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白と黒の姫  作者: こうじ
4/5

西の森の魔女

なんだ一体、海の方からとんでもない魔力反応だ。

それにあの爆発音。

だいぶ遠いのに振動がこの森にまで届いたぞ。

…気になるな。気になる。

「うん、ちょっと見にいってみよう」


一応準備はしていくか。

危険があってもまあ対応できるだろうけど。

古びた杖と帽子を手に取る。

森を抜けるのは久しぶりだ。

それより何より、家から出るのが久しぶりだった。

「一体何があるのかな〜」


森を抜け、海辺へとたどり着く。

…珍しい、人がいる。

それも三人も。

それに、三人ともただの人間じゃ無いな。

見たところ男一人、女二人か。

あの女二人も普通の人間じゃない、でも、いや、それ以上に…

「何だあれ、何の冗談だ?」

あの男の魔力量、あれ私より普通に多いよな?

見た感じは戦士職っぽいのに、何だ? それとも実は魔法職か? 

…だとしても、私より多い人間なんて今まで見たこともないぞ。

「さてさて」


興味深い。

危ない人間たちの可能性も無くは無い、

でも、それ以上に興味深い。

…こちらから出向くとしようか。


「こんなところに珍しいこともあるものだね、君たちはどうやってきたんだい?」

「ああ、空から落ちてきたんだ」

男が声を出す。ふむ、普通の、ごく普通の人間に見える。

…その魔力量を除いてだが。

「びしょびしょだぁ〜」

「疲れましたの」

「いやお前全然泳いで無いだろ」

「それはあなたもですわ」

「ははは、それは災難だったね? どうだい? よかったらうちに来るかい? 森の中にあるから、村や町を目指すよりもはやいよ? 服も乾かしたいだろう?」

「そうさせてもらおうか、二人はそれで構わないかな?」

「「もちろん」ですわ」


珍しい来客が三人。

しかも全員ただの人間じゃ無いときた。

これは、面白いことになりそうだ。

帽子を目深にかぶり直し、先頭に立って三人を案内することにした。


ー西の森 魔女の家ー


「くつろいでいいよ、服は適当なものを用意したから乾くまで着ていて、ほらほら、暖かい飲み物と、簡単な食べ物も用意したから」

「何から何までありがとう。助かったよ」

「ふぃ〜、気持ちいい」

「良い香りですわね」

それぞれがそれぞれにくつろぎ始める。


「しかし一体どうして空から落ちてきたんだい?」

「ええっと、まあ、話せば長くなるような、まあ、かいつまんで言うと…」


…驚いた。


「天空の城は本当にあったんだね…おとぎ話だとばかり思っていたよ」

「まあ今はどうなっているかわからないけどね、ひとまずはみんな無事でよかった」

「わたくしの城は落とされましたけれども」

「気にするな」

「きぃッ」

姫二人が戯れあっている。実は仲がいいのかもしれない。


「しかしお世話になってしまったから、何かできることはないかな? と言っても、限られるだろうけど」

「へぇ、それは何よりだ。良い心がけだね。じゃあ、一つ頼まれてくれるかい?」

「うん、もちろん」

「ここから北に行ったところに、洞窟があってね。そこにドラゴンがいるんだ」

「へぇ、ドラゴン」

「うん、これがまた話のわからないやつでさ。私の研究にドラゴンの鱗が必要なんだけど、全然応じてくれないで困ってたんだよ」

「ドラゴンの鱗、それを取りに行けば良いのかな?」

「うん、ドラゴンまでは私が案内するから問題ないよ。君なら大丈夫。二人はまだ疲れているだろうから、ここでゆっくりしていって良いよ」

「それが良いね、二人とも、今は留守番していてもらえる? その間に疲れをとっておいて」

「…わかった」「わかりましたわ」

黒姫はついてきたそうだったが、疲労を癒すことを優先させた。


「さて、それじゃあ早速行くとしようか」

「大丈夫かい? もっと休んでからでも良いんだよ?」

「ああ、問題ないよ、ドラゴンもちょっと見てみたいし、行こうか」

…まあ、そうだろうね、二人と違って疲労の色が全く見えない。

この男、本当に何者だ?


森を歩く。

魔女と二人で。

少しずつ森は深く、色を濃くして行く。

木漏れ日さす木々の隙間と、新緑の香り、どこか懐かしい気さえする。

「…」

隣の魔女はおとなしく先導してくれている。

「ちょっと聞いて良いかな?」

「なんでも」

「君は戦士だろう?」

「戦士、なのかな。まあ、たぶん」

「…違うのかい?」

「うぅん、よく思い出せないんだよね」

「記憶が無いのかい? それはいつ頃から?」

「いや、まあ、ここに来てからと言うか、この世界にきてから?」

「まるで別の世界から来たみたいな言い方だね」

「…そうかも、しれない。まあ、それもわからないんだけどね」

「でもだとすると納得もいくかな」

「?」

「君のその魔力。はっきり言って異常だよ。その量、質、どれをとってもね」

「そうかな?」

「その様子だと自覚なんてないだろうけど、私はこれでも長い時を生きるエルフの魔女でね。それなりに有名であった時もあるくらい。実際エルフの中でも、かなりの上位の魔法使いなんだよね」

「…確かに、すごく強そうだね」

「まあね。でもその私よりも魔力がある。しかもエルフではないし、魔族でもない。人間なのにだ」

「…」

「あの二人も人間ではないね」

「わかるの?」

「質が違う。人間のそれとはね。見た目は人間と全く変わらないけれどね、まあ、話によると天空の人間とでも呼ぶべきなんだろう」

「ああ、確かにそうかもしれないね。 …そうか、それじゃあ二人は天空に帰してあげたほうがいいのかもしれないな」

「それはあの二人が決めることだろうね。間違っても、勝手に帰そうとしないことだよ。人間は、そう言うところがあるから」

「…覚えておくよ」


洞窟に入る。

光の届かない、かと言って真っ暗と言うわけでもない。

苔か?

何か微光を放つ植物があたりを照らしていた。

「ついて来ておいで、普通なら迷うんだけど、私がいるから問題ないよ」

「それは助かるね、一人できてたら大変だった」


『…エルフ…またお前か…お前にやる鱗はない。それとも力を示しにきたのか?』


「またそれだよ、馬鹿の一つ覚えみたいに。力を示せってね。この腕を見なよ。とっても細いだろう? 無理に決まってんだよ当たり前だろう?」


『…力とは腕力だけの話ではない…』


「うるさいうるさい、まあだからね、今日は私の代わりを連れてきたんだ。ちゃんと鱗はもらうからね」

「…こんにちわ」


『…ほう…』


ドラゴン。確かに竜だ。

イメージ通りというか、普通にドラゴンだ。

たぶん自分のいた世界にも似たような種はいたのだろう。

翼があり、鱗があり、でかい口、ツノ、屈強な体躯。

生物の頂点に立つとでも言うべき姿。


『…エルフの代わりに、人間、お前がわたしに力を示すのか?』


「…そうだね、そうなるかな」

「それじゃあ頼んだよ、気をつけてね。怪我をしたら治すから頑張って」

そう言って離れるエルフ。

横目には少し心配しているようにも見えたが、

それが自分に対してなのか、素材がちゃんと手に入るのかなのか、どちらかはわからない。


「力比べ、でいいのかな?」

『…お前が望むのなら、それでも構わない』

では、


ドラゴンは大きく息を吸う。

「…ブレスか」

『受け切ってみせよ』

「…」

巨大な炎の塊が放たれる。

「それなら」

火魔法 中


ーゴォぉぉおおぉおぉオ…ー


わずかに押し負けている。

…ドラゴンブレス、結構強いな。

すぐさまに切り替える。


火魔法 強


ーゴゴォォオオオオォォォォ!!!!!ー


『! わたしの炎と互角、いや…それ以上か!』

「…これでどうかな」


『…よかろう。汝は確かに力を示した。持って行くが良い』

「ありがとう、はい、これでいいかな?」


「さすがだね、よかったよかった、ありがとう」

…驚いた。

魔法、あの魔法。

なるほど、この世界の魔法とは少し異なるかもしれない。

最初の火、

あれはこちらの世界で言うところのレベル5、フレイムバーストと変わらない。

上級魔法使いであれば使用できるだろう。わたしも可能だ。

しかし、その次、あれはそのさらに上だ。

あのドラゴンのブレスと同等、それ以上。

古の竜の王の放つ炎と同等、それ以上というわけだ。恐ろしいことこの上ないな。


「さっきの火の魔法。あれはなんて言うんだい?」

「火魔法、強、かな」

「強?」

「うん、たぶんこの世界とは使い勝手が違うんだと思うよ」

「聞かせてくれるかい?」

「ええっと、そうだね、魔法には魔力を込める。それは同じだと思う。その込める魔力に差異があって、そうだね、弱、小、中、強、大…みたいなほどに強くなっていく、そんなイメージかな」

「へぇ、確かに少し変わっているね。でも待てよ? さっきのが火魔法、強なら。さらにその上の大もあるのかい?」

「あるね」

「…へぇ、ちなみに、君は使えるの?」

「まあ、一応使えるね」

「……へぇ、そうなんだ」

たぶんそれは、私が生まれる前にあったとされている、神話や古代の魔法なんじゃないだろうか。

…なぜそれを人間が?

…いや、今は考えていても仕方ない。

そう言った事実がある、それを認めることにして、ひとまずはそれで良しとしよう。

………良いのかなぁ…


ふたりはいつしか横並びになって歩いていた。

森の緑は深く、ただあるがままを受け入れていく。

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