東の大陸 鬼の姫
勇者は自身の呪いを調べるために、一人、東の国…東の大陸へと向かうことに決めた。
そのためにはまず、海を越えなければならない。
「船で行くつもりなら東の港へ向かうと良いよ…でも本当なら私もついて行きたいんだけどね、大陸間の移動となると、ね。そう簡単にもいかないから。でも、準備は私に任せてよ」
エルフの言う通り、港へと向かう。
数は少ないというが、定期便が出ているとのことだった。
ただ、東の大陸は、魔王の管轄ではなく、詳細は行ってみるまではわからない、とも付け加えてくれた。
「君なら大抵のことは大丈夫だと思うけど、それでも、気をつけてね。私もみんなも、君の無事を祈っているから…」
港の船に無事乗り込むことができた。
ひとまずは、大陸に着くまでは何もすることがない。
エルフにもらった旅のしおりでも読んでいよう。
東の大陸 東の国について
いくつかの山にそれぞれ大きな里がある。
こちらでいうところの魔族に近い鬼の一族や獣人に近い妖と呼ばれる種族がいる。
水にまつわる存在もいるらしい。中には神として崇められているような存在もいるようだ。
人間は里に住んでいる。最近は大きな争いは起こっていない。
とても呪いの強い地で、その影響があってか呪いの扱いにも長けている、とのこと。
巫女と呼ばれる祈祷師たちがいて、人間の里の代表でもあり、火を信仰していることから火の巫女、火巫女と呼ばれているようだが、その詳細は不明。
呪いの地と呼ばれる所以は、遥か昔、かつての戦いの影響があるようだが、それも詳細は不明。
…ついたらまずは人里を目指した方がいいのかな…でも、争いごとは特に起きていないとのことだし、
鬼の一族か、妖たちでも構わないか…出会った者に話を聞いてみようか。
本を閉じ、目を閉じた。
…ひとまず、着くまで眠ることにした。
東の大陸 山道
「おう兄ちゃん、東の大陸についたぜ。 …本当にここで降りるのかい?」
「うん、そうさせてもらうよ」
「最近は交流も控えてるみてぇなのに、物珍しいこった」
「何かあるのかな?」
「俺たちは詳しく知らねぇけど、なんだか呪いが活発化してるって話だぜ? 兄ちゃんも気をつけな」
「ありがとう」
降りたのは自分だけだった。
物資を他に運ぶついでによってくれただけで、話に聞く限りでも、東の大陸との交流はあまり無いようだった。
仲が悪いとまでは言わないだろうが、積極的な交流はしていないみたいだ。
全くないという訳でもないだろうけど…何かあったのかな?
…今度それとなく魔王たちにも聞いてみよう。
しかし、山道が続く…険しいというほどでもないが…
ここの山はどのあたりになるのだろうか…
旅のしおりを開こうとすると幼い声が聞こえてきた。
「人間、こんなところまで来るとは、最近では珍しいな。それはそれとして、儂、腹減ったんじゃが…お前、美味そうな匂いがするな。食い物持ってるか? 持っていたら儂がもらっても良いぞ?」
少女がいた。ただ、頭にツノが生えている。
妖かそれとも、噂に聞いた鬼だろうか?
「ええっと、ちょっと待ってね。 …干し肉ならあるけど、食べる?」
「おお、儂にさっさとよこすのじゃ!」
がっついて食べている。よほどお腹が空いているのだろうか?
しかし、こんな山道で少女一人とは…
「君は? こんなところで一人で、迷子?」
「失礼なやつじゃな。ここは儂たち鬼の山じゃぞ。迷子はお主じゃろ?」
「ああ…となると、ここが鬼のいる山なのか」
「大鬼山じゃ。してお主こそ一体何ようじゃ? ただの迷子か?」
「まあ確かに、今は似たようなものだけど。とりあえず、人里を探そうと思っていてね」
「ふぅむ、その背格好といい、ここらあたりの人間ではないな? そんな姿の人間は見たことないのじゃ」
「うん、西の大陸から船できたんだよ」
「ほぉ、西の大陸とな? 父さまから聞いたことがあるのじゃ。確か…まおーとか言う強い奴がおるのじゃろ?」
「そうだね。いるね」
「となるとお主はまおーの手先か? 儂たちの里を責めにきたのか!」
「違う違う。そんなことは全然ないから。ただ、観光、というわけでもないか、 …調べ物、かな」
「ほぅ。まあ、いいじゃろ。先ほどの食べ物の礼じゃ。儂も一緒に連れて行くがよい」
「それがお礼? いや、そういえば君は一人でここで何をしていたの?」
「…お主が気にすることはない、儂はちょっとひとりでお散歩をしていただけじゃ」
「…やっぱり迷子?」
「違う! 断じて違うっ!! 自分の山で迷子になるわけがなかろう!!! 儂は一人でお散歩したくなっただけじゃ! いっつも誰かしらついてくるからのう、みじん切りにしても細切れにしても、儂だってたまには一人になりたい時だってあるのじゃぞ!」
「みじん切りって何? 細切れとか」
「ああ、儂のところの鬼のあだ名じゃな。みじん切りが得意なんじゃ。細切れは細切れが得意な鬼のことじゃ」
「…そう」
「ほらほら、さっさと行くぞ、おいて行ってしまうぞ」
「…まあ、とりあえずはついて行くよ」
ひとまずは、その鬼の少女について行くことにした。
程なく歩いていると、遠くから野太い声が聞こえてくる。
「姫さま〜、ああ、ようやっと見つけた。全く、勝手に出歩いたらダメでしょうに!」
「そうですぞ、里の鬼たちも心配していますぞ!」
その様子を見た少女は大男たちに向かって大声で言った。
「過保護じゃ!! 鬼が心配しすぎじゃ!!」
「…」
「む、そちらは…人間? 人間がどうしてこの山に? 最近は全くといって良いほど近寄らなくなったと言うのに…」
「儂はこやつと旅に出るのじゃ、だからほっておくのじゃ! ほら、お前たちはさっさと帰るのじゃ!!」
「姫さま!! …もしや、この人間に誑かされたのでは?」
「ええい、うるさいうるさい、儂はまだ帰りとうないのじゃ!! まだまだ遊び足りなのじゃ!」
「…せっかく連れ戻しにきてくれたんだし、帰ったほうがいいんじゃない?」
「お主まで!! ええい!! 儂は絶対に帰らんぞ!!!」
足にまとわりついてきた。
「姫さま! なんという! ええい、人間めぇ」
「やむを得まい、少し懲らしめてやりますぞ!!」
鬼たちは大きな棍棒を構えた。
「…参ったなぁ…」
仕方ない。
鬼は巨大な棍棒を難なく上に振りかぶって降ろす。
鬼は怪力としおりにも書いてあったが、その通りだった。
ズシンッ、足元の地面に穴が空いた。
「なんと! 多少手心を加えたとはいえ、俺の一撃を防いだだと!」
「細腕、しかもその細い剣で…いったい何者であるか!」
「お、おお!」
少女は目をキラキラさせて足元にまとわりついている。 …そこにいられると危ないんだけどな。
「西の大陸から来た、勇者だけど。ひとまずはこちらの話も聞いてくれないかな?」
「…むむ、その出で立ち…なるほど、只者ではないようですな」
「しからば、こちらもそれ相応の力でお相手いたしましょうぞ。ほら姫さま、危ないのでこちらに」
鬼の姫は足元から引き離されて喚いていた。
…ひとまず落ち着いて話すためにも、早々にこの場を収めてしまおう。
雷魔法 中
雷電が鬼たちを包む。
「アビビビb」
「あばばb」
鬼たちは感電した。
「お、おお、これはまるで…雷鬼さまのようじゃ。お、お主はいったい?!」
「ひとまずはこれで落ち着いてくれると良いけど」
「う、うむ、儂からもよく言い聞かせるゆえ、こらしめるのはこのくらいにして欲しいのじゃ」
「…もともとこらしめるつもりはないよ」
「それは良かったのじゃ、して、お主只者ではないな? 儂の家来にとりたててやるぞ、いや、儂の第一家来にしてやるぞ!!」
「いや、それは」
「なって!! なるのじゃ!!! な〜る〜の〜じゃ〜!!!」
また足にまとわりついて来た。
「…わかったよ。なるから、まあ、この大陸にいる間はね?」
「決定なのじゃ!! ほらお前たち、いつまで寝ているんじゃ!!」
「はっ、ひ、姫さま」
「も、申し訳ねぇです、俺らとしたことが…」
「もういいのじゃ、それより、もう落ち着いたか? それならこの者とちゃんと話をするのじゃぞ」
ようやく落ち着いた鬼たちに事情を説明する。
「申し訳ねぇ、姫さまを保護してくれていたとは」
「俺たちぁてっきり、これこの通り、謝りますんで。勘弁してつかぁさい」
「そんなに気にしなくていいよ。それで、これから人里に向かおうと思っているんだけど、方向を教えてくれる?」
「それぐらいでしたら、ええっと、この、あの木に向かって山を降りてもらって、後は道が見えて来ますんで、その道をまっすぐでさぁ」
「ありがとう」
「ほらほら、さっさと行くぞ」
「…やっぱりついてくるの?」
「当然じゃ!! 儂はまだ全然遊び足りない!! お前たち、儂はしばらく此奴と行動を共にするつもりじゃから、他の鬼たちにもそう言っておくのじゃぞ!」
「えぇ、まぁ、確かに護衛の必要はないでしょうけどぉ。みんな心配してますぞ?」
「いいのじゃ! 儂だってたまには気兼ねなくお出かけしたいのじゃ!!」
「…すいやせん、姫さまをお任せしてもかまわねぇですか?」
「まあ、この地の案内人は必要だから、でも、いいの?」
「…へえ、俺らも心配ではありやすが、これも姫さまにとっては良い経験になるとも思いますんで。確かにいっつも俺たちの誰かが一緒でしたし、たまには良いかもしれねぇです」
「…そういうことなら」
「すいやせん。大鬼山の頂上に俺たち鬼の里がありますんで、後ほど姫さまと帰って来てくださると助かりまさぁ、それまで、姫さまをお願いしまさぁ」
「わかったよ」
鬼たちは丁寧にお辞儀をしてから帰って行った。
「よ〜しよしよし、まずは人里向けて出発じゃな!! ほらほら、さっさと行くぞ!! なぁに、儂に任せておけ、な〜んも心配いらんからな!! あ〜はっはっはぁ!」
「…そっちじゃなくて、こっちね」
明後日の方向へ歩き出す鬼姫の手を引いて方向を変える。
「わ、わかっとったわ! わざとじゃわざと。 んんっ、それじゃあ、出発じゃ〜」
人里へ向けて、鬼姫の少女とのふたり旅が始まった。




