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伝説の剣

国から優先的に支援を受けられるようになったこともあり、余裕を持って滞在しながらまずは情報を集めることにした。

城や城下町にいる兵士たちからは、古代のダンジョンの話、魔王が封印されている洞窟の話、かつての伝説の武器や武具…その他にもただの噂や信憑性のない話も数多くあった。魔術師のいる国が近々この地に侵攻するかもしれない、と言った不安な話も聞くことができた。

伝説の武器については、なんでもかつての勇者が使用していた剣、今となってはその伝説の剣が、どうも北の地にあるらしい。それは勇者にしか抜けないという、封印された剣でもある、とのことだった。

三人で話し合った結果、まずはその北の地へ向かうことに決めた。

その道中、ワーウルフの暮らしていた村を通ることにもなるらしく、せっかくなので、ワーウルフはうまく試練に合格したこと、そのおかげもあって国からの支援により村へ援助がなされるようになったことの報告に立ち寄ることにした。

「ただいま」

そこは小さいけど、温かみのある家だった。

「まぁまぁ、よく無事で帰ってきた、よかったのう。おや、そちらのお二人は?」

高齢の老婆が優しい笑顔で出迎えてくれた。

「これから一緒に旅を、冒険する仲間なんだよ。おばあちゃん」

「それはそれは、お世話になって。どうぞあがって下さいね。 それで、これから冒険かい? そりゃあ大変だろうねえ。でも、いつでも帰ってきていいんだからね? ババはここでずっと待っているから」

「うん。村に城から食べ物なんかの物資が送られてくるから、みんなで遠慮しないで食べてね」

「うんうん。ありがたいことだね。それもお前さんがたのおかげかね?」

「うん…自分一人だったら、合格できなかったと思う…これからも、三人で力を合わせて協力していきたい」

「おやまあ、あんなにひとりが好きだった子がねぇ、ありがとうねぇ、お二人さん。一緒にいてくれてねぇ」

老婆の目には微かに涙が浮かんでいた。

「嫌だねぇ、涙もろくて。でも、これからもよろしくねぇ」

「おばあちゃん、恥ずかしいよ」

ワーウルフと老婆のやりとりに温もりを感じた。

魔物と人間であろうと、その間にある温もりを、確かに感じることができた。


「…優しいおばあちゃんだね」

「…うん。自慢のおばあちゃんなんだ」

「村の他の人たちも、証を見せることもなく悪魔の私にも普通に優しく接してくれるし…本当に、いいところだね」

占い師はしみじみと言っていた。


道中、何度か魔物と戦闘を繰り返しながらも、

いよいよ伝説の剣があるという神殿へと到着する。

「え〜?! 伝説の剣、ここにもうないの〜!」

神殿に入る前に、中から大きな声が聞こえてきた。

「…えぇ…せっかくここまできたのに…もう無いとか…ん? もしかしてあなたたちも伝説の剣に用事?」

「うん、そうだけど」

「あ〜、それは残念だったね。ここにはもう無いって。私が来る前に、全身鎧で包んだ人が抜いていったみたいだよ。 …その人、勇者だったのかな…嘘でしょぉ…」

「…全身鎧…それってあの時の勇者だよね?」

「うん、そうだろうね」

「となると、やっぱり本当に勇者だったんだね、伝説の剣を抜いちゃうなんて」

「…うぅ、私も勇者なんだけどなぁ。出遅れちゃうとは思わなかった。 …こんなことなら宿でのんびり甘いもの食べてるんじゃなかったよ…」

「…甘いもの」

「だって、すごく美味しかったんだもん。妖精の国にいた時はそういうの、あんまり食べたことなくってぇ…つい…」

「君、妖精の国にいたの?」

「うん。多分もういけないと思うけど…」

「へぇ…」

「ああ、でもこれからどうしようかなぁ…もっときちんと装備を整えてから、って思ってたのに、出鼻を挫かれちゃったなぁ…あの甘くて美味しいアップルパイのせいだ!!」

「それは違うと思うよ」

「…うん、わかってる。私もそう思う。悪いのは私のこの食欲ですね。はぁ…」

勇者は自分のお腹を軽く叩くとため息をついた。

「伝説の剣はもう無くなっちゃったけど、武器は世界各地にまだまだあるし、伝説の剣に負けないような強い武器でも探しに行こうかなぁ…」

「心当たりはあるの?」

「う〜ん、無い! だって装備は勇者の伝説装備一式でいいかなって思ってたし」

小気味の良い笑顔と声でそう言った。

「あ、そういえば私たちがいろいろ聞いて回っていた時に、兵士の一人が言ってた…あらゆる武器が落ちているダンジョンの話」

「ああ、なんでも古代の有力な魔術師によって作られたダンジョンで、珍しい武器があるって言う…」

「何それ! それはすごく良い話だね! 是非とも詳しく!!」

勇者はその話に食いついた。

「それなら、僕たちと一緒に行く?」

「いいの? 行く行く! 私、妖精の国出身の勇者です!! 年は14で、趣味は…食べ歩き? あ、でもそれは最近の話だった。剣の修行? 魔法の修行? それは別に趣味じゃないか。まあ、いいや。よろしくね!」

「うん、これからよろしく」

「それであなたたちは? あなたは…待って、私が当ててみせるから、きっと戦士でしょ? 当たった? 当然。へぇ、勇者になりたいんだ。う〜ん、私は初めから勇者として育てられていたからなぁ…職って言われてもちょっとわかんないかも。そうなるとあなたは勇者見習いの戦士…になるのかな? それとあなたは占い師で、悪魔? 本当、ツノがあるのね、可愛らしい、隠さなくても良いのに。あなたはワーウルフ、もふもふだね。うん、改めてよろしくね!」

騒がしく元気な妖精の国出身の勇者が仲間になった。

四人は古代のダンジョンへ。


「へぇ〜、ワーちゃん人間になりたいんだ? なんで?」

「ワーちゃんって…まあ、いいけど。うん。その方がおばあちゃんたちも安心して暮らせるから」

「そうなの? そうなのかなぁ。私は今のままでもいい気がするけど。もふもふだし…」

「くすぐったい…魔物ってだけでも、怖がられたりするから」

「知ってる人たちなら大丈夫だろうけど、知らない人たちからしたら、ね。悪魔である私だって、そうだもん」

「ふぅん…人間って難しいね。妖精の国では、そういうの何もなかったけどなぁ…」

「でも、隠れて住んでいるってことは、それに近い何かがあったのかもしれないよ?」

「ああ〜、確かに。鋭いねぇ。人間嫌いではなかったと思うけど、私以外の人間って、見なかった。 …人間と何かあったのかも。もう聞きに戻れないけどね」

「…寂しくないの?」

「寂しいよ。でも、寂しいけど、そればっかりじゃいられないから。たまにすごく寂しくなる時もあるけど。そういう時が来たら、ワーちゃんのことをもふってもいい?」

「…仕方ないからいい、けど。ほどほどにしてね。くすぐったいから」

「ありがとう〜」

「ふふふ、仲良いね」

「そうだ! ねぇねぇ、私のこと占える?」

「え? うん、できるよ」

「やってやって、私、占い初めてだし、楽しみ〜」

「ちょっと待ってね。 …ええっと…地下深くで運命に出会う…だって」

「運命? 地下深くって、きっとこれから行くダンジョンのことだよね? うわぁ、運命ってすごいね! 誰かいるのかな? それとも、ものすごい武器が手に入っちゃうのかも! うわぁ、行くの楽しみになってきたぁ」

勇者は元気一杯だった。

「…すごい前向き…勇者ってそう言うものなのかな?」

「どうだろう、前にあった鎧の勇者は前向きと言うか…まあ自分の道をひたすすむ感じではあったけどね」

どちらも少し、こう、上手くは言えないけど、どこか無理をしている気がする。

「よぉし、私、頑張っちゃうぞ〜」

「くすぐったいぃ」

勇者とワーウルフは戯れあっていた。


古代のダンジョン


入り口は封印されていた。

何やら記してある。


異なる四つのみなもとを示せ


その下には受け皿のようなものがあった。

「異なる四つ? 私たちちょうど四人だよね? 源ってなんだろう?」

「受け皿があるから…う〜ん…液体かな? だとすると…血、かな?」

魔力だと受け皿の必要はなさそうだし…肉片とかでもいいのかな…少し怖いけど。

「あぁ〜、なるほど。血かぁ」

「…唾液でもいいかもしれないけど、まあ多分血だと思う」

「唾液でよかったら傷つける必要ないよね? とりあえず試してみる?」

やはり唾液ではダメで、受け皿に血を滴らせたらそれぞれの足元に魔法陣が描かれた。

そして四人はその場から消えた。


「あれ? 私たち二人?」

「…うん、他の二人とは離れ離れになったみたいだ…多分、同じように中には入れたとは思うけど」

「とりあえず二人で進む?」

「そうだね。他の二人も探しながら、先へ進もう」

「私、こういうダンジョンって初めてだから楽しみ〜」

「初めての割には随分と余裕あるね。 …僕もまあ、似たようなものかな」

森の迷路とかは修行でよくやらされたっけ…

道中、魔物と何度か遭遇するも、それほど強くはなかった。

「あんまり強くないね。それとも、私たちが強かったり?」

「…どうかな。確かに強くはないけど。ダンジョンって、深く潜るほどに敵も強くなっていったりするから、気をつけるに越したことはないよ」

「用心深いんだね、意外」

「意外って…どう見えてたの?」

「だって君結構強いよね? 難なく魔物倒しているし、動きだって全然素人っぽくない。何年も修行した感じがするし」

「まあ、確かに何年も修行したからね。でもそれは君だって同じだよね」

「それは私だって。勇者として、随分と扱かれましたし」

「妖精たちに?」

「うん」

さらに幾度かの戦闘を繰り返す。

他の二人に会う気配は無かった。もしかしたら、二人は違う階層なのかもしれない。

「…君は、勇者になりたいんだよね? なんで?」

「…約束したから。かな」

「それって…誰と?」

「…覚えてないんだ。でも、多分…きっと、大切な人」

「…なんかそれってすごくロマンチックだね」

「そうかな? …まあ、でも…だから絶対に勇者になるよ」

「勇者になる、か…」

「君はもうすでに勇者なんだよね」

「うん、そうだね。だからあなたの目標は私、ってことになったりしちゃう?」

「…どうかな」

「えぇ〜、なんで?」

「もう一人、勇者を知っているから。…多分先に伝説の剣を抜いた勇者」

「えぇ〜! 知り合いだったの?! 誰々? どんな人だった?」

「そうだね…印象は剣の抜き身みたいな女性(ひと)かな。年は多分、僕たちとそこまで違わないんだろうけど。ずっと大人びて見えたよ。 …それだけ、色々と…なんて言えばいいのかな、辛い目にあったのかもしれないけどね」

「へぇ…」

「魔物や悪魔、そう言ったものに対しての怒りや憎しみがすごく強かった。 …根絶やしにするって言っていたし」

「うわぁ怖い。まあ、でも勇者ってそう言うもの? 魔物たちからしたら、魔王からしたらそう言うものなのかな?」

「そうかもしれないよね。あれだけの気迫は、僕には無いし」

「…私も無いなぁ…そこまでの気持ちは…勇者としては、一番先に行っているはその人かもね」

「…うん」

更に深く潜っていく。

魔物の数は増えても、まだまだ苦戦するほどでもない。

「あなたのその剣って、もしかして…」

「これ? 最初の村で買った剣だけど」

「えぇ…やっぱりそれって一番安いやつじゃん…見たことある。なんでまだ使ってるの?」

「結構手に馴染むんだよね。慣れたものの方が扱いやすいかなって」

「いやいやいや、いくらなんでも買い替えなよ。私の剣、これは妖精の加護がある割と由緒正しい剣なんだよ? その名も妖精の剣」

「…そのまんまの名前(ネーミング)だね」

「分かり易いからこれでいいの! じゃなくて、あなたの剣だよ。新しい剣は買わないの?」

「今のところは…と言うより、一応は君と同じで、伝説の剣を手にいれるつもりだったんだけど」

「…ああ、なるほどね」

「でも、改めて考えてみたら、君はともかく、僕にその剣が抜けたかどうかはわからないな」

「あなたは勇者の血筋じゃないの?」

「いやまあ、詳しいことは何も知らないんだけど、普通に違う可能性もあるなって」

「…それなのに勇者になりたいの? だって、勇者の末裔じゃないってことでしょ? それでも勇者になりたいって…なるの?」

「まあ。それはそれ、と言うこと…かな?」

「何それ」

勇者は声を出して笑った。

「そんなに変かな?」

「変だよ。すごく変。すっごく変わってるよ」

「まあ、そうかも」

「…私、考えたこともなかったな。勇者になることについて。だって、初めからそうだったし」

「…」

「勇者って、何なんだろうね?」

「一万人に一人の可能性だって聞いたよ」

「?」

「そのくらいの確率なんだってさ。 …後は場所と環境を整えれば、誰でもその可能性があるってね」

「えぇ…」

「それから先は本人次第だって言っていたよ。だから大事なのは、これから先…君たちはもうすでに勇者になったけど、僕がなるのはこれからなんだ…たとえ君たちとはその形が違っても、ね」

「ふふ、あはは」

勇者は笑った。その目には涙が浮かんでいた。

「そんなに可笑しいかな」

「あはは、ごめん、違うの。可笑しかったからじゃなくてね…うん。ただ…」

勇者は笑いながら泣いていた。

「…うん、もうちょっとだけ泣くね。 …可笑しいね、こんなの…」

勇者は生まれた時から勇者として育てられていた。

そのことに対して誇りを持っていた。

でもいつしかそれは重圧にもなっていたのかもしれない。

まだ幼さの残るその心にとっては…

伝説の剣を得ることに失敗し、思うようにいかないことに不安を覚えて、

迷い、悩み…勇者らしからぬあり方に自らを戒めようとして…

全ては空元気のように空回りをしていった。

「…大丈夫?」

「…うん、もう大丈夫。もう平気だから! かっこ悪いところ見せちゃったかな。勇者なのにね!」

「君は君、僕は僕。勇者の数だけ、きっと勇者がいる」

「ふふ、そうだね。私ももっと…うん」

勇者は晴れやかな笑顔をしていた。


扉を開けると、そこには占い師とワーウルフの姿があった。

二人の前には地面に深く突き刺さった剣がある。

その壁には、


汝の力を示せ


と、記されていた。

「あ、よかった〜、無事だったんだね?」

「この剣、全然抜けない」

どうやら二人は剣を抜こうとしていたようだ。

「伝説の剣もこんな感じだったのかな? それなら私の番だよね!」

勇者は剣の柄に手をかける。

そして勢いよく…

「抜けない…全然…全く、ぴくりとも動かないよ〜」

剣は微動だにしなかった。

「汝の力を示せ、か。何か意味があるのかな?」

柄を握る。

そして勢いよく、

「普通に抜けたけど…」

剣は引き抜かれた。

「えぇ〜、嘘でしょ? なんでなんで? 私は無理だったのにぃ…まさかあなたが本当の勇者…?」

「いや、違うでしょ」

「ぐぅ、むむむ、悔しいなぁ。ねぇ、ちょっと私にも持たせてよ」

「はい」

引き抜いた剣を手渡す。

「!! 重ぉ…何これ無理だよ…おっもぉ…」

勇者は持ちきれずに地面に落とした。

「貸してみて…ぐぐ…本当だ…重くて…無理…」

ワーウルフもまた同じだった。

「…力を示せって、そのまんまの意味だったんだ…」

それを見た占い師はボソリと呟いた。

「…確かに他の剣に比べたら重いけど」

剣を手に取り、素振りを試す。

「うん、大丈夫」

「えぇ…」

勇者たちはその馬鹿力に驚いていた。

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