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土兵(ゴーレム)とベアバーガー

魔王でもある勇者の帰りを待ち侘びていたのは無感情で無機質な土の兵たち…ではなく、

「おお、我らが魔王、グリ様のお戻りだ!」

「ああ、ようやくその姿をこの目で直に拝見できると言うもの」

「何と神々しいお方であるか」

「「「うおおぉおお」」」

「「「グリ様! 魔王様バンザイ!!」」」

実に感情豊かで活気溢れる土兵ゴーレムたちだった。

「随分と…土兵ゴーレムたちは変わったね?」

部屋に向かう途中、隣を歩く氷姫エウロに訊ねる。

「旅立たれた後、念入りに教育を施しましたので。それもあって、心身ともに成長いたしました」

「成長が早すぎない? 初めの頃は普通のゴーレムだったと思うけど」

今の姿は…はたから見ればもう普通の、意思を持った人間のようにも見える。

そう言われても信じるだろう。

「ある程度の武器は扱えるようになりましたし、今でも複数でかかればこの界隈に出る熊の魔獣にも対応可能です。より一層の鍛錬を積み重ねれば、まだまだ成長の余地、伸びしろはあるかと」

「ふふん、他でもないこの私が造ったんです。土兵ゴーレムたちが優秀なのは当然ですね。それに前にも言いましたが、ここの土は魔力が肥沃ですので、まだまだ進化も成長も、可能性も無限大です。何しろ他でもないこの私が、製作に携わっているので!」

氷姫エウロ土神イデアは得意気にそう語る。

「…少し気になることと言えば、この地が、わずかにですが魔力を吸っていることですね」

そう言った土神(イデア)は少し首を傾げる。

「この大地が? 魔力を吸っている?」

「ええ、そうです。この星が、と言った方が正しいかもですが。それでもまあ微弱ですし、私たちからすれば、それほど気にするような量でも無いんですけどね。あなたも一応、気にはとめておいた方がいいかもです」

忠告の最中、寝ぼけ眼なリリンが部屋から出てくる。

「…あ〜、おかえり〜。 …ん〜、お腹すいた」

どうやら帰りを待っていたようだ。

「色々手に入ったから、せっかくだから、新鮮なうちにこれを使ってご飯にしようか」

「種は私が受け取りますね。大地に植えてきますので。準備は万全ですので、すぐに成長しますよ。それほど時間もかからず収穫できますので」

「お腹が空いた時は炊事場にいる調理担当の土兵ゴーレムに頼めば手頃なものを拵えてくれると、私が出る前にそう伝えましたよね?」

「ん〜、まあ、うん。ちゃんと聞いてたよ。でも何か食べるなら…一緒の方がいいし。その方がきっと美味しいから」

リリンはそう言って勇者を見る。

「まあ、確かにそれは否定できませんね」

リリンは勇者に懐いていた。

自分にあたたかい寝床ふとんとあたたかい食事ごはんを与えてくれた神である、と。

魔王という重責からも解放してくれた、と。

少なからぬ恩を感じてもいたようだ。

新鮮な材料を持って調理担当である土兵、料理長の元へ向かう。

料理長は他でもない魔王様と一緒に調理をすることになり、ど緊張した。

魔王様に対してご無礼があってはならない、かと言って自分は料理を任された身、

己の役割を全力で全うする、無様を晒すわけにはいかない。

エウロとイデアの厳しい教育の賜物もあってその手捌きは見事なものだった。

その包丁さばきを間近で見た勇者は感嘆し、そして安心した。

「これからきっと、色々な料理を作ってもらうことになると思うけど、よろしく頼むね。料理長」

「!! はい!! 光栄です!!」

料理長は涙を浮かべて喜んだ。

「おいおい、なんだこの匂い? 随分とまあ、美味そうな匂いがするじゃねぇか」

匂いに誘われて火神アグニも食事の場に姿を現した。

「熟成肉? …ほぉ、褒めてやる。豚肉を狩ってきた甲斐があったってモンだ。こりゃ美味ぇ」

食べる手が止まらない。皆が舌鼓をうった。

「これだけ美味しいと、もっと色々な料理を食べてみたくなるね。料理の、レシピの知識があまり無いのが残念だよ」

「それなら私がマモナス様のナビと同期して提供いたしましょう。あちらのインテリナビはそれはもう豊富に、そういった知識もため込んでいるので」

肉を頬張りながらナビはそう提案した。

「そりゃせっかく食うなら美味いモンの方がいいしな」

「…私はあなたの手料理をもっと食べてみたいな〜。 …あ〜、お腹いっぱい。 …それじゃあもう寝るね〜」

リリンは再び寝床へと戻っていく。

料理長の腕前は本物だった。

食事に関しては何も心配いらないだろう。

みんなで囲んで食事を楽しめるのは良い事だ。


後日…興味深いレシピを手に入れた。

城のメニューに加えるため、料理長に依頼して調理を始める。

加工した熊肉を細かく刻み、香り高い丸い野菜も同じく刻み、二つを混ぜ、

さらに塩と香辛料をいくつか、練り合わせる。

それをタネと呼ぶ。

そのタネを手のひらにとり、平たく形を整えてから焼く。

特定の種子を粉にし、水と酵母菌を混ぜ、よく練り、寝かせる。

これもまたタネと呼ぶようだ。

タネをちょうど良い大きさに切ってから丸め、形成してから土釜の中で焼く。

ふんわりと香ばしく焼けたものを半分に切り、

その間に先ほど焼いた肉と、いくつかの瑞々しい野菜を好みで挟む。

マヨネーとケチャと呼ばれるソースも加える。

ベアバーガーの完成。

そしてそれに付け合わせる飲み物として、

コラノキの種子を主体に各種香辛料を煮詰めたシロップを冷たい炭酸水で割ると、

コーラの完成。

完成したベアバーガーを味見と称してナビが食べる、

「!? お、美味しい。こんな美味しいものがあるなんて…」

続けてコーラを飲む、

「うっま!! え!? 美ッ味ァッ!! 絶妙にあいますねッ!!」

そのあまりの美味さにナビは感動し打ち震えていた。

「気に入ったみたいだね」

「…ええ、これは…本当に。美味しい、と、言わざるを得ない」

食の…その奥深さを、改めて…知ることができた。

共有し、共感し、同調することで他のナビたちもこの知見を得られるだろう…しかし、

でもそれは、あくまでも、美味しい、という知識であって、情報であって…きっと、

…この感動までは、伝わっていない。

ナビはそう感じた。

そしてこの感動をその身で実際に経験せずに、それで果たして知った、と、言えるのだろうか?

…いやいや、私は一体何を…

そもそも自分たちはただのお目付け役…

忘れてはならない。

…あまりの感動に忘れるところだった。

私たちはあくまでも他の魔王たちを監視するための、目。

深い知識はともかく、感動をする必要なんて、そもそも無い。

…でも…感動はとても、心地の良いものだった。

ベアバーガーはその後にさまざまな改良を施されていく。

肉を二枚にしたり、間に発酵させた乳を固形化したものを挟んでみたり…ソースを変えてみたり…

そのどれもが素晴らしく、どれもナビの好物になった。

その情報は当然、他のナビたちにも伝わっていく。


そして今日はついに、そのベアバーガーの味に興味を持った他のナビが城を訪れていた。

「こんちゃ〜。様子見に来たよ〜。元気にしてた〜?」

軽い口調と、可愛らしいリボンと、バチバチのつけまつげをしたナビ、

魔王リリスの元にいるぎゃるナビと呼ばれている(自称している)ナビだった。

「…何しに来たんですか? 見たところ一人ですよね?」

「まあそれは良いじゃん。私たちって、ほら、ナビの中でも姉妹みたいなものだし? 様子を見に来るくらい普通普通、それに私らってほら、他のナビとは違うし?」

「いえ、別に他と何も変わりませんよね」

「え〜、つれな〜い。仲良くしようよ〜。 …私はあなたのこと、妹と思ってるし?」

「いえ、勝手にそう思われても…私は別にあなたの事を姉と思ったことは一度もありませんし、おそらくこれからも無いかと」

「ぶ〜ぶ〜、でもそんなこと言って〜、あなたも他のナビと違ってオシャレしてるよね? そのリング、可愛ッ、私ら姉妹ってやっぱオシャレだし。見て見て〜このリボン、また少し変わったんだよ〜、色濃いでしょ?」

「いえ、知りませんけど…それにこれは頂いたものです。 …オシャレとかでは無く」

「え〜、それなら私にちょうだいよ? だってそれ、すっごく可愛いもん。綺麗だし」

「…これは私が頂いたものですのでお断りします。 …でも、良いんですか? リリス様の姿が見えませんけど。 …離れるのはよろしく無いかと」

「ちょっとぐらいは自由にしても良いっしょ、リリス様はそういうの全然気にしないし。ちゃんと出かけてくる〜って言ったし」

「いえいえ、リリス様ではなく、私たちナビの本分としての話であって、」

「そういうめんどくさい話は今はいいよ〜。フリーダムフリーダム」

「全然良くは無いでしょうよ。私たちの本分はそれぞれ魔王たちのお目付けなのであって、それは当然ながら監視する役割も兼ねていて、」

「あ! あれが噂のベアバーガーね! 私も食べた〜い。私にも一ついいですかぁ〜? う〜ん、せっかくだからダブルにしよ〜。もちろんコーラもつけちゃう。楽しみ〜レッツエンジョイナウ」

ナビの小言を一切気にせず、ベアバーガーを頬張る。

「うっま! うっま何これ! コーラもうっまっ!! マーベラスッ!!」

「そうでしょうそうでしょう。そこのメニューにある油で揚げた細切りのイモもよく合うんですよ」

「へぇなになに、それももらう〜」

「この赤いソースにつけて食べても美味しいです」

「わぁお、ん〜、ファンタスティック!」

「一度に貪りすぎですよ、別に誰もとりませんから」

「ん〜、美味しかった。ホントに! 食べに来て良かった〜。やっぱり情報だけじゃダメね。実際に味わないと、この感動を知ることができないし。 …さぁて、それじゃ帰る前に、ちょぉっとだけ、挨拶していこうかな。ねぇ、案内してよ。魔王グリ、だったっけ確か」

「…うちの魔王様に何か用事ですか?」

「いや別に? ただ一度直接、私も見ておこうかな〜って。まあ情報は知ってるよ? でもねぇ〜、リリス様も気にしてたし、まあそれは本人がそのうち来るとは思うけど…その時でもいいんだけどぉ。せっかくこうして来たわけだから、見ておきたいじゃない? それとも、今いなかったりする? お目付けやくのあなたがいるんだから近くにはいるんでしょ?」

「…部屋の中におられますよ」

「じゃ、行こ行こ」

陽気なぎゃるナビにおされて結局案内する事に。

…それにしても、他のナビと違いすぎませんかね…

見た目もそうですけど、何かもう在り方が全然…自由すぎるというか、何というか…。

リリス様の許可如何はともかくとしても…まるで別の生き物みたいですよ。


「君は魔王リリスのところのナビなんだ」

「そうで〜す。ぎゃるナビって呼んで下さ〜い」

デカい目でウインクをする。ただの瞬きでもある。

「それでぎゃるナビはどうしてこの城に来たの?」

魔王であるリリスに何か言われたか、それともリリンに用でもあるのだろうか?

勇者の予想は二つとも外れた。

「それは〜、ベアバーガーを一度食べてみたくて。すごい絶賛してたから気になっちゃって」

「ああ、それなら調理場に行けば作ってくれるよ」

「もう食べたよ〜。すっごく美味しかった! ん〜、コーラも最高ッ! ねぇねぇ、これで商売したらいいんじゃない? 儲かるよ〜」

「…それはどうかなぁ。今のところそんなに大量生産はできないだろうから、商売となると難しいかもね」

「それならマモナスっちんトコに頼めば? 物資云々なら豊富にあるよあそこ。ゴブリンたちにも間違いなくウケるってこの味。 …あ、でもお肉はそんなに無いか、それに結構高価なの忘れてた」

「マモナス様、でしょうに。何ですかその気安い呼び方は」

「良いの良いの、本人了承済みだから。マモナスっちと交流あるんでしょ? グリっちは」

「それなりにはね」

許可取ってないのに呼んできたな…まあいいけど。

「ふふん、私知ってるよ〜。ここの土兵ゴーレム、すんごい優秀だね。それに、最近はゴブリンの町や物界のあたりでもちょいちょい見かけるし。あれって荷物の運び屋さんかな? 兵だけあってまあまあ強いね」

「マモナス様に頼まれて貸し出しを行なっているんです。その見返りとして物資を分けてもらってる訳ですけど…利害の一致、ですね」

「ふぅん、なかなか抜け目ないことしているのねぇ。ま、食べたくなったらまたここに来ればいっか」

「ただバーガーを食べるためだけにここに来るつもりですかあなた?」

「良いじゃん。そのついでに妹の様子も見れるし」

「二人は姉妹?」

「そうそう」「いえ全然そんなことは無いですね」

肯定と否定が交差した。

「…私たちナビに姉妹も兄弟も無いでしょう。そもそも個が無いんですから」

「え〜、個というか、個性はあるじゃない。少なくとも私とあなたは他とは違うし。これ見た目の話だけでもね」

「あなたは見た目以外も他とは違う気がしますけどね」

「お? わかっちゃう? 鋭いね〜。でも詳しいことは、秘密」

「…何を言っているんだか。 …用が済んだのならもう戻ったらどうですか? リリス様のところに」

「はいはいそうしますよ。 あ、そうだそうだ…ねぇ、ちょっと私も視てもいい? あなたのこと」

「それはサーチする、ということだよね?」

「そ。良い? 嫌ならやめとくけど」

「ぎゃるナビは許可をとるんだね。まあうちのナビもそうだったけど」

他のナビは勝手にやっていた気がする。

「私たち姉妹は礼儀正しいんですの」

「構わないけど、何を視るつもり?」

「内部はちょっと危険だからやめとく。あなた自身を、その体をね。いい?」

「良いよ」

「それじゃあ失礼しま〜す…サーチ・アイッ!」

ぎゃるナビは勇者の肉体をサーチした。

肉体の強度…高水準…その中でも筋力値が高い。

…魔王であるポギーよりも遥かに上…ちょっと、異常なくらい。

特別な肉体? …いや、肉体を構成する主な要素はすでに知っている何かに近い。

…ああ、ゴブリンたちだ。

もちろん完全な一致ではないが…ん?

リリン様にも近い、すごく近い。

もしかすると、メイドイン悪魔、では?

リリン様に近いのは…そのせい?

となると…ホムンクルスに近い? デザイナーベビーってヤツ?

でも誰が? リリス様の訳はないし…

…おお…噂通りだ。

視ようとしなくても…膨大な魔力が内部から溢れ出ている。

ひゅ〜…視たい、けど……先まで視たいけど視ちゃダメなヤツだこれ。

ん〜…でも肉体そのものに魔力があるわけでは…無い?

もしかすると…むしろ肉体そのものには、魔力が…無い?

ん!!

不死性を身に宿している。

…殺しても死なない? …不死身? エターニティ?

…すっご。

ああ…でもそれも…内部からの干渉が…あるみたい…

ん〜、ちょっとくらいなら…

「少し視すぎじゃ無いですか?」

ナビは遮るように口をはさむ。

「っと、あ、もうこんなに時間経ったんだ。ふぃ…何かどっと疲れが…」

「内部までは視ないと言ってませんでしたか? 今少し視ようとしたでしょう? …魔王様も、ちょっと不用心ですよ」

「そう? でも見られるだけなら特には」

「許可したのは知ってますけど、それでもずっと視られてんですからね。その体の隅々まで。 …しかも他のところの魔王のナビに。 …もう少しこう、用心して下さい」

ナビは何かモヤモヤしていた。

「あ〜ごめんごめん。嫉妬しちゃった?」

「…違います。 …レヴィ様じゃあるまいし。 で、もうすんだのでしょう?」

「そだね〜。今日のところはまあこんくらいにしとく〜。リリス様も待ってるし、じゃあ私帰るね〜」

ぎゃるナビは颯爽と帰って行った。

「…騒がしいナビですね」

「随分個性的な、面白いお姉さんなんだね」

「いえ姉じゃ無いですので間違わないで下さい」

「でもそれなら何で妹なんて言ったのかな」

「さあ? どこか壊れてんじゃ無いですか。他のナビと比べると見た目も性格もぶっ飛んでますし」

「仕えているリリスに似てるとか?」

「リリス様はあそこまでぶっ飛んでませんよ。まあその能力に違わず嵐のような方ではありますけど」

魔王リリス。 …リリンの生みの親。

色界と怠界の魔王を喰らったという。

まだ会ったことはなかったが、その姿が少しだけ気になった。

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