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ナビ

今日も元気に熊を狩り、いい具合にこんがりと焼く。

「流石にこう、毎日熊肉ばっかりじゃ飽きねぇか?」

火神(アグニ)は本日三本目の串焼き肉を頬張りながら言う。

「そう? と言っても、この辺りで出てくるのは熊の魔獣ばかりだからね」

手早く肉を串に刺し、焼いていく。

城内にも食事をするスペースはあるのだが、基本的には外で肉を焼いていた。

毎日がバーベキュー、とも言える。

「まだこの大地にはレッドベアー様の影響があるのだと思われます。 …倒されたのも、だいぶ前のことになりますが、根強く残っているのでしょうね。生まれる熊たちもまた、第二第三のレッドベアーとなるべく、新たな魔王となるべくその座を密かに狙っているかのではないかと…あ、はい、せっかくなので頂きます」

こんがりと焼けた串焼きを受け取るナビ。

「ほぉ…ま、諦めが悪いのは嫌いじゃねぇ。しかし、話は変わるが肉界の豚でも持ってくるんだったな。みんな消し炭にしちまったし、今思えば少し勿体無かったか」

「肉界は豚の魔獣の世界?」

「魔王であるポギー様が豚の魔獣ですので、自然と」

「そうなると、みんな何かしらの魔獣なんです? 魔王は獣ばかりですか?」

「ああ、いえいえ。必ずしもそう言うわけではないです。例えばそうですね…物界は小鬼、いわゆるゴブリンです。その見た目はあなたたちが一回り小さくなったような姿に…かなり近い、かと。魔王はマモナス様と言って知と技巧に長けています。手先が器用なので、あらゆる物を集めたり、作ったり、物界の名の通り、とにかく物で、溢れていますね。町の中に商業的な施設も数多くあるので、うまくやれば交易も可能ではないかと」

「不足している物を手に入れられそうだね。 …ああでも、通貨を持っていないか。 …物々交換でもいけるかな。今のところ熊肉ぐらいしかないけど」

「必要なら取ってくりゃいいじゃねぇか」

「…相変わらず野蛮ですね。いくら火だからって、周りに無闇に火種を撒かないでもらえますか? 魔王グリさまは特に争いを望んではいないんですから。そう聞いたでしょう?」

「はっ、なんだオマエ、早速秘書官でも気取ってんのかよ。アタシはアタシの考えで動くぜ?」

アグニとエウロは睨み合う。

「食べ物の種類は確かに…もっとあった方がいいかもしれませんね。特に食べる必要性のない私たちはともかくとしても、あなたは栄養のバランスを考えなくては。少しは野菜が欲しいですね。ここの土ならすぐに成長することでしょう。この私がいますからね。一粒でも種があればそれで充分です」

イデアは得意げに言う。

「…種、か。それこそ、物界に行けばありそう…やっぱり一度、行ってみよう」

「自ら出向くのですか? 魔王グリさま自らが赴くと言うのも…他所の魔王が攻め込んできた、と勘違いされたりしないでしょうか? …実際そこの鉄砲玉が勝手に肉界に攻め込んだ前例を作ってしまったので、少し心配です。 ………まあその時はただ返り討ちにすれば良いだけなのですけど」

凍えるようなことを小声で言うエウロ。

剣呑な雰囲気に身震いしたナビは提案する。

「それなら私が知らせましょう。向こうのナビに。少々お待ちを … … … 」

(それにしても、神って結構好戦的なんですねぇ…。御するのはかなり、相当難しそうです)

少しの間、

「はい、伝わりました。歓迎する、とのことです。どうやら向こうからもこちらに赴く予定があったみたいですよ。どうします? それならこちらに来てもらいますか?」

「いや、この星の他の場所…物界と言うのも一度直接見ておきたいから、今回はこちらから出向くよ」

「はい、それではそう伝えますね」

(この人間は比較的穏やかな雰囲気ですが、でもこの神たちを内包していたんですよね…何なんでしょうか…しかもおそらく、まだいますし…。う〜ん、もう一度、どこかでサーチしておいた方がいいのかも…)

「今回はただ挨拶に行くだけだから、自分一人でいいかな。三人はここの城を守ってくれると助かる。リリンは…まあわざわざ起こさなくても、そのまま寝かせておこうか。お腹が減ったら起きてくるだろうし、その時は肉でも焼いてあげて」

「簡単な調理でしたら私の人形ゴーレムがすでに習得しました。何体か調理場に配備しておきますよ」

「ありがとう、それなら後は、食材さえあれば食事に困ることは無さそうだ」

「私は魔王グリさまの焼いてくださったお肉が一番好きです」

「アタシたちにとっては食事ってよりは供物だろ供物、肉だけで全然問題無いぜ」

「そもそもが食べる必要ないんですけどね」

「そういえばナビも最初そう言っていたよね? ナビは食べて強くなったりはしないの?」

「強くなる必要はありませんからね。私たちは、直接的な戦闘に関しては、専門外です。だから期待はしないで下さい」

「見るからに弱そうだもんな、オマエ」

「見た目その通りですから、だからいたずらに、攻撃しようとしないで下さい」

「は、別に、アタシの邪魔さえしなけりゃ何もしねぇよ。さて、じゃあ腹も膨れたし、アタシの城に戻るか」

魔王グリさまと私のお城に戻りましょう」

城に作った一室で一人の少女が眠っていた。

少女の名はリリン。

リリンが起きてくるのはお腹が空いた時だけで、それもお腹いっぱい食べるとまたすぐに眠りに戻る、

食べて、寝る。それを徹底していた。

少し広い広間で今後の事を話し合う。

「私は…是非とも着いていきたいところなのですが…主人の帰るべきいえを守り、辛抱強く待つのも、伴侶の大切な勤めである、と…存じておりますので。 …ええ、はい、私たちのいえは、この家内エウロに全て、お任せください。 待つ間、城にいる私たちの兵の練度も上げておきましょう、備えはいつでも大切ですからね」

「城も兵も全部私が作ったんですけど。今でもそれなりには戦えますが、まあ確かに、鍛えて損はないですね」

「あ〜、ちょっといいか? アタシはその物界の魔王ってのを見てみてぇんだけど」

エウロは凍てつくような厳しい眼差しでアグニを牽制するも、

「ソイツがあの豚野郎と比べてどんなもんか、気になるんだよな。他の魔王ってのも。 …いくつもでかい力を感じたし」

飄々としてその視線を受け流しながら構わず言葉をすすめる。

「それが戦闘能力の話でしたら、魔王の中で一番低いですよ、マモナス様は。従えているゴブリンたちもあまり戦闘を得意とはしていないですしね。まあ当然、護衛だったり、その中にも戦闘特化のゴブリンがいることにはいますが…ほとんどが交渉だったり開発だったり、創造や製作を生業としています。あらゆる物を、全てのモノを蒐集する、それがマモナス様の目的のようですしね。 …少し変わっているんですよ、ゴブリンたちは。この星の目的…価値観からすれば、ですけど」

個として強くなる事が目的に無い、

ゴブリンたちは個体としては他と比べても弱いから、そのかわり頭脳と器用な手先を使って生き残っている。

まあ…それぞれが成長していくのはこの星にとっても喜ばしいことだ。

強くなる為の手段が多様になる、それもまた強さの形ではあるのだろう。

「なんだ、じゃあいいや、別に物とか興味ねぇ。供物は受け取るが。今回はここで留守番しててやる。熊でも狩って肉でも貯めとくか。 ……豚でも狩りに行くかな」

「私は畑のためのスペースと専用の土壌を用意しておきます。作業用の人形ゴーレムも、新しく作っておくので…吉報を待ってますよ。もちろん種も」

案内役ナビゲーターとして、私はご一緒させて頂きますからね。新たな魔王となったあなたに使える身としても、これからは基本的にその側につきますから、構いませんよね?」

「わかった。それなら道案内よろしく、ナビ」

「ええ、この私にお任せください。ナビゲートは本職ですので」


しばらく何もない荒野を、ナビと歩き続ける。

…広がる景色は、殺風景。

緑は大地にわずかにある。

土壌が死んでいると言うわけではない。

イデアが言うには、高濃度の魔力のこもった土であると言う。

…普通の野菜が育つのだろうか?

そういえば、ナビは向こうのナビに知らせてくれたみたいだけど、

「ナビって、他のナビたちと繋がっているの?」

「はい、基本的に、視界を共有することは可能ですね」

「へぇ…全部でどのくらいいるか聞いてもいい?」

「私を含め、七体です。今の私のように、みんな大体魔王の側にいますよ。それぞれがこの星の目としてその勤めを果たしているわけです。あらゆる目からあらゆる情報が、日々、今も集められています」

歩きながら、隣を飛ぶナビと会話を重ねる。

「他にもいろいろ、気になる事を聞いてもいい?」

「はい、それはもちろん、何なりと」

ナビはいたって従順に応える。

「サーチ能力は、どのくらい詳細がわかる? 使えるスキルとか、能力までわかったりする?」

「いえ、詳細を知るにはかなりの力が必要なので…おいそれとはできませんね。魔力切れになってしまいます。まあ襲われることは無いんですけどね。 …魔力を基本とした力の大小から、サーチ対象の、おおよその力は判別できます」

「それじゃあ魔王の中で、特に大きい力を持っているのは?」

「…怒界を統べておられるサティ様、でしょうね。この星で最も強い力を持っています。能力は吸収。あらゆる属性の力を吸収することができます。 …実に驚異的、ですよね」

「…言っても良いのそれ?」

「まあ他の全員がすでに知っていることですし。本人も特に隠してもおられないので。それに私は、あなたに使えているわけですから。この情報があなたにとって有利であっても、問題はないかと」

「それなら良いけど」

自分の力に、それだけ自信があると言うことか。

…吸収、どんな魔力でも吸収できるのかな?

「それから傲界のイラ様ですね。お二方がこの星の中心であり、同率首位、と言ったところでしょうか」

「二人は同じくらい強いんだ」

「はい、そうです。 …親しい間柄でもあります。ちなみにイラ様の能力は反射です。これまたあらゆる力を反射します。 …かなり強力な力です。それこそ知らずに迂闊に攻撃しようモノなら手痛いしっぺ返しを受けますからね」

「それこそバラしちゃって良いの?」

「ですから、今の私はあなたに使えていると言ったでしょう。情報はオープンに、公平に、です。それにイラ様もその力を別に隠してませんから。どちらも知られて構わないスタンスです」

「…そう」

…反射。 …結構厄介かもしれない。

高威力の魔法を反射されていたら確かに、手痛い。

…聞いておいて正解だった気もする。

まあそんな機会が無ければそれでいいか。

「次は嫉界のレヴィ様です。蒼い炎の使い手ですよ。周りからは嫉妬の炎って言われてますね。そう言われていますが、その実、何でも焼き尽くしてしまうほどの強力な炎、です。レヴィ様はもう全身が嫉妬の塊なので、全身からその蒼炎を生み出せます。そしてレヴィ様に近いのが色界のリリス様で、主に風を、嵐を操ります。暴風の魔王と呼ばれてもいますね。颯爽とこの星に現れ、元々いた色界の魔王を喰らい、そしてこの怠界の魔王レッドベアー様をも喰らった、期待の超新星、まさに嵐のような人物ですね」

「リリスはこの星で生まれたわけじゃない?」

「…そうなんですよ。だからよそ者と言えばよそ者なんですが。その力は本物ですから。魔王になってもらったわけです、まあその辺りはあなたも同じようなものなんですけどね」

「魔王に…なってもらった?」

「ええ、当時サティ様が直接そう、交渉をしたんです。かわりにこの星の魔王になるなら今回は見逃す、と。手負のリリス様に向かってそう契約をした訳ですね」

「二人は戦ったのか」

「はい。当然サティ様の勝利でしたよ。まあそりゃそうなんですけどね。 …ええと、どこまで言いましたっけ? そうでした、次はアグニ様がこの前訪れた肉界の魔王、ポギー様です。この星で五番目、になりますね。その巨体の通りの怪力と、それから魔力を喰らいます」

「魔力を喰べる?」

「まあ言ってみれば吸収にも近いですね。ちなみにですが、レッドベアー様の力も同じようなモノです。基本的に、獣たちは相手を喰らい、より強くなっていく能力、ですから。この星で生まれてくる魔獣たちはその能力を生まれながらにして持っています」

「魔獣たちは少しずつ強力になっていくんだね」

「はい、そしていずれはまた魔王が生まれるんですよ。 …最後、力という意味ではこの星で一番下に位置しているのが、これから訪れる物界の魔王マモナス様です。能力は、戦闘に関したものは特に有していません。そのかわりに技工的な能力を持っていますね。特殊なアイテムや武器を創造できます。他のゴブリンたちも、それぞれが個性的な技工を持っています。中にはまだ見つかっていない貴重な技巧持ちなんかもいることでしょうね」

「ナビは…自分たちの事はあれから何かサーチした?」

「…いえ、初めの頃に一度、サーチアイをしたあの時以外で私はしていません。 …アグニ様とエウロ様が肉界を訪れた際、あちらのナビがサーチをした模様ですね。 …おおよその力は知られたでしょう」

「もっと勝手にサーチしているものだと思った」

「ちょっと…私は他のナビとは違って礼儀正しいんです、前にそう、言いましたよね?」

「ああ、確かにそう言っていたね」

ナビにも性格というか、個性のようなものがあるのだろうか。

道中熊の魔獣に何体か遭遇したものの、特に何と言うことはなく、順調に歩を進めていく。

「…へぇ、それぞれに結界がある訳でもないんだ」

「はい、それぞれの界に境界、境と呼べるものはありますが、まあそれも、ただあるだけですね。越えること自体は誰にでもできます。出入りはどこも自由ですから。まあ入ってどうなるかは、ともかくとしても」

「でもそれだと…熊の魔獣と豚の魔獣が鉢合わせて争ったりは?」

「当然ありましたよ。活性化し始めたこれからは、またそうなることでしょう。まあ肉界の豚は熊とも良い勝負をするので、どちらが絶対的に有利、と言うことはないのですけどね。何にせよ、強者が弱者を喰らうだけです。今まで、これまで通りに」

怠界の端、物界との境と思われる薄い光の膜が見えてきた。

「それならもうそろそろ、ゴブリンの姿も近くに見えてくるかな」

「あ、いえ、物界は基本、交渉以外では他の界には行かないので、この辺りでゴブリンを見ることはまず、ないでしょう。彼らは彼らの町でほとんど完結していますからね。それに、熊の魔獣を相手にするのは大変でしょうし。集団で、ちゃんと武器でも持って準備しない限りは、ただ食べられておしまいです」


「ひ、ひぇ〜、お〜た〜す〜け〜」


遠く、とも言えない距離から救援要請の声が響く、

「…ゴブリンの声、ですね」

「行こう」

声のする場所へ、急いで向かう。

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