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終伸(ついしん) 落ちた吸血姫たち

魔王城 一室


「あれからまだ…伏せっている、だと? あれから一体どれだけ経ったと思ってるんだ? さすがに」

魔王は訝しがる。

「はい〜、想像以上にバカに、あ、いえ、良くならないみたいですね〜、私がもう一度見舞いに行って来ますぅ」

「…本当に大丈夫なのか? 我の妹は…何かひどい呪いか何かでも受けたのか?」

「ある意味でも呪いかもしれませんけど〜。でも今度こそ大丈夫ですぅ。ちょうど良い治療法を思い付いた、あ、いえ、有力な治療法を発見したので〜」

側近である夢魔サキュバスはそう力強く言った。

「治療法だと? …それなら、任せる、頼んだぞ。我にできることがあるなら何でも言ってくれて構わないからな」

「はい〜、この私に、一切をお任せください〜」


夢魔は小竜に乗って再び吸血姫の城へ…

そしてまずは、とある町外れの草原へと向かった。


「ふぅ…ん? あれは…」

親しげに小竜の上から手を振る姿が見える…

「こんにちはぁ。今日も精が出ますねぇ…実にいい精ですぅ」

「魔王のところの…また何か用でもあるのかな?」

「はい〜、とても、とっても大切な御用があります〜。そしてそれは、勇者様にしかできないことなんですぅ。是非とも、協力してもらいたくてまいりましたぁ。そのお礼に私のことを好きにしてもらって構いませんしぃ、何でも…本当に、何でも言うことを聞きますぅ」

しな垂れる夢魔を軽く押し戻しながら、

「そこまでの要件があるの? ひとまず話を聞くよ」

勇者は言った。

「…はい〜、お願いと言うのはですね、吸血姫様たちのことなんですぅ」

「ああ、前に一緒に行ったね」

「はい〜、それでですねぇ、また一緒に行ってもらいたいんですよぉ」

「またお見舞いに? それぐらいだったら何も構わないよ」

「ありがとうございますぅ。ただ、今回は少し趣向を、あ、いえ、少し変わっていまして、前の様に様子を見に行くと言うだけではなくてですね〜、勇者様にお願いがあるんですよぉ」

「そのお願いというのは?」

「はい〜、ちょっと詳しく説明しますね〜」


…勇者はその話の内容を聞いて首を傾げていた。

「…それがお見舞いになるの? いや、そんなことしても何も意味はないと思うけど…」

「そんなことは絶対にありません〜。もう本当に絶対ですぅ。私の全てを懸けますよぉ〜」

「えぇ…でも、そこまで言うのなら…」

試して見る価値は…本当に、いや、あるのかな?

「それが今できる最高で最善の治療法なんですぅ。絶対に、ですぅ」

「…わかった、そこまで言うのなら、やってみよう」

「はい〜っ! ではでは〜、少し、練習してから参りましょうかぁ。ちゃんと、やるからには真剣に、大真面目に、お願いしますねぇ?」

「…そうだね、やるからには、しっかり、真面目に、本気で取り組むよ」

「さすが魔お、あ、いえ、勇者様ですぅ!」


そしてその後、二人は吸血姫の城へ向かった。


事前の連絡で、侍女たちである吸血鬼ヴァンパイアは城の内部で二人が来ること静かに待っていた。

城の扉が開く。

吸血鬼たちは傅いている。

勇者の横には、夢魔が静かに佇んでいた。まるで側近であるかのような様で。

「…面を上げろ」

勇者は静かにそう言った。

吸血鬼たちは身震いをしながら顔をあげて勇者を見る。

「…お前たち、一体どうした? …その、腑抜けたザマは」

勇者の放つ冷たい視線にビクッと反応をする一同。

「…お前たちの、これからの働きには期待している。 …これ以上、失望させてくれるなよ?」

「それとも、お前たちは俺のこの期待を裏切るつもりか?」

さらに冷たく、魔力をまとった勇者は言い放つ。

その目線の先にいた侍女の一人は思わず大声を出した。

「いいえ! いいえ!! あなた様の期待を裏切る様な真似は絶対に致しません!! 私たちこの城の吸血鬼ヴァンパイアは、あなた様に忠誠を誓います!! たとえこの身が業火に焼かれ朽ちようとも、私たちの忠誠は、あなた様、その御身に!!」

その反応を見た勇者は少したじろいだが、すぐに夢魔が何か耳元でささやいていた。

「…いい返事だ。その調子で、これからも励むといい。 …お前たちには、期待している。俺のためにその身を捧げ、働くがいい」

「「「「「はっ! その意のままに!!」」」」」」

勇者は吸血鬼ヴァンパイアの軍勢を手に入れた。


「ちょっちょっと、あなたたち何言ってんのよ! そ、それに勇者も、あんた一体何言ってんの? あんた一体どう言うつもり?!」

その姿を上の階から見ていた吸血姫は焦りながら声をあげてワタワタと降りてくる。

「それにあんたたちも、私の侍女よね? 何そいつに忠誠誓ってんの? バカなの?!」

「…はっ、あ。 …いえ、この忠誠はもちろん吸血姫様にもあります。変わらずにありますので。そうでしょう?」

「「「「は、はい、もちろんです」」」」

「…何で私の方がついでみたいになってんの? 私が城主、この城の主人なんだからね?! あんたたちもちょっと、こ、ここじゃなんだから、私の部屋に来なさいよ! どう言うつもりか説明してもらうから!」

夢魔を連れて勇者は吸血姫の部屋へ向かった。

吸血鬼ヴァンパイアたちの士気は今までの最高潮を更新した。


「…で、一体なんのつもりなの? あんた、私の部下たちを奪いに来たの?!」

「いや、そんなつもりは無いよ」

「それなら一体さっきのは何なのよ! …ああ、なるほど。私、わかっちゃったわ。そう言うことなのね。あんたはこの城を落としに来たって言うわけ…ええ、確かにこの城は魅力的だものね。城主である私も含めて…人間たちにとってもさぞ魅力的なことだろうし…」

「…それは誤解だよ」

「そしていずれ、この城の城主である私のことも…それから、何もかも。ええ、全ての奪うつもりなんだわ…なんて、なんて強欲な人間だったの!! 勇者という善人の皮を被った貪欲なけだものっ!!」

「…いや、だから違うけど」

「でもそうはさせないわ! そんな簡単に落とされたりしないんだからっ!! いくら私の部下たちを無理やり奪われても、私は! そう簡単に落ちたりなんかしないんだからねっ!!」

「…まるで聞いていないんだけど」

勇者は隣の夢魔に囁いた。

「そうですねぇ、でも、まあ、あれですぅ。士気は高まりましたしぃ、これでみんなも元気になったみたいで良かったです〜」

あと、吸血姫様はもうすでに落ちちゃってますぅ。たぶん一番最初に落ちちゃってますぅ。

「元気に…なったのかな?」

「ええ、大丈夫だと思いますよぉ。吸血姫様も、侍女たちもこれでひとまずは安心できますぅ。あとは、勇者様がたま〜に様子を見に来ていただけたらぁ、もう完璧ですぅ」

「…吸血姫は何だか興奮状態になっているけど…来てもいいものなの?」

「はい、それが元気の源ですから〜。ええっと、その、発破かけにきてくださいねぇ? 本当にたまにでも構わないので〜」

「…そういうものなのかな…」

「はいぃ、そういうものなのですぅ」


勇者と夢魔は城を後にした。

侍女たちの熱い見送りと、吸血姫の熱い眼差しをその背に感じながら…


「それではぁ。また会いましょう〜。お疲れ様でしたぁ」

「うん、お疲れ様」

勇者は何だか今までとは異なる疲労を感じていた。

慣れない演技などをしたからだろう、おそらく…そう思いながら帰路にたつ。


「…ああ、今日も最高でしたぁ…思いの外上首尾ですぅ」

夢魔はそう言って妖しく嗤う。

「ふふふ…ああ、やっぱり…いい…」

…勇者様の魔王様育成計画はまだ、始まったばかりですから〜。

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