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魔人召喚

暗い祠を進む二人と一匹。

ただしその一匹は勇者の背中に張り付いていた。


「わざわざ連れてきんせんでも」

「いや、背中に張り付いて離れないんだよね、まあ酔って眠っているだけだし、このままでいいかなって」

「はぁ、まあ、勇者はんがそれでいいならかまいんせん」

イザナイの祠を進む。


「要石のあったところはもう随分すぎたけど、結構深いんだね、ここ」

「わっちの目的地はもうすぐでありんす、ただ、実際はもっと深いでありんすよ? この世とあの世の狭間に通じているなんて言い伝えもあるくらいでありんすから」

「へぇ…それは興味深いね」

「まあそんなに深くまで入る必要はありんせんし…あ、見えてきんした」

ほどなくして水の流れる音が聞こえてきた。


「この泉が目的地でありんす」

「結構広いね。深さは…」

「奥に行くほど深くなっていんすよ、それと、勇者はんなら平気でしょうけど、あまり触れない方がよろしいかと。何せ人間にとっては呪いの水となりんしょうから」

「綺麗だけどね」

「ふふ、この地に根付いた呪いとはまた異なっている、元からあった、わっちら妖にとっては馴染み深い呪いでありんすよ」

「呪いにも種類があるんだね」

「それはまあ、魔力と同じようなものかと思いんす。それでは、失礼するでありんす」

服を脱ぎ、泉へと入って行く。

「では、わっちはこれから沐浴しんす。その間の警護をお願いするでありんす」

「うん、任せて」

赤狐姫が沐浴をする間、無防備になるということだったので、念の為、ということもあり、二人でくることになったのだった。一匹余計な狸がついてきてはいるが。


「…ふぅ…この地での沐浴は久しぶりでありんす…ああ、満たされる…あぁ…」

赤狐姫はだいぶ気持ちよさそうにしている。

あたりを警戒していても、何か出てくる気配はない。

呪いが出る可能性もあったのだが、どうやら杞憂だったらしい。


「お待たせいたしんした」

「もっとゆっくりしていても良いよ」

「それなら、乾くまでもうしばらくここにいるとしんすか」

はだけた服装で地に座る。

「警戒していたけど、何もないみたいだね」

「ええ、地上の呪いと一緒にだいぶ弱まったようでありんす。どのくらい持つかはまだわかりんせんけど。この様子だと、しばらくは大丈夫でありんしょう」

そういって勇者にしなだれかかってくる。

「…」

…わっちの力も大分戻りましたし、これならきっと…

甘い香りがあたりに漂ってきた。

「なんだか良い香りがするね…これは確か…」

赤狐姫の尾の…

ーふぁさー

…なんか獣臭い。なんだ?

「…狸のしっぽの匂いか」

いつの間にか頭の上に登っていた緑狸姫はその尻尾を勇者の顔へ垂らしていた。

「…ほんに、いけずやなぁ」

赤狐姫は小さく呟いていた。


二人と一匹は祠を後にした。


その明朝、鬼山へと向かう。


「わっちに任せておくんなんし」

閉ざされていた部屋へ入る赤狐姫。

心配そうに待っている鬼姫とその父鬼。

時間はそれほどかからなかった。


部屋から出てきたのは二人。

赤狐姫と、鬼姫の母親だった。


かかさま!!」


抱きついて全身で喜ぶ鬼姫と。

その様子を優しく見守る父鬼。


「本当に、本当に、ありがとうございました」

母鬼は深々と頭を下げている。

「気にせんでよろし。わっちとあんさんの仲でありんしょう?」

「…ええ、そうですね。でも、ありがとう」

「さすが赤狐姫じゃ!! さすがじゃなっ!!! もう儂がなんでもしてやるぞ!!! 何かないか!! なんでも良いぞ!!!」

「本当にありがとう…これでまた一緒に過ごせるってもんよ…ああ、本当に、ありがとう!!」

鬼たちの目には涙が浮かんでいた。


「…鬼だから可能だったと思いんす」

「…」

「あれだけの呪いを受けたら、人間ではまず助かりんせんでしょう。まずそれにこれだけ耐えられるような時間もありんせんでしょう」

「そうだったんだね。でも、呪いを解けるなんてすごいね。これからも大変になるんじゃないかな?」

「その時はその時でありんす」

「そういえば、自分の呪いも解けたりする?」

「…いえ、勇者はんの呪いはまた少々複雑でありんすね。勇者はんの呪いは、加護の力も持ち合わせているように思いんすよ。勇者はん自身にとっての、悪いものをその加護が取り払っているようにも思いんす」

「…状態異常回復をしてくれているってこと?」

「物にもよりんしょうけど、それに近いと思いんす。それと、溜め込んでいる可能性もありんすから、解放したときに何が起こるかわかりんせん」

「…う〜ん、そうなるとこのままの方がいいか。まあ、今まででも特に不都合はなかったけどね」

「北の地に行けば、別の形で何かわかるかもしれんせんね」

「北の大陸? 信仰が盛んだって聞いたけど」

「そうでありんすね。こちらでいう巫女たち、あちらでは神官になりんしょうけど。そういった者たちが数多くいると聞きんした。その数で言えば巫女たちを遥かに上回るでしょうし」

「北の大陸かぁ…確かに一度は行ってみたいね」

「召喚術…こちらで言う神降ろしの儀に近いこともしているようでありんすし、何か新しい力を得られるやもしれんせんね」

「神様か…でも実際に呼ばれたら来くれるんだろうか?」

「どうでありんしょうね。この前はその奇跡の御技に触れられんしたけど、それこそ奇跡のようなものだと思いんす。そう簡単に呼べるとも思いんせん」

「…そうだね」


北の大陸 とある小国


「この召喚術で、本当に神を呼べると言うのか?」

若い召喚士たちは疑いながらも興奮を隠せなかった。

「古い書物によると…確かにそう記してある…神に近いものを召ぶ、と」

「そうなればこの小国も大国に引けを取らなくなる。各地の国々とも対等以上になれると言うものだ」

小国の大臣は興奮している。

「ただ、この魔法陣はいささか不安もある。何しろ記述が曖昧な箇所もある」

「そもそも本当にこれで良いのか? 呼んでみたら大して何でもない類の存在だった、なんてことにもなりかねないだろう?」

「そうなったらなったで、また繰り返せば良いさ」

「成功するまで続ければ失敗は生まれない、と言うわけだな?」

「ああ、そう言うこと。これを足がかりにすれば良い」

「そしていずれ大国に、な。西の大陸で魔王が和平を成し遂げたように、我が国がこの地を和平に導くのだ」

「それは確かに、熱い話ですね」

それぞれの思惑が重なっていく。

魔法陣の展開を急いだ。


魔法陣はついに発動した。

どれだけの失敗があったかは最早数しれず。

その失敗の中で後世には残せぬような犠牲も少なくなかった。

それでも、魔法陣はついに発動した。

神を、神に近しいモノを召ぶ、とされた魔法陣が。


「…ああ…これは現世…なんと久しい…」

まずは一人。


「キヒヒ、ア〜。 …匂いだ。命の…」

もう一人。


「ん〜、ふぁぁ…眠い」

さらにもう一人。


「す、すごいぞ、一度に三体もの…」

「し、しかし、あれは神か? いや…どう見ても…」

空中に浮く三体の存在。

その姿は美しい女性。

ただ、その気配はあまりにも禍々しく…


「キヒひ、人間み〜っけ」


「ぎゃぁ〜」「ぐわぁ〜」

「ま、待て、何で」

若い召喚士の一人は恐れ戦慄きながらも訪ねる。

「…き、君たちは神様、いや、それに近しいモノなのだろう? だったら、私たちの願いを聞いてくれても」

「願いを? どうしてです? あなたたちの願いはもう叶っているでしょう? 私たちを召ぶこと、それがあなたたちの願いなのですから。ええ、そう。そしてその願いは叶えられました。私たち三姉妹が来たのですから。神にかわって、私たち、魔人が」

魔人の一人はそう言って微笑んだ。

「そんな、そん」

「キヒひひひひッ! 血だっ!! 血を見せろぉ!!!」


その小国は一夜にして滅び去った。


「はしゃぎすぎですよ」

「だって〜、久しぶりの顕界だったし。良いだろ? このくらい」

「ふぁあ〜、ようやく目が覚めて来ました」

三人の魔人は小さい城の上に鎮座していた。


「周りにもたくさん国があるな…それに離れたところにも大陸が三つ。東と、西と、南」

「私はこの地を調べます。あなたたちで東と西を。南はあまり人間の気配がしないので、後回しでいいです」

「お、それなら私はどっちにしよっかなぁ。う〜ん、西に決めた! ヒヒヒ、決めたら早速向かうぜ〜!! ヒャハハハぁーーー」

中姉なかねぇさまずるぅい。でもまあどっちでもいっか。じゃあ私は東に行くね〜。上姉かみねぇさま、行ってきま〜す」

「二人ともあまりはしゃぎすぎないように。何かあったら連絡するのですよ。まあ、何もないとは思いますけど」

さて、それじゃあ、私も向かいましょうか…

まずは、どこの国にしましょう。

魔人は唇を舐め微笑みながらボロボロになった世界地図を眺めていた。


東の大陸


「魔王さま、強力な魔力反応です。北から、こちらの大陸に向かって来ています」

「…距離、速度は?」

「かなりの速さですね、どうします?」

「北からの侵攻か? いや、そんな気配はなかった。となると何か別の…我が出る。ついて参れ」

「はっ」

魔王城が慌ただしくなる。


「…妙な魔力反応だね」

そういうとエルフは顔をしかめる。

「どうしましたの?」

エルフに借りた本を読んでいた白姫はいつもと違うエルフの様子に気づいて声をかけた。

「いや、北から何かくるんだよ…速い…このままだと…魔王城のほう…魔王たちの方が近いかな…」

「北って、北の大陸からですの? でもあそこって信仰国家でしょう? 侵略や侵攻してくるとも思いませんけれど」

「人間の魔力じゃないね、魔族か、それに近い…一つだけど…大きいよ。かなり。魔王に…いや、それよりも上かも…」

「どういたします?」

「ここで手を拱いているのもね、こちらも出向いて、魔王たちと合流しよう。今、来れるもの達を集めて。 …嫌な気配がするよ」

「…わかりましたの」

いつもの宿の一室もまたにわかに慌ただしくなっていった。


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