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雷霆

呪いの霧が晴れたこともあり、土の国で起きたことは風のエルフを通して勇者たちにも伝わった。

「空が急に暗くなったのも…原因は同じだね。土の国には創生樹の少女の姿は確認できているけど、土神の姿はどこにも見当たらない…」

エルフは尋ねる。

「…消えちゃいました。ごめんなさい…せっかく、土神さんとも、お友達になれたと思ったのに…もっと…」

少女はその手に、大切そうに土神の神核を持っていた。

「…虚無がどこにいったかわからない以上…気をつけないといけないだろうけど」

「この地にもう用はないって、言ってました。それを信じていいのかは分かりませんけど…それに次、どこへ現れるのかまでは…」

「この空も虚無のせいだろうし…呪いの霧に包まれると、こちらからは何も見えないし…厄介だね」

「私はひとまずここに残ります。土の国、草の国の人たちを守らないと…土神さんのためにも」

「うん、今はとりあえず、その方がいいかもしれない。何かあったら、また連絡するよ」


魔王城にて、痺れを切らして迎えを出したことで、魔王たちは魔界から戻ってきていた。

「…うむ、そのような事態になっておろうとはな。さすがの我たちも急いで戻ってきたわ。母上の扱きに耐えたことで、我らの力は前より大分上がったとは言え、どのくらい通用するのかはやってみるまでわからんな」

「それで、私たちはここを守っていればいいの?」

「そのうち勇者たちが姿を現すだろうから、魔王と吸血姫の二人は、その魔力を勇者に分け与えてもらいたいんだよ」

「我らの力を勇者に? 理由は?」

「勇者に本来の力を出してもらうためにね。なんでも、勇者や黄姫が言うには、極彩色の魔力とか言うものをさ。赤は魔王、紫は吸血姫の魔力のようだからね」

「ほぅ、それは興味深いな…まあ、いいだろう」

「私もまあ、別に…」

私の魔力を勇者に? それってなんか少し…えっちなんじゃない?(全然違う)

「黄は黄姫がすでに、青は乙姫、橙は私。君たちを訪れた後、今の草神というか、創生樹の少女に会いにいってもらうから。彼女もまた、緑の魔力を担当しているからね。六色と、本当ならできれば六属性の魔力を、ね」

「あ、その話ですけど。おそらく虚無もそれに近い魔力を使ったと思います! あの魔力は、普通のものとは明らかに異なっていましたし!」

魔王たちとの会話に混ざる創生樹の少女。

「…それは、相当に厄介だね。かつてその身に受けた魔力、自身を滅ぼした力を吸収したということなのかな」

…となると、うまくいったとして…それでも良くて互角、と言ったところ…

「それについては少し考えがあるんだ」

特訓していた勇者たちが戻ってくる。

「特訓は無事に終わったのかい?」

「まあね。あとは、実戦あるのみだね。ボクと勇者の、特訓の成果は、その時にでも披露するよ」

「ひとまず、勇者には作戦通り、各魔力を得てもらうよ。すぐに向かうかい?」

「ああ、そうするよ。魔王たち、それから創生樹の少女。 …姫神子の方は?」

「連絡はついた。ひとまず、彼女が行おうとしている召喚は止めてもらっているよ、君が行くまでは…それでいいんだね?」

「まずは、こちらでやれることをやってから。彼女が犠牲になる必要は無いよ。試してみたいことがあるからね」

勇者と黒姫は竜の背に乗り、魔王たちの元へ、それから創生樹の少女の元へと向かった。


「土神がやられたってのか。そんなやわなヤツじゃなかった、その虚無ってヤツはそんなに強ぇのか?」

「はい。話によると、この地を訪れて力にもなってくれていた、巫女たちからは無色ちゃんと呼ばれていた少女みたいなんですけど…あの子が虚無だったなんて…」

「呪いに対する耐性やら吸収やらはそれで納得はいくでありんすね。本体なのか、それとも、分身のようなものだったのかは、わかりんせんけど」

「きっと操られているだけじゃ! …儂はそう思っとる。儂のかかさまを救ってくれたんじゃ。悪いやつのわけがなかろう!」

「鬼姫ちゃん…うん、姫も、あの子は悪い子じゃなかったと思うな」

「しかし、現実として、姿は変わっちまったが、土神を倒したのは事実だろ? それから今のこの気持ちわりぃ空だって、ソイツがやったのに間違いはないだろうぜ。 …部分的に穴は開けられるが、これだけの規模の…呪いってヤツを消すには、相当な力が必要だぜ。今のアタシにゃそこまでは出来ねぇな」

「…前に召び出せた…勇者さんの中にいた神様なら、もしかしたら…」

「…へぇ…そんな(ヤツ)がアイツの中にいんのか? …氷神だけじゃねぇんだな。ホント面白いヤツだぜ」

「多分ですけど、もっとたくさんいると思います。勇者さんの中には。 …複数の神様が」

「はっ、そんなに加護を受けてんのか? まあ、アタシも少し分けてやったが…それにしても、アイツの雷は大分痛かったな。あの雷、ただの雷じゃねぇな。あれも神が加護でも与えてんのかも知れねぇな」

「雷…ですか」

「ああ、何本も極太のヤツを容赦なく打ち込んできやがって、流石に堪えたぜ。お、噂をすれば、本人じゃねぇか。ようやくお出ましか。準備ってやつはちゃんと進んでんのか?」

「うん、今のところは順調だね」

「ご苦労なこった。それで、肝心のヤツは見つかったのか?」

「…どこにも。ただ、対抗する手は…大分揃ってきたと思う」

「ほぉ…確かに。オマエのその魔力。前より少し変わったな?」

「この地にある、六色の魔力を得られたからね。 本当は、土神の加護も受けようと思ったんだけど」

勇者は土神の神核を手にしていた。

「やられたってのは、本当だったんだな。 あれだけデカかった姿も魔力も、すっかりとまあ随分と小さくなっちまったモンだ」

「…そうだね」

「神ってのはそう簡単に死にゃしねぇよ。神核それがあるなら、まだ可能性はあんだろ」

「そうかな…そうだといいけど」

「ま、どうやったらいいかなんてのはアタシも知らねぇ。せいぜいのとこ、祈るぐらいしかねぇな」

「…」

「で、オマエの用事ってのは?」

「火巫女たちを連れにきたんだ。四人とも、一緒に姫神子の元に行くためにね」

「アタシはここに残れってか? …まあ、約束は約束だ。仕方ねぇ。せいぜいのとこ、ここを守っていてやるよ」

「ありがとう、助かるよ」

「アタシにも何か礼でも考えておけよ? もちろん神に対してのとびきりの礼をな」

「考えておく…それと、これから行おうとしていることに対して、君も成功を祈っててね」

「はは、神が人間に祈りを? いいぜ、面白ぇ。オマエの成功を、祈っといてやるよ」

勇者は火巫女、鬼姫、赤狐姫、緑狸姫を竜の背に乗せて姫神子の元へと向かった。

「六人乗ってるけど、重くない?」

ー心配は無用。このぐらい、私にとって、どうということでもないー

勇者の心配をよそに、竜は難なく飛んでいく。


姫神子は勇者たちの到着を待ち、儀式の最終準備をする。

巫女たちもまた慌ただしく動いていた。

結局のところ、六属性全ての神は揃わなかった。

それでも…

私は、私にできることをする。

「それじゃあ、始めようか」

火巫女の舞、鬼姫の鬼火、赤狐姫の狐火、緑狸姫の狸囃子。

そして姫神子の祈り。

勇者は中心で瞑想をする。

深く、深く。

己の内部に在る神を召喚するために…

勇者は前に氷姫に尋ねたことがあった。

自身の内部には、氷姫の他にも神様がいるのか? と。

氷姫は言った。

「私よりも大分深いところにおられるようですね。言ってみれば私は新参者ですし。それも仕方のないことなのでしょうけれど。お近づきになりたくも思いますが、私にとっての最優先は勇者さまですので…ただ、他にも複数いらっしゃるのは間違いないと思われますよ。氷、火、雷、など…」

この大陸に来てからの記憶は風のエルフの助けもあって思い出すことができたが、それ以前、この世界に来る前の記憶まではその全てを思い出せてはいない。

東の大陸で召び出した神様といい、どうやらその縁はそれ以前のことであるらしく、今はまだその全てを知ることは無いのだが…それでも…呼び声に応えてくれる事を祈る。

…今はそう、信じるしかない。


大陸の中央に魔力が集まってきた。


元は、六属性の頂点として、

この世界の創造神を喚ぼうとしていた。

姫神子は自身の命をかけて、それを成そうとしていた。

欠けた六属性の力は勇者が肩代わりを。

喚ぶべき神もまた、勇者の内から…

姫神子はその分祈りを捧げる。

今までのように、変わらない祈りを捧げる。

全ては、この世界の安寧のため…

大いなる災厄に対抗し得るため…

そしてそれはエルフによって伝えられ、世界各地でもまた人々が祈りを捧げていた。

種族を越えて、老若男女隔たりなく、全ての存在が祈りを捧げていた。

神さえも祈った。


そして、ついにその声に応えた。


「…私を喚んだのは…ふぅん…随分と、重苦しい空だこと…」

黄金に輝くその魔力に、髪、そしてその碧眼は祈りを捧げるものたちを冷たくも優しく見ていた。

その手には雷霆が握りしめられている。

「あ、あなたは…」

姫神子はその存在のあまりの神気に気圧されていた。

あまりにも濃い魔力。雷と光。

目を閉じているのにその輝きが見えるほどだった。

「ああ、私を喚んだのはあなたたちね。それから、そこの勇者。すっかり私たちのことを忘れているようだけど。何? 眠っているの? この完全で完璧な私を前にして? …まあいいわ。私の雷、もっと上手く扱って欲しいものなのだけど。まあそれも、人の身ではよくやっている方かしらね」

その身からは魔力と自信が輝き溢れ出ている。

「それで、私に何か頼みでもあるのかしら? 聞くだけなら聞いてあげなくもないわ」

じわじわとその尊大な態度が滲み出てきていた。

「この世界を包んだ…大いなる厄災を、その存在を…」

「厄災? それってこの野暮ったい空のこと?」

「…それも関係があります」

「まあ、確かに薄暗くて野暮ったくて嫌な空だものね。輝きが足りていない、私を讃える輝きが足りていないわ。いいでしょう。ただ、何もかもを手助けするというのは私の教義に反しているから…そうね。この暗い空に輝きを。私が手を貸すのはそれだけです。構いませんね?」

「…はい」

そのあまりの圧と力に姫神子は頷くことしかできなかった。

それは周りの誰であってもそうだったことだろう。

「ふふ…私の雷霆の力、見せてあげましょう。そこの勇者も、眠りながらでもよく見ておくように、せいぜい学びなさい」


完全で完璧を自称する女神は淀んだ空へと上っていく。

そして、雷霆を手にしたまま高く掲げると、それを握り潰した。

凄まじい雷が上下左右へ走る。

星を覆い尽くすほどの規模で黄金の線が無数に伸びていった。

轟音と振動が星全体を揺らした。

「…後は、あなたたち自身で…それから、ええ、美しい祈りでした。 …私は美しいものが好きです。良いものが見れました。 …それでは」

女神は微笑むと空から姿を消した。

「…なんだあの雷は…バケモンもバケモンだろ。 …あんなモンまともに受けたら星だって簡単に消えちまうぞ」

遠くからその様子を見ていた火神は静かに驚愕していた。


女神が消えると、空を覆っていた呪いの雲もまた、全て消え去っていた。

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