を讃えた。
「…魔法使い、負けちゃったね」
「…ああ」
「ねえ、あの子の…彼のあの力…あれって、あなたもできる?」
「…無理だな。俺にそれだけの膂力は無い。いや、仮にその力があったとしても…おそらくはあの剣の力でもあるのだろう」
「そう…。あの子、すごい力持ちなのね」
「そうだな。まあ、馬鹿力とも言うがな」
「…勝てそう?」
「…二度負ける気はない」
「…そうよね。まあ、魔法使いは相手が悪かったってことかしら」
「…」
それから予選を順当に勝ち進んでいったのは、自分の他、占い師、ワーウルフ、妖精の勇者…そして鎧の勇者。
それ以外の舞台では、武闘家、女兵士、踊り子…などであった。
あの女兵士には見覚えがあった。
確か、試練の係を務めていたはず。
でも、どうしてこの地へ…それに、この武闘大会に参加しているんだろうか?
次からは勝ち上がり形式のトーナメントへと変わるようだった。
まずはその、それぞれの初戦の組み合わせが決まった。
妖精の勇者 対 武闘家
戦士 対 女兵士
占い師 対 踊り子
ワーウルフ 対 鎧の勇者
「武闘家かぁ…接近戦には強そうだね。でも、負けないぞ」
「…あの時の兵士だよね。 …何で来たのか尋ねてみようかな」
「踊り子かぁ…踊り子って、どんな戦い方してくるのかなぁ…私の支援魔法効くと良いけど…」
「…あの時の勇者…でも、ぼくだって、負けない…」
それぞれがそれぞれの想いを胸に、戦いへと向かった。
「そうか、君はあの時の…」
互いに剣を交えながら会話を始める。
「どうしてこの大会に参加したの? ずっとあの城にいるものだと思ってたよ」
「いや、別に私としてもそのつもりはない。あの国に仕えているのは事実だが。それに私の目的はこの大会で勝利することとは別にある」
「どう言う意味?」
「例の魔術師の噂があってね。それに、この大会自体がそもそも胡散臭いものだった。今の時勢にこれだけの賞金を振る舞えるなど、いくら後ろに大国がいようと、それ自体怪しいものだしな」
「魔術師って、あの噂のだよね。ここにいるの?」
「そこまで確かなことはまだわからないが。奴が何らかの関係をしているというのは考えられることだろうな」
「…もしかして、参加しているのかな?」
「その可能性もあるが…」
その後もお互いに譲らぬ攻防を続けた。
度重なる剣の交わりに、女兵士は思っていた。
…想像以上に重い剣戟だ。
「良い腕だ。きっと、いい戦士になる」
「なりたいのは勇者なんだけどね」
会話と剣の交叉は続く…
「これなら」
占い師は眠りの魔法を使うも、
「…無駄よ」
踊り子には効果がない。
「私の魔法が効かない…」
「生半可な魔法では、私になんら影響を与えることは無いわ。 …あなたぐらいの魔法だったら、私には一切効果ないわね」
「やってみないと…まだわからない」
「だから無駄よ。 …降参しなさい。あなたが立つ舞台じゃないわ。 …それから、この地を離れなさいな」
「どうして?」
「…さあね。でも、その中途半端な実力じゃ、この先、生きていけないわよ?」
「…私が弱いことは知っている…でも、私だって、諦めたくない」
ずっと、そういう背を見てきたから。
「…ふぅん…わがままに育ったものね。まあ、悪魔って、そんなものかしら。でもね…この世界はそんなに甘くはないわ。諦めない気持ちだけで、どうにもならないことだってあるの」
踊り子が舞うと、その身から薄暗い空気が放たれる。
「!!」
それは占い師を包み込む。
「あなたの意思では抗えない。 …どうしようもない力だって。 …あるのよ」
占い師は意識を失った。
まず最初の勝者は、謎の踊り子となった。
ワーウルフは苦戦していた。
「…よく動くな。それだけの傷で」
「…まだ負けていない」
鎧の勇者の攻撃は容赦無く浴びせられた。
「…そこまでして負けたくないか?」
「…」
「これが武闘大会でなければ、すでにお前は死んでいる。 …それを理解しているのか?」
「わかっているよ。加減していることも。でも、ぼくだって、それでも、負けたくないんだ」
「…わからんな。魔物の気持ちなど。 …わかりたくもない」
鎧の勇者は決して手を緩めない。
ワーウルフはそれでも善戦している方だったが、相手と実力差がありすぎていた。
決着がつくのは、もう時間の問題だった。
ワーウルフが気を失うまで攻撃は続いた。
最後の最後まで、諦めようとはしなかった。
「…何のためだ? お前たち魔物が」
「…勝って、賞金を手に入れる。そしたら…村に…」
「…そうか。 …それは叶わない」
「でも…ぼくは…おばあちゃんたち…に」
ワーウルフは気を失っていた。
勝者は、鎧の騎士。
そしてその頃、妖精の勇者もまた危なげなく勝利を得ていた。
女兵士もまた、自ら降参して勝利を譲っていた。
次戦
戦士 対 妖精の勇者
謎の踊り子 対 鎧の勇者
「うわぁ、あなたと! うぅん、でも、負けないからね!!」
「僕だって、もちろんそのつもりだよ」
「…ふふ、随分と、強そうな勇者ね。 …どうか、お手柔らかに」
「…貴様、ただの人間ではないな」
「…あら? ふふ…どうかしら?」
「…その気配…魔族か、悪魔の類か…どちらにせよ。ここで終わりだ」
鎧の勇者はその踊り子の秘めた闇の力を感じ取っていた。
随分と胡散臭い大会だったが、魔族や悪魔が関わっているとなると話は変わる。
場合によってはたとえ失格となろうと、相手にトドメを刺す気でいた。
…それぞれが舞台へと向かう。
 




