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ロストテクノロジーと美味しい電気(かみなり)

いつかの時代の、どこかの星。


「ハカセ!」

「ああ、この星はもうきっと持たないだろう…せめて……どこかの…」

「ハカセモ! ハカセモ、ハヤク!!」

「一緒に行けなくて…ごめん…どのみち、私ももう長くはない…でも、きっと…どんなに長い時間をかけても…きっと…いつか…」

「ハカセ〜!!!」

小さな星の形をした宇宙船は飛び立って行く。

それを見送るのはこの星でたったひとり、残された者。

「…大丈夫、どんなに時間がかかっても…きっと見つかるよ…その時は、もっと、自由に…」


星は宇宙を流れて行く。

長い長い時間をかけて。

そして、一つの惑星に、流れ星となって落ちて行った。

誰にも気づかれないままに、海の中へ。

暗く深い、深海へ…。そして、長い長い、眠りについていった。


「この前食べた魚がやたらと美味しかったから、だから釣りにでも行こうと思ったんだ」

ーそれは構わない、が、釣りのために私を使うのはどうなんだ?ー

「いや、そういえば船持ってなかったし、ね。エルフに聞いてみたら結構遠くの海でしか採れない魚みたいで…」

それはデリシャスフィッシュと呼ぶらしい。

ー…ちゃんと私にも食させるがいいー

「もちろん、それじゃあ行こうか」

竜の背に乗って、海の真ん中へ。


「…まるで釣れないなぁ」

ー本当にこの辺りにいるのか?ー

「情報ではそうなんだけど…いっそ潜った方が早いかもしれないな…」

ー釣りは忍耐が肝心だ。心してかかるといいー

「…わかっているよ」


「…あれ、なんだかすごく重い…地面でも釣っちゃったかな?」

ーそれは引っ掛かったと言えー

「いや、でも、重いだけであげられるな…何だろう?」

巨大な石の塊だった。

ー…大物だな。重さとデカさだけだがー

「…海に返そうか…ん? 中に何かいる? 人? …見たところ女の人だね…でも、なんだか普通と違うような…」

ー眠っているのか? それとも、亡骸か?ー

「どうだろう、ひとまず、連れてかえって調べてもらおう」

ー止むを得ないな、戻るとしようー


「驚きましたわ、釣りに行ったと思ったら、まさか女性を釣ってくるなんて。なるほど確かに釣りに行っていたようですわね?」

「いや、まあ、うん。でも、様子が変というか、体は損傷していないし…不思議と死んでいるようには思えなくて…」

「…確かに、もともとこういうタイプの生き物、なのかもしれないね。見た目は人間だけどね。となると、眠っているだけなのかもしれないよ?」

「でも海の底にいたんだろ? どのくらいいたのか知らないけど、そんなに長くは幾ら何でもいられないよ? ボクなんて、すぐ苦しくなっちゃうし」

「私はいくらでも! 消えたらまた作ればいいですからね!!」

「…私はもう、死んでますからどれだけ長くても平気ですね」

「妾も分け身であれば、でも結局は妾が苦しいからあまりにも長いのは、無理ですね」

「…わたしもへいき…」

それぞれがそれぞれに意見を言う。特殊な例はともかく、いくら自分でも、流石に長い時間を海の中では過ごせないだろう。

「電気ショックという療法を聞いたことがある。やってみたらどうだい?」

「…大丈夫なのかな…まあ、ものはためし、か」

軽い電気を流してみる。


「…ン」


反応した。

さらに強く試してみることにした。


「…ハ…カ…? ココハ? ドコデスカ?」


「やるじゃないか、うまくいったようだね」

「相変わらず脈がないけど、もしかしたら、ゴーストタイプとか、そっち系なんでしょうか?」

「それにしても、どうして海の中にいたの?」

「ウミ? アア…オモイダシマシタ…ソウデスカ…ワタシハブジ セイメイノ イル ホシニ ツケタノデスネ」

「生命のいる、星? ここのことだとすると、君はもしかしたら別の星からやってきたのかい?」

「エエ ソウデス ワタシハ…」

女性は自らを機械だと説明してくれた。構造が確かに人間とは異なっている。

いわゆるテクノロジーによってハカセという人物に作られた存在であると。

自身の星が滅びる前に、ハカセによって宇宙に飛ばされ、この星へ来たということだった。

「それが本当なら凄い話だね。少なくとも、この星には別の星へと行く術はないからね」

「そんなことが可能なんでしょうか? まあでも実際こうして来ているわけですし、言っても仕方ないですが」

「でも、帰ることもできないんじゃ、かわいそうだね」

「…ワタシハ セイメイヲ ミツケタ ソレダケデ…ジュウブンデス」

「まあ、しばらくはゆっくりしていくといいですわ。その機械の体を休めないといけませんし」

「白姫の宿じゃないんだけど、まあいいや、そうだね。ゆっくりしていきなよ。おかみさんには言っておくから」

「…アリガトウ ゴザイマス」

機械の女性は丁寧にお辞儀をした。


体は動けるようになったようだが、いわゆる何を食べるのかわからないので、好みを聞いてみた。

「タベモノハ ヒツヨウ アリマセン デンキサエ アレバ」

「電気?」

「エエト ワタシヲ メザメサセタトキノモノ デス」

「ああ、あれでいいのか。となると、定期的に雷を流せばいいのかな?」

「ハイ オネガイシマス トテモ オイシイ エネルギー デシタ」

「へえ、美味しかったんだ?」

「ハイ トッテモ」

「それなら遠慮しないでいいからね」

「ハイ アリガトウゴザイマス」


「その姿だけど、人間にそっくりだよね?」

「コノスガタハ ワタシヲ ツクッタ ハカセト オナジデス」

「なるほど、君を作ったそのハカセは、どんな人だったの?」

「スバラシイ ヒト デス。ワタシヲ ツクッテクレマシタ アノホシノ…サイゴノ ニンゲンデシタ イマハモウ…キットダレモ…」

「…最後、か」

「アノホシノ サイゴノ ヒメトシテ リッパニ…」

「姫? その星のお姫様だったのか…そうなると君は、機械の姫なんだね」

「…ソウナルノカモ シレマセン…」

最後の姫が、機械の姫に託したのは、一体なんだったんだろう?

「君の望みは、何かあるのかな?」

「…ワタシハ…タダ…アノホシデ ハカセト イッショニ イタカッタ。サイゴノ トキマデ。ズット イッショニ イタカッタ」

「…そうか。うん、そうだよね」

きっとそれは切実な願いだったのだろう。最後の時まで一緒にいたいという願い。

それはもう叶えられない願いなんだろうけど。

「ハカセノ ノゾミハ イキノコル…コト。 …タトエ キカイニナッテモ ダカラ…ワタシハ。コノホシデ、ハカセノブンマデ イキヨウト オモイマス…」

「…うん、協力するよ」

手を差し出しす。

「…アリガトウ ゴザイマス」

それを握り返す機械の姫。


異国の…ではなく、異星の機械の姫がひとり、宿の住人として加わることになった。


その夜、勇者はひとり、夜空の星を見ていた。

あの星のどこかにも、誰かがいるのだろうか?

満天の星々を見る。数えきれないほどの星々が見える。

その一つ一つに、生命があるのかもしれない。

…救えなかった世界。

もしかしたら、自分にもあったのではないのだろうか?

全ての世界を覚えているわけではなかった。

今では、もう思い出せないことも多い。

記憶の中にはあるのかもしれない、でも、思い出すことはできないでいる。

…自分で封印でもしたのかな? それとも、別の誰かにでも…

この世界に来た時も、そうだった。

記憶がひどく曖昧だった。

黒姫を解放したいと思ったことが最初だ。

結果的には二人が無事だったからいいものの、今思えば、少々ヤケになっていたような節もある。

…身近な人たちの困りごとを聞く。

それが今までも、そしてこれからも変わらない、自分にとっての、冒険スタンスだった。

数多くの出会いがあった。

黒姫、白姫、エルフ、竜、魔王たち、幽霊の姫、創世樹の、無色の少女、黄姫、吸血姫たち…そして今は、機械の姫…

自分がこの世界に来た、その目的、目標はなんなのだろう?

…今は、考えてみてもわからない。

星が一つ流れた。

ただ静かに、その星の行く末を見ていた。


その夜、久しぶりに夢を見た。

冒険を始めた頃の。

自分がまだ、幼かった頃の夢を…

でもそれはひどく曖昧で、記憶に何も残らない。

ただ、幼い自分と…それから…それから…

目が覚める。

夢を見たはずなのに、何も思い出せなかった。

「夢…か…」

勇者は顔を洗い、町外れの平原へと向かった。

日課をこなす。

頭で考えなくても、体で。

ただ、いつもよりはどこか、身が入っていない気もしていた。

「…夢、なら…もしかしたら…」


勇者はある人物に連絡を取った。

そう、夢魔である。


「勇者様から連絡してくれるなんて感激ですぅ」

「うん、少し…頼んでみたいことがあって」

「魔王様にですかぁ? それとも、私にですかぁ? どちらにしてもオッケーですぅ。今までのお礼も溜まっていますし〜、何でも言ってみて下さい〜」

「お願いは夢魔である君にあるんだけど、夢魔、と言うからには、人の夢に入れたりするのかな?」

「はい〜、入ることもできますし、何ならある程度自由に操ったりもできますよぉ」

「…それなら、夢に入って、それがどんな夢だったか見ることはそう難しくない?」

「見るだけでしたら、それこそ簡単です〜。で、誰の夢が見たいんですかぁ?」

「自分の、何だけど」

「勇者様の中に入るのは、その魔力と言うか、ちょっと骨が折れそうなんですけどぉ、勇者様が私を受け入れてくれるのであれば〜、可能だと思いますぅ」

「受け入れるって、具体的には?」

「そうですねぇ、安心、信頼、そしてすごくリラ〜ックスして眠ってもらえたらぁ、きっとできると思いますよぉ? とっても無防備になるってことですけど〜」

「…それでできるのなら」

「…はい〜、それでしたら、場所を変えましょうねぇ。ちょっと魔法陣というか、色々強化して入りやすくしたいのでぇ。そうですねぇ、私たち魔族の隠れ家の一つに参りましょうかぁ。そこでなら、邪魔ははいりませんのでぇ」

「…わかった、任せる」


「準備、良いですかぁ?」

何やらよくわからない儀式をするかのような準備と、それからお香も炊いてある。

「良い香りがするね」

「眠りやすくなるんですよ〜。はい〜、それでは横になって下さいね。リラ〜ックスですぅ。それから、私を信頼して下さいねぇ。安心、安全だと思って下さい〜。良いですかぁ?」

「…いいよ、問題ない」

「それでは目をつぶって〜、はい〜、少しずつ、少しずつ〜、眠くなっていきますよぉ〜。はい〜。そうです〜…」

「…」

まぶたの裏に景色が浮かんでくる…あの頃の…今はもう、思い出せなくなっていた…あの頃の景色だ…

すっかり忘れていた、孤児院の…


勇者は、深い眠りに落ちた。


「…」

夢魔はそれを確認すると、自身もまた、勇者の中へ入るための準備をする。

有り体に言えば添い寝だ。

「…本当に無防備ですねぇ…まあ、私は何もしませんけどぉ。 …今は…」

夢魔もまた、目を閉じる。

そして、その意識は勇者の中へと…入って行った。

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