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弔いの戦

星が揺れた。

その著しい星の胎動を受け、ナビは断片的な視界の記録を視る。

闇の中に落ちていく氷姫エウロの姿が視えた。

視界の共有が、妨げられる。

それ以上、詳細を視ることができない。

情報が途切れ、繋がらない。

魔王グリ様、氷姫エウロ様が、このままだと消えてしまいます!」

ナビはひどく焦っていた。

氷姫エウロが、消える? …どう言うこと?」

今は、一時的に魔王として肉界の、氷の城にいるはず。

…胸がざわつく。

「魔王レヴィ、様と、 …サティ様によって、その身をアビス…この星の中に送られました。そこは融合炉のようになっていて…今の状態だと、そのまま飲み込まれてしまいます」

「…先ほどの星の胎動、その影響ですか」

土神(イデア)も星の異変を感じとっていた。

「…この星、中心にあるもう一の星…今の私たちが立っているこの星がその星を覆って…魔力を吸って、そのアビスと呼ばれる場所へ…星と星の間にある、魔力の貯蔵庫のような役割もありそうですね」

「事態は一刻を争います。今から私がアビスへのゲートを開くので、なんとか引っ張り出してください」

「…わかった」

ーアビス・ゲートー

ナビの視線の先の空間が歪み、極小の黒点が発生した。

その黒点は揺らぎながら、少しずつ、広がっていく。

…しかし、広がりきらずにすぐ閉じてしまった。

「! 開かない?! どうして…」

ナビは焦る。どういう訳か、力が…出ない。思うように出せない。

ナビの中に、声が響く。

(まあ、させるわけはないよね)

聞き慣れた声だった。

…自身たちが仕えている、本来の主人の声。

「…サティ…様」

(警戒していてよかったよ。 …やっぱりちょっと他とは違うね? …それとも変わった、のかな? 前はそんなことなかったのにね。私の声に、従わないなんて)

「…それは…」

(でも、お前一体の力では、アビスへのゲートは開けないだろう? 今、邪魔されると困るんだよ。 …せっかくのご馳走なんだから。 ほら、また少しだけ、見せてあげる)

「…あぁ…」

…消えていく。

目を閉じた氷姫エウロ、その姿、その形が…溶けていく…

(ね? あと少しで完全に変換できるんだから。星を輝かせる為の力に。だからもう邪魔はしないで。 …今までの事も許してあげるよ。それにその分、今までの働きも、褒めてあげる)

「…私、は」

嬉しくなかった。

本来の主人に褒められても、全然、嬉しくなかった。

…もうそれを、求めてはいなかったから。

「!」

ナビは再びゲートを開くために動く。

その大きな目は充血し、赤い雫が滴り落ちた。

「…ッ…」

アビスに繋がる黒点が再び現れる。

ゲートがわずかに、開く。

氷姫エウロの形はもう見えない。

残ったのはその内に在った神核…

それも間も無く、アビスの闇に侵食され飲み込まれていくだろう。

「…まだ、です」

空間が広がる。

体を入れるにはまだ全然足りていない、それでも手だけならば。

魔王グリ、さま!」

勇者は強引に手を入れ、神核に向けて手を伸ばす。

…届かない。

広がらない限り、それ以上先に手を伸ばせない。

空間を広げる力が足りない…

本来であれば七体のナビの力はそれぞれ繋がっているが、今は孤立していた。孤立させられていた。

『アビス・ゲートを、開くための力を…私に…貸してください』

ナビは他のナビたちにそう要請する。

否否否可否…

ナビの声に応えたのは一つだけ。

それではまだ足りない。

もう一度。懇願する。

(無駄だよ。 …他にも裏切り者がいるのは気になるけど。まあどうせ、リリスのところのナビだろうけどね。 …随分と、弄ってくれたようだし)

否否否可…

神核が黒に溶けていく。もうすでに、その半分は溶けて消えた。

もう一度…心を精一杯、込めて、懇願する。

否否否可否…可

「…まだ、まだ!!」

ゲートが少しずつ、少しずつ…開いていった。

伸ばした手が、あと少しで神核を、

(…他にもまだいたんだ。 …裏切り者が。 …結局、無駄だけど)

「…後…少し、で…」

勇者の手が、何かを掴む。

(…面倒だね)

ー プツッ ー

ナビは何かが途切れるような音を、聞いた。

それを最後に、

視界は暗く、意識も暗く…なっていって…

その大きな目を、閉じた。

浮かんでいた体は地面に落ち、ゲートも消えた。

勇者は掴んだ手を開く、

…手の中には指輪があった。

氷姫エウロに贈った指輪だった。

指輪を固く握りしめ、地に伏せ倒れたナビに声をかける。

「…ナビ?」

「…」

ナビは何も答えない。

「……」

ナビに触れる。

「…」

…ナビは動かない。

まるで糸が切れた人形のように、地面に伏せたまま微動だにしない。

声をかけても揺さぶっても、

その目は開かなかった。


星が一際大きく胎動する。

まるで何かを喜ぶかのように…

大きく、大きく揺れた。

…きっと、大きな力を手に入れたのだろう。

…満足したのだろう。

「…土神イデア火神アグニが来たら、」

勇者が言う前に、土神イデアは答えた。

「言伝は土兵ゴーレムに任せます。 …私も一緒に行きますので」

何が起こったのかはおおよそわかる。 …気配が消えたことも。

「…私が伝えます」

異変を察して部屋を訪れたリリンは、伏せていたナビを抱きかかえる。

「…頼むね。ナビのことも」

「…はい。 …任せてください」

リリンは愛おしそうに、少しも動かないナビを優しく撫でた。


氷姫エウロの城は跡形も無い。

氷姫エウロも、仕えていたであろうナビの姿も。

「……この星は魔力を吸っている、と言ってたね?」

「ええ、それを中心に送ってます」

「…星に異変があれば…飛んでくる、か…」

「…何をするつもりですか?」

「…魔力が欲しいなら…あげるよ」

「…本当に、何をするつもりなんです?」

勇者は魔力を高めた。

極彩色の魔力を纏い、更に、更に…魔力を高めていく。

極彩の波動が暴風を巻き起こす。

あまりに大きな、巨大な魔力の波が、波動が、広がっていく。

一個の力ではあり得ない程の魔力…

リミッターは、制限は、無い。

ただ可能な限り…今、現在可能な限りの力を持って…

魔力を、限界まで…限界以上に…高めていった。

全ての魔力の融合、

その一つ一つを、

各色各属性、全てを…融合、させる。

膨張した極彩の魔力が弾けた。

…両手に、魔力を…溢れ出した魔力を収束させる…

両の手のひら、その中心に…

極点となった極彩の輝きを、大地に向ける。

集めたその全てを…

解き放つ。


星が揺れた。

膨張する極彩色の魔力の奔流が激流となって星の内部へ注がれる。

星の外殻を貫き、その勢いは衰えることなく、文字通り一直線に…

星の中核を包むアビス内部に極彩の魔力が流れ込んだ。

過剰な魔力が、爆発する膨大な魔力がアビスをうねらせる。

振動、胎動と脈動、破壊を伴う巨大な揺れ、

不規則な脈動が星を大きく揺り動かす。

それは強引に、無理やり注がれた大きな力に、星が全身で悲鳴をあげているかのようだった。


「やりすぎだよ」

怒りを伴って巨大化した鉄槌が、魔力を注ぎ続ける勇者の背を狙って…振り下ろされる。

「せいっ!」

ぶつかり合う巨大な鉄槌と巨大な拳。

巨大化した土神(イデア)アッパーが鉄槌を勢いよく弾き返した。

「…とんでもない力技だね。 …どっちも」

「…」

勇者は黙って確認する。

…魔王、サティ。横には魔王レヴィの姿も。 …揃って現れてくれたのなら、丁度良い。

「…あなたねぇ、この星を壊す気なの?」

氷姫エウロを返してもらう」

「あの氷の神? ならいないけど。きっと、どこにもいないと思うけど? それはもうあなただって知って、」

レヴィが挑発を滲ませながらそう言いかけた時、勇者の姿は消えた。

「ぎっ?!」

背に立ち振り切った剣が腕を飛ばす、

「このっ!」

レヴィはすぐに熱視線を向け

「ビひぃッ」

る前に、その顔面を勇者の拳が捉えた。

豚の鳴き声のような音を発しながら、そのまま頭から勢いよく地面にめり込んだ。

「特大の、おまけですッ!!」

間髪入れず容赦の無い土神(イデア)の巨拳が追い打ちをかける。

レヴィは一層どころか二層三層より更に奥深く地面にめり込んでいった。

土神(イデア)の追い打ちはそれで終わらない。

その重い一撃のたびに大地が大きく振動した。

勇者は土神(イデア)に任せ、狙いを変える。

「っと、次は私か、」

乾いた音が響き、勇者はサティの視界から消える。

「下? 上? …いや、」

無数の光の点と点を繋ぎながら移動するその速度を捉え切れない。

(…速過ぎるね)

それでもサティは勇者の剣を、鉄槌で防ぐ。

(…魔法を使わない。 …吸収されると、警戒しているのかな? それで剣による物理攻撃か。 …まあ正解だね)

勇者の方が速さは上だったが、サティは巨大な鉄鎚でその剣を巧みに防いでいる。

鉄鎚の大きさは自由自在で、強度も申し分ない。

勇者の剣はその体にまだ一度も届かない。

「そろそろこちらからもいくよ」

見えない鉄槌の軌道が読み難い。

剣と鉄槌がぶつかり合う。

力を貯めて放たれた鉄鎚の一撃が、勇者の剣を後ろ手にわずかに弾く、

「…ナビ」

サティの合図で、控えていたナビがゲートを開く。

勇者の剣はゲートに吸い込まれた。

「これで武器は無くなったね。どうする?」

…魔法を使えばいい。

そうすればこの鉄鎚の糧にもできる…より強力な一撃を、お見舞いしてあげる。

「もしかして、魔法を使うのが怖いのかな? まあそれも、仕方ないね。吸収されちゃうからね」

サティは余裕の、挑発的な表情を見せた。

「…」

勇者は黙って手に魔力を集中させていく。

極彩の魔力を、再び収束させる。

「…へぇ。 …さっきの力。 …本当、馬鹿みたいに大きな魔力だ」

…それも複数の属性。 …やはり少し、面倒だね。

勇者の手のひらから、極彩色の魔力が放たれた。

極彩の光は一度サティの前面空間で止まる…が、

収まりきらない多色光が線となってその空間を貫通した。

「ッ!」

(…流石にこれだけ複雑な力だと、一度には変換し切れない…か。分析に時間がかかりすぎる… ナビ!)

サティはナビたちに支援を要請する。

次第に不揃いになっていた極彩の光は纏まり、一つの大きな力に変換されていく。

(…これだけやって、手間をかけて、それでもまだ全てをモノにはできない。 …まあでも、このくらいの力があれば充分だろう)

全身に少なくない傷を負いながらも、変換させた力を鉄鎚に集めていく。

鉄鎚に、今まで満ちたことのない程の力が集まる。

「はは…これは今までの中でも最高の一撃になるよ」

その溢れ迸る鉄鎚を、勝利の確信と自信を持って勇者に向けて振り下ろし…

ー 雷魔法 極大 ー

雷が落ちた。

「グ、はぁッ?!」

動きが止まる。

「ぐ…」

何が…起きた?

光? 雷か?

雷属性の…

身を焦がす激痛が襲う。

なぜ直撃した?

どうして全く変換できなかった?

属性は光、雷。

何にせよ単一の属性なら、たとえ神の如き力であろうと…

見るとまた雷を纏っている。

…もう一度?

いや、それなら今度は変換すればいい。

そしてこの鉄鎚をより強大に、それで、


ー 雷霆(ケラウノス) ー


比べ物にならない、豪雷が落ちた。


変換できない。

その一片さえ、変換できなかった。


荒れ狂う破壊の豪雷がサティを貫き、その先にいたレヴィも纏めて貫いた。

それでもなお勢いも威力も衰えずに…

星をも貫いた。

消し炭すら残さずに、魔王たちは掻き消えた。


「…相変わらずとんでもない力ですねそれ。あの泰然自若というか、傍若無人な神の…。 …それで、あなたの体の方は大丈夫なんです?」

「…もうしばらくは、まともに動けそうにないかな」

「まあ私の手の中にいれば安全ですよ」

「…ありがとう」

土神(イデア)の手の中で、静かに短く息を吐く。

懐から指輪を取り出す。

指輪は光を受けて輝いた。

…前に、土神が神核となった時、時間はかかったけど戻ることはできた。

でも、今度は…

「…一度、城に戻ります?」

「…」

「今は体の方を休めるべきかと。 …動くのは、それからです」

「…ああ。うん。 …そうだね」

「ゆっくり休んでください。私が安全に運びますので」

勇者は安心して目を閉じた。

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