黒白姫 土草の神と虚無の対決
再び虚無が目を覚ましたことに対抗するべく、勇者たちはそれぞれで話し合いを続けていた。
白姫はその重い腰を浮かせ、勇者と黒姫を呼び寄せる。
「ようやくわたくしの…いえ、わたくしたちの出番のようですわね」
「何を言っているんだ?」
黒姫は冷静に言う。
「ええ、黒姫さん、ついに…その時が来たと言う訳ですわ」
「だから何を言っているんだ?」
「お忘れですか? わたくしたちはもう一人の勇者として、この地へ生まれたという事実を…まさか本当にお忘れではないですわよね?」
「その話はもう終わったんじゃないのか? だってもうボクたちの空の城は関係ないだろうし。白姫が自分で全部消し飛ばしたんじゃないか」
「消し飛ばしたとか、人聞きが悪いことを言わないでくださいまし。まあある意味では事実ですけれども。還ったと言ってくださいまし。それで、わたくしと黒姫さんが、ついに一人になる時が来たのですわ」
「一人に? ボクと白姫が?」
「まあ、あれですわ。今回は黒姫さんにお譲りします。ええ、後はそう…黒姫さん次第ですわね。自らの力を覚醒させてくださいまし。その手段ならそこで黙って聞いてるわたくしたちの騎士がすでにご存知でしょうから。ええ、そうです。以前の、わたくしの時と同じように、その力を受け渡していただければ、そのきっかけをつかめますわ」
「あの時の白姫と同じ…と言うことは、自分の魔力を黒姫に流せばいいのかな?」
「ええ、それでよろしいかと。では、わたくしはお先に」
白姫は光となって黒姫の中へ入った。
「うわ、またこれ? でも…前とは何か…少し違うような…」
「当然ですわ。今回のわたくしは特に消えかかっているわけではありませんし。だから言ったでしょう? わたくしたちは、二人で一人の勇者なのですわ。さしずめ、そうですわね…今回は黒白姫、と言ったところでしょうか。それでは、あなたの中で、健闘をお祈りしていますわね」
…どうやら黒姫さんは今回の件で責任を感じておられるようですし。
「ああ、勘違いなさらぬよう、決して動くのが面倒くさいからと言うわけではありません。それでは、今度こそ本当に…」
黒姫に、白姫の声は聞こえなくなっていた。
「…本当に黙っちゃったぞ…で、ボクはどうしたらいいの?」
「白姫と同じなら、さっき言った通り、魔力を流せばいいはずだけど…でも、何が起こるかわからないから、念の為、外に…広いところへ行こう」
黒姫と勇者の二人は町から離れて広場へと移動していった。
「黒姫、手を」
「う、うん。 …こうやって改めて手を繋ぐと…なんだかちょっとこそばゆいね」
(手を繋ぐくらいで、今更何を照れているんですの?)
「う、うるさいな。黙っているんじゃなかったの?」
(誰もそのようなことは言っておりませんわ)
「…やっぱり自分で動くのが嫌だっただけだろ…」
(いいえ、決してそのようなことはございません。ですが、ほら、早く)
勇者は自身の魔力を黒姫へと伝えていく。
暖かい魔力の流れが黒姫を包み込んでいった。
「…あ…」
勇者の魔力は黒姫の内部にある黒い魔力と結びつき、広がっていった。
「…どうかな?」
「うん…確かに…何か、うん。今までとは違う魔力を感じるね」
(それですわ。後は黒姫さん自身で、その魔力を扱えるようにならなければなりません。わたくしのように。ええ、わたくしのように)
「2回言う必要ないだろ? 白姫はいつの間に扱えるようになったんだ?」
(ふふ、わたくしだって、あれからただ何もせずのんびりと日常をおくっていたわけではありません。無色の少女と森のエルフさんが特訓をしている傍で、わたくしだって一人研鑽に励んでいたのですわ)
「ただの無職じゃなかったんだね」
(誰が無職の少女ですか! こほん、さて…先ほども言いました通り、後は黒姫さん次第ですので、頑張ってくださいましね?)
「…うん、わかったよ。それじゃあ、うん。もう少し、続けよう」
黒姫と勇者の特訓は続いた。
土神は気を張っていた。
風の国のエルフの連絡によると、なんでも虚無とか言う得体の知れない存在が目覚めたらしい。
それによって火神は東の大陸へ向かったようだったし、
草の国の民たちはこの土の国へと避難してきていた。
「ご迷惑をおかけします! どうぞよろしくお願いしますね!!」
騒がしい草神と共に。
「いえ、大変なのは民たちですので、私は別に今までと変わりませんし」
「そうですか! ありがとうございます!!」
とても元気の良い、騒がしい少女だった。
創世樹と名乗っていたが、どうもこの星の創生にも関わっているらしい。
見た目は少女ではあったが、けっこうしっかりとした神様なのかもしれない。
「そうですね! 私は二代目なんです! 初代様は今噂になっている虚無によって滅ぼされてしまったんですよ!!」
「…へぇ」
少女は簡単に言っているが、つまりは仇、と言うことなのだろうか。
「だったら…敵討ちしたいんじゃないですか?」
「う〜ん、どうでしょうか? 実際に見てみないとわかりませんね! 私の考えでは」
話は途中で中断される。
「何です? これ…霧?」
次第にその霧は深くなっていった。
「何でしょうね? ただの霧ではないような…それに、とっても良くない感じがします!」
「…確かにそうですね、ん?」
いつの間にか見慣れぬ女性が立っていた。
「…やっぱり、私の力…持っている…ね。 それ、返してもらうね?」
女性は土神を指差してそう言った。
「誰です? あなた」
力? それより、こんなに接近するまで全く気づけなかったなんて。
「あなたが、噂の虚無です?」
「…そう。だからあなたのその力、返してもらう…」
虚無は土神へ触れようと接近する、
その間を割くように地中から突然伸びた巨木が遮った。
「…姿は変わりましたけど、やっぱりですね。 …でも、私が…あなたを止めますから!」
「…私の邪魔、するの?」
「当然です! こんなことしちゃダメですよ!!」
「よくわかりませんが、あなたが例の虚無で…私の敵だと言うことはわかりました」
土神は自身と拳を硬化させて構えた。
「遥か彼方までぶっ飛ばしてあげます!」
「…大きな、的だね…」
虚無はそう言って、薄く微笑む。
指先から魔力の線が放たれる。
「っ!!」
私の防御を貫通した?!
「大丈夫ですか!」
「…これぐらい、心配無用です、かすり傷みたいなものですし。すぐに元通りですから」
土神は警戒する。魔力で固めた自身の装甲をこうもいとも容易く貫通した魔力の線…
自分たちの属性の、そのどれにも当たらない…いや、あるいは…その、全て?
「…的が大きいから、狙いやすい…次も、外さない」
指先を土神へ向ける。
「そう簡単にはいきません!!」
視界を遮るかのように大地からさまざまな植物が急速に芽吹いた。
そしてその花々から胞子が飛び、虚無を包み込んでいく。
「…毒? でも……」
虚無は難なく吸収していく。
「むむ、やはり眠りや麻痺はきかないですか…関係なく全部吸収されるのは、困りますね!」
「打撃もあんまり効果ないみたいだし…私にとって、本当、面倒くさい相手」
「…これが、本番…」
そう言うと虚無は、今度は指先ではなく、その手のひらを構えた。
手のひらから何かが放たれようとしたその時、
虚無が纏っていた魔力は、
極彩色の魔力だった。
「何、この魔力?」
土神は瞬間的に全ての魔力を防御へと変える、
「この魔力は!! 避けてください!!」
「!!」
極彩色の長い筋は土神の胸を貫き、決して小さくない穴を空けた。
「…まだ! このくらいで…私は…」
「…返してもらうね?」
その隙に接近した虚無は土神の空いた内部へと…そして手がその核へと触れる。
「…あ…」
土神の体は外側から崩れていった…
「ああ!! ダメです!!」
その様子に焦りながらも生み出した大地の根で崩壊を防ごうとするも、構わずに崩れていく土神…
「それなら!!」
複数の茨を伸ばし内部にいる虚無を捉え、その核から引き離し遠ざける。
「…もう、いい…これで…ここにはもう、用は無い」
そう言う虚無に魔力を吸い取られて崩れ落ちていく茨と、土神の巨体。
巨大な土煙の後、そこに残ったのは土神の神核を手にした創生樹の少女だけだった。
再び深海へと身を隠した虚無の体から、呪いの魔力が吹き出していく。
それは無数の柱となって海から地上へと昇っていった。
虚無から噴出する呪いは、この星の空を覆っていく、
星の全てを飲み込もうとするかのように…
 




