勇者の未練 マスコットゴット土神
勇者は土神の神核を懐から取り出すと、それを見つめていた。
「…方法は、きっとあるはず…」
勇者はまず、エルフに知恵を求めた。
その瞳がオッドアイになって久しいが、今、実際どっちなのかは勇者にもわからない。
「死者蘇生の方法? いや、神様だから少し異なるのかな。どちらにしても難題だね。あらゆる年代、時代の術師の議題と言っても差し支えない。それで結論だけど、おそらくは無いね。少なくとも、確実な方法はね」
「やっぱりそうなんだね」
「ただ、それも人であればの話だから。 …なにしろ今回は神様なんだからね。人とは異なった方法でも可能なはずだよ…そうだね、例えば、もう一度召喚してみるのはどうかな?」
「召喚となると…土の国の人たちにもう一度頼むか、あるいは火巫女たちに…いや、姫神子に…」
「知り合いがいて心強いね?」
「神核はこうして残っているとは言っても、魔力はほとんど感じられないから、召喚するとなっても…大変になるかもしれない…今すぐに、と言うわけにはいかないかなぁ」
「まああれじゃない? …とりあえず、地面にでも埋めてみたら? もう試してみた?」
エルフは急に雑になった。
「いや、試してはいないけど…創世樹の少女から受け取ってからは基本的に懐に入れっぱなしだったし」
「まあものは試し、早速やってみようよ、ほら、外へ行こう」
「随分と雑な復活方法だけど…まあ確かに、ものは試しだから、やってみようか」
勇者は地面に穴を開けると神核をそっと埋めて土をかけてみた。
「水は…いらないかな。種じゃ無いからね」
勇者たちは埋められた土を見守る。
「…ん? 何か反応があるよ」
埋めた地面から小さな手が伸びてきた。
「…雑な復活で悪かったですね…」
不満げな表情をした土神が土の中から生まれた。
ただ、サイズが神核より少し大きいくらいの…有り体に言えば手のひらサイズだった。
「…おやまあ、随分と可愛らしいサイズだね。かつての小指にも遥かに届いていないくらいの」
「…今は力が戻ってないので、この大きさが精一杯なだけです。それと、私を見下ろすの、やめてもらっていいですか?」
土神は二人に向かって不機嫌そうに言った。
「…肩にでも乗る?」
勇者はそう提案する。
「仕方ありませんね。今はそれで我慢します。さあ、早くしてください」
勇者は手のひらサイズの土神を手に乗せると、そっと肩に乗せた。
土神は収まりの良い場所を見つけると、その場に座り込んだ。
「まあとりあえずの場所としては、悪くは無いですね。しばらくはここにいますので、後のことはよろしくお願いしますね」
「…ひとまずは、元気そうで安心した。なんでも、試してみるモノだね」
勇者は肩に乗った小さな土神を見て、そう言った。
「何です? あんまりジロジロ見ないでください。私、神様ですよ? 不躾では?」
「…ごめん、気をつけるね」
「…」
それなら離れたらいいのに、と、エルフは思ったが言うのをやめた。
しかし落ちる気配がまるで無いくらいに安定しているね、魔力でくっ付いている?
「まあ、たまにならいいですよ。それからいつでも拝んでくださいね? 私、神ですので。祈りはもちろん受け付けますし、願いもまあ聞いてあげるだけですけど、聞いてはあげますから。時間がある時は話しかけてもいいですよ?」
「…うん」
勇者の肩に小さな神が宿った。肩に土の社ができた。
「…」
なんだかマスコットキャラみたいだ、と、エルフはそう思ったが言わないでおいた。
「さっきから何なんです? 何か言いたいことでもあるんですか?」
「いや、土神が復活して、勇者がすごく喜んでいるなぁって。そう思っていただけだよ」
「へぇ、そんなに寂しかったんですか? そんなに嬉しいんですかぁ?」
土神はイタズラっぽく笑う。
「すごく嬉しいよ。本当に」
勇者はまっすぐに言った。
「っ! …ん、んん。ま、まあ? わ、私も復活できて嬉しい? と言うか、また会えて嬉しいというか、えと、んんっ。まあなんでも無いですから」
「…恋愛の防御はペラッペラなんだね」
とエルフは思ったが、言わないで
「聞こえてますけど。そんなんじゃ無いですから! 私は別に! 他の神と一緒にしないでくださいね」
土神は軽く舌を出してそっぽを向いた。
それでもそれからしばらくは勇者の肩を降りることはなかったと言う…
 




