アマテラス
勇者が東の大陸を訪れる少し前のこと。
「火巫女さま! また呪いが現れました! 里の外れ、一本杉の所です。今、近くにいる巫女が向かいます」
「…あなたたち、急いで儀の用意を。私も直ぐに参ります」
「「はい」」
呪いのあらわれた地へ向かう。巫女は一人で善戦していた。
「…明らかに呪いの発生する間隔が短くなっています…それに、前よりもずっと強力な呪いに…」
「はぁ、はぁ、火巫女さま!」
「もう大丈夫です、よく持ちこたえてくれました。あなたは後ろへ、休んでいなさい。これより神楽の儀をとりおこないます。みな、準備を」
火巫女が舞を舞うと同時にあたりから小さな火が集まってくる。
「「はい」」
火巫女と巫女たちの儀により発生した焔によって呪いの塊は小さくなっていく。
「ヒノカミサマの加護があれば…まだ。まだ、大丈夫」
火巫女は肩でわずかに息をしていた。
「火巫女さま!」
「平気です。戻りましょう。またいつ呪いが現れるともわかりません。みな、注意を怠らないように」
「「はいっ」」
火巫女たちは里へと戻って行く。
そして勇者たちが大陸を訪れた頃に時は進む。
「そうじゃ、この近くに大きな池があったんじゃった」
「池? 大きそうな池なんてどこにも見えないけど」
「確かあのあたりじゃったかの、ふぅむ、大分ちっさくなったものじゃ」
「池というには小さすぎる気もするね。でもどうしてこんなに」
確かにあった。でもそれは、もう池とは呼べないほど小さいものだった。
「水が出なくなったんじゃよ、ここ最近特に。ほらあそこじゃ、まだ少し出ているみたいじゃが…それでこんなになってしまったんじゃ」
「これも呪いの影響?」
「かもしれんの。しかし惜しいのう、ここの池はでっけぇ魚がおったんじゃよ。実に食い出があってのう」
「それって池の主とかじゃないの?」
「そんなことは知らん、ただバカにでかくて美味かったのは間違いないのじゃ。こんなにちっさくなっては魚もまともにおらんじゃろうなぁ」
「…そうだね」
さすが鬼…食い尽くしたわけじゃないと信じたい。
ん? 池のほとりに何かいる…
「…蛇、かな。大分弱っているみたいだ」
「どうしたんじゃ?」
「いや、ここに蛇がいるんだよ。大分弱っているね。全然逃げようともしない。 …ちょっと回復してみるよ」
回復魔法を使うと、少しは元気になったようだった。
「お、蛇じゃな。食うのか? 焼くと美味いぞ」
「いや違うよ」
「生か? まあたまには良いかもしれんの」
「いや食べないよ」
鬼は食べることが頭の中心なのだろうか。手を出すと小さな蛇は登ってきた。
「全然逃げようとせんの」
「そうだね」
旅は道連れというし、このまま連れて行こうかな。
「お、なんじゃ、そいつも連れて行くのか? おお、なるほど、非常食じゃな」
「いや違うよ。でもまあ、離れる様子もないし、懐かれたみたいだから、このまま連れて行くよ」
その時、少し離れたところから微かな悲鳴が聞こえてきた。
「聞こえたか?」
「うん、行こう」
時はまた少し戻る。
「火巫女さま、三本松の近くに呪いがまた姿をあらわしたようです」
「直ぐに向かいます。みな、準備を」
「火巫女さま、大変です。はぁ、はぁ」
「どうしました?」
「龍神池の近くに強い呪いの反応が! 今、近くにいた巫女が一人で向かいました」
「一人で! それはあまりに危険です!! 近くに他に誰かいないのですか!!」
一人はまずい、特に今の呪いには、前とは何もかもが異なっているのだから。
「里から応援に向かいましたが、間に合うか…」
「三本松は私一人で対応します、あなたたちは急いで龍神池へ向かいなさい! 急ぐのです!!」
「「「はい」」」
慌ただしくも巫女たちは急いで行動を開始する。
龍神池の近く
「はぁはぁ、もう、こんなに…」
呪いは直ぐそばまで来ていた。
「ダメだ、これを里に近づけては…特に幼い子供や体の弱った老人ではきっと、耐えられない」
ここで私が食い止めないと。
一人で神楽の儀を行うも、火の力が足りない。
「うぅ…ゴホッ」
それでも、足止め、くらいなら、できると思っていたけど…
呪いはその火に構わずゆっくりと近づいてくる。その大きさは全く変わらない。
良い獲物を見つけたかのように、ゆらゆらと。それはまるで嗤っているかの様だった。
「まだ! まだ!!」
巫女は抵抗する。しかしそれも無駄だった。
呪いは巫女を侵食せんと己の一部を伸ばす。
それに触れたらいくら巫女とはいえ無事ではすまないだろう。
「…ああ…」
ごめんなさい、火巫女さま…
私の力が足りなかったばかりに…
火巫女さまに悲しい思いをさせてしまう…火巫女さまは優しいから、きっと…
その呪いの手が巫女の体に触れる。
巫女の体はみるみる蝕まれていく。
「うぅ、ぅ…あぁ…」
ああ、ごめんなさい…火巫女さま…里のみんな…
どうか、誰か…火巫女さまを…誰か…みんなを…
「よいしょおおッ」
金棒一閃。目の前に何かが飛んで来たかと思うとそれが呪いを弾き飛ばしていた。
「平気か? 全く、家来も乱暴じゃな。まあ間に合ったから良いか」
「怪我しているね、少し待ってて」
そういうと男性が巫女の蝕まれた体に触れる。
「ああ、触れてはダメです、あなたも…」
「回復魔法の効果は…大丈夫みたいだ」
呪いによって蝕まれていた箇所が回復していく。
「えっ、これは…一体」
「まだ浅かったから間に合ったのかもしれない、でも、直ぐになら治せるみたいで良かったよ」
「あ、ありがとうございます」
巫女ははだけた服を直しながらそう言った。
「この! しつっこいやつじゃ!!」
鬼姫はぶん殴り続けている。
呪いはその度に後退はするが、直接的な一撃にはなっていない様だった。
「まったく、やっぱり儂の攻撃では効果は薄いみたいじゃな。それならこれはどうじゃ!!」
鬼姫の周りに火が集まってくる。
「儂特製の鬼火じゃぞ!!!」
その火の塊は呪いに命中する。
明らかに効いている。ただ、それでも決定打にはなり得ない。
「これくらいではまだ耐えるか、めんどくさいやつじゃ! ええい、なんとかするのじゃ!」
「この子を頼むね。呪いは火に弱いの?」
巫女に尋ねる。
「は、はい。私たちはそうやって対応しています」
「うむ、あとは任せたのじゃ」
勇者は手に魔力を集中させる。
…森から離れているとはいえ、あまり広範囲に炎はまずいかな。
それなら。
火魔法 強(単体)
それは一本の火柱だった。
実い赤く猛々しい炎が呪いを包み込み、跡形もなく消し去っていた。
「…ああ、なんて美しい火…まるで火巫女さまの…」
「ほほう、やるのう。さすがは第一家来じゃ!」
「今の炎は!? ああ、良かった、大丈夫でしたか」
駆けつけた巫女たちと合流する。
「ちゃんと手当をしたほうがいいよ」
巫女の手を取りそう言う。
「はい、ありがとうございます」
「あなたたちは? そちらは鬼姫さまですよね、そちらの男性は」
「私の命を救ってくれました、呪いの治療も」
服を直しながら少し顔を赤らめて言った。
「それは、重ねてお礼申し上げます。火巫女さまも間も無くこちらに向かうとのことでしたし、里へ向かいましょう。恩人たちもぜひご一緒に」
「そうじゃな、どの道里に行くつもりじゃったからな、丁度いいな」
「そうだね、そうしよう」
「案内は任せてください」
巫女たちと里へ向かうことにした。
火巫女の里
「そうでしたか、そんなことが…まずは礼を。助けてくださり、本当にありがとうございました。私がここの里を治めています、ヒノカミサマを祀る巫女たちの主でもある火巫女です。西の大陸の勇者と…鬼姫、さんですね。どうぞよろしく」
深々と礼をする火巫女。
「儂に挨拶なぞ今更じゃ。そんなに堅苦しくなることないぞ。前の様にちゃん付けで構わないのじゃ」
「…そう言われても。んんッ。今の私には火巫女という立場があります。それを徒や疎かにはできません」
「ふぅん、そういうものか? めんどくさいの。まあ好きにしたらいいのじゃ」
「ええ、そうしますとも」
険悪、ではないのだろうが、どこかずれた距離を感じさせるやりとりだった。
「さっきの呪いのことだけど、ああいったものはよく現れるの?」
「ええ、最近はその動きが活発化しています。今まではここまで出てくることはありませんでした。せいぜい月に一度あるかないか、といった程度で…それに、一度に二体も出たのは初めてのことです」
「…となると、今後も出てくる可能性があるんだね」
「…考えたくもないですが、おそらくは」
「三体以上出たらどうするのじゃ? いや、もっと出るかもしれんぞ?」
「それは…その時に、対応するしかありません」
「一体なら火巫女が相手すれば問題ないじゃろうが、他の巫女たちではそうもいかんぞ? なんたって儂の火にも耐えるぐらいじゃ。いや、儂も本気出せば勝ってたんじゃけどな!」
「…鬼姫ちゃ、さんの火に耐える程になっていたんですね。もうそんなに力が強く…」
「じゃから火巫女一人じゃきついじゃろうな」
「…だからって。諦めるわけにはいきませんから。たとえ、私の体が持たなくなったとしても」
「違う違う、そうじゃないじゃろ。まだわからんのか? 儂を頼れといっておるんじゃよ。儂ばっかりじゃないぞ? 緑狸姫と赤狐姫もじゃぞ?」
「そんなこと…できません。そんなこと、できるわけないじゃない」
「できないことじゃないじゃろ? まして今の里の長は火巫女なんじゃぞ?」
鬼姫はまっすぐに火巫女に言う。
「…あなた達妖は呪いに対応できている、でも、私たち人間は違う。違うんです。その時からもう、あなた達妖と私たち人間は袂をわかったんです。私たちは、私たちの力でなんとかしなくちゃいけないの。だからそんな簡単な話じゃないんです」
「いや、簡単な話じゃよ。火巫女が一言言えばいいだけじゃ。助けて欲しいと。手伝って欲しいとな。そうすれば彼奴等は喜んで助けにくるぞ?」
「そんなわけ…」
「そんなわけじゃよ。だって実際儂はそうじゃからな? 火巫女が助けを求めるなら、喜んで力を貸すぞ。儂の鬼たちは全員な。嫌がる奴がいたら殴ってでも力を貸させるぞ」
「…だって…私は…」
「待ってるんじゃよ。彼奴等も」
「そう言えば、赤狐姫が、自分たちは何も変わっていない、と、そう伝えて欲しいと言っていたよ。あと、意地っ張りとも」
「…」
火巫女は俯いて震えていた。
「…」
…いいのかな、手伝ってもらっても。
いいのかな? あの頃みたいに、みんなと一緒にいても…
いいのかな? …
「ま、儂は何も言われなくても勝手に戦うけどな。儂鬼じゃし。頼まれようと頼まれまいと暴れたい時に暴れるからの、そうじゃな?」
鬼姫はこちらを見てそうにこやかに言う。
「まあ、家来だからついて行くよ。でも、どこに出るかわかりようがないからそれはめんどくさいね」
「それはまあ、巫女たちに勝手について行けばいいじゃろ?」
「待ってください! …私…ええ、本当に。私が…そうなんだ。ただ、私が自分一人でなんとかしようとしてた。自分たちだけでなんとかなるって思っていたんです。でも、実際に、今日、あなたたちがいなければ、巫女の一人が犠牲になっていました。 …だから、私は。この里の代表として、お願いします。鬼姫ちゃん。私に、私たちに、力を貸して。力を貸してください」
そういって頭を下げる。
「当然じゃ、よし、じゃあ他の二人もつれてくるから待っているのじゃ。話は後でな!!」
急いで山二つ登る。
「…はぁ、初めからそう言えばよろし。 …全く、意地っ張りで仕方ありんせん」
「えぇ、私ぃ? 力になれるかな…でも、みんな一緒になるのは本当に久しぶりだし、楽しそうだから行くよ。うん。絶対に行くよ。だから、待ってて?」
緑狸姫は鬼姫に首を掴まれて連れてこられた。
少し泣いていたように見えたが気のせいだろう。きっと久しぶりに会えて嬉しかったんだろう。
「みんな…ありがとう、本当に、ありがとう」
妖たちの協力を得て、火巫女は深々と礼をしていた。
「お礼はまだ早すぎると思いんす、呪いを払ってからにいたしんしょう」
「はっはっは、儂たちがいれば勝ったも同然じゃ!」
「うぅ、私何すればいいの? 寝てていい? だめ? そんなぁ」
そして呪いを払うための作戦会議が始まった。
「まず、根本的に払うことは不可能です。何よりこの地の中心は呪いだと思われますので」
「…ふむ、となると弱体化かの?」
「活性化を抑えられれば良いのじゃありんせん?」
「でもそれってどうやるの? 地面掘る?」
「闇雲に掘って呪いが見つかるとも思いんせんが…そう言えば…」
「何かありそう?」
「わっちの山の近くにある、イザナイの祠、その奥にある要石。呪いを封じる石でありんすが、ここ最近ヒビがはいりんして…それも呪いの影響かもしれんせん」
「割れたらどうなる?」
「抑えられていた呪いが噴き出すでありんす」
「…それを呼び水にはできないかな? 呪いたちの」
「うぅん、そして集まった呪いを一気に払う、と言うことでありんしょうか?」
「危険かな?」
「呪いを集めることは可能だと思いんす、問題はその膨れ上がった呪いをどうするか、でありんす」
「あの祠に祀られている呪いとなると、かなりの力だよ。姫、もうそれだけで怖いんだけど」
「ぶん殴ったらいいのじゃよ」
「私たちの神楽の儀で…でも、それだけでは足りないかもしれないですね…もっと強い力、となると…神楽の儀をより完全なものにして、神降しの儀を行えば…あるいは…」
「ふむ、火巫女たちの祀るヒノカミサマを呼ぶつもりじゃな?」
「…うん、でも、遥か太古におやすみになられていて、今はもうこの地にはいないとされているから…どうなるかは…」
「わっちにいい考えがありんす。勇者はんの中にいるそれに近い存在を呼ぶといいでありんす」
「…おお、そんなのおったのか! やるのうさすが儂の家来、いや、勇者じゃ!」
「そんなことできるの?」
「呼び方次第かと思いんす。わっち、鬼姫、緑狸、それから火巫女たち全員で呼び出せば、きっと。もちろん勇者はんにも協力してもらいんす、何せ勇者はんの中から出てきてもらわないといけないでありんしょうから」
「そう言われても、実際には何をすればいいのかまるで検討つかないんだけど」
「深い瞑想をしてもらいんす、自身の内と向かいあうのでありんす」
「…それなら、まあ」
「…それで今の呪いが払えるのなら…ええ、やってみましょう」
「このままじゃと呪いは強くなる一方じゃからな」
「…やりましょう。私たちで。そして、この地を少しでも…この地の呪いを抑えられるのであるなら」
「決まりじゃな」
「うぅ、姫、ほとんど参加してない…」
緑狸姫が泣きついてきた。
「嘘泣きはやめなんし、さっさと狸囃子の準備するでありんす」
「うぅ、みんな狸使いが荒いよぅ」
イザナイの祠
「確かに、これは…呪いが濃いです」
「かなりじゃな、火巫女と勇者は平気か?」
「私は大丈夫です、勇者さんは?」
「まだ大丈夫。それでもあまりにも濃くなるとどうなるかわからないから、用心するよ」
「この葉っぱ噛むと楽になりますよ、う、嘘じゃないです、本当ですよぅ」
少し奥へ向かうと、
ひび割れた要石があった。
「準備はできたか? 割るぞ?」
「ええ、私の神楽の儀の準備は大丈夫です。すぐ外でも巫女たちが結界を用意してます。呪いが四方八方へ逃れることはないでしょう。 …後は集まってくるのみです」
「よいしょぉおっ」
鬼姫が豪快に金棒を打ちおろすと、ヒビの入った要石は割れた。
その様子を確認するとすぐさま外へ出て神楽の儀の準備をする。
巫女たちはそれぞれ結界のために動いていた。
また他の者たちは近くで誘発され発生する小規模な呪いを集める準備をしていた。
呪いはみるみる集まってくる。
今までとは違う。
その規模も力も。
明らかに異なっていた。
結界がなければ、この地を覆い尽くさんと広がっていたことだろう。
「…これほどの呪いが集まるなんて、想像以上ですね」
「やりがいがあるのじゃ」
「これだけの呪いを払えれば、しばらくは呪いの心配も、いらなくなりそうでありんすな」
「怖いよぅ。姫は山で寝てたいよぉ」
「勇者さまは私と儀の中心へ。はい、それから、みんなも、準備をお願いします」
「わかったのじゃ」「始めるといたしんしょう」「うぅ」
鬼姫が鬼火を燃やす。
赤狐姫も狐火を燃やす。
そして緑狸姫が狸囃子を奏でる。
中心で舞う火巫女。
そのすぐそばに座って瞑想する勇者。
神楽の儀(全) 神降ろしの儀
朱の火、青の火が重なる。
揺蕩う焔と囃子が重なっていく。
火巫女の舞がその灯と音と、更に重なっていく。
それはまるで別世界の扉を開くかの様相だった。
その全てが重なり連なっていく。
それは勇者の中で静かに眠っていた、一つの存在を召ぶ。
『懐かしい音につられて出てきてみれば…』
『この地に残る祈り、そしてその姿…まるで故郷を思い還すかのよう…ふふ』
『ああ、なるほど…あなたたちは私のいたところの者たちと近いのかもしれませんね』
『いいでしょう。この地に残る祈り、そして今のあなたたちの祈り、私が、少し力を貸しましょう』
『あなたたちの、その真摯な祈りに私も応えましょう』
その光は数多を照らす日輪の光。
例外なく万物の全てを照らす命の光だった。
その場にいた者たちは、
まぎれもない奇跡を目の当たりにした。
あれほど覆っていた呪いは大地から跡形もなく消え去っていた。
「…これは…これほどの…ああ…私たちはこのために…今までずっと…」
それを見た巫女たちはみな涙していた。
「なんという、なんという…光でしょうか…ああ、私たちの…ずっと求めていた…」
それは火巫女も例外ではなかった。
その光を生み出す存在をいつしか自然と拝んでいた。
『…それでは…いずれ、また。でも、召ばれたのが私で良かったです、私でなかったら、きっとこの地を焼き尽くしていたことでしょうから…』
そういって再び光となり勇者の中へと還っていった。
「この様子だと、うまくいったみたいだね」
瞑想から覚めた勇者は辺りを見回す。呪いの気配がなくなっていた。
「…はい、ありがとうございます。感謝の言葉しかありません。本当に、本当に…」
「「「ああ…光…私たちの…光…」」」
火巫女と巫女たち全員は勇者に向かって手を合わせて拝んでいた。
それはまるで信仰しているかのような熱心さで、中には涙を流して拝んでいる巫女もいた。
「…何かあったの?」
勇者は異様な雰囲気を感じていた。
「いや、仕方ないじゃろ、鬼の儂だって拝みたくなったわ。いや、拝むぞ。拝むしかないのじゃ」
鬼姫さえも拝み始めた。
「…」「…」
赤狐姫と緑狸姫もまた静かに拝んでいた。
「…何があったんだろう」
勇者の疑問は尽きなかった。