自称聖剣(自称)
ある森の魔女の家の一室にて。
白姫と黒姫はようやく乾いたお互いの衣装に着替えていた。
お互いの馴染んだ服を着込みながら、自然と会話が始まる。
「あなた確か武器持ってましたわね?」
「ハンマーのことか? 持ってくるの忘れた、何も持たないで飛び降りたから」
「考えなしとはまさにあなたのような人に対して言うのですわね」
「お前だってそうじゃないか、武器も何も持ってない」
「当たり前ですわよ。突然城が崩壊したら何も持っていく暇なんてありゃしませんわ」
「いや、戦っていたなら何かしら持っているだろ?」
「…それどころじゃなかったんですのよ」
何しろとてつもない振動と破壊で何が何やらあっという間に崩壊したのですから。あれ何なんですの一体。
「まあ確かに、どこかで武器を調達しておきたいな。できればハンマーがいいけど。斧とかでも、まあ、なんでもいいから」
「わたくしは杖ですわ。補助魔法と回復魔法は得意ですので」
「ふ〜ん、そうだったっけ」
「まああなたもわたくしの城には来たとこがないでしょうし、お互いのことを知らないのは仕方ありませんわね」
「まあそうだな、ボクは今のままでもある程度戦えるけど、お前は今その得意な魔法を使えるのか?」
「…杖が必要ですわね、魔力を高めるためにも。できないこともないですけれど」
「じゃあ戦えないのか」
「あなたと違ってわたくし自身が戦う必要がなかったもので」
ふとテーブルの上に目を向けると、剣がおいてある。
「あれって、あの方の武器ですわね?」
「そうだな、まあ水汲みには必要ないんだろうな、それとも、念のため持って行ったほうがいいかな…」
「…不思議な剣ですわね、少しだけ…」
白姫は何となしに剣を手にしようとする。
「…えっ、あれっ、全然持ち上がりませんわ」
剣はビクともしない。
「いや、どう考えてもおかしいですわよ。この重さ、というより、まるで張り付いているような、この、ぬぐぐぅ」
次第に顔が赤くなっていく。
「情けないなぁ、そんなに非力でこれからどうするんだ。まあボクに任せてみなよ」
黒姫は自信満々で剣に手を伸ばす。
「ボクが…って、重っ。ぐっ、んっ、何だこれ重いぞ、んぅ、ぐぐぐぅ…ビクともしないぞ」
「いや幾ら何でもおかしいですわよ、あれですか? 本人以外装備できないとか、そう言うのなのかしら?」
「それはわからないけど、でも、この重さは異常、何なんだこの剣」
ふたりは持ち上げるのを諦めた。
(主以外に持たれてたまるか、まったくこれだから礼儀も礼節もわきまえていない人間は…)
「今、何か言いました?」
「何も、でも確かに何か聞こえた」
(あ、ようやく声が届くようになったんだ。これで主とも会話できるかな、できるといいな、やっとだもん)
「あるじ? って、あの方のことですわね? それと、話せる剣なんですのね、珍しいのかしら?」
「どうだろう、少なくともボクは知らないな。初めて見る」
「話ができるのなら、もう少し軽くなりませんこと? そうすればわたくしも持てるのですけど」
(ふんっ、何で。私はあるじのための剣だし、あるじ以外に持たれたくない、その必要もない。そもそも剣を扱えるの? すごく無理そうなんだけど)
「…まあ確かに、仮に持てたとしても、お前に剣が扱えるとはボクにもとても思えない」
「どっちもうるさいですわよ」
「ただいま、水汲みおしまい、あとは少しゆっくりできるかな」
「おかえり〜」
「…おかえりなさいませ」
「二人で誰かと話していた?」
(おかえり〜 あるじ〜)
「ん? あれ、今の声」
「それですわそれ」
(あるじ〜、ようやく話ができるようになったみたい。よかった〜、ずっと話しかけてたんだけどね。もう。私寂しかったよ〜。魔力が霧散していたのかな、ようやく整うようになってきたの。慣れてきたのかな?)
「え、この剣って話せたのか…」
(ひどいよ〜、ずっと一緒だったじゃない〜。今までも、あるじとはこれからもずっと一緒だからね〜、ほんとは他の誰にも触られるのも嫌なんだからね? どんなに重くなっても持ってくれるあるじ大好き)
「…まあいいか」
「へぇ、会話できる剣なのかい? 珍しいねぇ、まあ、でも全く無いわけでも無いし。珍しいことは珍しいけれどね」
「それと重さを変えられるみたいですわね」
「ほぉ、それは面白いね。少なくともこれまでにそういった剣を見たことはないし、聞いたこともないなぁ。どのくらいまで重くなれるんだい?」
(どこまでもなれるよ。あるじが望んでくれるのなら、羽のように軽くだってなれるんだから、際限なんて決めていない。あるじが望むのなら、どこまでもどこまでも)
「これまた色々な意味で重いみたいだねぇ、でもそうか、ふぅん、仕組みは魔力? う〜ん、でもよくわからないな、少なくともここの魔力とは何か異なっているようだし、重量を操る剣、グラヴィティソードと言ったところかな、でも面白いね。君はずっとこの剣を?」
「…たぶん、そうだと思う」
「違う武器を扱ったりはしないのかい? 剣以外も使えそうに見えるけど」
「できないことはないと思う」
(必要ないよ、あるじには他の武器なんて必要ない。いらないよ、いらないいらない。私がいれば十分、そうだよね? ね?)
「なんか怖いぞ…」
「ねぇこれ呪われてたりしないですの?」
「…それは…わからないね。でもまあ、本人が良いならそれでいいとしよう」
(あるじ〜、退屈。薪割りしよ? 私も頑張るから〜。一緒に、ね? いいでしょ? ねぇねぇ)
「そうだなぁ、良いかな?」
「もちろんだよ、私としても助かるし、どんどんやってもらって構わないよ」
「それじゃあ、少し動いてくるか」
(やった〜、あるじと共同作業! 共同作業!! 私がんばっちゃうぞ〜)
剣を手に、外へと向かう。
「やっぱりどちらかというと…魔剣のたぐいですわね」
「…そうかもねぇ」
三人は生暖かい目で見送っていた。