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困った時の神頼み 月の新星

この世界においては、かつての記憶を取り戻している勇者。

かつての月、黄姫にとっての故郷を破壊したのは自分自身であったことを知った。

勇者は一人、夜空を眺めていた。

「…」

星々は輝いている。

しかし、そこには今も、月は無い。

かつて破壊してしまったのは勇者自身。

二度目もまた、勇者じぶんである。

どちらもその原因が不可抗力とは言え、破壊したのは紛れもなく勇者自身であった。

「…」

勇者は時々思い出す。

時折、黄姫が夜空を見上げている時、

どこか物悲しい雰囲気を纏う気配を感じたことを。

…やはり、かつての故郷である月が、今も懐かしいのかもしれない。

…最後の月の民の一人として、この地で暮らすことを決めたと言ってはいたが…

一切月見ができなくなったと言う事実も、それはそれで、少し寂しいものであった。

…どうにかして、月を甦らせることはできないものだろうか。

隕石の衝突を待つ?

しかしそれはあまりに偶然的すぎるし、何よりそれはそれで危険すぎる。

月を…新しい星として…生み出すとしたら…

星々の輝きはその一つ一つが神を象徴していると、聞いたことがあった。

それなら…実際に神に聞いた方が早いかもしれない。

勇者は氷姫と土神と火神に尋ねてみることにした。


「月を。ですか?」

「うん。新しく生み出せないものかな」

「月を生み出す? いきなり何を言っているんですか? 暑さでどうにかなったんですか?」

土神は勇者の肩からそう尋ねる。

「いや、実は…」

かつての話と、黄姫の件で二度目の月を破壊した件について簡単に説明をする。

「この星の月を壊したのはオマエだったのか。クク、相変わらず面白い無茶をしやがるな」

「今はもう何も無いからね…大きさは、前と同じではなくても、なんとかできないかなぁ」

「硬い丸い土の塊は創れても、それだけの大きさを浮かせるとなると、面倒ですね」

「ぶん投げてどうなるもんでもねぇだろうしな。だいたい、星の新生ができそうな神なんてそうそういねぇだろ? 簡単に言うが割と規格外だぜ? …ああ、でも…そういや心当たりがあったな…もしかしたらできるヤツがいるかもしれねぇ…オマエの中に一柱」

「ああ、確かに…それなら、私が少しばかり尋ねてきてみましょうか」

氷姫は勇者の中にいる神の一柱のもとへ。


氷姫は小さい珠を持って出てきた。

「これをどうぞ」

「これは?」

「それは新星の魂とも言える珠だそうです。何でも、それにあらゆる力を注げば新たな星となるとのことです」

「…割ととんでもねぇもんをサラッとだしてきやがったな…」

「なんでも、柘榴の件のお礼だそうです」

「いや、釣りあわねぇだろ…果物だぞ」

「ただですね、あらゆる力を注ぐこと自体は今の勇者様であれば容易いでしょうが、勇者様だけでは絶対に最後まで辿り着けないだろうともおっしゃっていました。曰く、そう調整しておいたと、そしてそれが神の試練であると、とても良い笑顔でそうおっしゃっていましたね」

「神の試練…ただの気まぐれの間違いでは?」

土神は遠慮なく言う。

「ひとまず今の力を注いでみるよ」

勇者は極彩の魔力を珠に注いだ。

極彩はあらゆる属性の魔力を持っている、珠はみるみる輝きを増していった。

…84%と言う表示が見えた。

「これを…100%にすればいいんだよね?」

「だろうな、わざわざ数字まで表示してくれるとは、器用なもんだぜ」

しかしその後、どれだけ力を注いでも、それから数が増えることはなかった。

「…自分だけでは無理、か。今の自分には無い力というと…」

思いついた勇者は黒姫と白姫の元を訪ねた。


「ふ〜ん、いいよ。面白そうだし」

黒姫は自身の力を注ぐ。

数値は91%まで上がった。

「となると、あとはきっと私でフィニッシュですわね」

「いや、ボクと同じぐらいなら98くらいで止まるだろ」

白姫が力を注ぐ。

数値は黒姫の予想通り、98%で止まった。

「残りは2%か…一体何の力だろう…」

勇者たちは頭を捻って考えるも、

この世界での属性、色の力は全て揃ったはず…

「そういえば、勇者だけだとダメって言っていたのは、ボクと白姫の力のことを言っていたのかな? 本当にそれだけだったのかな?」

「確かに。何か他の意味も含まれているのかもしれませんね。実際、私たちの力も譲渡していたら、一人で98%までは辿り着けた訳ですし」

「自分には辿り着けない力…? う〜ん…なんだろう…」

勇者は頭を捻る。

せっかくここまできたのだ。

残りは2%…今の全力でも出せば…届くだろうか…

勇者は二人から少し離れて、

今自身に出せる全ての力をもってその珠に魔力を注いだ。

極彩の魔力が天を貫くほどの勢いで伸びていった…

周りはそれを刮目して見ていた。

それは直線の虹が空へと架かったように見えたことだろう。

…表示は微動だにせず、98%のままだった。

「嘘だろ…今のとんでもない力でも増えないの?」

黒姫は驚愕した。

「となると、やはり力の強さでは無いのでしょうね」

「他にも誰かに聞いてみるよ」

勇者は珠を手に、方々を訪ねて回ることにした。

西の大陸にいた魔王たち、エルフ、黄姫、機械姫や幽霊姫、創世樹の少女、無色(虚無)の少女、竜、北の大陸の魔人たち、龍と乙姫…

しかしそれ以上数値が増えることはなかった。

次に東の大陸へ向かうことにした。


もうすっかり暑い季節がやってきた。

火巫女、鬼姫、赤狐姫、緑狸姫は久しぶりに四人で集まっていた。

「こうして東の地で改めて四人で会うのは、なんだか懐かしい気がしますね」

「わっはっは、まだ火巫女が小さかった時を思い出すな! よくこうやって山で遊んどったわ」

「わっちらにとってはそんなに昔の話ではありんせんね」

「じゃあじゃあ、偶には遊ぼうよ〜。姫、久しぶりに勝負したい〜」

「お、珍しくやる気じゃな? 儂もかまわんぞ!」

「いいでありんすね。真剣勝負といたしんしょうか」

「私も構いませんよ。それで、何にします?」

「そうじゃなぁ、じゃあ、干からびたミミズをたくさん集めた奴が勝ちじゃな! ヨーイドンじゃ!!」

「え、待ってください」

火巫女の訴えは誰も聞かず、それぞれがあちこちに散っていった。

「…嘘でしょ…」

まさかこの歳になって乾燥したミミズを集めることになるとは思ってもみなかった。

妖たちとの勝負は日が暮れるまで続いた。

偶には童心に帰る日々があってもいいだろう。


「全員ここにいたんだね」

夕暮れ時、東の大陸を訪れた勇者は四人の姿をようやく見つけた。

「おお! 勇者ではないか! 元気そうじゃな!!」

「あらまあ、久しぶりでありんすね。わっちの山にももっと顔を見せてほしいでありんす」

「そうだよ〜、姫のとこにももっと遊びにきていいよぉ。ああ、疲れたぁ…眠い…」

「勇者さんは勇者さんでお忙しいでしょうけど、里にも顔を出してくださいね?」

それぞれが勇者との再会を懐かしむ。

勇者は事情を説明しつつ、懐から珠を取り出して四人に見せた。

「力でありんすか。ふむ、ではわっちも試してみるといたしんしょうか」

赤狐姫は力を注ぐ、

「儂も儂も!」

ついで鬼姫、

「その次は私ですね」

それから火巫女と続く。

「え〜、姫はいいや…みんなでダメだったらあえて姫がやる意味もないし…めんどくさい…ぐぅ」

緑狸姫は構わず地面に寝ていた。


表示はやはり98%のままだった。


「何も変わりませんね」

「うぬぬ、儂がこれほど鬼火を出しても…ダメじゃな。全く動く気配もせん!」

「…ふむ、確かに力の強さではないのでありんしょうね」

「暗くなってきたし、ひとまずはこのくらいにしておこうかな。続きはまた…」

勇者は大の字で地面に寝ている緑狸姫を起こそうと近づく、

珠が緑狸姫に反応したように思えた。

勇者は緑狸姫に珠をさらに近づけてみる、

「ふぁ…zzんんう?」

緑狸姫に触れた途端、珠は輝きをさらに増して行く。


100%


珠は黄金に輝き、天へと昇っていく。


輝きは遙か上空で更に増し、

一つの星が誕生していた。

空に新たな月が生まれた。


「うわぁ、久しぶりの満月だぁ…お団子食べたい」

寝ぼけ眼の緑狸姫はその月を見てそう言った。


のちにそれを知った勇者の中の神たちはこう考えた、

「つまりアレか? 最後の力ってのは、無力、無気力、諦めの力…みてぇなモンだと?」

「そうでしょうね。確かに、勇者様には縁のない力でしょうから」

「諦めない勇者に諦めさせようとしたんですか? ただの意地悪じゃないですかそれ」

「意地悪というか、単に意地が悪いというか…まあ、神ってそんなモンだしな」


勇者は月を前に、黄姫の元へ向かう。

「そうでしたか…わざわざ、妾のために…そのようなことまで」

「結果的に、二度とも壊したのは自分だったからね。何か、できないかなって」

「ふふ、構いませんでしたのに。ですが、ええ、新しい月の誕生は…とても嬉しく思いますよ。本当に…星としての、月の新生は…まして、それに関わったのがぬし様であるのですからね」

「それなら良かった」

「月の民は妾一人ですが、それも今は、というだけのことです。 …その件に関しても、ぬし様には協力を願いたく思います…ね?」

黄姫は勇者との距離を詰めながら優しく微笑んだ。

「それなら、移民する人たちを集めようか、月へ住んでみたい人たちはきっといるだろうから」

「…そうではないのですけれど、まあ、そうですね。それもまた楽しいかもしれません。月への移住希望者を募ってみるのも、それはそれで良いのかもしれませんね。再び月が繁栄していく様を眺めるのも一興ですし」

黄姫は勇者に寄り添いながら言った。


久しぶりの満月の輝きが二人を照らしていた。

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