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兆し

今日もまた、いつもと変わらない日課をこなすため日が昇る前に目を覚ました勇者。

体の疲れはもう無い。

先日のこともあり、マオに生命力の一部が流れているとはいっても、

それは自然回復の誤差の範疇におさまっていた。

この世界に来てから世話になっている天天たちの霊廟兼自宅はとても広く、

あてがわれた寝床もまた大きな部屋だった。

自分の他に黒姫、白姫、妖精の勇者、そして今はマオも、その部屋で共に寝ていた。

それぞれ寝所は離れてはいるが、少し注意して見ればその様子の変化を見逃すことはないだろう。

稽古着に着替え、誰も起こすことのないよう静かに外へ向かう。

「こんな時間に出かけるの?」

少し離れたところに寝ていたマオが気づき眼を覚ましていた。

その顔色は戻ってきた時よりも大分良い。

特殊魂魄の反動による肉体と魂の損傷はまだ完全には癒えていないが、崩壊の心配はもうないことだろう。

「今日の日課をこなしておこうと思って」

起きあがろうとするマオを手で遠慮しながら言う。

「…熱心なのね。ジウも昔からそうだけど、私は少し、早起きって苦手なのよね〜…朝稽古の有用さはわかっているんだけど」

小さなあくびを手で押さえながら。

「マオさんは体の調子も戻っていないでしょうし、休んでいてください。別にどこかに出かけるわけでもないですし」

「う〜ん、それはまあ…でも、それを言ったらあなたの方が…体はもう何ともないの?」

マオは反対に勇者の体を気づかった。

自分が今の状態を保てているのは他でもない、彼の生命エネルギーのおかげだったのだから。

「ここに来た時にも言ったけど…あなたには、いくら感謝してもしたりないの。 …だからなんでも言ってね? 遠慮しないで良いから。 …何でも。私、何でもするから。 …本当に、何でも」

マオの視線は熱をおびていた。 …戻ってきてからはずっとこの調子だった。

「早朝から元気なことだな。マオは朝は苦手だったと思ったが」

同じく日課をこなすために出てきたジウと鉢合わせる。

「おはよう、ジウ。受けた恩は返さないと。 …私の全てを使ってでも」

「いや本当にそんな、そこまでしてもらわなくても良いですから」

「いいえ、全然よくないわ。 …よくないの」

「だからと言って、食事にしても寝る時にしても…世話のし過ぎじゃないか? それも話に聞くと随分ベタベタとしているようじゃないか」

「だって命がつながっているのだから、近い方がいいのかなと思って」

マオは自分の寝床をさりげなく気づかれないように少しずつ少しずつ勇者の寝床に近づけていた。

そしてそれを黒姫たちに指摘されて戻す(あるいは戻される)のもここ最近の夜の定例になりつつあった。


時は少し前、

勇者たちがマオを連れ帰ってきた後日、

「流石ですわね…また現地妻を増やしたんですの? 姫ではない、と。わたくしたちが寝ている間に、手当たり次第当たり放題という訳ですか。腕の見せ所ですわね」

マオの姿を見て白姫はそう指摘した。

「いや、そういうのじゃないよ。それに何の腕を見せれば良いのかまるでわからない」

「妻? 私が? …いいですね、それも…」

マオはそれを聞いて一人乗り気になって浮かれていた。

その様子を見た黒姫は浮気を指摘した。

繋がった、という単語を勘違いして余計に手がつけられなくなった。

そんな様子を眺めている妖精の勇者の表情もまた、どこか羨ましそうに見える。

「モテモテだね〜、それとも彼にとってはこれが当たり前なのかな」

シャオは囲まれている勇者を見て面白そうに笑っていたが、

ヘイが少しだけ複雑な表情で見ていることに気づいた。

「混ざれば?」

「…え?! いや、そう言うのじゃないし。うん。別に現地妻とかじゃないし、なりたいとかなりたくないとかで言えば興味は少しは」

ヘイは少し顔を赤らめてモゴモゴと口籠もっている。

「戻ればもっといるみたいだけどね」

天天もまた会話に加わる。昼間に天日干しをしていた布団を抱えていた。

「嘘?! 本当にモテモテなんだ。それじゃあマオ姉ライバルばっかりじゃん、大変そう」

「他人事みたいに言ってるけど、シャオだって」

「えぇ、いや、その、私は仲の良い友達感覚って言うか、まあ、うん、そんな感じ、だから」

「…ほっほっほ。 …若いのう」

若者たちの集いをおじいさんが長い髭を撫でながら見ていた。

まあ、応援しとるぞ天天。

おじいさんはひ孫に会いたいのだった。


再び戻り、現在。

「だから、近い方がいいとか、そんなことはない。あの妖術師もそう言っていただろ。少なくともこの地にいる間は多少離れようが全く問題はない、と。まあ確かに別の世界に行くような時はどうなるかわからんが…今のところその心配はいらないんだろ?」

「ええ、今のところ戻る予定はないですね。妖術師の件は落ち着きましたし、後は黒姫たちの治療に何か貢献できたらいいんですけど」

「同じ術を施そうにも、まだ血液が出ないからな。それまではまだ無理だろう」

「でも、できるようになったらどうするの? あの妖術師を呼び戻すの?」

当の妖術師は自ら進んで独房に入っていた。

むしろその方が安心できるとのことだった。

…よほどジウさんと一緒にいたくないのだろう。

「その必要はない。一生独房にぶち込んでおけばいい。術ならうしろで見て覚えた。次からは私がやろう」

「流石ねぇ。優れた妹(弟子)をもって嬉しいわ」

「そう言うなら最近のその身の振り方をもっと考えてほしいな、四六時中白黒勇者に付き纏っているんじゃないか?」

「だって、でも」

「だっても何もあるか。シャオとヘイも呆れていただろ。それこそ二人にとっては歳の離れた姉のような存在だったと言うのに、ここ最近の有り様を見て、そりゃあ呆れもする」

そう言って肩をすくめる。

「…ジウ、私はね。これから自分に正直に生きるの。 …そう、決めたのよ」

「…今までだって割と自由に生きていたと思うが」

「何か朝食に食べたいものはある? 私も作るから。あ、稽古が終わった時の飲み物を用意しておくね。汗を拭くタオルも持っていくから。私が拭いてあげるね、いつでも言って」

甲斐甲斐しく世話をしようとしている。

…確か、マオが主で、白黒勇者の方が従じゃなかったか?

「どっちが主なのかわからないな」

呆れながら二人を放って先に外へ出ることにした。

少し遅れて勇者も出てきた。まだ稽古前なのにもうすでにどこか少し疲れているようにも見えた。

疲れ知らずのように見えていたが、

もしかしたら精神の鍛錬にはいいのかもしれない。

二人はいつもより少し遅れてそれぞれの日課を進めていく。

勇者の背に、稽古には全く必要のない声援がついていた。


まだ陽も昇る前に木戸を叩く音が響く。

その音は控えめではあったが、

来訪者が訪れたようだった。

「こんな早い時間に? …そんなに急ぎの用か」

今日は別に、特に用件はなかった気がするが…

そう思いながらジウは門を開く、

「お久しぶりです。ジウ道士」

溌剌とした声で丁寧に頭を下げる。

その際、顔の前に印を結ぶのは道士の挨拶の習わし。

その高さがジウの方が目上のものであることをあらわしてもいた。

見覚えのある、懐かしい顔。

「タオ道士! 宮仕みやづかえになってから会うのは初めてじゃないか? どうなんだ最近は、見たところ元気そうだが」

ジウは胸の前で印を結び挨拶を返す。

「はい、この通り、元気です。今は皇帝(代理)の勅命もあって宮廷に仕える他の道士たちと行動を共にしています。皇女も一緒です」

「確か皇女に仕えているんだったな。それで、皇室暮らしはどうなんだ?」

「ええ、」

お互いの今の状況を簡単に話す。

「道長。だいぶ出世したじゃないか。センが聞いたら羨ましがりそうだよ、主に給金に関して」

「はは、そこまで高給というわけではありませんよ、がっかりさせてしまうかもしれません。それにしても、この町に立ち寄れて助かりましたよ。今はおじいさんたちも戻ってきているんですね」

「ああ、それに今ここにはマオもいるぞ。今は休憩のための飲み物を拵えに戻っている。作りたてにこだわっているようだ。 …ただちょっと、色々と本調子ではないから。今のアイツを見たら少し驚くかもな。それで、要件というのは?」

「はい、それなんですが。今、帝都に棺を運んでいる道中でして。その棺に施されている封印術を、今一度強化しておこうと思っているんです」

「わざわざ帝都に棺を運んでいる? しかも皇女自らも…何やら事情があるようだ」

「そうなんです。なのですぐに戻ろうと思います。と言っても、私の他にいる道士たちも同じ志を持った信頼できる仲間なので、そこまでの心配は無いのですけどね」

「見に行っても良いかな、その棺」

「もちろんですよ。実際にはそれも頼みに来たんです。封印術を手伝っていただけたら、と。道具の準備をするまでまだ少し時間がかかりますが…市場も開いていませんしね。その時はぜひご一緒に」

「わかった。こちらも準備をしよう。そうだ、彼も連れて行っていいかな? 力は私が保証するよ」

「ジウ道士がそう言うのでしたら、断る理由はないですね」

勇者は素振りの手を止め、ジウに紹介されお互いに挨拶をかわした。

どちらからともなく差し出した手を握る。

その身のこなしでお互いが手練れであることに気づく。

タオはにっこりと微笑みながら、

「ジウ道士の言う通り、剣を振るう動きも見事なものでした」

「ありがとうございます」

穏やかに握られた手から感じる気配はタオ道士の力量の高さを物語っていた。

その洗練された魔力…ここでは霊気、あるいは霊力と呼ぶのかもしれない。

「急ぐとはいえ、茶の一杯くらいは飲めるだろう? せっかくだ、シャオたちにも顔を見せたらいい。二人も喜ぶ」

「ええ、わかりました。それでは少しだけご馳走になります」

お茶を運んできたのはマオだった。

「タオ道士、久しぶりね〜」

「マオ道士。お久しぶりです。特殊魂魄を自身に使ったと聞きましたが…体の方は本当に大丈夫なんですか?」

「ええ、元気よ〜。それも彼のお陰なんだけど、ね」

マオはお茶を飲みながら休憩している勇者を熱のこもった視線で見ていた。

お茶を飲み干すとすぐに次を注ぎに向かった。

そして何かを熱心に話している。時に体に触れながら、それはもう熱心に、情熱的に。

「…」

なるほど確かに、どこか様子がおかしいのかもしれない。

タオは静かにお茶を啜った。

「わぁ、本当だ。お久しぶりです。タオ道士。え〜、どうしたんですか一体」

「何年振りでしょうか〜、お久しぶりです〜。宮仕えなさっているんですよね。すごいです」

「おはようございますタオ道士。あの時私はまだ本当に小さかったから…あの時の皇女もこの町に来てるんですか? はい、覚えてます。お互いにまだ幼かったですけど、将来のこととか少し話しました。あ、それとおじいちゃんはまだ寝てて、もう、飲みすぎちゃダメって何回も言ったのに」

「シャオに、ヘイ。それに天天も、見ない間に大きくなったね。ああ、おじいさんはそのまま寝かせてあげて」

霊廟にいつもより賑やかな早朝が訪れる。

その後飲み過ぎて寝ぼけ眼なおじいさんも起きてきて、懐かしい再会を喜んだ。

「よし、こちらの準備はできた。では向かうとしよう」

「ええ、案内します」

途中でセンのもとにも寄り、タオ道士に連れられ町の外へ向かうとすでに儀式を執り行う準備が整えられていた。

ジウは瞬く間に道士たちに囲まれ、挨拶と歓待を受けた。

「本物ですね! うわぁ、感動だなぁ」

「随分と大袈裟だな、君たちだって同じ道士だろうに」

「いえいえ、そんな。何より伝説の道士ですから。同じとかあり得ませんよ」

その様子から、道士たちにとってジウは憧れの存在であることが見てとれた。

その弟子たちにいたっては感動のあまり口も聞けないかのようでもあった。

「あなたが噂のジウ道士ですか。 …なるほど、タオが言うだけはありますね」

「わざわざ皇女陛下までもが訪れるとは思いませんでしたよ」

「知的探究心に身分など関係ありませんわ」

「しかしその立場から、その身には常に危険がつきまとうものでしょう?」

ジウは後ろに立っている護衛の兵士たちを見やる。

「…ええ、そうね」

…もしかして、気づいている? それとも、タオが言ったのかしら?

「危険であることは百も承知です。そのための私設護衛、タオ道長たちなのですからね」

「そのようですね」

邪な視線というものは案外隠せないものだ。

ジウは鋭い視線を護衛の兵士たちにおくっていた。

兵士たちはそのあからさまな視線を感じながら、

「…あんなのがついてきたら無理だろう」

「ついては来ないだろう。何でもこの町から離れることはあまり無いと聞いている」

「その理由は知らないが、そうである事を願うしかないな」

「…ああ、アレは無理だ」

小声で口々に囁きあっていた。


一行は皇女との挨拶をすませると儀式のためにそれぞれが持ち場についた。

その中心には黄金の棺が置かれている。

棺からは並々ならぬ、如何とも言いようの無い歪んだ気配がしている…

中にいる、在るモノは尋常なモノではない。

おそらくはその見た目のままに、厳重に封印されてはいるのだろうが…

それであっても、この何とも形容し難い独特の気配…

「あれは、どう考えても開けるべきじゃ無いですよ」

勇者は隣に立つジウにそう囁く。

「ああ、私もそう思う。 …これだけの封印術を、それも遥か昔から維持していた。それだけの使い手が何とか封印した存在だということだ。 …それにこの札。どのくらい以前の物かは判断できないが、このまま使ったほうが良い。この札の持つ力は、それだけ強力だ」

ジウと勇者の会話を聞くタオも同意する。

「ええ、私もそう思います。相当の時がたっているにもかかわらず、そして土中にあっても全く朽ちていないですし。お札は新たに貼り替えることはしません。墨壺と縄の結界を張り直します」

「ああ、それが良いだろうな」

「かなり貴重な札だ。 …高そうだ」

セン道士の目の付け所は他とは少し異なっていたようだった。 

「でも、中には何があるんです? やはり虚屍(キョンシー)なんですか?」

シャオが訊ねる。

「おそらくはね。 ただ…確認するのは危険かと思いまして」

「しかし、帝都に着いたら一度は開けることになるのだろう?」

「はい。丁重な葬儀を執り行う予定ですし、その準備もしているでしょうからね」

「罷り間違っても夜に執り行うなよ?」

「ええ、もちろんです」

道士たちは少し大きめの器に鶏の血と墨汁を混ぜると、さらに火のついた札を入れ、六面の鏡で蓋をした。

鏡をずらすと隙間から液体が垂れてくる。

その滴る液体で縄を浸していく。同じ動作は墨壺に対しても行っていた。

色褪せていた縄は黒く染まっていく。

「これで縛り直せば、まずは一安心です」

棺は黒く染められた縄で幾重にも縛られる。

「今の天候なら心配はないか」

「雨よけの覆いも用意できましたし、仮にまた雨になっても、今度は大丈夫です」

「日中は陽に当てた方がいいだろう。その方が邪気もはれる。気休めかもしれないが」

「ええ、そうします」

黄金の棺だけあって、その重量は相当なものだった。

シャオが持ちあげようとしたが当然一人ではビクともしなかった。

「しかしこの重量の棺を帝都まで、か。人数がいるとはいえ、重労働だな」

「そうですね。まだまだ先は長いです。道中休憩しながら、村に立ち寄って休みながら進みますよ。 …できるだけ急いでほしいのでしょうけどね」

「無理せず慎重に行ったほうがいいだろう。途中何かあったら、遠慮なく知らせてくれ。すぐ駆けつける」

「ははは。ジウ道士にそう言ってもらえると、何より力強いですよ。 …そうならないようにします」

儀式を無事終え、出発する前に少し休憩に入る。

「この仕事でまた出世したら知り合いのよしみで割のいい仕事を紹介でもしてもらうかな」

センはジウの隣でそうつぶやいた。

「真面目に働け」

冷たい目と声。

「真面目に働いてはいるさ。いつだって。それに昔よりだいぶ栄えただろ。町も」

「怪しい賭博まがいのモノばかりじゃないか、それかまるでお祭り時のような店ばかりだろ。祭りの期間でもないのに」

「期間に関係なく、いつだって遊びは必要なものなんだよ。それにみんな真面目に、真剣に遊んでいる」

「ものは言いようだな」

「ああ、みんなあえて馬鹿になっているんだよ。そういう時が必要なんだ。そういう時と場所がな…お前もたまには遊びに来たらどうだ? 毎日真面目に、直線的な生き方は疲れるだろ? たまには馬鹿になってみるのもいいぞ」

「私は今のままでも全く疲れないな。もうずっとそういう生き方だ。 …今までも、これからも」

「…ふぅ。馬鹿になれないというのも、な」

センは頑ななジウの様子に肩をすくめて息を吐いた。

もう一人へと、視線を移す。

その視線の先には、ついこの前町に戻ってきた姉弟子であるマオの姿。

マオはさっきからずっと勇者の隣にピッタリと寄り添っていた。

その視線は常に勇者を見ている。

「…しかしマオはどうしたんだ? 見違えるほどになんというか、こう…なんか…どこか馬鹿になってないか?」

マオは勇者の隣にピッタリと寄り添いながら、その一挙手一投足を見逃さないと言わんばかりに注意深く見つめている。そして度々何かを言っている。

そして勇者はそれを控えめに遠慮している。

「アイツは…世話係か何かになったのか? いつの間に? いやそもそも何でそんなことをしているんだ?」

センはその様子を観察した。

手にしたタオルで汗を拭こうとしているのだろうか。

いやそもそも汗などかいていないだろう。

今度は用意していた飲み物を飲ませようとしているのだろうか。

あんなに密接する必要あるか? 逆に飲みにくいだろあんなんじゃ。

「…私も詳細は知らない。 …でも確かにマオ姉は今勇者に対して自ら進んで馬鹿になっているな」

一番上の姉弟子の変わったその様子を見て、二人は同時に肩をすくめた。

休憩も終わり、出発の準備を整える。

「それでは、ありがとうございました」

タオ道長を先頭に、道士と弟子たちは棺の運搬を再開する。

「よし、それじゃあ私もそろそろ行くとしよう」

「何を言っている?」

「次の町までだがな。護衛に付き合うことにした。皇女直接の依頼だ」

「…どうせその依頼料に惹かれたんだろ」

「無論だ。さすがは皇族、金払いがいいな。断る理由もないだろ。それに次の町までだしな。ただ、あの皇女の口ぶりだとお前にも頼みたかったようだぞ? 一日二日ならともかく、それ以上は無理だろ? それを代わりに断ってやったんだからな」

「頼んでいないがな、まあいい。確かに次の町までとは言えあの速さでは何日もかかる、私には無理な相談だ。しかしその間担当の地区はどうするつもりだ?」

「この前の代わりに頼む、そう頼まれたら断れないだろ?」

「事後承諾…それも何とも上手いやり口だ。まあいいだろう。前は私が頼んだ事だしな」

「ははは、まあその時の妖術師討伐でだいぶ儲けただろ? 今度は私の番というわけだ。それに、西地区なら心配いらん。お前の手は煩わせないさ。シャオとヘイに頼めばいい、お前よりは余程上手くやるさ。シャオは慣れたものだし、金回りの事はヘイに一任できる、むしろヘイに関しては私よりも、な。正式に雇いたいくらいだ」

「いつの間に私の弟子に粉をかけたんだ。どっちもやらんぞ」

「まあそう言うな、少しの間借りるだけだ。おっと、そろそろ行かないと追いつくのも面倒になる。それでは後のことはお前たち三人に任せたぞ」

センはそう言うと颯爽と駆けて行った。報酬の高さからか、その足取りは軽い。

「あれだけの大人で運ばないとならない重さですもんね。 …私一人で持ち上がるわけがないわけだ。びくともしなかったですよ。 あ、はい、私とヘイもセン道士にそう頼まれましたよ。西地区ですよね?」

「ああ、そうだ。そっちはお前たちに頼む。私はどうもあの地区の雰囲気が苦手だからな、くれぐれも遊びすぎるなよ? シャオの管理はヘイに一任するぞ」

「はい、お任せください。次の町までとなると…あの速さで、大体三日くらいでしょうか。向こうしばらく、雲はないですから…天候には恵まれそうですね」

「…だといいがな」

ジウたちはセン道士が見えなくなるまでその背を見送っていた。

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