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傾国の魔術師

世界はある一つの大国によって支配されようとしていた。

その国の王は魔術師の巧みな囁きによって隣国を攻めると、次第にその勢力を拡大していった。

今となっては世界の大半の国や村がその支配下にあった。

大陸間の貿易が制限されることによって、小さい国や村は物資が不足し、村人たちにも心の余裕はあまり無い。

時には暴力や略奪なども起きるなど、安全の保証もあってないようなものだった。


占い師の少女はフードを目深に被りながら、今日も仕事をしている。

数は少なかったが時折訪れる人に占いをすることで僅かなお金を稼いでなんとか日々を過ごしていた。

「おいおい、こんな程度で金を払えって? しかも特に良いわけでもねぇのに?」

見るからに乱暴な客はその自身にだされた占いの内容に難癖をつける。

「あ、あの…お代を…」

占い師の少女は控えめに言う。

「はぁ? だからよぉ…こんな内容で金を払えるわきゃねぇだろうが!」

男は悪い内容に腹を立てながら大声で言い放つ。

「災難来る、おとなしくって言われて、こんな程度の占いで金を払うやつぁいねぇだろがい!!」

「そ、そう言われても…あの…お代は頂かないと…」

占い師の少女はビクビクしながら、震えながら言う。

「わかんねぇやつだなぁ! おい、その顔見せてみろや!!」

フードを乱暴に手で弾く。

「…あ」

少女の頭には巻き角のようなものが見えた。

「…テメェ、人間じゃねぇな? …その角、悪魔か? この野郎! 人間を騙そうってんだな!! そうはいくかよ!!」

「ち、違う」

少女は周りに目立たないよう慌ててフードを被る。

「暴れ回っている国についてる魔術師も噂によると人間じゃねぇ、悪魔らしいじゃねぇか! 昔っから悪魔なんて、やっぱり碌なもんじゃねぇよ!! でも…へへ、顔は悪くねぇじゃねか。 …俺が成敗してやらぁ」

男は下卑た眼で少女を見ると、その手を乱暴につかむ。

「や…やめて」

「良いからきやがれ!! 悪魔を祓ってやるよ!!」

男は連れて行こうとする反対の手を誰かにつかまれる。

「何しているんです?」

見たことのない少年が手をつかんでいた。

「…何だぁ?」

「…その子、嫌がっているよ。離してあげて」

「ガキが、大人に向かって」

男は手を振り解こうとするも、全くその気配がない。それどころか、

「離しなよ」

男の腕がミシミシと嫌な音を立てた。

「っ」

…このガキ、なんて力してやがる。ガキのくせに。

「…チッ、興醒めだ、どけどけ、ガキなんざ相手にしていられるか!」

男は捨て台詞を吐いて去っていった。


「大丈夫?」

側にいた少女に声をかける。

「あ、はい…ありがとう…」

少女は小さくぺこりとお辞儀をした。

「君は…その格好、占い師?」

「うん…さっきの怖い人…お代もらえなかった…どうしよう、困ったなぁ…」

「…それなら、僕も占ってもらってもいい?」

「え? …うん。少し待ってね」

少女は散らかされた場を整えはじめる。

「…君は一人なの?」

「うん、そうだよ。あなたは?」

「僕もそうなんだ。これから色々な国を回ろうと思っている」

「え? …でも、今は危ないよ?」

「そうみたいだね。なんでも、悪い魔術師に唆された国の王が世界を支配しようとしているって聞いた」

「…うん」

「僕はそれを止めたいんだ」

「えっ?!」

「その魔術師を倒してでも」

「…そうなんだ。 …準備ができたから、占うね」

少女は小さな水晶に手を翳す。

「…北に新たな出会いあり…だって。 …ここから北に行くと、確か少し大きな町があったと思う」

「町か。丁度良かった。まずその町へ行って、これからの旅の準備を整えようかな…はい、占いのお代」

「あ、あの。お代はいらない、から…私もその…一緒について行ってもいい?」

「君も?」

「うん。あなたと一緒なら、魔物も怖くないし…あ、私もその、回復魔法なら、少し使えるから」

「本当? それはすごく助かるよ」

「本当に少しだけ、だけどね」

「それでも…それじゃあ、準備がおわったら一緒に行こうか」

「…うん。あの、そういえば、あなたの職は?」

「職? ああ、そうだね、今は一応…戦士? になるのかな、多分。でもいずれは…勇者になるよ」

「え、勇者に? 今の世の中だと…きっとすごく大変だよ? 結構前に勇者狩りなんて事があったみたいだし…何でも、大勢の子供が犠牲になったって…行方不明もすごく多かったって…」

「…それでもね。大切な約束だから、絶対に叶えてみせる」

「…そうなんだ。 …実は私もね、生き別れたお姉ちゃんを探しているんだ」

「お姉さんがいるんだね」

「…うん。きっとどこかで生きてはいるんだと思う。 …だから見つけたい」

「僕は勇者になる為に、君はお姉さんを見つける為に、それぞれ旅の目的は違うけど。これからよろしくね」

手を差し出す。

「うん。あなたが勇者になれることを、私も応援するね」

手を握る。

「ありがとう…僕も、君のお姉さん探しを手伝うよ」

応援すると言う言葉を聞いた時、胸に温もりと僅かな切なさが宿る。

「ありがとう。 …これから、よろしくね」

戦士の少年と、占い師の少女は小さな村を後にし、北にある町を目指すことにした。


「して、魔術師よ。その話は本当か?」

「はい。まさか剣を向けてこようとは。私も驚きました」

「…無事であったか?」

「はい。私は。他の兵によって取り押さえられ…今は牢獄に」

理由わけは? 何と言っている?」

「王は気が触れた、それが私の所為であると」

「…あの者がそのようなことを?」

「ええ。無礼ですね。処罰はどういたします? そのまま葬って差し上げましょうか?」

私はただ、王の心を支えているだけのこと…喜びや多幸感を…不安や恐怖を取り除いているだけ…ふふふ…私の魔術でそれらを増幅(きょうか)しているだけのこと…後は全て王自身が決めているのだから…ああ、人間の心はひどく、脆い。私にとって、その操作は容易いもの…人間…かつて魔王様を葬り、そのせいで私たち悪魔を底へ落とした人間ども…私はお前らを赦しはしない…

魔術師の女は妖しい笑みを浮かべる。

その笑みに惑わされる者は数知れない。

傾国の魔術師だった。

「いや…あれは他の兵たちからもだいぶ慕われていた。兵の指揮にもかかわる…そうだな、追放するとしよう…本当に、長く仕えてくれたのだがな…残念だ」

「それが本人の意思であるのならば仕方のないこと。ですが、今のこの国の力があれば、多少力のある兵士、戦士が一人抜けたところで、何の問題もありません。今まで通りに」

「…まあ、それもそうか」

「それよりも、次に侵攻する国の準備をなさらないと」

「そうだったな」

今は亡き魔王様に変わり、私がこの地を支配する。

悪魔たちが受けた苦しみを、人間たちにも思い知らせてやる。


「…今の王には…何を言ってもダメだ。あの魔術師が側にいる限りは」

女の兵士は一人、長く仕えた城を後にする。

あの魔術師が国を訪れてから何もかもがおかしくなった。

王はあの魔術師のいいなりとなり、ただの傀儡に成り果てている。

…全てはあの魔術師の女の仕業…。

人間ではない。間違いなく悪魔だ。

だが、それを指摘しても何も変わらなかった。

勇者を葬るために大勢の、それも子供たちを亡き者にするなど、あってはならないことだ。

未来をつくる子供の生命を奪うなど!

女兵士はあまりの怒りに震えた。

…この国にはもういられない。

仕えた王に刃向かった私に居場所はない。

牢獄に落とされはしたが、それでも命を落とされなかったのは…王せめてもの慈悲だったのか。

…これから、私はどこへ向かえばいいものか。

女兵士はあてもない旅へと出ることにした。

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