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東の大陸 鬼たちの布きれ

勇者たちはそれぞれ法螺貝によって呼ばれたイルカたちの背に乗って北の大陸から東の大陸へと戻っていく。

「速いでありんすなぁ、一人のり、というのが少し残念でありんすが」

「でも、これなら東の大陸にすぐにつきそうですね」

「わはは! 爽快じゃ! もっと飛ばしても良いぞ!! わははは!!」

「あれ、緑狸姫ろくりひめは?」

「あやつはだいぶ後ろじゃな! あやつだけ違っとったし、まあ大丈夫じゃろ!」


「ま、待ってよぉ〜」

あねさん、そう急ぐこたぁねぇぜー

「…ねえ、姫だけ他の子と違わない? あなたは…その…」

ーおいおい、心配すんなって、俺だって泳ぎは大したもんよ、なりだって強そうだろ?ー

「それは…うん…そうだね、目が怖いけど…すごく…怖いけど…」

ーおいおい、嬢ちゃんをしっかり見守るためだぜ? 安心しな、目、離さねぇからよー

「うん…ありがとう、ございます…」

緑狸姫をのせていたのは大きなサメだった。その瞳は闇のように暗く漆黒だった。

ーあ、なんか腹減ってきたな……肉喰いてぇ…ー

「ひぇっ」

狸は尻尾を爆発させて怯えた。

やっぱり狸になって勇者さんに張り付けばよかったよぅ…


「それにしても、やはり魔人はんたちに頼む必要はありんせんでしたね」

「そうですね、せっかくの申し出でしたけど。 …しかし驚きましたよ。勇者さん、北の大陸ではあの方達と、ずっとご一緒で?」

「魔人と暮らしとったんじゃな!! 懐が深いの! さすが儂の勇者じゃ!」

「まあ、うん。そうだね」

鬼姫と他の二人には微妙な温度差がある気がした。

戻る前に魔人たちの家に寄った時も二人は同じような感じになっていた気がする…。

ただの気のせいかもしれない。

まあ、魔人たちに運んでもらう手も確かにあるのかもしれない。


「姫神子の召喚のことだけど、火巫女はその話を聞いてかなり危険だと思う?」

「安全、とはいかないでしょうね。まして、規模が規模ですし。同じ巫女として言わせてもらうと、その体への負担は…相当あると思われます。何人で行おうとしているのでしょうか」

「話しぶりからしても、姫神子一人かな、あるいは、周りの巫女たちも手伝うのかもしれないけどね」

「…私のように、仲間たちの力を借りたとしても…それだけの規模の召喚は今まで聞いたこともありませんし…姫神子さんは、自身の全てを使うつもりなのだと思います」

「…やっぱりそうなんだね」

「神への人身御供は珍しくはありんせんが、必ずしも望んでいる訳ではないでありんしょう。ただ、それによって世界を救えるというのなら、立場、役割の上でも、姫神子はんはその道を選ぶのでありんしょうね」

「…大陸の、姫神子としての立場か」

自分自身の、命をかけても…

自分もまた形は違えど、同じなのかもしれない。

でもそれだからこそ、何か力になりたいとも思う。


東の大陸 海岸


「久しぶりでありんすなぁ、それでは、わっちはひとまず自分の山へ戻るといたしんしょう。大分留守にしていたので、きっとみんな寂しがっているでありんす」

「うぅ、疲れた…姫も戻るぅ〜。ああ、やっと地元の山に帰れるよぉ…」

「それでは、私も、里へ戻りますね。留守の間中、ずっと黒姫さんたちに任せきりでしたから。勇者さんも、時間ができたら顔を見せに来てくださいね」

「そうだね、黒姫たちにもだいぶ、会っていなかったから」

「よし、じゃあ儂の山へ行くとするか!! ばばさまに会うのじゃろ?」

「うん、行こうか」

それぞれがそれぞれの地へ帰っていった。


大鬼山


「姫様! おお、お元気でしたか! ええ、俺たちんとこは特に何もねぇですよ! 実に平和そのものでしたぜ。他んところも、西の大陸から来たお嬢さん方がうまく対応してくれてたみたいで。今は充分、平和でさぁ」

「お嬢さんとは黒姫たちのことじゃな? うむ、さすがじゃのう。儂が見込んだものたちなだけはあるな! そうじゃった、ばばさまは今おるか?」

「へぇ、婆さまでしたら、いつもの部屋におりますぜ!」

鬼姫とともに、その婆さまの元へと向かった。


「婆さま、儂じゃ! 儂がきたぞ!」

「あんれまぁ、見ない間に、随分と、大きくなったのう。ほうほう、それでそっちは…おやまあ、人間かい? こんなとこまで来るとは珍しいねぇ。ああ、勇者ねぇ、姫ちゃんが良く言っとった…うむうむ、なかなか良い男じゃのう! もうちょい近くに来てくれてええぞ」

「初めまして、いつぞや訪れた時は挨拶できなくて…」

「気にするこたぁない。もうちょい近くに来てもええぞ?」

鬼の婆さまは若い男が好きだった。


「いきなりじゃが、婆さま、儂ら風鬼かぜおにさまに会いたいんじゃが、どうすればいいのじゃ?」

「ほんに、いきなりじゃのう…風鬼かぜおにさまは、雷鬼かみなりおにさまとともに、とうの昔におらんくなったものじゃぞ」

「そこを何とかして! …ならんかの?」

「ここに、何かまつわる物が残っていたりはしないかな? なんでもいいんだけど」

「ふぅむ…ちょっと待っとれ…儂の蔵に…何かあったかのう…これは…違う、これも、違う…ただの腰巻きか…もっと奥か…儂ら鬼族の代々の蔵ならもしや…むむ、ああ、これなんかどうかの?」

婆さまは布の切れっ端のようなものを手にしていた。


「なんじゃそれ、儂にはただの布の切れっ端に見えるがのう。それが一体、風鬼さまたちに何の関係があるのかのう?」

「いやいや、ただの布っきれなどではないぞ…確か、儂がまだ幼子だった頃に、儂の婆さまからもらったモンでの…何でも婆さまも幼い頃にその婆さまからもらったようなんじゃが…」

「おお、代々伝わる布きれじゃったのか。 …でも、婆さまの婆さまとか、どれだけ古い布っきれなんじゃ? それでこんなに黄ばんでおるのか!」

「元は白かったらしいがの。まあこれが、かつて風鬼さまの持っていたという、袋の布の一部と聞いておる。ほれ、手にとってみてみるがよい」

その布を受け取る、かなり小さい布きれで、本当にただの切れっ端のように見える。


「それでいけそうか? なんかすごく小さすぎる気がするのじゃが!」

「そうだね、でも、何か、きっかけにはなるかもしれない。借りていっても構わないかな?」

「ええよ。遠慮せず持っていきんさい。そうじゃそうじゃ、これもついでに見つけたのじゃが、持っていくといい」

「…ありがとう。これは?」

もう一片の布きれだった。今度は真っ黄色だった。

「何じゃったかのう、そっちは雷鬼かみなりおに様にまつわるもんじゃった気がするが…忘れたのう。まあ持っていきんさい」

「婆さま! ありがとうなのじゃ! また来るのじゃ!」


「儂はひとまずこの山にしばらくいることにするぞ! かかさまとととさまに会うのも久しぶりじゃからな。儂に何か用があったらいつでも来てくれていいぞ!」

鬼姫は家族の元へ戻る。

鬼たちと鬼姫の両親に挨拶を済ませると、火巫女の里へと向かうことにした。


火巫女の里


「ああ、勇者さま、お久しぶりです!!」

火巫女の元へ向かう道中、里にいた巫女の一人に声をかけられる。何度か顔を合わせたことのある巫女だった。

「あれから、だいぶたったね、体は、もう元気になった?」

「はい! おかげさまでもう完全に! それにしても、無色ちゃんたちは本当にすごいですね、私たちも助かってます」

「むしょくちゃん? …ああ、なるほど、無色の少女のことか。あの子が何か?」

「無色ちゃん、呪いに触れてしまった人の治療ができるんですよ。前は違うものと一緒に吸い込んでしまったりもしていたんですけど、今では生命力を吸うこともほとんどなくなって、里の人たちはみんな、感謝しています。それから、黒姫さんや黄姫さんも良く働いてくださって、本当に、この里の一人として、大感謝ですよ」

「それは…すごいね。いつの間にかそんなことまでできるようになっていたのか…それで、黒姫たちの姿が見えないけど、もしかして今はどこかに出かけている?」

「確か、三人とも今はかなり北の方まで遠征していると思われますね。戻ってくるのは、まだしばらく先になるかと思いますけど」

「そうか、それなら…まずは火巫女のところへ行くとするよ」

「はい、勇者さんも、元気そうで良かったです。いつでもまた来てくださいね」

「うん、君も、元気で」


火巫女の部屋


「この布が、そうなのですか。見ただけでは分かりませんね」

「うん、鬼の婆さまが言うには、ただの布ではないことは確かだろうけど」

「むむ、そうですね。この小ささなのに、どちらも魔力の残滓のようなものが確かに感じられますね…どちらも、大分、小さいものですけど」

「召喚できるまでには至らない、かな?」

「ううん、どうでしょうね。その、足がかりにはなるかもしれませんけど…やっぱり足りない気もしますね。もう少し大きければ、あるいは…」

「再生できれば、か…」

「ええ、そうですね。足りない部分を再生できたのなら…でもこれだけの過去の遺物ですからねぇ。それも簡単ではないかと思われます」

「…再生、復元…」

復元といえば、確か今の風の国の風神(かぜかみ)ことエルフは過去から、ある意味では、現代に再生…復元したとも言えるのではないのだろうか?

…風の国、か。

確かエルフたちの栄えている国と聞いていたけど…まだ実際には訪れてはいなかった。

…行ってみようか。

「勇者さんは、これからどうされるのですか? もし何でしたら、ここに滞在していただいても…」

火巫女は控えめにそう提案する。

「…戻ってきたばっかりだけど、試してみたいことができたから、これからまた北の大陸へ行くよ」

「ええ?! …そうですか。はい、わかりました。あ、いえ、なんでもありません。 …黒姫さんたちが戻ってきたら、そう伝えておきますね」

火巫女はあまりのとんぼ返りに驚いていたが、快く了承してくれた。


風神たちの布きれを手に、再び北の大陸へ…

風の国、エルフたちの栄える国へと向かうことにした。

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