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美人姉妹たち

日課を終えて戻る際、これから出かけようとしている天天の姿があった。

「こんなに早くから買い物?」

「うん、人数が増えたから、たくさん買っておこうと思って。朝市ならやっているし、行くのも久しぶりだから」

「一緒に行ってもいい?」

「もちろんいいよ。たくさん買うから助かるし」

市場には採れたての魚や瑞々しい野菜や穀物類が数多く並べられていた。

やはり前同様に活気盛況で早朝とは思えないほどのにぎわいをみせいていた。

聞くとそれが当然のことのようだったが。

「おお、やっと戻ってきたのかい天天ちゃん。おかえり」

「うん、ただいま。しばらくはこっちにいるつもりだから、またお世話になるね」

「ああいいともいいとも。いつでも買いに来てくれな。昼間でも夜でも、店の方にも顔を見せておくれ。それにしても久しぶりだねぇ。これなんてさっき採れたてで新鮮なネギだよ。あとはこれだ、珍しいものも取れたんだよ、このきのこなんかはどうだい? こいつぁね、とんでもなく元気になるよ。そうそう、おじいさんも戻ったんだろう? 元気つけなきゃな」

「うん、もちろん一緒だよ。それじゃあもらおうかな。それからついでに、もう少しだけ安くならない?」

「かなわねぇなぁその笑顔にゃあ、もちろんいいとも。それとこいつはおまけにつけとくよ」

「ありがと」

天天はお店を開いている人たちのほうぼうから声をかけられていた。

みんな帰還をとても喜んでいるようだった。

「隣の男性ひとは? ここいらじゃ見ない顔だね」

「私たちのお客さんなの」

「へぇ、そうなのかい。となると、あの場所で一緒に?」

「うん、一緒に住んでもらっているよ」

「そいつぁ羨ましいや。お前さん、あんな美人たちに囲まれて…ああ、俺もなぁ、俺も」

「ちょいとあんた、口はいいから手を動かしな」

「へいへい、わかってますよ」

町の人たちは気取らない人たちばかりで、新参者の自分にも気軽に接してくれた。

昨日も見て回って感じてはいたが、人当たりの良い、本当にいい町だった。

「どう? 私たちの町は…気に入った?」

大量の食材とおまけを抱えながら、

「そうだね。みんな気軽で優しくて、すごく過ごしやすい町だね。といっても、まだ全部回って見たわけじゃないけどね」

「ふふ、広いからね。それぞれ四地区に分かれているから。ここは東地区」

「良いところだと思うよ」

「そう言ってもらえると私も嬉しいな」

「天天はこれからこの町に残るの? もう闘技場には戻らない?」

「う〜ん…どうしようかな。私たちの目的、世界を渡る目標は果たしたから…でも、あなたはまた戻るんだよね?」

「そうだね、黒姫たちが良くなったら。それに、闘技場は闘技場でいい訓練にもなるしね。これからもきっと、色々な勇者ひとたちと出会えそうだし…それこそ天天たちに会えたのもあの場所なんだからね」

「そっか。 …そうだね。私も、偶には戻って様子を見に行こうかな。試合をするかどうかは別としても」

「戻ったら戻ったで対戦を挑まれるかもしれないね」

「その時は当然受けるよ。私も試合は嫌いじゃ無いから。負けるより勝つことの方が好きだし」

「はは、でも、そういえばジウさんは闘技場には来ないのかな? かなりの実力者だと思うけど」

「ジウおば、あ、ジウねえはそういうのあんまり興味ないと思う。勇者としてより、法術師、道士としてこの町で生きる道を選んだくらいだから。私はあの悪魔を見つけるために勇者としておじいちゃんと世界を渡る道を選んだけど」

「そうなんだ。 …でも、ジウさんってかなり強いよね?」

「うん、私やおじいちゃんよりも。法術師としてかなり上位…私が知る限りでは、この世界にいる道士としても多分、天辺てっぺんだと思うよ」

「へぇ…天辺か。他の法術師の人たちを知らないけどすごいね。 …そういえばシャオたちも法術師なの?」

「シャオねえたちはジウねえの助手だから。う〜ん、そうね…道士(仮)かな? まあ、二人とも、特にシャオ姉は法術も使えるけど、一人の法術師として名乗ってはいないかなぁ。そのつもりもないみたいだし。独立すると責任が付きまとうから嫌だって考えみたい。前に聞いた時はそう言っていた」

「まあ、その考えもなんとなくはわかるけどね。特にジウさんのような人の側にいるのであれば」

「でも、二人ともいずれは独立するかもね、形は違うかもしれないけど」


朝食を終え、町にまた猫探しに出ようとしていたところに、シャオとヘイが声をかけてきた。

「ねえねえ、せっかくだし今度は私たちと一緒に出かけない?」

「二人と? 何か用事でもあるの?」

「用事というか、まああれだよ、異界の客人と親睦を深めようと思って…と言うよりも、まあ天天が連れてきた興味深い男性おとこだからどんな人物かすご〜く気になっててさ。人となりはなんとな〜くわかったけど、ね」

「シャオ、言い方に品が無いよ〜」

「え〜? でもヘイも正直気になるって言ってたじゃん。めんどくさい本ばかり読んでるヘイがそれ以外に興味持つなんて珍しいくらいには」

「う、まあ、それは…だって大切な妹弟子てんてんの相手ってなったらそれは気になるでしょ」

「そうそう、あれだけモテても我関せずで、全く男っ気なんて無かったのにね。久しぶりに帰ってきたと思ったら良い歳の男性おとこ連れとか…正直すごく驚いたんだよね〜。まあ他にもいたけどそれはそれ。だから私たちもずっと気になってて」

「はぁ、だからシャオは正直すぎだよ〜。 …確かにその通りなんだけど」

「だからね? ちょっとお姉さんたちにも付き合ってよ。断らないよね?」

「それは構わないけど」

「よしきた、それじゃあ一日遅れだけど、お姉さんたちがこの町を案内してあげよう。と言っても私たちがいるこの地区中心だけども」

「ごめんね〜。 こう言っているけど…すぐに飽きると思うから」

「そう言いながらヘイも乗り気なくせに」

「…私の方は市場調査も兼ねてるから」

元気に張り切るシャオと少し申し訳なさそうなヘイ、対照的な二人だった。

昨日ある程度まわってみたと言っても、何しろ本当に広い町だ。

それに慣れた二人に案内してもらえるのは心強い。

その道すがら、シャオはこの店は串焼きがすごく美味しい、この店の麺は早朝に来ないと売り切れる、この店は量が多いけど味はイマイチ、ここは店員がおっかないなどなど、個人的な情報を教えてくれた。

…ほぼほぼ食べ物の話だったが。

ヘイはと言うと、途中途中の品物の値段を注意深く見て、これは高い、これは安いかも、これは安すぎるからもう少し高く、などなど、直接店員に値段の助言を行なっていた。他にも材料の値段や材質の相談も受けていた。むしろ店員たちの相談事を聞いている…ヘイはそう言った市場事情に詳しいのかもしれない。

町案内の後半は結局食べ歩きのような形になっていった。

おすすめされた食べ物はそのどれもが美味しく、特に、パリパリに香ばしく焼き上げた鳥の皮を餡で野菜と包み込んだモノは絶品だった。

「どうだった?」

「うん、どれも美味しかった」

「楽しんでもらえたようで何より。そうそう、お金は気にしないでよ。今日は、お姉さんたちの奢りだ。まあ、どうしてもと言うのなら、いつか別の形で返してくれて良いからね。物でも何でも。それか今度は奢ってね?」

「それならそうさせてもらうよ」

今は文無しだけど…。


食べ歩きから戻り、しばらく休憩していると訪問者が訪れた。

若い小太りの青年。

「天天が戻ったって聞いたんですが」

その手には大きな花束を抱えていた。

「戻っているよ。今は奥にいる」

ジウさんがそう言って奥に目配せをする。

「ああほんとに! 良かった。もうずっと戻ってくるの待ってたよ。もう戻ってこないものかと」

「誰かと思ったらサイ(細)じゃん。どうしたの? ああ、天天に会いにね」

「うわぁ何その花束…」

シャオとヘイが姿を見せた。

「ああ、今日は君たちへの贈り物じゃ無いんだ。気を悪くしたのならごめん、後で、」

「いや、全然何も思わないけど」「うん全然いいよ」

二人はにべもなく断った。

「う、ま、まあ今日は天天に用事があったんだ。失礼するよ」

二人を通り抜け、奥へと向かう。

その際、目が合った。

「…おや? …君は?」

サイと呼ばれた青年は立ち止まると、その場で少し思案する。

「…ここにはおじいさんぐらいしかいないはずだけど…なぜ他の、それも男が? ここにいるんだ?」

青年の表情からはみるみる警戒心の色が強く出てきた。

「…最近出入りしている若い男の噂は…本当だったのか……え、じゃあ天天が男を連れ帰ったっていうあの噂も本当? …もしや今日の早朝に天天と仲良く朝市を楽しんでいた男っていうのも…」

わなわなと震え始めた。

「なんて…なんて羨ましいんだ!」

サイは叫んだ。

「…」

「んっ。急な大声失礼。 …君は、ここで暮らしているのかな?」

叫んだことで少し冷静さを取り戻したのだろうか、サイは勤めて冷静にそう言った。

「そうだね」

「!! そうか、うん。天天と、シャオやヘイ…美人三姉妹と一緒に! 一つ屋根の下で!! 一緒に!! …ぐぬぬ…」

「おい! 四姉妹だ! 間違えるなよ!」

ジウさんの鋭い声が響いた。

「ひっ…。 び、美人よ、四姉妹と一緒に暮らすなんて…なんて羨ましい…なあ、変わってくれないか?」

「いや、そう言われても」

「ダメか? 金なら出すぞ。なあ! なあ!!」

「いやだから、そう言われてもね」

「かわりに住む場所か? それなら今すぐにでも用意してやる、建ててやるとも、だから変わってくれ」

「やめなさいよ困ってるじゃない」

「て、天天…」

「元気そうね、サイ。おじさんとおばさんは元気?」

「あ、ああ。うん。どっちも元気だよ。いつでも来てよ。また、昔みたいに遊びにさ」

「遊びにって、私だってもう子供じゃ無いんだから」

「そう、そうだよ。もう子供じゃないんだ。だから…」

サイは花束を天天に手渡す。その顔はいたって真面目だ。

「受け取って。そして…あの時の交際の申し込みも、」

「それはもう前にちゃんと断った」

「う、。 で…でも、」

「私たちにはやらなきゃならないことがあるって、前にもそう言ってちゃんと、はっきり断ったよね? ここを出て行く前に」

「で、でも! ここにまた戻ってきたってことは、それも落ち着いたんだろう?」

「まあ、それは確かにそうだけど」

「だったら! だったら良いじゃないか! 交際を申し込んでも、だから」

「それでもダメ」

「うぅ。そんなぁ…。ずっと、ずっと待っていたのにぃ…」

サイと手に持った花はしなしなとしょぼくれた。


「…待っていたっていうか、ただ特に何もしてなかっただけだよね。父親であるアン(安)さんのもとで、自由気ままに、仕事もしないで。毎日食っちゃ寝してただけだよね」

シャオが厳しい眼差しを向けていた。

「う、い、いや。そんなことは。ちゃんと働いていたとも。市場に出歩いて、見回って観察したり、買ったり…」

「それはただの買い物だよね」

ヘイも厳しく指摘した。

「う、あ。ぐ。ま、まあ。そうとも言うが。 …おのれぇ…やっぱりお前のせいなんだな。お前のせいで、天天が振り向いてくれないんだ! シャオやヘイも相手にしてくれないんだ!」

ものすごく恨めしい視線を向けられた。

「それなら私が相手をしてやる。今から組み手でもするか? いつでもいいぞ」

「ひっ、ジ、ジウ先生…その、い、いえ、遠慮します。 …くっそ〜、覚えていろよ〜、わぁ〜ん」

捨て台詞を吐きながら去っていった。少し泣いていたようにも見えた。

「泣くとは情けない。やはりまた少し鍛えてやる必要がありそうだな」

「先生は厳しいから、すぐ根をあげると思いますけど」

「うん、私もそう思う。どうせ一日、一時間も持たないよ。勉強と同じで」

散々な言いように少しだけ同情した。

「悪い人には見えないけど」

「確かに悪い人間ではないよ。ただ怠慢で堕情なだけで。まあ、取り立てて善人というわけでもないが、家柄とその資産にあぐらをかいている…よくいるお金持ちのぼんぼんだ。最近よくないことばかり起こると父親のアンさんに相談を受けているが、息子のことはただただ溺愛しているからね。それもその原因の一つではある。子煩悩の両親も、その財が示すように、商才はあるのだけどね。それにうちのヘイも世話になっているから、あまり邪険にはできないが」

「猫もまだ見つからないみたいですしね」

「ああ、迷い猫はその家の猫だったんですね。結局まだ見つけてませんけど」

今日はまだ探しにすら行けていない。

「もう別の家に飼われているのかも」

「そうかもね、もし町の外へ逃げていたら、探しようがないけどね…でも、そんなに出歩く猫じゃないと思うけどなぁ」

そういえば、町の外へ行ったと思われるあの猫もまだ探せていない。

昼食後、ジウさんに声をかけられる。

「せっかくだ、私と組み手をしないか?」

「組み手、ですか?」

「ああ、なに、実践形式ではない、簡単なものだよ。食後の運動には良いだろう。どうだ?」

「わかりました、お願いします」

「よしきた、ふふ。異国の勇者の実力ちから。 …楽しみだよ。ほら、お前たちも行くぞ」

ジウさんと勇者は表に出る。

シャオとヘイも連れて。

天天曰く、この世界で最高の法術師であり、道士でもあると言う、

その力はどれだけのものなのだろうか。

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