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火神生来

火巫女ひみこ鬼姫おにひめ赤狐姫しゃっこひめ緑狸姫ろくりひめの四人は北の大陸、火の国へと招待されていた。


火の国の王、そして国の召喚術師たちは彼女たちのもつ神楽の儀、神降ろしの儀を求めたのである。


東の大陸 火巫女たちの里 少し前


北の大陸から使節団が訪れていた。

「話によれば、すでに神を召喚したと聞きます…ぜひとも、我々にお力添えをば」

「そして…そうすれば、我ら火の国、北の大陸は、東の大陸に対する不可侵条約を結びましょう」

使節団の代表である年配の召喚術師がそう言った。

「その話は確かなのですね?」

「ええ、我が国の王からも仰せつかっております。 …我らが火の神を召び出すことができさえすれば、それも可能になるのです」

「…」

火の国の王直々の、きっての嘆願…断ったらそれだけでも何が起こるのか予想できない。

それがよく無いものであることだけは確かだった。断ることは到底できなかっただろう。

「…わかりました、火の国へ向かいましょう。他にも必要なものたちがいます、連れて行っても構いませんね?」

「構いません。それでは、我々とともに向かいましょう」

「…ええ」

それと、黒姫さんたちに留守を任せるためにも、話しておかないといけません。 …この地での呪いの出現はあれから無いとはいえ、小規模なものはまだ有り得るでしょうから…できるだけ早く戻ってこないと…


火の国 現在


「火の神か! でも儂たちのヒノカミサマとは何か違うのかの?」

「神と言っても多種多様です、その地その地で呼び方が変わっているだけの場合もあるのでしょう…それでも、我々は、この地で…この国の神を生み出したいのです! あなた達東の国の者たちの力を借りようとも!!」

「神産み、とはまた大きな話でありんすなぁ」

「…姫怖いんだけど…神って産めるの? 無理だよぉ…」

狸は最後まで来たくなかった。今もそうだった。


「我々国の召喚術師たちの準備は整っております。後は…」

「私たち、と言うことですね。 …わかりました。はじめましょう」

鬼姫の鬼火、赤狐姫の狐火、緑狸姫の狸囃子に火巫女が舞う。

火と音と舞は次第に重なり合って調和、共鳴していった。


召喚術師たちはその様子を見て畏怖を覚えた。

「…なんと見事な…これが異国の召喚術か…まるで世界の境界を歪ませているかのようだ…」

「しかしその全てが妖しくもなんと…美しい…」

「さあ、我々も」

そしてそれにさらに召喚術師たちの魔方陣も重なっていく。


本来であれば、それだけでは何も起こらなかっただろう。

仮に召べたとしても、それは神とは程遠い存在だったに違いない。

しかし、異なっていることがあった。

この世界では氷神がすでに顕現していたのだった。

それは後に一つの呼水のように事態を集束させていくことにもなる。

氷神とは対になる存在である、火の神をこの世界へと召んだのである。

それはこの地には本来ならばいなかったものだった。

言うなれば神産みに近いものとなった。


「…匂うなぁ、この魔力。アイツがいるんだろ? でも大分薄くなってんな…誰かにやられでもしたのか? だとしたら、面白え。そいつを見てみてぇ」

炎をその身に纏い現れたいくさを匂わせる女性。

その眼中はすでにこの国はなかった。

「…どこだ? …東か…いいね、遠くもねぇ。アタシならすぐに、ああ、オマエら、アタシはちょっと大事な用事があるんだ。オマエたちの話は後で聞いてやるよ。 …気が向いたらな」

そう言ってその場から消えた。

その足元は爆発によって大地がえぐり取られていた。


「…あれは一体なんじゃ?」

鬼姫は目の前にいたその存在のあまりの圧倒的さに今もその場を一歩も動けないでいた。

「火の神、なのでありんしょう。 …わっちの思っていた姿とは違いんすけど…」

「私たちの国のヒノカミサマとは異なっているようにも思います。ですが、あの圧倒的な魔力、神力は、私たちがかつて召んだ存在にも…近いとも思えます」

「ほらぁ、姫、だから怖いって言ったんだよぉ。 …でも、どこかに行ってくれたからよかったぁ。あのままだったら、姫、絶対気絶してたと思う」

「それは仕方ないですよ、見てください、召喚術師たちは自身の魔力を吸われて気絶しています。 …私たちはひとまずこの方達の手当てをしましょう」

四人は召喚術師たちの手当てを急いだ。


火神ひのかみは目当ての魔力の匂いに向かって進む。

(…ふぅん、アイツの魔力にしちゃホントに薄いな…まさかホントに誰かにやられたのか? この世界にはそれほどの奴がいるのか? …楽しみになってきたな)


「なんだここ、野菜…畑?」

こんなところにいるのか? それにしては全然、どこも凍ってすらいないな。


「誰? ここは私たち魔人が管理している畑なんだけど。間違って入ったのならすぐに出ていくことを勧めるわ」

魔人の次女は素っ気なく言った。

「…魔人、か。へぇ。それならオマエが? 確かに弱くはねぇ、でも、とてもそうは見えないけどな」

目を細めて魔人を観察する火神。

「…何? 私たち魔人に用でもあるの?」

そのぶっきらぼうに観察する視線を不愉快に感じた次女は敵意を込めてそう言った。


「まあ良いか、アタシが試してやるよ」

火神は炎を纏った。周囲の温度が唐突に燃え上がる。

「!! こいつ…ちょっと、私たちの野菜が燃えるじゃないの!」

「なら、オマエがアタシを止めてみなよ」

「この!!」

魔人は魔力を無数の矢へと変え、火神へと向ける。

「へぇ、器用だ、いいね。 …でも、脆い!」

瞬間的に爆発させた炎の魔力によってあっという間に焼き尽くされていた。

「このっ!」

巻き添えに燃える野菜を見て激昂する魔人。


「何の騒ぎ?」

その騒ぎに勇者がやってきた。

火神はその男を見る。

「…ああ、なるほど。その力…オマエか。はは、何だその魔力。面白いことになってんな」

その男の纏う魔力を見て火神は嬉しそうに、楽しそうに笑った。


「…誰? 次女の知り合い?」

「全然知らないわよ。野菜たちを燃やそうとするし、ただの迷惑なヤツ。でも…相当、強いわよ」

魔人は先ほどの炎を思い出す。

「そうみたいだね」

勇者は静かに火神を見つめる。


「くく、あ〜、うん。良いね! それで、オマエの獲物は…剣、か。だったらアタシも」

火神は自身の魔力で炎の剣を作り出した。

「こんなもんで良いか。よし、じゃあ、オマエ、構えな」

「…この場所から少し離れても良い? ここの畑をこれ以上荒らしたくない」

「ふぅん、ま、良いぜ」

場所を移す火神と勇者。


「大丈夫なの?」

魔人の次女は少し心配そうに尋ねる。

「…わからないね、でも、この畑に被害が及ばないようにはするけど…念のためここを守ってて」

あの時の氷神なみの魔力を感じる…そう簡単にはいかないだろう。

「…わかったわ。ここは任せて。 …気をつけて」

「うん。行ってくる」


「ハァ〜、ま、ここまで来りゃいいだろ? さぁて、それじゃあ、改めて、始めようぜ?」

炎の剣を片手に、雑に構える。

「…こちらとしては、君と戦う理由はないんだけどね」

勇者もまた構える。

「ん? ああ、まあ、そりゃそうか。でも理由なんてアタシが戦いたいから、で…良いだろ?」

火神の地面が爆発すると同時に両者の間合いは即座に詰まる。

「!!」

その最初の一撃をかろうじて剣で防いだ勇者は後方へ吹き飛ばされた。


「お、防ぐか。良いね。ま、そうでなくちゃな」

その様子を楽しそうに見る火神。


「…速いね。それなら」

勇者は雷の魔力、紫電を纏う。

「お? お? あはは、良い! 良いなぁ!!」

その様子を見てさらに楽しそうに笑う火神。

「…行くよ」

パリッと放電と同時に火神のすぐ前へ。

「ははぁっ! 面白れぇ!!」

初撃を炎の剣で受け止める。勇者のその一撃は疾く重い。

「まだ」

すぐさま二撃目、三撃目を繰り出す。

「あはは!! はえぇし重ぇ!! なんだなんだ、良いじゃねぇか!! すげぇ良いぜ!!」

火神もまたその攻撃について行く。

互いが互いに譲らない攻防が続いた。


決定打に欠けるまま再び間合いが開く。

「オマエ、ホントに疾ぇな。それに一撃が重ぇ。魔力か? それともその剣か? そんでオマエの魔力、光…雷を帯びてんのか、でもそれだと体への負担は相当だろ、常にダメージもらってるようなもんだぜ? それで持つのか?」

「まあ、ね」

「くく、せっかく楽しくなってんだ、途中でへばってくれんなよ。それに、アタシも見せてやるよ」

火神がさらにその膨大な魔力を高めていく…それは赤い炎から白い光のようなものへと変わっていった。


「火ってのはな、高くなってくと光熱、光にもなれるんだぜ? そしてそれは、火の魔力そのもののアタシ自身だって当然…」

火神は消えた。

「ちゃんとついて来いよ?」

勇者の左横に立っていた。

「!!」

「こっちだぜ!!」

勇者は更に逆の右から繰り出された攻撃を受け吹き飛ばされた。

「こいつは流石に効いただろ?」

火神は撃ち抜いた炎の剣を肩にかけながら吹き飛ばされた勇者を見る。


「…本当に、すごく速いね」

右の脇腹に回復魔法をかけながら立ち上がる。


「へぇ、これ受けてもすぐ立ち上がれんだな? でも流石に無傷、ってわけじゃねぇな。くく、おもしれぇヤツ…っと、あ〜、力使いすぎたか?」

そう言った火神の輪郭がブレた。

「…顕界したてで魔力が不安定なのか? チッ。せっかく楽しくなってきやがったのに。おい、オマエ」

「何?」

「名前はあんのか?」

「…西の勇者。そう名乗ってる」

「ふぅん、西の勇者。勇者、ね。ま、それでいい。アタシは火神ひのかみ、あいつらにそう呼ばれて来たからな、そう呼んでくれて良いぜ? それと、今日のところはこの辺で終わりにしてやる。続きは、そうだな、アタシの力がもっと安定したら、その時に再戦しようぜ? それでどうだ?」

「それで構わないよ。できれば戦いたくはないけどね」

「くく、まあ、こんなに面白ぇんだ、またやりにくるぜ? ああ、それと、聞くのすっかり忘れてたぜ。アタシと同じような存在で、氷のヤツをやったのはオマエか?」

「氷神なら今自分の中で眠っていると思うけど」

「? ん? なに? 何だって?」


勇者は事情を説明した。

「…なんだそれ。道理で魔力の匂いが薄いわけだ…チッ。ってことはアイツとは今は戦えねぇのか」

「たぶんぐっすり寝てるね」

「まあ今戦ってもしょうがねぇけど。まあそのことは今はいい。考えるのがめんどくさくなってきた。それじゃあ、また今度な! 忘れんなよ!!」

火神は爆発と共に姿を消した。


「…ふぅ」

脇腹の治療も終わり、一息ついた頃、

(勇者さま、おはようございます)

「ああ、今、起きたの?」

(はい。勇者さまの中は本当に快適でして、私、ずっとこのままでも良いくらいです)

「あ〜、うん。そういえば、君の知り合いっぽい神さまが来たんだけど」

(まあ、どちらさまでしょうか?)

「確か、火神ひのかみって言っていたかな。氷姫こおりひめの知り合い?」

(いえ…何一つ全く存じ上げませんね。そんな粗野で野蛮で乱暴者の知り合いはおりませんから。多分勘違いしていらっしゃるのではないでしょうか? それと、私、もう少々眠りますね。何しろ魔力がまだ安定しておりませんので…それでは、おやすみなさいませ、勇者さま)

「…そう。おやすみ」

これは知っているな…

あと、神も嘘を付くんだな、と。


勇者はそう思いながら魔人の畑へと戻っていった。

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