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相対する仙人(鋼の筋肉だるま)と道士(現役最強)

父上ちちうえ、強すぎです! うぅ、全然当たんないんだもん!」

桃姫はあまりの悔しさに地団駄を踏んでいた。

その手に天仙娘娘が桃の木から拵えた専用の木剣、そしてその身には譲り受けたブカブカの白い羽衣をまとっている。

「いくらなんでも、そう簡単にはいかないよ。でも動きは最初の頃よりも随分と良くなってきているから、一撃もらうのも…時間の問題かもね」

勇者は木剣を下げて桃姫の頭を優しく撫で、着崩れた服装を直した。

背丈はまだ自分の半分も無い、しかしそれでいてこれだけ動けると言うのは、なかなかに驚異的と言うか、将来有望というか…、まあ、幼い子供のもてる戦闘能力では無いな…。

「! 本当ですか父上ッ?! うん、もっと頑張る」

今すぐ稽古を再開しようとする姿勢を手で制する。

いくら飲み込みも成長も並外れているとはいえ、立て続けは体に良くないだろう。

成長期なら、なおのこと。体にかかる見えない負担も、想像しているより大きいかもしれない。

「今は休憩にしよう。休むことも大事だからね。娘娘のところへ行っておいで」

「わかりました! 母上〜」

キラキラした瞳に、実にまっすぐな、素直で良い返事。

「父上も後で来てくださいね!」

自分たちの言う事をよく聞く子ではあったが、

父上ではないよ、と何度言っても聞き入れようとはしなかった。

まあそれは…母上(天仙娘娘(厳密には母親ではないのだが…))にそう教え込まれ(刷り込まれ)ていたので、もうそれをすっかりと信じ込んでいるようだ…。


「ほっほっほ、子供の成長は早いと言うが、本当にその通りじゃのう」

「いやいや、いくらなんでも早過ぎじゃないですか? …ついこの間までおぎゃ〜って言ってたんですよ? と言うより、一日も経ってないですよね?」

「…まあ、それも確かにそうじゃな。まるでつい先ほどのよう、と言うて、本当につい先ほどのことなんじゃからな、はっはっは」

細身の老人は愉快そうに笑った。

まるで本当の孫ができたようで嬉しい、とのことだが。

「ここって、時間が早く流れているわけではないですよね? 今、自分がここに来てから外の世界ではどれくらいの時が経ったんでしょうか?」

「一日か二日経ったかどうか、じゃないかのう。まあ時間のことはあんまり心配せんでええぞ。誤差じゃ誤差」

それを聞いて少し安心した。

今戻ればそこまで心配されることもないだろう、戻れれば、だが…。

「…でもそうなると、桃姫の成長の速さは全くわかりませんね。もうそういうもの、と思うしかないのかもしれませんけど」

「まあ実際に、人間と同じではないじゃろ。桃から生まれたんじゃしな。それも御神木の。 …桃の木の精、に近い存在だと思われるのう」

「精霊みたいなものですか?」

「そうじゃろうな、それもかなり高位のな。それにあの御神木は、本来ワシら仙人たちの故郷にあるものじゃ。ただ、依代が人の形なのは与えたお主の力の影響か、あるいは天仙様の影響かもしれんがの」

「娘娘の影響、と言うと?」

「…天仙様は昔から赤子を欲しがっておっての。まあ人の赤子を流石に連れ去りまではせなんだが」

「よく子供を見に町へ訪れていたみたいですしね、最初見た時も、確かそうだった気がします」

「…まああれじゃ。ワシら仙人にとってはな、子供、特に赤子なんぞは心惹かれる対象なんじゃ。自身は不老となっておるから…新しい命、その生命の輝きと呼べるものがとうに色褪せておるからの。不思議なものじゃ、自ら失ったものに、憧憬を抱くようになると言うのものう。 …ま、こう言ったものは失って初めて実感できるものなのじゃろうがな」

「…和尚さんたち仙人は、不老不死なんですか?」

「まあそうじゃ。ただ静かに過ごすだけならば、そう言っても差し支えは無いのう。このまま静かに、永劫を生きることは可能じゃな。不老不死に限りなく近い存在、とも言える。かといって、何をしても死なないと言う訳では決して無いぞ? かつては仙人たちも、もっとたくさんおったからのう。ここには天仙様とワシの二人じゃが」

「他の仙人たちは? …まさか殺されたんですか?」

「まあ、の。それは人と同じよ。大小様々ないくつかの争いがあったんじゃ。とは言え、みながみな死んだ訳ではないがの…どちらかと言えば、この地を去って故郷へ還った者たちの方が多いな」

「仙人たちの故郷はここじゃ無いんですね」

「天仙様とワシにとってはここが故郷みたいなものじゃがな。 …他の多くの仙人たちにとっての故郷の地は、神仙郷とも呼ばれておって、」

会話の途中に、空の色が変わる。

空を覆っていた薄い色彩が濃く明滅を繰り返した。

「今、空が光りました?」

地面が、足下の大地が揺れる。

「…招かれざる来訪者、か。 …強引に、ここの結界を破ろうとしておるようじゃのう」

しばらく振動と、空の明滅が繰り返される。

何か大きな力と力がぶつかり、せめぎ合っているかのようにも見えた。

「どうやら結界に結界をぶつけているようじゃな。 …かつては身の程知らずにも破ろうとした者たちもおったがのう…まあ破られたことは、一度も無い」

振動と明滅が止まる。

しばらく静寂が訪れた。

「…諦めたんでしょうか?」

「…だといいがの」

先ほどよりも重く、低い音が走った。

音と振動が、大地深くにまで響き渡る。

遥かに大きい衝撃と重圧。

「…?」

…この力…どこか…。

勇者は力の気配に触れて、ジウ道士の顔が浮かぶ。

境界と境界が衝突し、再びせめぎ合う。

結界が、僅かにひび割れた。

「!! …驚きじゃな。 …破られる前に、ワシがその無法者を懲らしめにいくとしよう」

「自分も一緒に」

結界を破った人は、もしかしたら…

「いや、まあ待て。 …もしかしたら誘導かもしれんのでの。 …お主は、天仙様たちを頼むよ。それに桃姫はまだ幼いでの、二人を頼む」

「…わかりました」

ひとまず和尚と別れ、二人の元へと向かう。

「父上…これは一体、何事でしょうか?」

空がかなりひび割れている。

間も無く結界が砕け散りそうだ。

「…外から強引に、ここの結界を破る気なのでしょう。 それにしても…大した力、ですね。それもこの力、私たちに近い。 …しかし道士が何故? このような荒事をするのか…」

娘娘は厳しい目つきで空を見やる。

「結界を破ろうとしているのは道士?」

「ええ、だと。 それもかなり、相当な手練れではないかと。もう間も無く、結界を破りそうですしね」

相当な手練れの道士…。

「母上…爺や、大丈夫?」

今まで見たことのない厳しい表情を浮かべた娘娘を見て、桃姫は不安なのだろう。

「…心配は無いでしょう。爺やは私と、この地を、それはそれは永く守っている門番、なのですからね。それに、伊達に仙人ではありません。いくら道士とは言っても…人に遅れはとりませんよ」

…確かに、和尚さんは実力者ではあるだろう。

直接手合わせをしたことはないが、雰囲気や佇まいは老練のそれを思わせていた。

まして、彼は不老不死の仙人でもある。

…相手の道士は人間。

…でも、もしそれがジウさんだとしたら…読めない。

向かった和尚の身を案じながらも、言われた通りに勇者は周りを警戒する。

…今のところ、何事か起こるような気配は無い。

ひび割れた結界から何者かが侵入した様子もない。

…正面、正門から入ってくるのだろうか? …堂々と。



「驚いたのう。無法者が誰かと思って来てみれば、お主、あの町の道士ではないか」

「…東山とうさんに棲むと言う仙人の一人、か? …昔から囁かれていた言い伝えは、本当だったんだな」

「道士…何故、このような真似を? ここはお主たち、道士らにとっても聖地じゃろ? …この山、この地で幾たびか、修行をすることはあれど。場を荒らすような真似は決してしなかったじゃろうに」

「…ああ、確かに。この地は私たち道士にとって聖地そのものだ。修行のための山籠りをすることはあっても。 …このような無礼な真似をすることは決して無い、な」

「ふむ、それを理解していながら、どういう了見じゃ? 修行のために訪れたと言うのなら、正式に扱わんこともないが…違うのじゃろ?」

「ああ。 …有り体に言えば、これが今の仕事、依頼だ。私に引く気はない。 …このまま、押し通らせてもらう」

「…どうやらその詳細を説明する気は無いようじゃな」

…それとも、説明できない状態なのかもしれんがのう…どの道、

「今のお主を、このまま先へ通す訳にはいかんな」

和尚の体は膨張する。

身体の肉の一つ一つ、その筋肉が膨れ上がっていく。

小柄な老人は、鋼の筋肉を持つ大漢へと変化した。

「せっかくここまで来たところ悪いがのう、御帰り願おう。 …素直に帰るなら、それで良し」

筋肉ダルマとなった和尚は荒々しい呼吸で構える。

その重量で足下の地面は窪んでいた。

「…仕事だからな。そう言う訳にもいかない」

ジウもまた、構えた。

「この先へ行っても、あるのは寺ぐらいじゃがのう。一応聞いておこう、行って、どうする気じゃ?」

「…この先に用があるのは私じゃない」

「それは誰なんじゃ?」

「…」

道士は押し黙っている。

…寺か、あるいは天仙様に用のある者か。

それも不正な方法で。

「…ふむ。それなら尚の事、通せんな」

和尚の動きは俊敏だった。

重量級の巨体にもかかわらず、あっという間にジウの間合いに立つと、その膨れ上がった拳を振るう。

和尚の鋼の拳の一撃は、大地をいとも容易く粉砕した。

土と岩が飛び散り、地面には大きなクレーターができる。

…そこにジウの姿は無い。

「…ふむ、速いのう」

クレータの外、その端にジウは埃一つ被らずに立っている。

「爺さんこそ。そのなりで随分と速いじゃないか。驚いた」

「何…速さも威力も、まだまだこれからじゃぞ」

和尚は拳に力を溜める。

二の腕がより太く、硬く、そして脚の筋肉もまた更なる膨らみを見せた。

「…私も素直に受けてばかりいられないな」

ジウは自身の内部にある魂魄を解放した。

混ぜ合わせるように、その力を螺旋状に、交差させる。

丹田を中心に、黒白の力の渦が広がっていく。

頭頂から指の先、足のつま先に至るまで…

全身を駆け巡りながら空高く昇る。

「…力くらべといこうじゃないか」

地面が陥没した瞬間、その姿は消え…相対する二人の拳が重なった。

力と力の、ぶつかり合い。

ジウの放つ螺旋の拳と、和尚の放つ鋼の拳。

衝突したエネルギーが行き場を失い、うねりを持った爆風が両者を吹き飛ばした。

「少し、練り込みが足りなかったか。 …それに僅かにズレたな」

ジウは離れた場所に立ち、肩を回しながら呟いた。

和尚もまた、固く握りしめた拳を開閉しながら腕をさすっている。

「…」

…人の身でありながら、仙人であるワシの境地にまで至ったのか?

…それも、まだ数十年という…実に少ない年月で。

「…末恐ろしいのう」

衝撃によって未だ震えている腕をさする。

「…やむをえんの」

ワシに本気を出させる人間が現れるとはのう…先のことはわからないものじゃな。

和尚は首から下げていた大きな数珠の一つを解き、飲み込む。

「…こうなるともはや手加減はできないのでな…」

和尚の体はさらに大きく、そしてさらに固く…

姿は先ほどの倍…ジウの背丈の三倍を、ゆうに超えた。

今の和尚から繰り出される拳の威力は、簡単に見積もったとしても先ほどの倍はあるだろう。

先ほどでほぼ互角だったことを考えると、決着をつけるには充分すぎる威力だ。

当然、和尚もそう考えていた。

この一撃で終わる、と。

「…道士、せいぜい、気張れよ」

和尚の拳と、ジウの拳が交差する。

「っ?!」

和尚の放った一撃は、ことごとく弾かれる。

それよりも明らかに…衝撃が大きい。

腕どころか、肩まで痺れている。

視線の先に立つジウは、先ほどと寸分違わぬ位置に立っていた。

…つまり、今回弾かれ吹き飛ばされたのは自分だけ、と言うことだ。

「…今の一撃、先ほどのものと同じではないな」

「さっきよりも練り上げられた一撃だっただろ? 体もあったまって慣れてきた。 …次はもっと、良い一撃になる。 …会心の、な」

「…ふむ」

…ただの戯れ事、か? いや…

弾かれた拳が今もまだヒリヒリと痛む。

…鋼を超える強度の拳であるにも関わらず…この、痛み。

道士の足下には大きな地割れができていた。

拳を放つと同時に、大地を踏みしめて受けたか…それで自身は吹き飛ばされずに。

…いやはやなんとも、器用な事をするのう。

感心する和尚を前に、ジウは静かに構えると、浅く、深い呼吸を始めた。

ジウの体から、魂魄のエネルギーが螺旋を巻いて昇り始める。

その見事なまでの錬成の在り方に、和尚は思わず動きを止めて目を見張る。

エネルギーは渦を巻きながら空高く伸びていき、今度は降りてジウの拳、その一点に収束していく。

ーギィギィイィィイイイイィィィー

ジウの拳から、聞こえるはずのない歪な音が響いた。

拳を中心に空間がたわみ、歪む。

「…」

…自ら扱う仙道とは違う。

…いや、魂魄の力であることは理解できる。

仙人にとってもそれは同じなのだから。

…ただ、仙人である自分にとって、魂魄は完全に同化しているものでもあった。

魂と肉体は一つとなり、もはやその二つに違いは無い。

故に今、目の前に見るこの力は…魂魄の同化によるものではない。

別物として、混ざり合うような…いや、混ざってはいない?

複雑に絡み合い、そしてお互いがお互いに、一本の紐のように重なり連なっている?

和尚のような仙人にとって、ジウのそれは未知の力に思えた。

…魂魄の新たな可能性、とでも呼べるかのように。

「…行くぞ」

和尚は道士の拳から放たれるその力を見て、すぐさま防御に切り替えた。

今もてる、全ての力を腕に集中させる。

未知の一撃を防ぐために。

そしてそれはまさに、鉄壁とも呼べるほどの不動の防御。

で、あったにも関わらず、

「ぐぉっ!?!?!」

ジウの拳は和尚の防御を貫いて腹部を捉えた。

和尚はその巨体にあるまじき速度と勢いで、はるか彼方後方へと吹き飛んで行く。

正門を破壊し、なお凄まじい速度を保ちながら、その先にある古寺へと…

勢いは止まらない。

(!! まずいのう、このままだと寺に…)

なんとか体勢を変えようとするも、

(むっ、ぐ……動けん…)

あまりの勢いに体は動かない。

鋼の弾丸となった和尚はそのままの勢いで寺に衝突、

しなかった。


「むぉッ?!」

凄まじい速度で寺から飛び出してきたモノが、鋼の弾丸となった和尚の背を止めた。

「和尚さん?」

「ふぅ…助かったわい」

和尚はあの勢いの自分を止め、さらには軽々と持ち上げている勇者を見て驚きながらも…どこか安堵していた。

「…お主、なかなかの力持ちなんじゃな。それに、よく止めてくれた。礼を言うぞ」

「いえ…それにしても、すごい勢いで飛んできましたけど、体の方は大丈夫なんですか?」

「ん? そうじゃな…いたたた…もっと年寄りをいたわってもらいたいのう…」

和尚はそう言いながら腹をさすっている。

「…」

今の和尚さんの体はまるで鋼のように固く、そして重かった。

それがあの速度で飛んで…いや、飛ばされた。

「一体何が…」

視線と同時に注意を向け、和尚が飛んできた方向を見る。

…誰か、来る。

「…何だ、こんなところにいたのか。 …みんな帰りを待っているぞ。 …早く戻ったらいい」

「…ジウさん」

…と言うことは、結界を壊そうとしたのも。

「…通させてもらうぞ」

「…訳を、聞いても良いですか?」

「…仕事だ」

ジウは全く、聞く耳を持っていない様子に見えた。

「…もしかして、誰かに操られてたりしますか?」

勇者はそのジウの様子に疑念を抱く。

「…」

否定も肯定もない。 …まあ、本当に操られていたら何も言えないのだろうけど…。

「この先には、もう一人の仙人しかいませんけど。 …何か用事でも?」

「…用があるのは、私じゃない」

ジウは勇者に構わず歩を進めようとするも、

「…それでも理由(わけ)を聞かせて下さい。そもそも、誰からの依頼なんです?」

進もうとするジウを遮るよう、前に立つ。

「…そうか。 …通す気はない、か」

ジウは立ち止まり、静かに構えた。

「…それなら同じく、押し通るまでだ」

体から、今まで見せたことのないほどの魂魄の力が渦巻いて、高く昇っていく。

…ジウさんは本気だ。

勇者は剣をとり、構える。

体から稲妻が迸った。

幾重にも重なった雷の力が、放たれる。

「…止めます」

魂魄を纏ったジウと雷を纏った勇者、

螺旋状に伸びる魂魄の力と不規則に放散する雷の力が…

衝突した。

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