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レヴィ

風に靡く青い長髪に挑発的な表情を浮かべた女性の隣には重装備に身を包んだナビが控えている。

「…いや偶然じゃないですよね。私の映像を見て来たんでしょうに…最近ずっと、本当にそればっかり見て何もしていなかったじゃないですか。…執拗なくらいに」

「黙れ言わなくていい燃やすぞ?」

その鋭い視線に防具は燻り、煙をあげて焦げついた。

「熱い熱い、やめて下さいこの装備じゃそんなにもちませんから」

「そんな装備でレヴィの焰が防げるわけないっての」

吐き捨てるようにぞんざいに、乱暴に言い放つ。

「そう言うなら私にその視線を向けないで下さいよ」

「チッ。 まあいいか。 …それにしても。映像で見るよりも良いんじゃない? 良いんじゃない、ねぇ?」

レヴィは目を細めて勇者を見る。

その口元はほころんでいた。

「…あちらにおられる女性は嫉界の魔王でもある、レヴィ様ですね。まあ会話を聞いてもうお分かりだと思いますけど」

他の界を訪れるようなことは今までほとんどなかったはず。

自分の城から出ることすら稀で、その引きこもりようと出不精なところはリリン様とも良い勝負…

ただ、その実力は本物。この星で三番手に位置している…

本来、サティ様やイラ様とも対等な存在で…

「魔王、グリ…だったわね? これからレヴィと来なさい。私のお城に来ることを、特別に、そう、特別に許可してあげるから。そう、あなた、」

勇者に人差し指を向け、さらに続ける。

「あなたはレヴィの隣にこそ、相応しい。神などではなくて、ね。良いわね? さあ、それじゃあこれから一緒に、飛べないなら、掴んでも良いわ、好きなところをね。 このレヴィが、直々に迎えに来てあげたんだから」

断られることは全く想定していないかのように、自信に満ちた笑顔で、手を差し伸べる。

「それはできないよ。今は自分の城に戻りたい」

当然の如く断る。

「…(レヴィ)の、このレヴィの誘いを断る? 断るの? ねぇ?」

綻んでいた表情はじっとりと湿っぽい視線に変わる。

視線が熱を帯びていく、

瞳の奥でゆらゆらと、青い焔がゆらめいた。

それは形容でもなんでもなく実際に、現実に。

そのじっと見つめた先が、燻り、急激に大気の温度が上昇していく。

蒼炎が、勇者の立つ大地の足元から舞い上がり始めた。

…このままだと、自分はともかくとしても、近くにいるナビは耐えられないかもしれない。

「この炎、止めてくれないかな?」

「それは、ム・リ…止めたいならレヴィの言う通りにして。話はそれから、だからね? 一緒にお城に帰ろ?」

魔王レヴィはこちらの話をまともに聞くつもりはない。

その間にも周囲は高温に、そしてついには蒼い火柱までもが舞い始める。

勇者は剣を取り、構えた。

「…炎を止める気が無いなら、ひとまず帰ってもらうよ」

言葉と同時に、氷魔法を周囲に放つ。

蒼炎は瞬く間にかき消され、かわりに周囲に霜が降りた。

「…レヴィの焰、消しちゃうんだ。 ふぅん…このくらいの焔なら…消せちゃうんだ。 …へぇ…そう…」

ぶつぶつと呟き、レヴィは俯いた。

側にいた厳重装備のナビはその様子を見て急いで距離をとり、離れていく。

「…せっかく楽しんで、あなたの事見てたのにな…すごく気に入ったから…隣にいて…いるだけでも、良かったのに…。 …それなりに強いんだね、まぁ、魔王を名乗るだけはあるか。聞いた通り…せっかくだから…確かめようかな……どのくらいなのか。 …見定めて、確かめて、あげる!!」

爆炎が舞うとその全身から青白い焰が噴き上がる。

周囲の大気は熱によって歪み、魔力の波動が空に、大地に広がっていく、

「…ナビも今のうちに離れて。できるだけ安全なところまでね」

ヒリヒリとした魔力の波動から庇いながら、いまだ近くにいるナビに声をかける。

「…わかりました。私がいるとあなたの邪魔になりそうですし、そうさせて頂きます。 魔王グリ様も…お気をつけて」

熱波の波動から逃れるように、ナビは急いでその場から離れていく。

「…」

…実際のところ、ナビはその言葉をかけられるまで何故自分から逃げなかったのかを疑問に思った。

…そうした自分に驚いていた。

自分も向こうのナビと同じように、有無も言わさずすぐ逃げるべきだったのに。

…己の身の安全を確保するのは当然の事で…それならなぜ言われるまで、側にいたのか。

…いようと思ったのか。

ナビにはわからなかった。

…ただの判断ミス、と、今はそう思うことで納得することにした。


「もともと興味はあなただけ。外野なんて気にしない。まあ、邪魔はさせないけど。あなたはもう、目を付けたんだから。 …レヴィの目からは逃れられないんだから…覚悟してね」

熱を帯びた視線が勇者の姿を凝視する。

姿を捉えると同時に蒼い焰が周囲を覆った。

焔が体に燃え移り広がる前に氷魔法を展開するも、氷が発生する前にその熱にかき消され蒸発。

「!!」

焔は消えない、熱が止まる気配はない。

「そんな冷気じゃ、話にならないから、ねぇ! 私の視線で、燃えちゃうから!!」

向けられる視線を外そうと雷を纏って高速で移動、

「速い、速いねぇ!! でも…レヴィの、このレヴィの熱視線からは…逃げられない!!」

まとわりついた視線が勇者の姿を捉えて離さない。

とても目では追えない程の速さをもってしても、

レヴィのその、絡みついた視線は勇者の姿を執念深く捉え続けた。

「この私が目をつけたんだから、観念しなさいねぇ!!」

青白い焔が全身を覆い、包み込む。

勇者はレヴィの焔に抱かれ…

「…それなら」

本体を狙う。

ー 氷魔法 極大 ー

上空から無数の飛礫つぶてが霰のように降り注いだ。

そのひとつひとつが巨大な氷の塊。

「…チッ」

軽い舌打ちとともにレヴィの視線は勇者から、自身を狙う巨大な氷塊へと逸れた。

氷塊に視線と焔を集中させるも、

「…ああ、消えない。生意気な、氷。 …なんて生意気な」

レヴィはなかなか消えない氷を見つめながら、ふと思い浮かべた。

連想したのはあの氷の神の姿だった。

隣に立って愛おしそうに、見つめていたあの氷の神。

…あぁ、イライラする。あの表情かおを思い出すだけで、もう、頭の中が、体が、熱くなるっ!

「消えろ!!」

降り注いだ氷塊は全て消え、一時的に周辺の温度も元に戻った。

霧散した氷の冷気がレヴィを冷やすも、その実、頭の中は沸騰しそうなほどに燃えていた。

「…まだまだぁ、足りない足りなぁい!! あんな女にぃ、レヴィの焔が負けるものか!!」

嫉妬にまみれ熱の冷めないレヴィは再び爆炎と蒼炎をその身に纏う。

レヴィの焰に焼き尽くせないものなんて…無い!!」

レヴィを中心により高熱の熱波が広がっていく、

その熱と蒼炎は空を覆い、そして大地へと、今にも降り注ごうとしていた。

あれだけの焔が落ちたら、このあたりはきっと、ただでは済まない。

勇者は構え、魔力を高めていく…

その時、声が聞こえた。

「今一度氷の魔法を。あわせます」

声を合図に再び魔法を放つ、

ー 氷魔法 極大 ー

勇者の放った氷魔法に氷姫エウロが重ねる。

その絶対的な冷気は瞬く間に世界すべてを凍りつかせた。

そして…

巨大な氷柱にレヴィは閉じ込められた。

「_…」

その目を閉じて、動かず、固まっている。


「ふふ、私たちの勝利、ですね。魔王グリ様」

「もうすっかり呼び慣れたね。自分はまだ少し慣れないんだけど」

「ふふ…たとえどちらであっても、この気持ち、想いは何一つ、変わることはありえません。精一杯の親愛を、深愛を込めて呼んでおりますので…」

「ここは城から結構離れているけど、迎えに来てくれたの?」

「はい。何やら戦いの気配がいたしましたので…いてもたってもいられなくなり、こうして馳せ参じた次第です。私たちの城を無防備にさらさないよう、留守番はちゃんと、土神イデアに頼んでありますから、ご心配なく。それに、兵たちも優秀ですから」

「ありがとう、おかげで助かったよ」

「いえいえ、たとえお一人であっても、何事もなく対処していたと思われます。 …実のところ、少しでも早くお会いしたく、こうして迎えに来てしまいました」

エウロはそう言いながら勇者に寄り添おうと近づく、

「…_」

レヴィの目が開いた。

視線の先から氷が穴を開けて溶け崩れていく…

「…」

崩壊した氷塊から現れたレヴィの姿は濡れ、長い髪の先から溶けた氷の雫が滴り落ち…

震えていた。

…ただその震えは寒さのせいでは決して無い。

…口惜しさと悔しさ、恥辱と嫉妬…憎悪、

「…あぁあああああ!!!!」

突然の絶叫があたりに響く。

「…やってくれたわね。ああ! 本当に!! このレヴィに!!! この(レヴィ)の前で!!!! イチャイチャいちゃいちゃと。 ああぁあああゝあぁアアアあああゝあゝアアアアッ!!!!!!!」

レヴィはあまりの嫉妬に発狂した。

ひとしきり絶叫すると落ち着きを取り戻したのか、熱で濡れた体と髪を乾かし始めた。

そしてひどく静かにゆっくりと、口を開く。

「…教えてあげる。 …(レヴィ)の本当の名は、レヴィアタン。 …故あって、サタナエルに…この星に力を貸していたの。 …でも、それも、これからは、別。 ……私は…ユルサナイ」

最優先にするもの、したいことができた。

「…今度会う時は……覚悟して」

レヴィは大人しくその場から飛び去っていった。

「…帰って行ったね」

「暴れるだけ暴れて、自分勝手な魔王ですね。さあ、私たちも、帰りましょうか。 …ゆっくりとでも構いません。二人で歩いて、散歩を楽しみましょう」

「…ええと、私も一応いるんですけど…」

ナビは控えめに、並んで歩く魔王と神の後ろに着いていく。

去り際にレヴィの憎しみを込めた眼差しはずっとエウロに向けられていた。

「まあただの嫉妬ですね」

エウロはそのことに対して特に意にも介していなかったが、

「レヴィ様の嫉妬を侮らない方がいいですよ。 …本当に執念深いお方ですし。 …気をつけた方がよろしいかと」

ナビは余計な事とは思いつつもそう気に掛けていた。



レヴィが戻って向かった先は己の嫉界ではなく怒界。

「…視ていたよ」

怒界の魔王サティはそう言いながらレヴィを出迎える。

「…なら(レヴィ)の来た理由もわかるわね? …あなたに、 …この星に貸していた力を戻すわ」

「そうだね。 …今までも充分貸してもらったことだし、レヴィの好きにしてもらっても構わないよ」

「そう、それなら遠慮なくそうさせてもらうわ」

サティとの契約は終了し、星からレヴィへ…魔力が還っていった。

「それにしても、随分と苦戦していたね」

「…二つの神を相手取っていたようなものね。 …たとえ力が戻っても、まだ少〜し、キツイかも。 …でもきっと、それはあなただって同じだと思うわよ?」

レヴィは冷静にそう分析する。

「だけど…一対一なら、ね。まあそれも、あのおんなになら、」

「遅れは取らない?」

「ええ。 …それとナビ、あなた、ちゃんと視たのよね?」

側に控える重装備のナビに向かって問いかける。

「…ちゃんと視ましたよ。レヴィ様が戦っている間ずっと…できる限りは、ですけど」

「ふ〜ん、で、どうなの? 新たに何か、わかった事はあるの?」

「内部に在ったのは、もう一つ、氷の神がいましたよ。どうやらこっちが魔法の元ですね。冥界の氷、と言ったような…それから後はですね。 …水、風、火、土の、四属性の精霊がいましたね」

「…それだけじゃ無いわよね? …肝心の力、もっと強い力があったはず」

「ええ、いました。けど、もう一つの火の神…と言うよりは、少し異なっているような…それと、雷でしょうかね、光と、それから闇の…白い光と黒い闇のようなもの、だったんですけど…」

口ごもったナビは冷や汗をかいている。

「…何かあったの?」

「…あまり視れません。 …それ以上深くは視れませんでした」

「身の危険を感じたのかな?」

サティは興味を持ってナビにそう問いかける。

「…はい。 …すごく危険、ですね。どちらも強く紐付いているというか、深く根付いているというか…それにとても制御できる力とは思えなかったです」

「こっそり取り出しちゃえば?」

「無理ですよ、絶対に。危ないです。 …怖いです」

ナビは恐怖に震えた。

「…ここまで怯えさせる神。う〜ん、ちょっと興味深い、でも…まああまり無理は、ね。それに今のところ、ここに出てきた神たちだけでも、力は事足りそうだから」

「その精霊たちなら大丈夫じゃないの? 何ならいっそ、そのまま直接アビス送りにしちゃえば?」

「いや、たとえ精霊と言っても侮れないよ。当然、抵抗はするだろうし。だいぶ、それもかなり弱らせてからじゃないと送るのは無理じゃ無いかなぁ…まあそれは、他にも言える事だけどね」

「私もそう思います。精霊とは言っても、決して弱い反応では無かったです。あ、それと、」

「まだ何かいたの?」

「魔王さまたちに近い反応もいくつかありました。魔王ではなくて、もしかすると悪魔かもしれませんけど」

「へぇ、神だけじゃなくて魔王や悪魔も宿してるってこと?」

「…それはまた実に興味深いね。魔王グリ自体に、とても興味が湧いてくるなぁ」

「ちょっと、私が先に目をつけたんだから。横取りは許さないわ」

「三つ、反応がありました。一つはそうでもありませんが、残りの二つは大きな力を持っています。おそらく名のある悪魔なのでは無いかと」

「あまり無造作に引っ張り出すのも危険かしら? この星ならそれでうまくいかない?」

「…どうだろう。まあここなら、地の利はこっちにあるからそうそう好き勝手はできないし、させないけど。 …話のわかる悪魔なら、協力できないこともない、かなぁ…リリスみたいにね。でもやっぱりそんなに簡単にはいかないだろうね。 …悪魔は私たちと同じで、基本的に自分勝手だから」

「…それは神だって一緒じゃない?」

「まあ確かにそうだね。神も悪魔も魔王も、人も魔獣も、それは変わらない、か」

「で、あなた自身はまだ動かないの?」

「そうだね、まだ…。レヴィ、君と同じ、今は静かにその機会を狙う時かな。監視の、ナビたちの目はあるから。焦らず急がずに…その時を待つよ」

「…ふぅん、ま、こっちから協力の要請をすることがあるかもしれないけど、その時は協力してよね」

「もちろん、できる限りは善処する」

「…今までずっと協力していたんだから、ちゃんと協力してよ?」

「わかっているよ」

レヴィは疑念の眼差しをサティに向けつつも嫉界へと戻っていった。

「…」

…今の、力を取り戻したレヴィでもあの魔王グリとその側に控えている神を同時に相手取るのは厳しいと、

他でもない直接戦ったレヴィ自身はそう、判断した。

己の力を少々過信するきらいはあっても、相手の力を見誤るような事は無い。

…となると、各々バラけさせるか、何かうまく孤立させる方法を考えないといけなくなる、かなぁ。

ナビによって映し出された勇者たちの姿を観察しながら、一人静かに考えを巡らせていた。

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