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空の意志

白姫は部屋に一人、自分の手のひらを、見ていた。

それは見慣れた、白くて美しい、自慢の手だ。

でもいつもとは少しだけ、異なっている。

それに気づくのは、ほかでも無い自分が毎日丁寧に、念入りに手入れをしているからであろう。

時折、その白い手の輪郭が、揺らぐ。

それは視界のせいでは決して無い。なぜならその全身もまた、揺らいでいたのだから。


「…そろそろ、なのかもしれませんね」


白姫は日課の手入れを止め、静かにつぶやくと、

部屋の外を見る。

鳥たちの元気な声が聞こえていた。

少し離れたところから、宿に朝食をとりにくる人たちの喧騒も聞こえてくる。

黒姫たちも、きっと今は忙しそうに働いていることだろう。

…黒姫と創世樹の少女は調理を、幽霊の姫と黄姫(の分け身)は注文を、それぞれよく手伝っていた。

黄姫(本体)は今は勇者と竜と、早朝の世界の景色を見にどこかへ飛んで行っていることだろう。


西の森のエルフと無色の少女は、エルフの魔法によって作られた小さな部屋で、静かに魔法の勉強会を開いている。

少女が、自身の力を少しでも制御したいと考えての提案だった。

エルフはそれを理由によく訪れるようにもなっていた。そしてそれは自分にとっても好都合だった。

エルフの本はよく借りていたことだったし、知識豊富なエルフとの会話は楽しいものだったから。

むしろいっそここに住めば良いだろうに…

…そして、勇者とエルフは何か、あったのかもしれない。今までよりもずっと親しげに見えた。

エルフがエルフの国の姫であったと聞いた時、またか、と思ったものだった。

みんな全員、理由があろうとなかろうと、勇者に抱く気持ちは同じなのであろう。


「…知っている、ということが、時には弊害にもなりますわね…」

白姫は一人で、陽の光を見ていた。

光が時に白く見える。

その白い光は、自分の城、かつての白き城を思い出させた。


「なんだ改まって、ボクに話って?」

白姫は黒姫をひとり呼び出していた。

「ええ、まあ今までもそれとなくはカマをかけて聞いていたのですけれど、この際、はっきりと、確認しておこうと思いまして」

「?」

「わたくしたちが空で、あの地で争っていた理由、あなたは本当に何もご存知ないのですよね?」

「そりゃあ、まあ、うん。長い間ずっと争ってはいたけど、その理由って言われても…え? お前は知っていたのか? …ふぅん、でも今さらじゃない? だってここではもうそれもあんまり関係ないし…今知ったところでねぇ。 …まあ、ボクはただ、勝ちたいとは思っていたけどね。 ああでも…今でも負けたいとは思わないよ? 何かするにしても、何にしてもね」

黒姫は笑う。

「…随分な負けず嫌いですわね。まあ、それはわたくしもですけれども」

「それで、話ってそれだけ? そろそろ厨房に戻らないとなんだけど」

「どうぞ、お時間取らせましたわね」

「ついでに手伝っていかないか? いつも本ばっかり読んでてたまには動きたくなるだろ? 料理以外でいいぞ」

「謹んでご遠慮いたしますわ。それでは、また後ほど」

「…何だったんだ?」


「黒姫と三人で?」

「ええ、そうですわ。たまには、よろしいでしょう? それとも、何か不満でもあるのですか? わたくしたちだけのお出かけに」

「不満なんてないけど、そもそも白姫が自分から出かけたいなんて、珍しいな、と思っただけだよ」

「わたくしだって人並みに出かけたりはしていましたわ、失礼ですわよ?」

本当だろうか? 出かけているのを見たことがない。いつも大抵本を読んでいた。

…何しろギルドにだってまだ行っていないくらいなのだから。

「…それで、どこか行きたい場所でもあるの?」

「ええ、かつてのわたくしの白い城へ。空に浮かぶ、あの地へ再び。 …今となれば、あの竜に乗って、それも可能でしょう?」

「…なるほど、確かに…でもどうして急に?」

「確認ですわ、確認。あなたが破壊した様をこの目で見たくなりまして…というのは冗談ですけれども、ね」

「とりあえず、黒姫にも聞いてこよう」

「ええ、ですが、行くことは決定事項です。それだけは覆りませんわよ?」

「…わかったよ」


「いいぞ。そういえば爺やたちみんなどうしてるか実は気にもなっていたからね。それで、いつ行くの?」

「竜には先ほど創世樹の少女経由で頼んでもらいましたわ。快く受けてくれるようです」

本当に快くだったのだろうか…まあ、ここ何回か飛んでもらった時に、人を乗せて飛ぶこと自体が楽しくなってきた、と言っていたから…良いとしようかな。

「でも、お前の…白姫の城は無くなってるよね?」

「そうですわね、ですから、確認ですわよ。 …色々と」

「ふぅん、そういうものか…爺やたちに何かお土産持っていこ〜っと」


「…ああ、少し遅すぎましたね」

白姫は自身の揺らぎを感じていた。

「何がだ? って、え? お前、透けてる? いや、なんかぶれてるぞ。何だそれ。どうなってるんだ? 魔法?」

「白姫、その姿は一体…」

「…ううん、どうやらもう時間のようですわ。ええ、想像以上に早かった、というか、まあ、それでも、本来のことを思えば…これでも長かったのでしょうけれどね。時間が整った、とも言えるかもしれませんわ」

「全然意味がわかんないぞ」

「こちらの話ですわ。 …ああ、それでも、他の方達にきちんと挨拶できなかったことは…いってきますが最後のお別れというのも、それはそれで…」

「別れって、何だ?」

「…わたくしは、ここまで、ということですわね。名残惜しくない、といえば嘘になりますけれど、ええ、まず一言言っておきますね、あなたたちのせいではありません。これはもともとそういうものなのですから」

「? だから言ってる意味がわからないぞ」

「今はそれで構いません。どのみち、これからあなたの城へ向かうのでしょう? そこで、聞いてください。わたくしは、あなたの中で、それを見ています。最後の時まで…」


白姫は光となった。

光は黒姫の元へ、そして、消えた。


「なんだこれ? 何がどうなったんだ? 白姫、どうなっちゃったんだ?!」

「黒姫、落ち着いて。 …今は何もわからない…でも、白姫が言った通り…ひとまずは空の、城を目指そう」

「…うん」

竜はさらに高く高く飛んで行く。

あの、最初の地へ。


ーかなり強力な、結界だー

おそらくその地があるであろう場所は、巨大な雲に覆われていた。

「一人でも解けそう?」

ー…手をかせ、急ぐのならなー

「わかった」

勇者と竜は二人で結界を破る。

ぽっかりと空いた穴から中へと入る。

ー…これは…この場所は…私は侵入を許されていないようだな…ー

雲の中で稲光が竜にまとわりついていた。

「…自分たちを置いたらすぐに離脱して、帰りは自分たちでなんとかするから」

ー…そうさせてもらうとしようー


かつての懐かしい地に降り立つ勇者と黒姫。白姫の姿はそこにはない。

自分がこの世界に来てみた初めての町が見える。

遠くには黒い城の姿も確認できた。

白い城は影も形もなかった。


「ひとまず、城へ向かおう」

「…うん、爺やたちに、聞いてみたいこともあるから」


「姫様! ああ、よくぞご無事で。おお、騎士も、見事な働きであったぞ! これで我らの大願を果たせるというもの、そして姫様をよくぞ今まで守ってくれた。今までよく勤めてくれたのう」

「ただいま、爺や。うん、ボクたち、そのことでちょっと話があるんだけど」

「ええ、そうでしょうとも、かの城が落ち、我が城が勝利した。その暁に、姫様こそが…はて? 姫様、お身体はあれから何もないのですかな?」

「何もって?」

「…これはおかしなことだのう。 …ふむ、少々失礼…むむ、何やら珍妙な気配…」

「珍妙とは失礼ですわね」

「やや、何やつ!! 姫様の中に何かおりますぞ!」

光が飛び出し、形を作った。

白姫の姿があった。

「御機嫌よう。どうやらこの地ではまだわたくしも存在できるようですわね。まあ、それもいつまでなのかはわかりませんけれど…ここがかの有名な黒の城ですか。まあまあ、と言ったところですわね。全てにおいてわたくしの白の城の方が優っていたと思いますけれども」

「何と! かの城の姫君ではないですか! 生きておったのですか! …通りで…」

「爺や、どういうこと?」

「むむ、話は後ですぞ。まずはこの白姫を、我らが黒の宿願の為!! 皆の者、であえ〜!」

「爺や! ちょっと待ってよ!」

「ええい、姫様、話は後ですぞ。であえであえ〜、これでようやく我らの! かの城の姫を討つのだ!!」

「…まあ、当然そうなりますわね。さて、どうぞあなたも遠慮なさらずに。何処の馬の骨にやられるかよりは、あなたたちの方がまだマシ、というものですから」

勇者は白姫の前に背を向けて立つ。

「…正気ですの?」

「…少なくとも、今はこれが正しいと思ってるよ」

「どういうつもりだ! 我らの騎士よ!! 我らを裏切るというのか!!」

「黒姫の騎士であると同じく、白姫の騎士でもあるからね」

「ええい! やむを得まい! 構うな!! 白の姫君を狙え!!」

迫り来る兵たちを勇者は蹴散らしていく。

「爺や、辞めてよ! こんなこと、ボクだって望んでない!!」

「…姫様、しかし…」

「白姫はもうボクたちの仲間なんだ! ずっと一緒にいた!! もう敵じゃない!!」

黒姫もまた勇者の隣にたち自らの兵たちの攻撃を防いでいた。

「姫様、どうして敵をかばうのです! 離れていてください!!」

戦場は混乱の極みだった。


このままでは埒が明かない、ひとまず。

「白姫!」

勇者は白姫を抱きかかえると、その場から城外へと逃げる。

黒姫はそれを援護していた。


「姫様、せっかくの、せっかくの機会なのですぞ!」

「機会も何もないよ! 何で勝手に、いや、どうしてこんなことするの! 爺や、お願いだから教えてよ。爺やの知っていることを、全部。ボクだって、何も知らないままじゃいられない!」

「…はぁ…姫様は、今まで何も聞いて来ませんでしたし、それも仕方ありますまい。ただ、戦うことに夢中でしたからな。まあそれでも良かったわけですが。 …あの騎士がきてから、それも変わったのでしょう。ええ、いいでしょう。お話ししましょうぞ。我ら黒の、いや、空の意志を…」


勇者と白姫は、かつての白姫の城跡へと逃げのびていた。


「ひとまずは、大丈夫そうかな…警戒はしておこうか」

「…そうですわね。でも、あなたは構いませんの? こちらにいて、わたくしの元にいて」

「…流石にこの状況で一人にはできないよ、何があるかわからないし」

「…まあ、それはあなたの自由ですけれど、でも、結局は同じことですわ。選択の時間が延びるだけであって」

「聞いてもいいかな、白姫の知っていること」

「…」

「それにしても、見事に何もないね、誰もいないし」

「…あなたがやったんですけれどね」

「そうだね、そう考えると、今更ながら、城の人たちにはひどいことしたなぁ…無事とは思えないしね」

「本当に今更ですわね。そのひどいことというのはわたくしにも当てはまるのですけれどね?」

「…そうだったね」

「ま、わたくしのことはこの際置いておいて、他の者たちのことを殺したとお考えでしたら、少し改めた方がよろしいですわ」

「…どういう意味かな?」

「この地、この場所に置いては、わたくしたち、わたくしと黒姫さん以外は魔力で生み出された存在、ということですからね。まあ、わたくしたちも、空の魔力によって生み出された人間、という意味においては、それほど違いはないのかもしれませんけれども」

「空の魔力…となると、この地は、地上とは根本的に異なっているのかな?」

「ええ、ここは空によって、空の意志と魔力によって創造された地でもありますからね」

「空の、意志? それは創世樹とは何か違うの?」

「まったく違う、というほどではないのかもしれませんけれど、少なくとも、創世樹の意志からは離れているものと思われますね」

「へぇ…でもまた、どうして?」

「遥か、昔の話です。この地は一度、何ものかによって崩壊させられたとされています。大いなる敵とそれと戦った勇者によって」

「勇者…この世界にも、いたんだね…」

「それがそうでもなかったようです。この地には勇者はいなく、別の世界から来た勇者だったとのことですわ。まるで、今のあなたのようですわね」

「…そうだね。他人事とは思えないね」

「別世界の勇者によってその敵は倒されましたが、同時に、この世界も崩壊したようです。でも、それは新たな創世樹、今の創世樹のことですわね、によって再び創造させられた、と」

「世界を壊すほどの戦いって、それはすごいね…」

「ええ。ですが、その戦いによって、その別世界の勇者も姿を消したとされています」

「相打ちだったのかな?」

「そうかもしれませんわね。そして後、空の意志はこの世界にも勇者を創造しようとしたのですわ。新たに、この世界の勇者を、かつての脅威に対抗できる存在を、それはもしかしたらこの世界の意志だったのかもしれませんわね」

「…この世界の意志…」

「ですが、そう簡単にはいかなかったようですわね。理想の勇者を創造することは。限りなく理想に近づいた勇者の形を、二つに分けることにしました。そしてそれをさらに強力な者にするために、互いに争わさせたのですわ。長い、それは長い長い時間をかけて…そして、その勝者が、真の勇者となるように…敗れた方の力を取り込むことによって、完全な者になれる、というわけですわね」

「…それって」

「ええ、わたくしと、黒姫さんのことですわ」


「…それじゃあ、白姫は」

「お察しの通り、すでにわたくしは黒姫さんに負けておりますので、まあ、わたくしは負けたとは思っていませんが…本来であれば、もうここにはいないはずなのでしょうね。城が落ちた時、わたくしも本当はあのまま落ちて死んでいたはずですので」

「…そうだったんだね…」

「ですが、わたくしもなかなか生き汚かったようですわね。落ちる途中に、あなたたちの姿を見たら…わたくしも、もっと、もう少し…生きたくなってしまったのですから」

「…」

「…あなたが気にすることはありませんわ? それがわたくしたちを創造した空の意志なのですから。だから結局、そうなることが定めなのですわね。 …少し、あなたに聞いてみてもいいですか?」

「うん、なんでもいいよ」

「…あなたはどうして、最初に黒姫さんの元へ行ったんですの? わたくしの方ではなく、黒姫さんの方を選んだんですの?」

「…少しだけ、近かったから。あと、見たところ、黒姫の城の方が登りやすそうに見えたから…かな」

「…ぷっ。あははは。何ですの、それ。そんな理由だったのですか?」

からからとあどけなく笑う。


「うん。本当に。そんな理由だったんだよ。だから、白姫の城に行った可能性だって、普通にあったんだよね」

「もしもそうなっていたら、わたくしたちの今の関係も、変わっていたのかもしれませんわね。でも、なんだか真剣に考えるのがバカらしくなりましたわ。あなたの理由を聞いて。 …でも、そんなものなのかもしれませんわね、運命というものを決める、そんな大事な理由であっても…そんなものなのかも、しれませんわね」

「…どうして今まで言わなかったの?」

「…言っても仕方のないことですし、でも、そうですわね、…どちらか二人を選ぶとなった時、また黒姫さんを選ばれでもしたら、癪だから、かもしれませんわね」

白姫は自嘲気味に小さく笑った。

「…」


黒の城にて、

「何んなのそれ、そんなこと…じゃあ、ボクは白姫を…」

「そうですな、どういった形かはわかりかねますが、吸収するような形になると思われますかな。そして、姫様は完全となれるのですぞ」

「…完全になんて、なりたくないよ。そんな形でだったらなおのこと」

「姫様…」

「白姫は! ボクのことを看病してくれたこともあるんだ! …あの時、その機会なんていくらでもあったんだよ! あの時、ボクを倒してしまえば、白姫が消えることはなかった。きっと簡単にできたことだったはずなのに、それなのに…」

白姫はどこまで知っていたんだ? 全部、全部知っていたのかな? だったら…どうして…

「白姫を、助ける術は何かないの?」

「…思いつきません。姫様の事が、全てですからのう…この身は、そのために生み出されたものなのでしょうから…他ならぬ、黒姫様のために…姫様の為ならば、この命、誰一人として惜しむものはおりますまい。それは向こうもそうであった筈ですのう…」

「…爺や…」


勇者は空を見る。

「…世界の意志、か。それって今も…あるのかな?」

「…どういう意味ですの?」

「うん、見ているのかな、って。もし見ているのなら、可能性を見せてあげたら、説得できないものかな、ってね」

勇者はただ、空を見ていた。

「説得ですか?」

「白姫だって、まだまだ可能性があるんだってところを、ね。そうしたら、きっと消えないんじゃないかな? 消せなくなるんじゃないかな…」

「…そんな都合のいい話…あるとも思えませんけれども」

「それともう一つ、考えがあるんだけど、いいかな?」

「…嫌な予感がいたしますが…どうぞ」

勇者は自分の考えを述べる。

前に自分がしたように、今度は黒姫の黒い城を落としたらどうか、ということだった。

「それは…どうなんでしょうね…」

「怖いのは、それによって二人とも消えてしまうかもしれないことなんだけど」

「…それこそ、どうなるのかわかりませんわ…ただ、白の城が落とされても、わたくし自体は生きていましたからね…存在自体が消える、ということはないと思いますけれど…でもわかりませんね」

「…う〜ん。難しいかな…それならまず、先に空に可能性を見せよう。その為に、白姫の力を貸して欲しい。二人でなら、きっとできると思う」

「…本当に、そんなことできるのでしょうか?」

「手を」

勇者は白姫にそう言って手を差し出した。

「…こう、でしょうか」

白姫はそれを握る。


「うん。あとは、お互いに、力を。流し合うんだ」

「力を…ええっと…回復魔法とか、強化魔法のような要領で構わないのでしょうか?」

「そうそう、それでいいと思う。こっちからも流すね」

「あっ」

白姫の体に勇者の魔力が流れてくる。

それは大きく、強く、暖かく…優しくて…白姫の体は熱を帯びてきていた。


「お互いにもっと、高めていこう」

「…ええ、わかりましたわ…」

静かに、少しずつ、でも、確実に…

勇者と白姫の魔力は交わっていく…

「…うん、もう少し…あと少し…」

「…ああ…わたくし…」

互いの魔力が絡み合う。

そして白姫の白い魔力が、勇者によって限りない程に高められていく…

「…これなら、いけそうだね」

「…ええ、でも…」

「きっと大丈夫。見せてあげよう、白姫の可能性。その、光を。一緒に」

「…ええ、やってみせますわ」


極白色の新生かがやき(未完成)


その光は全てを包み込む。

その光は全てを白へと還らせる。

そしてそれは、完全なる白の、その、一歩手前。


空の地を、その全てを白が覆った。


「この光…なんだ? 白姫の? それとも、勇者の?」

「なんという、なんという光…ああ、この力…ああ、この力は…まさに、伝説の勇者の…」

「爺や?」

「なんという…ああ…これが、理想の…空の求めた力の…まさにその…一つの形…」


空の世界が還っていく。

魔力で形作られた世界が還っていく、魔力で形作られたモノたちと共に…

空の地は、崩壊していった…


落ちていく…白姫と勇者。


「…これって…うまくいった、のかな?」

「…どうでしょうか…でも…」

白姫は自身に揺らぎを感じることはなかった。

その身に、勇者の魔力の、微かな残滓を感じていた。

「可能性の光…見てくれたかな」

「…きっと、ええ、きっと。 …あれだけの光でしたものね」

「…黒姫は」

「…あら? この状況で他の女性を気になさるおつもりですか?」

「それは…」

「ふふっ、冗談ですわよ。 …あちらに、見えますわよ」


「おぉ〜い! ちょっと、二人とも〜。待ってよ〜…って、二人とも近いぞ!! なんでそんなに抱きあってるの!! まったく、心配して損したぞ!!」


「…無事でよかった」

「あの頃とは逆ですわね。 …まあ、今も絶賛落下中なのですけれども」

「ようやく追いついたぞ、ほら、は〜な〜れ〜て〜」

「着地方法は、前と同じで構わないかな?」

「ええ、構いませんわ」

「二人とも、しっかり掴まっていてね」

「うん」「もちろんですわ」

がっしりと、しっかりと、二人とも、勇者を離さないよう、つかまえる。

黒姫はあの時のように。

白姫はあの頃よりも強く。


空の地を後にした三人は、再び大地へと帰って行った。

見上げる空は、ただ青く、蒼く…

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